読了:図書館巡礼[スチュアート・ケルズ/小松 佳代子]

図書館巡礼

図書館巡礼

  • 作者:スチュアート・ケルズ/小松 佳代子
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2019年03月20日頃

知の集積所としての図書館は、生と死、渇望と喪失といったあらゆる人間ドラマの舞台でもある。アレクサンドリア図書館からボドリアン図書館まで、古今の偉大な図書館の魅力を語り、文献の保守・保存・獲得に心血を注いだ「愛書家」たちのエピソードを活写する。

本のない図書館ー口誦伝承とソングライン/アレクサンドリア最後の日々-古代の書物とその保管/完璧を追求してーコデックスの台頭/「忌まわしい者たちの掃き溜め」-ルネサンスの再発見/誰もが自由にー大量の書物があふれかえる印刷時代/「蛮族さえしなかったこと」-ヴァチカン図書館/図書館に秘められたものの歴史ー図書館設計の妙技と秘宝/本の管理者ー史上最高の司書と最悪の司書/放蕩の真髄ーヒーバー、バイロン、バリー/火神ウルカヌスへの憤怒ー火事と戦争で破壊された図書館/伯爵ー書物の略奪者と本泥棒/「図書館の内装はささやくように」-ピアポント・モルガン図書館/栄光のためにーフォルジャー・シェイクスピア図書館/修道士殺しー架空の図書館/ラブレターー未来の図書館

図書館にまつわるエピソードの数々を紹介してくれる。歴史から建物、書物から印刷術、司書からコレクターや作家。図書館を軸としてそれにまつわる興味深いものから面白おかしいものまでさまざまな話題が提供される。図書館とは単なる書物を格納し開陳する建物というだけでなく、人類の歴史や生き様の一側面を反映してきたものなのだなぁ。図書館や書物に対する愛に溢れた一冊。

高所の図書のために梯子が使われだしたのはここ最近のことでそれ以降司書の転落事故が激増した話、多くのコレクターが偽物をつかまされている話、貴重な蔵書をそうとは知らずに売っぱらってしまった図書館の話。ウンベルト・エーコ(「薔薇の名前」著者)と対照的なトールキン(「ホビットの冒険」「指輪物語」著者)の出版に至るまでの紆余曲折エピソード。現代の図書館の役割、デジタル化とインターネット時代のこれからの図書館にまで思いを馳せる。

図書館巡礼[スチュアート・ケルズ/小松 佳代子]
図書館巡礼 「限りなき知の館」への招待[スチュアート ケルズ]【電子書籍】

読了:ドストエフスキー 黒い言葉(集英社新書)[亀山 郁夫]

ドストエフスキー 黒い言葉

ドストエフスキー 黒い言葉

  • 作者:亀山 郁夫
  • 出版社:集英社
  • 発売日: 2021年07月16日頃

ドストエフスキー生誕から二〇〇年目の二〇二一年、世界は新型コロナウイルスの感染拡大という誰も予想しなかったかたちで転換期を迎えている。激動の時代を生き、コレラ蔓延というパンデミックも経験した作家が鋭い直感と深い洞察から生み出した言葉には、今を生き抜くためのヒントが含まれているのではないか。資本主義の行方、暴力、信仰などについて残された言葉の数々は、予言のようにも響く。ドストエフスキー初心者にも、熟読者にも衝撃的な現代への提言。

金、または鋳造された自由/サディズム、または支配の欲求/苦痛を愛する、または「二二が四は死のはじまり」/他者の死を願望する/疚しさ/美が世界を救う/intermission 「神がなければ、すべては許される」/「全世界が疫病の生贄となる運命にあった」/夢想家、または「永遠のコキュ」/不吉な道化たち/神がかりと分身/破壊者たち/父殺し、または「平安だけがあらゆる偉大な力の…」

