読了:文庫 最後の錬金術師 カリオストロ伯爵(草思社文庫)[イアン・マカルマン/藤田 真利子]

文庫 最後の錬金術師 カリオストロ伯爵

文庫 最後の錬金術師 カリオストロ伯爵

  • 作者:イアン・マカルマン/藤田 真利子
  • 出版社:草思社
  • 発売日: 2019年10月04日頃

君主たちは競って宮廷に招き、司教たちは恐れ、医師たちは憎み、女たちは憧れた「最後の魔術師」カリオストロ伯爵ー。シチリア島のごろつきだった男は、いかにして王侯貴族を手玉にとり、フランス革命前夜のヨーロッパ社交界にその名を轟かせるにいたったのか。錬金術師、医師、預言者、詐欺師、フリーメイソン会員といくつもの顔を使い分け、“理性と啓蒙の時代”の18世紀を妖しく彩った男の生涯を追う。

プロローグ バルサモの家/1 フリーメイソン/2 降霊術師/3 シャーマン/4 コプト/5 預言者/6 回春剤/7 異端/エピローグ 不死

 「カリオストロ」という響きには、異様なうさんくささがまとわりつく。その正体は何なのか?フランス革命前夜のマリー・アントワネットをまきこんだ「ダイヤの首飾り事件」に関わっていたらしいということは知っているが、本流の世界史ではとりたてて学習する人物ではない。むしろゴシップ扱いの雑学的エピソードで取り上げられる人物だ。

 そんなカリオストロ伯爵を名乗った男の人生をたどる本書。18世紀のフランス革命を頂点とした歴史的背景、ヨーロッパ各国を舞台に活躍した生涯。カリオストロ伯爵は、この時代のヨーロッパだからこそ産まれた怪人物なのである。そして死後、いかにして「カリオストロ」は芸術のテーマとしてもてはやされ、今日的キャラクターが形成されていったのかが考察される。

 18世紀末、同じくヨーロッパをまたにかけた一世代上のカサノヴァが激動の時代に取り残されていくのと対照的に、あっという間に時代の波に乗ったカリオストロの対比論考が興味深い。そして何よりもやはり「ダイヤの首飾り事件」の運びがおもしろい。

文庫 最後の錬金術師 カリオストロ伯爵(草思社文庫)[イアン・マカルマン/藤田 真利子]
最後の錬金術師 カリオストロ伯爵[イアン・マカルマン]【電子書籍】

読了:危機と人類(上/下)[ジャレド・ダイアモンド]

危機と人類(上)

危機と人類(上)

  • 作者:ジャレド・ダイアモンド/小川 敏子
  • 出版社:日経BP 日本経済新聞出版本部
  • 発売日: 2020年10月05日頃

遠くない過去の人類史から学ぶべき、危機対応の叡智とは何か。『銃・病原菌・鉄』『文明崩壊』『昨日までの世界』で知られるジャレド・ダイアモンド博士が、日本、フィンランド、チリ、アメリカなど国家的危機に直面した世界7カ国の事例から、全世界が一致して持つべき危機への認識を解き明かす。文庫化にあたり、世界が直面するコロナ禍を分析した序章を新たに追加。

プロローグ ココナッツグローブ大火が残したもの/第1部 個人(個人的危機)/第2部 国家ー明らかになった危機(フィンランドの対ソ戦争/近代日本の起源/すべてのチリ人のためのチリ/インドネシア、新しい国の誕生)

危機と人類(下)

危機と人類(下)

  • 作者:ジャレド・ダイアモンド/小川 敏子
  • 出版社:日経BP 日本経済新聞出版本部
  • 発売日: 2020年10月05日頃

国家的危機に直面した国々は、選択的変化によって生き残るーでは、現代日本が選ぶべき変化とは何か。現代日本は、基本的価値観を再評価して取捨選択し、「新常態」に適応できるか。そして人類はいま全世界を襲う危機に対し、協調した行動をとれるだろうか。国家的危機を左右する12の要因は、世界の危機にも応用できるのか。博覧強記の著者が解決への道筋を提案する。

第2部 国家ー明らかになった危機(承前)(ドイツの再建/オーストラリアーわれわれは何者か?)/第3部 国家と世界ー進行中の危機(日本を待ち受けるもの/アメリカを待ち受けるものー強みと最大の問題/アメリカを待ち受けるものーその他の三つの問題/世界を待ち受けるもの)/エピローグ 教訓、疑問、そして展望

