読了:カラフル(文春文庫)[森 絵都]

カラフル

カラフル

  • 作者:森 絵都
  • 出版社:文藝春秋
  • 発売日: 2007年09月

生前の罪により、輪廻のサイクルから外されたぼくの魂。だが天使業界の抽選にあたり、再挑戦のチャンスを得た。自殺を図った少年、真の体にホームステイし、自分の罪を思い出さなければならないのだ。真として過ごすうち、ぼくは人の欠点や美点が見えてくるようになるのだが…。不朽の名作ついに登場。

タイで映画化(2018)された原作ということで手に取ってみた(日本でもすでに実写(1999)とアニメ(2001)で映画化されている)。直木賞作家である著者はもともと児童文学でデビューした人なので、描写がとても素直でわかりやすくそしてキラキラとしている(出てくる話題が家庭の不和とか不倫とか援助交際とかなのにも関わらず)。ラスト近くで世界が色づいていくシーンの美しさはとりわけすばらしい。文字でこの色彩感を描くってすごいぞ。

死んだ僕は、輪廻のサイクルに戻るチャンスを天使から与えられ、自殺した中学3年生である小林真の身体に入って生活し、生前に犯した罪を思い出さなければならない。どうやら小林真の人生はパッとしないどころか自殺するのもさもありなんなものだったようだ。身体的コンプレックスを抱える上に、浮気する母親、仕事がうまくいっていない父親、大学受験を控えて意地悪で皮肉屋な兄という家族。学校に友達はいない。そして中年男性と援助交際をしている小林真の思い人。それでも、完ぺきではないがそれぞれに懸命に生きている人々の実際を知るにつれて、小林真が気付いていなかったであろう世界を僕は知っていく。この世界を小林真が知っていたら自殺なんかしなかっただろうに、この世界を知ってほしかったと僕は思い始める。そして僕が犯した生前の罪は何だったのか?

阿川佐和子による後書きが愉快。檀ふみの一言に爆笑。

アニメ版予告編(2001)

タイ版予告編(2018)

カラフル(文春文庫)[森 絵都]
カラフル[森絵都]【電子書籍】

読了:闇の脳科学 「完全な人間」をつくる[ローン・フランク/仲野 徹]

闇の脳科学 「完全な人間」をつくる

闇の脳科学 「完全な人間」をつくる

  • 作者:ローン・フランク/仲野 徹
  • 出版社:文藝春秋
  • 発売日: 2020年10月14日頃

人間の精神は操れる。人類のタブーに挑戦して葬り去られた天才科学者の記録とDARPA(国防高等研究計画局)も参戦する米医学界の最前線。

プロローグ 脳を刺激し、同性愛者を異性愛者へ作り変える/第1章 ゴー・サウスー野心に燃える若き医師/第2章 忘れ去られた“精神医学界の英雄”/第3章 一躍、時代の寵児へー“ヒース王国”の完成/第4章 幸福感に上限を設けるべきか/第5章 「狂っているのは患者じゃない。医者のほうだ」/第6章 その実験は倫理的か/第7章 暴力は治療できる/第8章 DARPAも参戦、脳深部刺激法の最前線/第9章 研究室にペテン師がいる!/第10章 毀誉褒貶の果てに/エピローグ 七十六歳の老ヒース、かく語りき

20世紀以降の精神医学と治療法の歴史と現在の最先端技術について、精神・神経医学の先駆者ロバート・ヒースの生涯を軸にして描いたルポルタージュ。

wikipedia(英語)の「Robert Galbraith Heath」の項

脳に電極を差して電気を流し、同性愛者を異性愛者へ変える人体実験の様子が冒頭に描かれる。でも、このルポルタージュはそんなグロテスクな人体実験だけを描いたものではない。邦題はかなり物騒なものになっているが原題は「The Pleasure Shock: The Rise of Deep Brain Stimulation and Its Forgotten Inventor」で、精神病治療法としての脳深部電気刺激法とそれを研究した忘れられた先駆者ロバート・ヒースの生涯を扱ったものである。20世紀の前半、精神の問題は、それまでの主流であった「精神分析」から「精神医学」「神経医学」へと医学・医療の対象へと変わっていった。その先駆者であったロバート・ヒースの栄光と挫折の生涯を関係者へのインタビューを通して追っていく。また、精神・神経医学・脳科学における最先端の技術を交えて話は進む。

科学者ロバート・ヒースがいかにして精神病を科学的に研究治療する方法を求めていたのか、そして当時考えうる限りのインフォームドコンセントを慎重に取り付けて治療(実験)を行ったかが描かれる。それにもかかわらず当時の社会はそれを人体実験とみなしてデモが起き、多くの医療関係科学者はヒースの進歩的な考えや実験報告に懐疑的であった。ヒースの研究室で何があったのかがまるでドラマのようで手に汗握るほど面白く、それを解明していくために関係者を探し訪ねていく過程が興味深い。また最新の脳科学技術についてはDARPA(国防高等研究計画局)が力を入れている(IT関係者ならピンと来ると思うんだけれども現在のインターネットの原型を生み出した軍事研究所)。その軍事研究所が脳科学研究に力を入れていると聞くと物騒な想像をしてしまうが、目的としているのは戦地から帰還した人々の心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療である。その治療法として現在どんなことが研究されているのだろうか?

