読了:ドストエフスキー 黒い言葉(集英社新書)[亀山 郁夫]

ドストエフスキー 黒い言葉

ドストエフスキー 黒い言葉

  • 作者:亀山 郁夫
  • 出版社:集英社
  • 発売日: 2021年07月16日頃

ドストエフスキー生誕から二〇〇年目の二〇二一年、世界は新型コロナウイルスの感染拡大という誰も予想しなかったかたちで転換期を迎えている。激動の時代を生き、コレラ蔓延というパンデミックも経験した作家が鋭い直感と深い洞察から生み出した言葉には、今を生き抜くためのヒントが含まれているのではないか。資本主義の行方、暴力、信仰などについて残された言葉の数々は、予言のようにも響く。ドストエフスキー初心者にも、熟読者にも衝撃的な現代への提言。

金、または鋳造された自由/サディズム、または支配の欲求/苦痛を愛する、または「二二が四は死のはじまり」/他者の死を願望する/疚しさ/美が世界を救う/intermission 「神がなければ、すべては許される」/「全世界が疫病の生贄となる運命にあった」/夢想家、または「永遠のコキュ」/不吉な道化たち/神がかりと分身/破壊者たち/父殺し、または「平安だけがあらゆる偉大な力の…」

著者を「カラマーゾフの兄弟」の訳者としては知っていた。「黒い言葉」とあるが、ロシアにとって「白」は雪または氷に覆われた色で、「黒」は春になって雪解けによって現れる豊かな土壌の色らしい。ドストエフスキーの作品や手記、またドストエフスキー研究者たちによる言葉を織り込んで、ドストエフスキー並びに帝政末期のロシアについて語る。これが異様におもしろい。「神がなければ、すべては許される」の章がとりわけおもしろかった。文学作品についてもその作品が生まれた背景、その時代の空気を知っていた方が断然面白く読めるんだなぁと痛感。昔読んだはずだがすっかり忘れている「カラマーゾフの兄弟」、積読になったままの「罪と罰」、読んでみようかなと思った。

ドストエフスキー 黒い言葉(集英社新書)[亀山 郁夫]
ドストエフスキー 黒い言葉(ドストエフスキー 黒い言葉)[亀山郁夫]【電子書籍】