シン・そして僕は途方に暮れる

以前、このような記事をアップした。

そして僕は途方に暮れる

そして、今夜も「オーマイガー」な事件は起きたのである。

きゅうりの塩昆布和えを作ろうと、乱切りにしたきゅうりと塩昆布をビニール袋に投入、ちょっと空気を含ませて口を結びシャカシャカ振っていたら、突然ビニール袋のサイドが「ズバっ」と裂けたのである。台所中に散らばる乱切りきゅうりと塩昆布。「おーまいがー、おーまいがー、おーまいがー」。以前のみじん切りほどの大惨事ではないものの、ただ振っていたビニール袋が裂けるなんてことある?「信じられへん……」。そして僕は今日も途方にくれたのであった。

読了:銀河の片隅で科学夜話 -物理学者が語る、すばらしく不思議で美しいこの世界の小さな驚異[全卓樹]

流れ星はどこから来る?宇宙の中心にすまうブラックホール、真空の発見、じゃんけん必勝法と民主主義の数理、世論を決めるのは17%の少数者?忘れられた夢を見る技術、反乱を起こす奴隷アリ、銀河を渡る蝶、理論物理学者、とっておきの22話。

〔天空編〕
第1夜 海辺の永遠
第2夜 流星群の夜に
第3夜 世界の中心にすまう闇
第4夜 ファースト・ラグランジュ・ホテル
〔原子編〕
第5夜 真空の探求
第6夜 ベクレル博士のはるかな記憶
第7夜 シラード博士と死の連鎖分裂
第8夜 エヴェレット博士の無限分岐宇宙
〔数理社会編〕
第9夜  確率と錯誤
第10夜 ペイジランク─多数決と世評
第11夜 付和雷同の社会学
第12夜 三人よれば文殊の知恵
第13夜 多数決の秘められた力
〔倫理編〕
第14夜 思い出せない夢の倫理学
第15夜 言葉と世界の見え方
第16夜 トロッコ問題の射程
第17夜 ペルシャとトルコと奴隷貴族
〔生命編〕
第18夜 分子生物学者、遺伝的真実に遭遇す
第19夜 アリたちの晴朗な世界
第20夜 アリと自由
第21夜 銀河を渡る蝶
第22夜 渡り鳥を率いて

はっきり言ってしまうとこれは科学啓蒙書の類では全くない。科学者による純然たるエッセイ本。各話は著者の文学的センス(時にあまりにも詩的でロマンチックで夢見がち)から話が出発して締めくくられる。日ごろの思いや考えを述べつつ、それに科学的話題をちょくちょくからめて進行する。なので扱われている科学の話題はそんな複雑な話ではないし、まぁ今までにどこかで聞いて知っている話ばかり。だからなんなんだ?って回もある。でも、科学者っていうのはこういうたわいもないことを日常考えていても、それを科学的知見と結びつけてはこんなことを徒然に考えているんだよ、ということを知る点では面白いかも。科学者って日ごろ何考えてんの?っていう人が読むと面白いかと。科学者だって詩人なのである。

銀河の片隅で科学夜話 -物理学者が語る、すばらしく不思議で美しいこの世界の小さな驚異[全卓樹]
銀河の片隅で科学夜話 物理学者が語る、すばらしく不思議で美しいこの世界の小さな驚異(銀河の片隅で科学夜話 物理学者が語る、すばらしく不思議で美しいこの世界の小さな驚異)[全卓樹]【電子書籍】

読了:象られた力(ハヤカワ文庫)[飛浩隆]

象られた力

象られた力

  • 作者:飛浩隆
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2004年09月

惑星“百合洋”が謎の消失を遂げてから1年、近傍の惑星“シジック”のイコノグラファー、クドウ円は、百合洋の言語体系に秘められた“見えない図形”の解明を依頼される。だがそれは、世界認識を介した恐るべき災厄の先触れにすぎなかった…異星社会を舞台に“かたち”と“ちから”の相克を描いた表題作、双子の天才ピアニストをめぐる生と死の二重奏の物語「デュオ」ほか、初期中篇の完全改稿版全4篇を収めた傑作集。

