読了:食べたくなる本[三浦哲哉]

小田原のサバ、ファッションフード、福島のスローフード、ジャンクフードの叙情、一汁一菜、蒸したカリフラワーのピュレ、アサリ二キロのスパゲッティ、マルフーガの揚げもの、どんぶりの味、怪食、快食、絶倫食、庄内のワラサ、エル・ブリと新スペイン料理、水のごとき酒…。美味い料理、美味い酒には目がない気鋭の映画批評家が、料理本や料理エッセイを批評的に読む。食の素材、味、調理法、さらには食文化のあり方をめぐる、驚きと発見に満ちた考察。

 料理本・食文化本(レシピ本を含む)の批評エッセイなんだけれども、これがべらぼうにおもしろかった。生きるためには食べなければならないがゆえに「生きるとは何か」というテーマに直結するのが食であり料理である。ゆえに料理本というものは著者の生きざまが反映されずにはいられないものなのだ。それをくみ取り愛でて楽しむのが本書。

 凡人には足元にも及ばないような変態的なこだわりを持つ料理人もいれば、非科学的な理論さえ根拠にしてしまう食の研究人もいる。しかしそこには彼らの食へのこだわり(時には愛ゆえの滑稽ささえ感じる)が垣間見える。そしてそういうところに人間が人間たる所以を見出し、愛情豊かな視点で三浦は批評していく。

 三浦哲哉氏とラフはほぼ同年代なので、食文化に関する思い出話などは共感できる部分も多かった。

 いろんな本が登場するが、もっともインパクトのあった料理本タイトルは「小林カツ代と栗原はるみ」。この二人の名前を並べてそのまんまタイトルにしてしまう発想がすばらしい。

食べたくなる本[三浦哲哉]
食べたくなる本(食べたくなる本)[三浦哲哉]【電子書籍】

読了:最高のオバハン 中島ハルコの恋愛相談室(文春文庫)[林 真理子]

中島ハルコ、52歳。本音で生きる会社経営者。金持ちなのにドケチで、口の悪さは天下一品。嫌われても仕方がないほど自分勝手な性格なのに、なぜか悩み事を抱えた人間が寄ってくる。高学歴ゆえに結婚できない、不倫相手がお金を返してくれないといった相談を、歯に衣着せぬ物言いで鮮やかに解決していく痛快エンタテインメント!

 林真理子お得意の女性がメインの痛快娯楽小説。何にも頭使わずにさくっと気晴らしで読める。

 狂言回しはフードライターの菊池いづみ。パリの高級ホテルで出会って以来、何かと中島ハルコとつるんでいる。この中島ハルコという女性、もう本当に自分の好きなように生きていて、他人にも自分の思っていることをずけずけと口にする。それなのに、関わった周りの人々はそういう中島ハルコを慕っているという憎めないオバサン。副題に「恋愛相談室」という言葉が付いているけれども、中島ハルコが相談されることは別に恋愛に限らない。いろんな身の上話だ。そして別に相談に乗っているというわけでもない。毎回いろんな人が出てきては身の上を話をして、それに対して中島ハルコが勝手に思ったことを好き勝手に述べて、時々菊池いづみが突っ込んでいるって感じ。問題解決まで描かれることもあれば、ない場合もある。中島ハルコ自身が別に深くものは考えてなさそうで、思ったこと感じたことをすぐ口に出しているだけな感じ。彼女の言動に人生の深みは期待しない。

 中島ハルコというキャラクターは、ある意味これがオバサン(中年女性)だから許されるってところを林真理子は明らかに狙っているな。楽しく読めればそれでいいか。

最高のオバハン 中島ハルコの恋愛相談室(文春文庫)[林 真理子]
最高のオバハン 中島ハルコの恋愛相談室[林真理子]【電子書籍】