読了:早朝始発の殺風景 [ 青崎 有吾 ]

千葉県のどこかと思しき街が舞台。オムニバス形式の高校生たちによる日常推理小説。とりわけ表題作「早朝始発の殺風景」は素晴らしい。シチュエーションとキャラクター設定が秀逸なのだ。それに比べるとほかの話は、いまひとつ。というのも、登場人物のすべてが全員同じようななぞ解きの発想をし、同じような手順を踏むのだ。ちょっとこれにはびっくり。性格はそれぞれ描き分けられているのに、なぞ解きの仕方がみんな一緒。確かに、前言やシチュエーションから謎を解いていく(伏線を回収する)ロジックは読んでいてすっきりとして気持ちがいいけれども、え、その人もそういう発想するの?え、そんなそんなこと思う?とかちょっと腑に落ちない状況があるのだ。この手のなぞ解き方法がもっともしっくり来たのが、「早朝始発の殺風景」の登場人物だったというだけかも。

書き下ろしのエピローグは必要?「早朝始発の殺風景」の後日譚なんだけれども、各ストーリーの登場人物も総登場。だからといって、そのことが効果的かというとそうでもない。「早朝始発の殺風景」は本編の終わり方のままであった方が、ゾッとして良かったのになぁ。ないほうが作品として面白かったのでは?同じ街の出来事であることを説明するための後付けのようで、またとって付けたような青春ものにしなくてもよかったのではと思う。エピローグを付けるなら、伊坂幸太郎や加納朋子みたいな「うわぁやられた!!」くらいのものを期待しちゃうよ。

早朝始発の殺風景 [ 青崎 有吾 ]

読了:島はぼくらと (講談社文庫) [ 辻村 深月 ]

吉川英治文学新人賞、直木賞と輝かしい経歴を持つ著者。瀬戸内海の島に住む4人の高校生が、大人の世界の現実と向き合いながら成長する青春劇とでもいうか。すごく取材や下調べしたんだろうなということは分かる。とにかく話を面白くするはずの仕掛けがたくさん盛り込まれているのだ。なのに盛り込まれすぎているというか、結局テーマは何?伝えたいことは何?訴えてくるものがすごく希薄なのだ。これだけの仕掛けを用意しておきながら、それぞれの出来事もなんらかの伏線になっていたわけでもなく。いろいろしがらみがある現実を描きたかっただけ?後半からラストにかけてテンポだけはいいものの鼻白むばかりの展開には辟易。このご都合主義はなんだ?素人の作品か?なのにこの作品の評価はどうもそれほど悪くないようだ。俺の読解力のなさの問題なのか?

島はぼくらと (講談社文庫) [ 辻村 深月 ]

読了:【POD】1日で読めてわかるTCP/IPのエッセンス

基本的にはコーダーの自分はネットワークとかインフラ周りがとても弱いことを自覚している。そこで手っ取り早く今のあやふやなTCP/IPの知識を補強しておこうと思ってこの本を手にとった。「1日でわかる」しかも「エッセンス」。……タイトルから期待しすぎました。確かに数時間では読めた。でも「essence」というよりか「supernatant」な印象だった。「はじめての人でもわかる」ようなまったくの入門的内容ではないけれども、そこそこ勉強している人には物足りないような内容。わかりやすく日常語で書いた技術仕様の概要みたいな感じ。コラムの内容をもう少し技術に対する具体例みたいにするだけでもかなり違った印象になるのではなかろうか。自分は著者が意図していた対象読者層とは違うのかも。

【POD】1日で読めてわかるTCP/IPのエッセンス

読了:物語イスラエルの歴史 アブラハムから中東戦争まで (中公新書) [ 高橋正男 ]

先日似た内容の本を読んだ。

読了:物語エルサレムの歴史 旧約聖書以前からパレスチナ和平まで (中公新書) [ 笈川博一 ]

今回の方も「物語」とついているけれども、こちらは物語というよりかは歴史文献や考古学の知見も多く、より学術的。文章もすっきりとしていて読みやすい。ただ、中東戦争あたりは現地のルポ的な要素がある、前に読んだ本のほうが読み物としては面白かったかも。

