読了:折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー(ハヤカワ文庫SF)[ケン・リュウ/中原 尚哉]

折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー

折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー

  • 作者:ケン・リュウ/中原 尚哉
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2019年10月03日頃

天の秘密は円のなかにあるー円周率の中に不老不死の秘密があると聞かされた秦の始皇帝は、五年以内に十万桁まで円周率を求めよと命じた。学者の荊軻は始皇帝の三百万の軍隊を用いた驚異の人間計算機を編みだす。劉慈欣『三体』抜粋改作にして星雲賞受賞作「円」、貧富の差で分断された異形の三層都市を描いたヒューゴー賞受賞作「折りたたみ北京」など、ケン・リュウが精選した7作家13篇を収録の傑作アンソロジー。

陳楸帆(鼠年/麗江の魚/沙嘴の花)/夏笳(百鬼夜行街/童童の夏/龍馬夜行)/馬伯庸(沈黙都市)/〓景芳(見えない惑星/折りたたみ北京)/糖匪(コールガール)/程〓波(蛍火の墓)/劉慈欣(円/神様の介護係)/エッセイ(ありとあらゆる可能性の中で最悪の宇宙と最良の地球:三体と中国SF(劉慈欣)/引き裂かれた世代:移行期の文化における中国SF(陳楸帆)/中国SFを中国SFたらしめているものは何か?(夏笳))

現代中国のSF小説アンソロジー。最近の中国SFといえば「三体」が注目を集めたけれども、じゃその他の中国SFはどうなんだ?中国産SF小説ってどんなんだ?ってことが知りたければこの書をどうぞ。中国という国とSF小説の歴史と関係性については、巻末の3つのエッセイがとてもためになる。

中国のSFもなかなか魅力にあふれている。固いものから柔らかいものまで、幻想幽玄文学的なものまで、どれもおもしろい。なるほど、SFはこういう世界もありだなという感じ。中国産のディストピア小説だと、国体への批判と単純に結び付けてしまう傾向もあるけれども、まずはそれ抜きに楽しんでくれとのこと。本格SFからくすっと笑えるライトSFまで取り揃えてあります。

個人的に鮮烈に印象に残ったのは最初の「鼠年」。研究所を脱走した遺伝子改変された二足歩行の大型ネズミが繁殖してしまい、大学を卒業したけれども職がない若者が組織され退治しに行く話。大型ネズミはメスだけでなくオスも妊娠するようになっており、宗教的儀式めいたことをするほどの知能を帯び始めていた。このネズミと人間の血みどろの生々しい戦い。ところが、実はネズミには遺伝子爆弾が仕掛けられていて、ある日突然集団自殺を図るのだ。このシーンがただ放心状態で眺めるしかない。うつろな目をしたミッキーマウスの集団が二足歩行で、レミングの集団自殺のごとき行列を作りながら、海へと行進していく様をラフは想像したんだけれどもこれがとんでもなく印象的。結果的にネズミは駆除されたことになり人類の勝利のように思えるが、この遺伝子改変ネズミの正体、そして遺伝子爆弾が仕組まれていた意図は謎のままで、不気味さの余韻だけが残る。

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