近現代史における国家の危機と克服の例7つを紹介。そして著者の克服のための12分類フレームワークによる検討。どういう危機に直面しどのように乗り越えたのか。そして、日本とアメリカを例としてそれぞれの国が現在直面している危機は何か?さらに私たちがこれから直面するだろう危機は何で、それを乗り越えていくにはどうすればよいのか?を考察する。近現代史としてあまり詳しくは勉強していない話題が多いので(日本の部を除く)おもしろかった。無知は怖いねぇと思ったり思わなかったり。日本の部も含めて欧米の知識人がどのように世界をとらえて考えているのかを垣間見れるという面からもおもしろい。(さすがに日本のデートにおけるケータイ会話はジョークの類かと思うが)

危機と人類(上)(日経ビジネス人文庫 B たー21-3)[ジャレド・ダイアモンド/小川 敏子]
危機と人類(下)(日経ビジネス人文庫 B たー21-4)[ジャレド・ダイアモンド/小川 敏子]
危機と人類(上)(危機と人類)[ジャレド・ダイアモンド]【電子書籍】
危機と人類(下)(危機と人類)[ジャレド・ダイアモンド]【電子書籍】
危機と人類(上下合本版)(危機と人類(上下合本版))[ジャレド・ダイアモンド]【電子書籍】

読了:一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書[山崎 圭一]

一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書

一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書

  • 作者:山崎 圭一
  • 出版社:SBクリエイティブ
  • 発売日: 2018年08月20日頃

一般的な教科書と違い、年号を使わずにすべてを数珠つなぎにして「1つのストーリー」として解説。読むだけで高校の世界史の知識が一生モノの教養に変わる!

序章 人類の出現・文明の誕生/第1章 ヨーロッパの歴史/第2章 中東の歴史/第3章 インドの歴史/第4章 中国の歴史/第5章 一体化する世界の時代/第6章 革命の時代/第7章 帝国主義と世界大戦の時代/第8章 近代の中東・インド/第9章 近代の中国/第10章 現代の世界

「一度読んだら絶対に忘れない」かと言われれば、やっぱり忘れるものは忘れる。また丸腰でこの本を読んでも世界史がわかるといったことはないです。とりあえず一通り世界史の授業は受けたけれどもなんだかすっきりしないんだよねという人、大人になってもう一度世界史で習ったことを思い出したい方が対象か。

授業で習う世界史の問題点は、歴史と地域をぶつ切り細切れにして、あっちいったりこっちいったりするから全体像がつかみにくいところだと思う。一通り教科書や授業で習った後に「ヨーロッパ史」「中国史」「文化史」だとかのテーマを決めたりなんかして習ったことを各自が再構築することで世界史の知識は定着していくものなのね。その再構築を手伝ってくれるツールが本書です。世界史の流れを10区分にわけて物語風にまとめてあるので、あの知識はそういう風な流れに位置づけられるのねということを確認していくのに最適。

厳選された重要語句が説明もなくしれっと出てくるので初学者にはさっぱりだろう。一方でストーリーは大まかな流れ重視なので(世界史の上澄みダイジェスト)、ある程度学習した者には物足りないといった感じ。これ1冊で入試に対応できるかと問われればとうてい無理。使いどころを間違えなければ良い本だと思う。

一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書[山崎 圭一]
一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書[山崎 圭一]【電子書籍】

読了:神は、脳がつくった[E.フラー・トリー/寺町 朋子]

神は、脳がつくった

神は、脳がつくった

  • 作者:E.フラー・トリー/寺町 朋子
  • 出版社:ダイヤモンド社
  • 発売日: 2018年09月28日頃

「神(宗教)はいつ、なぜ、どのようにして生まれたのか?」という問いに対し、精神医学の世界的権威の著者E.フラー・トリーが人類史や脳科学、考古学の実証的証拠を組み合わせて迫る衝撃の一大スペクタクル。頭蓋骨の化石、人工遺物、ヒトや霊長類の脳の解剖や脳画像、子どもの成長などから明らかになる神の起源。