著者を「カラマーゾフの兄弟」の訳者としては知っていた。「黒い言葉」とあるが、ロシアにとって「白」は雪または氷に覆われた色で、「黒」は春になって雪解けによって現れる豊かな土壌の色らしい。ドストエフスキーの作品や手記、またドストエフスキー研究者たちによる言葉を織り込んで、ドストエフスキー並びに帝政末期のロシアについて語る。これが異様におもしろい。「神がなければ、すべては許される」の章がとりわけおもしろかった。文学作品についてもその作品が生まれた背景、その時代の空気を知っていた方が断然面白く読めるんだなぁと痛感。昔読んだはずだがすっかり忘れている「カラマーゾフの兄弟」、積読になったままの「罪と罰」、読んでみようかなと思った。

ドストエフスキー 黒い言葉(集英社新書)[亀山 郁夫]
ドストエフスキー 黒い言葉(ドストエフスキー 黒い言葉)[亀山郁夫]【電子書籍】

読了:孟嘗君 全5冊合本版(孟嘗君)[宮城谷昌光]【電子書籍】

孟嘗君(1)

孟嘗君(1)

  • 作者:宮城谷 昌光
  • 出版社:講談社
  • 発売日: 1998年09月

斉の君主の子・田嬰(でんえい)の美妾・青欄(せいらん)は、健やかな男児・田文(でんぶん)を出産した。しかし、5月5日生まれは不吉、殺すようにと田嬰は命じる。必死の母・青欄が秘かに逃がした赤子は、奇しき縁で好漢風洪(ふうこう)に育てられる。血風吹きすさぶ戦国時代、人として見事に生きた田文こと孟嘗君とその養父の、颯爽たる人生の幕開け。宮城谷昌光の大作『孟嘗君』全5冊を、ひとつにまとめてお届けします。

孟嘗君といえば漢文で習う、食客が鶏の声の真似をし函谷関を抜けて秦国から脱出するエピソードが有名だよね。正直言って孟嘗君といえばその話しか知らないんだけれども、これは新聞小説として掲載されていた孟嘗君の生涯を描いた大作。前半(3巻あたりまで)は、運命に翻弄される赤子の孟嘗君なのでしゃべらないし、主人公は養い親の風洪(後半では名を改めて白圭)。この孟嘗君が人との関係を大切にし様々な人物と関わり、慕われ、やがて各国の宰相を歴任するまでになっていく。

中国の歴史ものにありがちなようにとにかく登場人物が多い。古代中国戦国時代の数々の有名人をはじめ、関係者がてんこ盛り。しかもどの人物もみんな主人公であるかのようなその描写が濃厚でおなか一杯。それぞれの人生が綾なす織物の糸のように出会ったり別れたりを繰り返す。同盟を結んだり裏切ったりもしょっちゅう。また登場人物の名前や地名は日本では日ごろ使わないような漢字が使われていたりでなかなか覚えられない。一人の人物でも名前や役職とか家族関係とかで複数の呼ばれ方をする。それにもかかわらずすごく読みやすいのだ。新聞小説ということもあるんだろうけれども、人名や地名のルビを数ページごとに頻繁に何度も振ってくれるし、なじみのない言葉や用語は適宜解説してくれる。人物のエピソードや、再登場のときは前回登場した時の説明も入れてくれて、とにかく親切。一気に読み切った。

孟嘗君 全5冊合本版(孟嘗君)[宮城谷昌光]【電子書籍】

読了:文庫 最後の錬金術師 カリオストロ伯爵(草思社文庫)[イアン・マカルマン/藤田 真利子]

文庫 最後の錬金術師 カリオストロ伯爵

文庫 最後の錬金術師 カリオストロ伯爵

  • 作者:イアン・マカルマン/藤田 真利子
  • 出版社:草思社
  • 発売日: 2019年10月04日頃

君主たちは競って宮廷に招き、司教たちは恐れ、医師たちは憎み、女たちは憧れた「最後の魔術師」カリオストロ伯爵ー。シチリア島のごろつきだった男は、いかにして王侯貴族を手玉にとり、フランス革命前夜のヨーロッパ社交界にその名を轟かせるにいたったのか。錬金術師、医師、預言者、詐欺師、フリーメイソン会員といくつもの顔を使い分け、“理性と啓蒙の時代”の18世紀を妖しく彩った男の生涯を追う。