デュオ/呪界のほとり/夜と泥の/象られた力

最初の1篇はサイコスリラーかサイコホラーって感じの作品だけれども、続く3篇はSF。構成力や発想は表題作「象られた力」がうまいこと作りやがったなぁと思う。しかし、読むべきは3番目の「夜と泥の」である。人類が入植したある惑星の夏至の晩にのみ、ロボット、ナノマシーン、もともとの沼の生物群、そして遺伝子工学で一夜の命を与えられた少女の混沌とした戦いが繰り広げられる。その様の描写がすばらしいのだ。吟味された言葉の選択と洗練された美しい描写力はまさに息をのむほど。文字だけなのにその情景に圧倒されたよ。

象られた力(ハヤカワ文庫)[飛浩隆]
象られた力[飛 浩隆]【電子書籍】

読了:折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー(ハヤカワ文庫SF)[ケン・リュウ/中原 尚哉]

折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー

折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー

  • 作者:ケン・リュウ/中原 尚哉
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2019年10月03日頃

天の秘密は円のなかにあるー円周率の中に不老不死の秘密があると聞かされた秦の始皇帝は、五年以内に十万桁まで円周率を求めよと命じた。学者の荊軻は始皇帝の三百万の軍隊を用いた驚異の人間計算機を編みだす。劉慈欣『三体』抜粋改作にして星雲賞受賞作「円」、貧富の差で分断された異形の三層都市を描いたヒューゴー賞受賞作「折りたたみ北京」など、ケン・リュウが精選した7作家13篇を収録の傑作アンソロジー。

陳楸帆(鼠年/麗江の魚/沙嘴の花)/夏笳(百鬼夜行街/童童の夏/龍馬夜行)/馬伯庸(沈黙都市)/〓景芳(見えない惑星/折りたたみ北京)/糖匪(コールガール)/程〓波(蛍火の墓)/劉慈欣(円/神様の介護係)/エッセイ(ありとあらゆる可能性の中で最悪の宇宙と最良の地球:三体と中国SF(劉慈欣)/引き裂かれた世代:移行期の文化における中国SF(陳楸帆)/中国SFを中国SFたらしめているものは何か?(夏笳))

現代中国のSF小説アンソロジー。最近の中国SFといえば「三体」が注目を集めたけれども、じゃその他の中国SFはどうなんだ?中国産SF小説ってどんなんだ?ってことが知りたければこの書をどうぞ。中国という国とSF小説の歴史と関係性については、巻末の3つのエッセイがとてもためになる。

中国のSFもなかなか魅力にあふれている。固いものから柔らかいものまで、幻想幽玄文学的なものまで、どれもおもしろい。なるほど、SFはこういう世界もありだなという感じ。中国産のディストピア小説だと、国体への批判と単純に結び付けてしまう傾向もあるけれども、まずはそれ抜きに楽しんでくれとのこと。本格SFからくすっと笑えるライトSFまで取り揃えてあります。

個人的に鮮烈に印象に残ったのは最初の「鼠年」。研究所を脱走した遺伝子改変された二足歩行の大型ネズミが繁殖してしまい、大学を卒業したけれども職がない若者が組織され退治しに行く話。大型ネズミはメスだけでなくオスも妊娠するようになっており、宗教的儀式めいたことをするほどの知能を帯び始めていた。このネズミと人間の血みどろの生々しい戦い。ところが、実はネズミには遺伝子爆弾が仕掛けられていて、ある日突然集団自殺を図るのだ。このシーンがただ放心状態で眺めるしかない。うつろな目をしたミッキーマウスの集団が二足歩行で、レミングの集団自殺のごとき行列を作りながら、海へと行進していく様をラフは想像したんだけれどもこれがとんでもなく印象的。結果的にネズミは駆除されたことになり人類の勝利のように思えるが、この遺伝子改変ネズミの正体、そして遺伝子爆弾が仕組まれていた意図は謎のままで、不気味さの余韻だけが残る。

折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー(ハヤカワ文庫SF)[ケン・リュウ/中原 尚哉]
折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー【電子書籍】