 神(神々)というものを信仰できる生物は、進化上ホモ・サピエンスだけらしい。これを人属の脳の進化理論から考察する。人属は進化の歩みとともに「自己認識」、「他者認識」、「内省」、「自伝的記憶」と獲得していくが、「自伝的記憶」を獲得したのはようやくホモ・サピエンスになってからである。そしてこの「自伝的記憶」によってはじめて「神」を想像することが可能になった。そこに至るまでは相当の時間がかかっている(そして本書のほとんどはこの説明に充てられている。「神」が登場するのは本当に終わりの方)。

 他者を埋葬するという宗教「的」儀式は旧人類にも見られるものであるが、本書ではこれはまだ「神」という存在を信じているかどうかとは別とする。なぜなら「他者の死を悲しむことは、自分がいずれ死ぬことを理解していることと同じではない」からである。将来自分も死ぬという理解はホモ・サピエンス特有らしい。ホモ・サピエンスは時間を超越する自己を想定できることで、将来的な自身の死と、過去の亡くなった祖先たちと結びつけてエピソードとして捉えることができるようになった。そしてそれを仲間と共有し、亡くなった祖先たちの中でも特別な地位を与えられたものが、やがて神へと変わっていったようだ。

神は、脳がつくった[E.フラー・トリー/寺町 朋子]
神は、脳がつくった[E.フラー・トリー]【電子書籍】

読了:会計の世界史[田中 靖浩]

会計の世界史

会計の世界史

  • 作者:田中 靖浩
  • 出版社:日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2018年09月27日頃

「会計ギライ」の方を悩ませる、数字および複雑な会計用語は一切出てきません。「世界史ギライ」の方をげんなりさせる、よく知らないカタカナの人や、細かい年号もほとんど出てきません。登場するのは偉人・有名人ばかり。冒険、成功、対立、陰謀、愛情、喜びと悲しみ、芸術、発明、起業と買収…波乱万丈、たくさんの「知られざる物語」が展開します。物語を読み進めると、簿記、財務会計、管理会計、ファイナンスについて、その仕組みが驚くほどよくわかります。

第1部 簿記と会社の誕生(15世紀イタリア 銀行革命/15世紀イタリア 簿記革命/17世紀オランダ 会社革命)/第2部 財務会計の歴史(19世紀イギリス 利益革命/20世紀アメリカ 投資家革命/21世紀グローバル 国際革命)/第3部 管理会計とファイナンス(19世紀アメリカ 標準革命/20世紀アメリカ 管理革命/21世紀アメリカ 価値革命)

タイトル買いをしたので堅苦しい会計史の書物かと思っていたんだけれども、中身は雑学漫談風の読み物だった。気軽に読めてわかりやすい。
簿記として経営者の覚えからスタートした体系的な会計は、ヨーロッパからアメリカへと渡り、経営管理や未来の出資者説明のためのものへと発展していく。会計の歴史だけではなく、第1部では絵画の歴史、第2部では交通機関の歴史、第3部では大衆音楽の歴史と絡めた物語仕立てになっている(この本の優れた特徴)。

会計の世界史[田中 靖浩]
会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカーー500年の物語(会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカーー500年の物語)[田中靖浩]【電子書籍】

読了:奇書の世界史2 歴史を動かす“もっとヤバい書物”の物語[三崎 律日]

奇書を奇書たらしめるものは、読み手の価値観である。人は時代に合わせて「信じたいもの」を選択してきた。時には、嘘にまみれた書物を受け入れて過ちすら犯す。過去は変えられないが、奇書の歴史を学びとし、未来をどう生きるのか。

01 ノストラダムスの大予言(ミシェル・ド・ノートルダム著)世界一有名な占い師はどんな未来もお見通しだった!…のか?/02 シオン賢者の議定書ーかの独裁者を大量虐殺へ駆り立てた人種差別についての偽書/03 疫神の詫び証文ー伝染病の収束を願って創られた、疫病神からのお便り/番外編01 産褥熱の病理(イグナーツ・ゼンメルワイス著)-ウイルス学誕生前に突き止めた「手洗いの重要性」について/04 Liber Primus(Cicada3301)-諜報機関の採用試験か?ただの愉快犯か?ネットに突如現れた謎解きゲーム/05 盂蘭盆経(竺法護 漢訳)-儒教と仏教の仲を取り持った「偽経」/06 農業生物学(トロフィム・デニソヴィチ・ルイセンコ著)-科学的根拠なしの「“画期的な”農業技術」について/番外編02 動物の解放(ピーター・シンガー著)-食事の未来を変えるかもしれない、動物への道徳的配慮について