プロローグ バルサモの家/1 フリーメイソン/2 降霊術師/3 シャーマン/4 コプト/5 預言者/6 回春剤/7 異端/エピローグ 不死

 「カリオストロ」という響きには、異様なうさんくささがまとわりつく。その正体は何なのか?フランス革命前夜のマリー・アントワネットをまきこんだ「ダイヤの首飾り事件」に関わっていたらしいということは知っているが、本流の世界史ではとりたてて学習する人物ではない。むしろゴシップ扱いの雑学的エピソードで取り上げられる人物だ。

 そんなカリオストロ伯爵を名乗った男の人生をたどる本書。18世紀のフランス革命を頂点とした歴史的背景、ヨーロッパ各国を舞台に活躍した生涯。カリオストロ伯爵は、この時代のヨーロッパだからこそ産まれた怪人物なのである。そして死後、いかにして「カリオストロ」は芸術のテーマとしてもてはやされ、今日的キャラクターが形成されていったのかが考察される。

 18世紀末、同じくヨーロッパをまたにかけた一世代上のカサノヴァが激動の時代に取り残されていくのと対照的に、あっという間に時代の波に乗ったカリオストロの対比論考が興味深い。そして何よりもやはり「ダイヤの首飾り事件」の運びがおもしろい。

文庫 最後の錬金術師 カリオストロ伯爵(草思社文庫)[イアン・マカルマン/藤田 真利子]
最後の錬金術師 カリオストロ伯爵[イアン・マカルマン]【電子書籍】

読了:危機と人類(上/下)[ジャレド・ダイアモンド]

危機と人類(上)

危機と人類(上)

  • 作者:ジャレド・ダイアモンド/小川 敏子
  • 出版社:日経BP 日本経済新聞出版本部
  • 発売日: 2020年10月05日頃

遠くない過去の人類史から学ぶべき、危機対応の叡智とは何か。『銃・病原菌・鉄』『文明崩壊』『昨日までの世界』で知られるジャレド・ダイアモンド博士が、日本、フィンランド、チリ、アメリカなど国家的危機に直面した世界7カ国の事例から、全世界が一致して持つべき危機への認識を解き明かす。文庫化にあたり、世界が直面するコロナ禍を分析した序章を新たに追加。

プロローグ ココナッツグローブ大火が残したもの/第1部 個人(個人的危機)/第2部 国家ー明らかになった危機(フィンランドの対ソ戦争/近代日本の起源/すべてのチリ人のためのチリ/インドネシア、新しい国の誕生)

危機と人類(下)

危機と人類(下)

  • 作者:ジャレド・ダイアモンド/小川 敏子
  • 出版社:日経BP 日本経済新聞出版本部
  • 発売日: 2020年10月05日頃

国家的危機に直面した国々は、選択的変化によって生き残るーでは、現代日本が選ぶべき変化とは何か。現代日本は、基本的価値観を再評価して取捨選択し、「新常態」に適応できるか。そして人類はいま全世界を襲う危機に対し、協調した行動をとれるだろうか。国家的危機を左右する12の要因は、世界の危機にも応用できるのか。博覧強記の著者が解決への道筋を提案する。

第2部 国家ー明らかになった危機(承前)(ドイツの再建/オーストラリアーわれわれは何者か?)/第3部 国家と世界ー進行中の危機(日本を待ち受けるもの/アメリカを待ち受けるものー強みと最大の問題/アメリカを待ち受けるものーその他の三つの問題/世界を待ち受けるもの)/エピローグ 教訓、疑問、そして展望