ユダヤの聖地、キリスト教の聖地、イスラムの聖地であるエルサレムの位置付けを世界史の中でとらえる通史としてとても面白く読めた。ユダヤの自覚とユダヤ教の芽生えはバビロン捕囚の時だったんだなとあらためて昔習ったことを思い出したよ。そして第1次世界大戦前後からのシオニズム、ユダヤとパレスチナ、アラブの動き。列強の思惑と干渉。現在に続く中東紛争の概要をつかむのにも適している。

物語イスラエルの歴史 アブラハムから中東戦争まで (中公新書) [ 高橋正男 ]

読了:この一冊で面白いほど人が集まるSNS文章術 (青春文庫) [ 前田めぐる ]

サクッと読めるネット文章読本。SNSを中心とした媒体に掲載する、わかりやすい文章を書くための、共感を得る文章を書くための指南書。とってもわかりやすく読みやすく、しかも前向きで気持ちよく読める。そうだねぇ、こういう心持で文章を書けたらいいなぁと思った。凝った文章を書く必要はなく、自分の興味のあることを、人にわかるように書くにはどこに気を付けるかという点を改めて認識できた。いつでも気軽に手に取って、文章を書くということに対する気持ちを新たにしたくなる本。

この一冊で面白いほど人が集まるSNS文章術 (青春文庫) [ 前田めぐる ]

読了:ヴァロワ朝 フランス王朝史2 (講談社現代新書) [ 佐藤 賢一 ]

カペー朝に続くヴァロワ朝の歴代フランス王の紹介。カペー朝からヴァロワ朝への移行はどういうものだったのかという前書きがおもしろい。カペー朝は父親から息子へと直系男子でつながっていった王朝。その最後に男系が途切れてしまい傍系のヴァロワ伯シャルルが継いだものがヴァロワ朝。だからそんなに突飛な王朝ではない。むしろわざわざ王朝名を改める必要があったのかさえ疑問。傍系が王位を継ぐという出来事は実はヴァロワ朝の途中で2回起こっている。ところがこれはヴァロワ朝交代とはみなされていない。なぜか?ヴァロワ朝第三代王シャルル五世が王位継承について明文化したためであろう。

ヴァロワ朝は、この王位継承に関してイギリスともめたことから始まる。イギリス王エドワード三世は、カペー朝の女系を挟んだ直系の孫であることから、フランス王位を主張したのだ。ここに英仏百年戦争が始まる。百年戦争の末期にはジャンヌ・ダルクの登場、そしてルネサンスの時代へ。同時期の大航海時代に現在のカナダへ進出、宗教改革が起こると新教徒とのユグノー戦争と主要な出来事がてんこ盛りの王朝。カペー朝では有力な豪族の一つであったフランス王が、フランス王国の王たる地位を確固たるものにしていく時代なのだ。

歴代の王の紹介が駆け足で進むため、歴史ドラマを追うよりかは、こういう出来事がありましたという感じ。ところどころ地図は挿入してくれるのだけれども、いかんせん少ないので、フランスに疎い自分には大量のフランスの地名を押さえるのに苦労。人名も相当大変。

十五世紀の末にはシャルル八世が子なくして隠れ、王位はオルレアン公ルイのものとなった。オルレアン公家の祖はシャルル五世の第二王子で、シャルル六世の弟のルイである。シャルル八世からすれば、三代前に本家から分かれた分家の当主が、オルレアン公ルイなのである。

前書きの一節だけれども、シャルルとルイだらけで、一読しただけでは誰が誰か抑えきれない。さて、実際にここに登場している人物は何人でしょう。

母のルイーズ・ドゥ・サヴォワにはアングーレーム伯領、アンジュー公領、メーヌ伯領、ボーフォール伯領を、姉のマルグリットにはベリー公領の年貢収入を、その夫で義兄のアランソン公シャルルにはアルマニャック伯の旧領とノルマンディ州総督職を、叔父のルネ・ドゥ・サヴォワにはプロヴァンス・セネシャル職を贈り、まずは肉親に手厚く報いた。次が即位前から仕えた側近たちの番で、ポワシィ卿アルトゥス・ドゥ・グーフィエを宮内大侍従に、その弟のボニヴェ卿ギョーム・ドゥ・グーフィエを提督に、ラ・パリス卿ジャック・ドゥ・シャバンヌを元帥に、ロートレック副伯オデ・ドゥ・フォワを同じく元帥とギュイエンヌ州における国王総代に、ブリオン卿フィリップ・ドゥ・シャボをボルドー市長兼守備隊長に、それぞれ抜擢してみせた。