前作の感想はこちら

読了:奇書の世界史 歴史を動かす“ヤバい書物”の物語[三崎 律日]

前作に引き続き、もともとがネット動画なので、内容は軽くて薄い(前作以上に軽いかも)。軽いのも当然、ネットの民を対象にした「こういう面白い本がある」という紹介なのだから、ちっとも難しくないのである。いわゆる本好きにはちょっと物足りない。個人的には医学生物学関係とITの話題が多かったので、知識を整理する分にしてもかなり物足りなかった。それでも、著者はこの本の対象者を明確に定めており、分かりやすくするためにきちんと記述してある点は相変わらず徹底している。そして言葉もかなり選んで使っている点にも好感が持てる。各章の扉絵もステキ。

今回も、偽書もあれば、奇妙な境遇の本、今では(当時も)否定された理論の本などを取り上げているが、中でもユニークなのは「Cicada3301」の追跡の章。ネット上で話題になったものなのでどういうものかは知っていたけれども、そのいきさつを丹念に追っている。この章で出てくる本は、本そのものというより、本を使った暗号が使われているというもの。あとは「シオン賢者の議定書」(偽書だということは知っていた)がどういう変遷を得て編まれたものかの由来(ウンベルト・エーコによる)はおもしろい。

奇書の世界史2 歴史を動かす“もっとヤバい書物”の物語[三崎 律日]
奇書の世界史2 歴史を動かす“もっとヤバい書物”の物語(奇書の世界史)[三崎 律日]【電子書籍】

読了:比較史の方法(講談社学術文庫)[マルク・ブロック/高橋 清徳]

比較史の方法

比較史の方法

  • 作者:マルク・ブロック/高橋 清徳
  • 出版社:講談社
  • 発売日: 2017年07月11日頃

ブローデル、アリエス、ル・ゴフらを輩出したアナール派の創始者マルク・ブロック(一八八六ー一九四四年)。一九二八年に行われた講演の記録である本書は、歴史の中で「比較」を行うことの意義と問題点を豊富な具体例をまじえながら分かりやすく説明する。「われわれは歴史から何を知ることができるのか」という問いに迫っていく最良の歴史学入門。

マルク・ブロックの講演記録が前半(1920年代の講演らしい)。後半は訳者による解説で、前半の講演内容を改めて分かりやすく整理して解説してくれている。歴史の本というよりかは、歴史学の本。もっと言ってしまえば、「比較」とは何か、歴史において「比較する」とはどういうことかといった定義や方法論が延々と続く。よって哲学の本でも読んでいるかのような面倒くささがあった。登場する歴史の具体例も、ヨーロッパ史における制度の比較例の列挙であってその内容の説明はほぼない。方法論の展開はおもしろいけれども、歴史の書物として期待して読むとおそろしく抽象的で難解な内容に面食らう。

比較史の方法(講談社学術文庫)[マルク・ブロック/高橋 清徳]
比較史の方法(比較史の方法)[マルク・ブロック]【電子書籍】

読了:ルネサンスの女たち(新潮文庫)[塩野 七生]

ルネサンスの女たち

ルネサンスの女たち

  • 作者:塩野 七生
  • 出版社:新潮社
  • 発売日: 2012年08月

若々しく大胆な魂と冷徹な現実主義に支えられた時、政治もまた芸術的に美しい。ルネサンスとはそういう時代であった。女たちはその時、政争と戦乱の世を生き延びることが求められた。夫を敵国の人質にとられれば解放を求めて交渉し、生家の男たちの権力闘争に巻き込まれ、また時には篭城戦の指揮もとるー。時代を代表する四人の女の人生を鮮やかに描き出した、塩野文学の出発点。

塩野のデビュー作をようやく。ルネサンスイタリアの4人の貴族女性の人生。ルネサンス芸術の庇護者でもあったイザベッラ・デステ、父と兄の陰に隠れがちなルクレツィア・ボルジア、女傑カテリーナ・スフォルツァ、そして生国ヴェネツィアにいいように利用されたキプロス女王カテリーナ・コルネール。塩野自身は全く共感できない女性もいると言いながらも、どの女性の人生も魅力的に描かれている。

ルネサンスの女たち(新潮文庫)[塩野 七生]

読了:憲法で読むアメリカ史(ちくま学芸文庫)[阿川尚之]