近現代史における国家の危機と克服の例7つを紹介。そして著者の克服のための12分類フレームワークによる検討。どういう危機に直面しどのように乗り越えたのか。そして、日本とアメリカを例としてそれぞれの国が現在直面している危機は何か?さらに私たちがこれから直面するだろう危機は何で、それを乗り越えていくにはどうすればよいのか?を考察する。近現代史としてあまり詳しくは勉強していない話題が多いので(日本の部を除く)おもしろかった。無知は怖いねぇと思ったり思わなかったり。日本の部も含めて欧米の知識人がどのように世界をとらえて考えているのかを垣間見れるという面からもおもしろい。(さすがに日本のデートにおけるケータイ会話はジョークの類かと思うが)

危機と人類(上)(日経ビジネス人文庫 B たー21-3)[ジャレド・ダイアモンド/小川 敏子]
危機と人類(下)(日経ビジネス人文庫 B たー21-4)[ジャレド・ダイアモンド/小川 敏子]
危機と人類(上)(危機と人類)[ジャレド・ダイアモンド]【電子書籍】
危機と人類(下)(危機と人類)[ジャレド・ダイアモンド]【電子書籍】
危機と人類(上下合本版)(危機と人類(上下合本版))[ジャレド・ダイアモンド]【電子書籍】

読了:一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書[山崎 圭一]

一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書

一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書

  • 作者:山崎 圭一
  • 出版社:SBクリエイティブ
  • 発売日: 2018年08月20日頃

一般的な教科書と違い、年号を使わずにすべてを数珠つなぎにして「1つのストーリー」として解説。読むだけで高校の世界史の知識が一生モノの教養に変わる!

序章 人類の出現・文明の誕生/第1章 ヨーロッパの歴史/第2章 中東の歴史/第3章 インドの歴史/第4章 中国の歴史/第5章 一体化する世界の時代/第6章 革命の時代/第7章 帝国主義と世界大戦の時代/第8章 近代の中東・インド/第9章 近代の中国/第10章 現代の世界

「一度読んだら絶対に忘れない」かと言われれば、やっぱり忘れるものは忘れる。また丸腰でこの本を読んでも世界史がわかるといったことはないです。とりあえず一通り世界史の授業は受けたけれどもなんだかすっきりしないんだよねという人、大人になってもう一度世界史で習ったことを思い出したい方が対象か。

授業で習う世界史の問題点は、歴史と地域をぶつ切り細切れにして、あっちいったりこっちいったりするから全体像がつかみにくいところだと思う。一通り教科書や授業で習った後に「ヨーロッパ史」「中国史」「文化史」だとかのテーマを決めたりなんかして習ったことを各自が再構築することで世界史の知識は定着していくものなのね。その再構築を手伝ってくれるツールが本書です。世界史の流れを10区分にわけて物語風にまとめてあるので、あの知識はそういう風な流れに位置づけられるのねということを確認していくのに最適。

厳選された重要語句が説明もなくしれっと出てくるので初学者にはさっぱりだろう。一方でストーリーは大まかな流れ重視なので(世界史の上澄みダイジェスト)、ある程度学習した者には物足りないといった感じ。これ1冊で入試に対応できるかと問われればとうてい無理。使いどころを間違えなければ良い本だと思う。

一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書[山崎 圭一]
一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書[山崎 圭一]【電子書籍】

読了:神は、脳がつくった[E.フラー・トリー/寺町 朋子]

神は、脳がつくった

神は、脳がつくった

  • 作者:E.フラー・トリー/寺町 朋子
  • 出版社:ダイヤモンド社
  • 発売日: 2018年09月28日頃

「神(宗教)はいつ、なぜ、どのようにして生まれたのか?」という問いに対し、精神医学の世界的権威の著者E.フラー・トリーが人類史や脳科学、考古学の実証的証拠を組み合わせて迫る衝撃の一大スペクタクル。頭蓋骨の化石、人工遺物、ヒトや霊長類の脳の解剖や脳画像、子どもの成長などから明らかになる神の起源。