それぞれの領地と役職と個人名を押さえるのは自分には無理。というかここで重要なのは個々の名ではない。これだけの関係者が一度に重用されたという点さえ理解すれば十分かと。

ヴァロワ朝のあとは、傍系の傍系であるブルボン伯が継ぐブルボン朝へと。絶対王政を極め、フランス大革命まで続く王朝。

歴史小説家で直木賞作家でもある著者の作品であるが、誤字、脱字が目立つ。ちゃんとチェックされなかったのだろうか?「汚名挽回」をプロがものした文章では初めて見たよ。直してあげなよ。

ヴァロワ朝 フランス王朝史2 (講談社現代新書) [ 佐藤 賢一 ]

この世界の片隅に

amazon primeで無料で見られるようになっていたので早速見てみた。評判に違わずとてもいい作品だった。一般市民にとっての戦争のありようをこういう風に描くこと、そしてそれが効果的なことに感嘆。ラストで家々に明かりが灯っているシーンがとても印象深い。

読了:科挙 中国の試験地獄 (中公新書) [ 宮崎市定 ]

この新書はすこぶる面白い。中国、隋の時代に始まり清朝末まで実施された有名な官吏登用試験「科挙」のエピソードを楽しめる。もっとも複雑化した清朝末の科挙を例に受検案内のような説明がある。どんな勉強をする必要があるか、受験資格は、試験は何年おき、どこで実施されるか、当日のスケジュールは、どんな問題が出るのか、解答用紙ならびに解答の仕方は、採点は誰がどのように行うのか、合格発表の方法は?こういったことが悲喜こもごものエピソードとともに紹介される。科挙を受験するために必要な資格を得るための学校の試験、そして実際の科挙試験があるわけだけれども、とにかくハードな試験なので当然のように不正が横行する。人生のかかった命がけの試験だけに受験者の不正、試験官の不正も相当なもの。それを防ぐためにどのような対策がなされたのか。そして実際的な中国人の思想が生んだ科挙の位置づけの落とし所とは?科挙のメリット・デメリットの考察まで。この本、1963年の出版なんだけれども、面白さはとっても現代的だ。

科挙 中国の試験地獄 (中公新書) [ 宮崎市定 ]

wikipediaの「科挙」の項

読了:ラブコメ今昔 (角川文庫) [ 有川浩 ]

「クジラの彼」に続く、自衛隊を舞台にしたラブコメ短編集の第二弾。自衛隊とラブコメって取り合わせがすごいよね。笑わせて、ホロっといかせる運びはさすが有川浩。とりわけ会話のテンポが絶妙。へぇ、自衛隊ってこういう組織なんだってところも興味深い(自衛隊合憲違憲に関する意見は関係なしで)。個人的には「クジラの彼」の方が面白かったかな。ブルーインパルスの話はサスペンス?って感じ、エピローグのスピンオフも笑いの要素がもう少し欲しかったかも。「ラブコメ」を名乗るからにはね。

ラブコメ今昔 (角川文庫) [ 有川浩 ]

映画二題

ジュゼッペ・トルナトーレ監督作品。音楽はエンニオ・モリコーネ。評価が高かったので見てみたが、個人的には今ひとつ。ん?これは何かの伏線で後で回収されるのかな?とか思っていたところが、放ったらかしにされていたり。トルナトーレ監督のちょっとしたファンタジーが悪い方向に出た作品じゃなかろうか。

コメディかと思って前々から見たいと思っていた作品。エスプリの効いたある意味での宗教知的コメディではあったけれども、エンターテイメントのみを映画に求める日本人には受けなかっただろうな。ラフは好きだけれども。