読了:あなたの燃える左手で[朝比奈 秋]

あなたの燃える左手で

あなたの燃える左手で

  • 作者:朝比奈 秋
  • 出版社:河出書房新社
  • 発売日: 2023年06月19日

ハンガリーの病院で左手の移植手術を受けたアサト。だが麻酔から覚めると、見知らぬ他人の手が移植されていた。

上のあらすじは公式のものみたいだけれども、ちょっと違う。ハンガリーの病院に勤める日本人医療技師のアサトは、腫瘍により左手の切断手術を受ける。左手を失ってからそれが誤診だとわかり、慰謝料はもらったものの医療技師から望まぬ医療事務へと担当が変わる。激しい幻肢痛に苛まれるアサトではあるが、左手を失って6年の後、白人の左手を自身の左手として移植手術を受けることとなる。しかし思い通りに動かない他人の左手にまた翻弄される。

メインの話はこうなのだが、ここにウクライナ人の奥さんの話と、ハンガリー、ウクライナ、ロシアの国際情勢をからめて話が進む。一度は失ったものの移植された他人の左手によってアサトが経験する物語と、祖国と戦争にまつわる喪失と受容の物語がリンクする。失うということはどういうことか、その苦しみと受容について、記憶の混乱や立場の違いや思惑の交叉を通して語られる。

あなたの燃える左手で[朝比奈 秋]
あなたの燃える左手で[朝比奈秋]【電子書籍】

読了:成瀬は信じた道をいく[宮島 未奈]

成瀬は信じた道をいく

成瀬は信じた道をいく

  • 作者:宮島 未奈
  • 出版社:新潮社
  • 発売日: 2024年01月24日頃

唯一無二の主人公、再び。…と思いきや、まさかの事件が勃発!?我が道を突き進む成瀬あかりは、今日も今日とて知らぬ間に、多くの人に影響を与えていた。「ゼゼカラ」ファンの小学生、成瀬の受験を見守る父、近所のクレーマー(をやめたい)主婦、観光大使になるべくして生まれた女子大生…個性豊かな面々が新たな成瀬あかり史に名を刻む。そんな中、幼馴染の島崎が故郷に帰ると、成瀬が書置きを残して失踪しており…!?

ときめきっ子タイム/成瀬慶彦の憂鬱/やめたいクレーマー/コンビーフはうまい/探さないでください

前作2024年本屋大賞受賞作「成瀬は天下を取りにいく」の感想はこちら。

読了:成瀬は天下を取りにいく[宮島 未奈]

前作は成瀬が中学生~高校生の頃の話、今作はそれに続く高校生~大学生の話。成瀬は中心人物ではあるけれども、各短編の主人公は別にいて、それぞれの主人公が成瀬によってどう振り回されて影響を受けて成長していくかの物語。成瀬は一貫して頭はいいのだけれどもエキセントリック。そうはいっても、今作では変人成瀬にも思うところはあって、それなりに心動かされているという描写がちらほら見受けられる。お気楽に読める痛快青春コミカル小説。今作もローカルネタが熱すぎる。「膳所から世界へ」

成瀬は信じた道をいく[宮島 未奈]
成瀬は信じた道をいく(「成瀬」シリーズ)[宮島未奈]【電子書籍】

読了:生命進化の物理法則[チャールズ・コケル/藤原 多伽夫]

生命進化の物理法則

生命進化の物理法則

  • 作者:チャールズ・コケル/藤原 多伽夫
  • 出版社:河出書房新社
  • 発売日: 2019年12月16日頃

そこには美しい単純性がある。生物と無生物の間を分ける物理法則。進化の謎に迫る驚異の発見!「生命の本質を突く物理法則」、進化と物理学を統合する新たな試み。地球外生命という宇宙的な規模まで広がる壮大な生物論。

生命を支配する沈黙の司令官/群れを組織化する/テントウムシの物理学/大小さまざまな生き物の体/生命の袋/生命の限界/生命の暗号/サンドイッチと硫黄/水ー生命の液体/生命の原子/普遍生物学はあるか/生命の法則ー進化と物理法則の統合

地球上の生命の多様性を見ると、進化はあらゆる方向へと奔放に展開しているように思うことがある。しかし実際には、生物学の範疇以前に進化は物理法則によって大きく制限されていることを忘れがちである。本書では地球生命の進化が物理法則によってどのような制約を受けているのかを、マクロレベルからミクロレベルへと論を展開していく。個体群レベルから始めて、重力をはじめとする地球規模の物理法則によるところから、個体レベル、細胞レベル、分子レベル、原子レベル、そして量子レベルまで、そこに物理法則がどのように生命活動を制限するか(生命活動の制限は進化の制限となる)を各ステージごとに文献と考察を交えて解説していく。

そしてこれらの論は、宇宙生物学の立脚点となる。現在、人類が確認できる生命圏は地球しかない(N=1問題)。しかし、宇宙のどこかに地球外生命が存在するとして、それらの生命体はどのような進化をしたものであろうか?宇宙に遍在する進化を制限する物理法則は同じであることから考えれば、ある程度の範囲の制限と考察が可能となる。炭素ではなくケイ素を主体とする生命、溶媒として水ではなくメタンを使う生命は存在しうるのか?遺伝暗号の仕組みは地球の生命とは違ったものを構築できるのか?これらの疑問にも一定の制限がかかるはずではないか?

物理学を踏まえた生物学の発展の先に生まれた宇宙生物学の研究者・教育者として第一線で活躍する著者による渾身の力作。

生命進化の物理法則[チャールズ・コケル/藤原 多伽夫]
生命進化の物理法則[チャールズ・コケル/藤原多伽夫]【電子書籍】