 神(神々)というものを信仰できる生物は、進化上ホモ・サピエンスだけらしい。これを人属の脳の進化理論から考察する。人属は進化の歩みとともに「自己認識」、「他者認識」、「内省」、「自伝的記憶」と獲得していくが、「自伝的記憶」を獲得したのはようやくホモ・サピエンスになってからである。そしてこの「自伝的記憶」によってはじめて「神」を想像することが可能になった。そこに至るまでは相当の時間がかかっている(そして本書のほとんどはこの説明に充てられている。「神」が登場するのは本当に終わりの方)。

 他者を埋葬するという宗教「的」儀式は旧人類にも見られるものであるが、本書ではこれはまだ「神」という存在を信じているかどうかとは別とする。なぜなら「他者の死を悲しむことは、自分がいずれ死ぬことを理解していることと同じではない」からである。将来自分も死ぬという理解はホモ・サピエンス特有らしい。ホモ・サピエンスは時間を超越する自己を想定できることで、将来的な自身の死と、過去の亡くなった祖先たちと結びつけてエピソードとして捉えることができるようになった。そしてそれを仲間と共有し、亡くなった祖先たちの中でも特別な地位を与えられたものが、やがて神へと変わっていったようだ。

神は、脳がつくった[E.フラー・トリー/寺町 朋子]
神は、脳がつくった[E.フラー・トリー]【電子書籍】

読了:会計の世界史[田中 靖浩]

会計の世界史

会計の世界史

  • 作者:田中 靖浩
  • 出版社:日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2018年09月27日頃

「会計ギライ」の方を悩ませる、数字および複雑な会計用語は一切出てきません。「世界史ギライ」の方をげんなりさせる、よく知らないカタカナの人や、細かい年号もほとんど出てきません。登場するのは偉人・有名人ばかり。冒険、成功、対立、陰謀、愛情、喜びと悲しみ、芸術、発明、起業と買収…波乱万丈、たくさんの「知られざる物語」が展開します。物語を読み進めると、簿記、財務会計、管理会計、ファイナンスについて、その仕組みが驚くほどよくわかります。

第1部 簿記と会社の誕生(15世紀イタリア 銀行革命/15世紀イタリア 簿記革命/17世紀オランダ 会社革命)/第2部 財務会計の歴史(19世紀イギリス 利益革命/20世紀アメリカ 投資家革命/21世紀グローバル 国際革命)/第3部 管理会計とファイナンス(19世紀アメリカ 標準革命/20世紀アメリカ 管理革命/21世紀アメリカ 価値革命)

タイトル買いをしたので堅苦しい会計史の書物かと思っていたんだけれども、中身は雑学漫談風の読み物だった。気軽に読めてわかりやすい。
簿記として経営者の覚えからスタートした体系的な会計は、ヨーロッパからアメリカへと渡り、経営管理や未来の出資者説明のためのものへと発展していく。会計の歴史だけではなく、第1部では絵画の歴史、第2部では交通機関の歴史、第3部では大衆音楽の歴史と絡めた物語仕立てになっている(この本の優れた特徴)。

会計の世界史[田中 靖浩]
会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカーー500年の物語(会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカーー500年の物語)[田中靖浩]【電子書籍】

読了:奇書の世界史2 歴史を動かす“もっとヤバい書物”の物語[三崎 律日]

奇書を奇書たらしめるものは、読み手の価値観である。人は時代に合わせて「信じたいもの」を選択してきた。時には、嘘にまみれた書物を受け入れて過ちすら犯す。過去は変えられないが、奇書の歴史を学びとし、未来をどう生きるのか。