憲法で読むアメリカ史

憲法で読むアメリカ史

  • 作者:阿川尚之
  • 出版社:筑摩書房
  • 発売日: 2013年11月

建国から二百数十年、自由と民主主義の理念を体現し、唯一の超大国として世界に関与しつづけるアメリカ合衆国。その歴史をひもとくと、各時代の危機を常に「憲法問題」として乗り越えてきた、この国の特異性が見て取れる。憲法という視点を抜きに、アメリカの真の姿を理解するのは難しい。建国当初の連邦と州の権限争い、南北戦争と奴隷解放、二度の世界大戦、大恐慌とニューディール、冷戦と言論の自由、公民権運動ー。アメリカは、最高裁の判決を通じて、こうした困難にどう対峙してきたのか。その歩みを、憲法を糸口にしてあざやかに物語る。第6回読売・吉野作造賞受賞作の完全版!

アメリカ合衆国憲法の誕生/憲法批准と『ザ・フェデラリスト』/憲法を解釈するのはだれか/マーシャル判事と連邦の優越/チェロキー族事件と涙の道/黒人奴隷とアメリカ憲法/奴隷問題の変質と南北対立/合衆国の拡大と奴隷制度/ドレッド・スコット事件/南北戦争への序曲〔ほか〕

アメリカ史を時代ごとの憲法解釈の面(つまりは司法)からたどる。アメリカ史の主要トピックであるアメリカ独立、南北戦争、二度の世界大戦、またネイティブアメリカン問題、人種人権問題をアメリカがどうやって乗り越えてきたのか。司法(連邦最高裁とその判例における憲法解釈)を通してみてみるとアメリカ史にはこういう面白さもあるのかと思うところ多し。そもそも、アメリカの州(日本の都道府県とは違ったもっと独立性の高い存在)と連邦政府の関わりを憲法はどのように定めて連邦政府の権限を縛っているのか、連邦政府はどこまで州に関われるのかという遷移を知ることができる。憲法解釈のためのキーワードが素人には若干難しいものの、全体的には読みやすくおもしろかった。

憲法で読むアメリカ史(ちくま学芸文庫)[阿川尚之]
憲法で読むアメリカ史(全)[阿川尚之]【電子書籍】

読了:病の皇帝「がん」に挑む(下)[シッダールタ・ムカジー/田中文]

病の皇帝「がん」に挑む(下)

病の皇帝「がん」に挑む(下)

  • 作者:シッダールタ・ムカジー/田中文
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2013年08月23日頃

20世紀に入り、怪物「がん」と闘うには「治療」という攻撃だけでなく、「予防」という防御が必要であることがわかる。かくて、がんを引き起こす最大の犯人として、たばこが指名手配されたが…人類と「がん」との40世紀にわたる闘いの歴史を壮絶に描き出す!ピュリッツァー賞、ガーディアン賞、受賞作。

第4部 予防こそ最善の治療(「まっくろな棺」/皇帝のナイロンストッキング/「夜盗」 ほか)/第5部 「われわれ自身のゆがんだバージョン」(「単一の原因」/ウイルスの明かりの下で/「サーク狩り」 ほか)/第6部 長い努力の成果(「何一つ、無駄な努力はなかった」/古いがんの新しい薬/紐の都市 ほか)

上巻の感想はこちら

読了:病の皇帝「がん」に挑む(上)[シッダールタ・ムカジー/田中文]

下巻は「がん」の「予防」から。肺がんとたばこの関係は法廷ドラマのように描かれる。続いて「がん」の発生メカニズムへの挑戦が描かれる。ゲノムプロジェクトの進行とともに各地の研究者が「がん」遺伝子とその治療法を探求する競争。今となっては古典ともいえるストラテジーも当時は試行錯誤の末にたどり着いたものであったのだ。個人的にはこの章が一番おもしろかった。刊行された当時のゲノムプロジェクトあたりで話が終わってしまっているのが、仕方ないとはいえ残念。

これに続く「遺伝子ー親密なる人類史ー」にしろ、シッダールタ・ムカジーの物語を紡ぎだす才はすばらしい。この人、文筆家やジャーナリストではなく、臨床腫瘍科医なんだよ。

病の皇帝「がん」に挑む(下)[シッダールタ・ムカジー/田中文]
病の皇帝「がん」に挑む 人類4000年の苦闘(下)[シッダールタ ムカジー]【電子書籍】