01 ノストラダムスの大予言(ミシェル・ド・ノートルダム著)世界一有名な占い師はどんな未来もお見通しだった!…のか?/02 シオン賢者の議定書ーかの独裁者を大量虐殺へ駆り立てた人種差別についての偽書/03 疫神の詫び証文ー伝染病の収束を願って創られた、疫病神からのお便り/番外編01 産褥熱の病理(イグナーツ・ゼンメルワイス著)-ウイルス学誕生前に突き止めた「手洗いの重要性」について/04 Liber Primus(Cicada3301)-諜報機関の採用試験か?ただの愉快犯か?ネットに突如現れた謎解きゲーム/05 盂蘭盆経(竺法護 漢訳)-儒教と仏教の仲を取り持った「偽経」/06 農業生物学(トロフィム・デニソヴィチ・ルイセンコ著)-科学的根拠なしの「“画期的な”農業技術」について/番外編02 動物の解放(ピーター・シンガー著)-食事の未来を変えるかもしれない、動物への道徳的配慮について

前作の感想はこちら

読了:奇書の世界史 歴史を動かす“ヤバい書物”の物語[三崎 律日]

前作に引き続き、もともとがネット動画なので、内容は軽くて薄い(前作以上に軽いかも)。軽いのも当然、ネットの民を対象にした「こういう面白い本がある」という紹介なのだから、ちっとも難しくないのである。いわゆる本好きにはちょっと物足りない。個人的には医学生物学関係とITの話題が多かったので、知識を整理する分にしてもかなり物足りなかった。それでも、著者はこの本の対象者を明確に定めており、分かりやすくするためにきちんと記述してある点は相変わらず徹底している。そして言葉もかなり選んで使っている点にも好感が持てる。各章の扉絵もステキ。

今回も、偽書もあれば、奇妙な境遇の本、今では(当時も)否定された理論の本などを取り上げているが、中でもユニークなのは「Cicada3301」の追跡の章。ネット上で話題になったものなのでどういうものかは知っていたけれども、そのいきさつを丹念に追っている。この章で出てくる本は、本そのものというより、本を使った暗号が使われているというもの。あとは「シオン賢者の議定書」(偽書だということは知っていた)がどういう変遷を得て編まれたものかの由来(ウンベルト・エーコによる)はおもしろい。

奇書の世界史2 歴史を動かす“もっとヤバい書物”の物語[三崎 律日]
奇書の世界史2 歴史を動かす“もっとヤバい書物”の物語(奇書の世界史)[三崎 律日]【電子書籍】

読了:比較史の方法(講談社学術文庫)[マルク・ブロック/高橋 清徳]

比較史の方法

比較史の方法

  • 作者:マルク・ブロック/高橋 清徳
  • 出版社:講談社
  • 発売日: 2017年07月11日頃

ブローデル、アリエス、ル・ゴフらを輩出したアナール派の創始者マルク・ブロック(一八八六ー一九四四年)。一九二八年に行われた講演の記録である本書は、歴史の中で「比較」を行うことの意義と問題点を豊富な具体例をまじえながら分かりやすく説明する。「われわれは歴史から何を知ることができるのか」という問いに迫っていく最良の歴史学入門。

マルク・ブロックの講演記録が前半(1920年代の講演らしい)。後半は訳者による解説で、前半の講演内容を改めて分かりやすく整理して解説してくれている。歴史の本というよりかは、歴史学の本。もっと言ってしまえば、「比較」とは何か、歴史において「比較する」とはどういうことかといった定義や方法論が延々と続く。よって哲学の本でも読んでいるかのような面倒くささがあった。登場する歴史の具体例も、ヨーロッパ史における制度の比較例の列挙であってその内容の説明はほぼない。方法論の展開はおもしろいけれども、歴史の書物として期待して読むとおそろしく抽象的で難解な内容に面食らう。

比較史の方法(講談社学術文庫)[マルク・ブロック/高橋 清徳]
比較史の方法(比較史の方法)[マルク・ブロック]【電子書籍】