なぜ”Robert”が「ボブ」になるの? – ニックネームの不思議 | 会話に使える!英文法

闇の脳科学 「完全な人間」をつくる[ローン・フランク/仲野 徹]
闇の脳科学 「完全な人間」をつくる[ローン・フランク/仲野徹・解説]【電子書籍】

読了:三体2 黒暗森林 上・下[劉 慈欣/大森 望]

三体2 黒暗森林 上

三体2 黒暗森林 上

  • 作者:劉 慈欣/大森 望
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2020年06月18日頃

現代中国最大の衝撃作『三体』驚天動地の第二部!驚異の技術力をもつ異星文明・三体世界に立ち向かうため、地球が発動した前代未聞の「面壁計画」とは!?

三体2 黒暗森林 下

三体2 黒暗森林 下

  • 作者:劉 慈欣/大森 望
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2020年06月18日頃

人類の命運は四人の面壁者の手に委ねられた。かれらは自分の専門分野の知識を駆使し、命がけの頭脳戦に身を投じるが…!?現代エンタメ小説の最高峰三部作。

話題の中国発SF小説「三体」の第二部は上下巻2冊組という大作。前作では地球に攻めてくる三体人が太陽系に到達するまであと450年とかいうところで終わっていた。

読了:三体[劉 慈欣/大森 望]

さて、今回はその続き。とにかく絶大な科学力を持つ三体人が太陽系に到達するのは数世紀後だ。その間に地球人はどう防衛準備をするのか?が軸。三体人は先行して地球に陽子ナノコンピュータ「智子」を送って地球の物理科学の発展を妨害していて、人類のやっていることは三体人には筒抜け。しかし三体人というのは考えは必ず表出されるもので、人類のように思考をうちに秘めるということがない。そこで人類は救済作戦を三体人だけでなく、人類にも漏らさず秘密裏に実行する権限を持つ4人の独立した者(面壁者)を選出した。一方で三体人は、面壁者の考え(人類救済作戦)を暴くため、人類の中で三体文明に興味を持つ協力者を破壁者としてそれぞれの面壁者に向かわせる。途中で人工冬眠なんかが入って、足掛け数世紀ほどの話になるんだけれども、三体人の真の意図をめぐって人類は右往左往。最終的には黒暗森林理論による呪文を使ったある面壁計画により三体人は地球に向かうことをあきらめてハッピーエンド。三体人、結局地球に来なかったあるよ(捜査船みたいなのは一機飛来して大惨事を引き起こしてはいるけれど)。

あいかわらず手に汗握る濃厚エンタメSF。一気に上下2冊読み切ってしまったよ。メインの主人公は一応いるものの、群像劇なので登場人物が多い。「この人誰だっけ?」とか最初のうちは混乱。重要だと思った人が途中であっさり退場して、この人はなんで出てきたん?(これは前作でもあり)。また地球の未来世界描写があるんだけれども、たしかに未来世界の科学技術はすごいしよく考えたものだと感心はするけれども、「智子」というものを設定しているので現在の科学技術で説明できる範囲での発展になるように枠をはめたのはうまい仕掛けだ。宇宙艦隊が壊滅させられていくシーンは情景が目に浮かぶようで、悲惨なシーンなのにものすごく美しい。また伏線回収もうまい。

三体人による人類の危機問題は本作で解決しちゃったんだけれども、この後まだ第三部があるんだよね?

三体2 黒暗森林 上[劉 慈欣/大森 望]
三体2 黒暗森林 下[劉 慈欣/大森 望]

読了:もしもし、運命の人ですか。(角川文庫)[穂村 弘]

もしもし、運命の人ですか。

もしもし、運命の人ですか。

  • 作者:穂村 弘
  • 出版社:KADOKAWA
  • 発売日: 2017年01月25日頃

或る夜のこと。友達の家に何人かで集まって遊んでいるとき、コンビニエンスストアに食料の買い出しにゆくことになった。「僕、行こうか」と私が名乗りをあげると、「じゃあ、あたしも行く」とSさんが云った。どきっとする。今、Sさんは「じゃあ、あたしも行く」って云わなかった?「じゃあ」ってなんだ?-恋なんて縁がないと思っている人に贈りたい、人気歌人の恋愛エッセイ集。

「ときめき」延長作戦/いちゃいちゃ界/苺狩り/理想の男性像/「似ている」事件/性的合意点/次の恋人/好意の数値化/一次会の後で/料金所の女神〔ほか〕

歌人による軽妙洒脱なダメ男恋愛エッセイ。著者の恋愛観のダメっぷりや女性に対して抱く幻想が面白おかしく描かれている。女性が読むと、このダメ男っぷりが母性本能をくすぐるようでかわいいと思えるようなのだが(実際後書き解説にそう書いてある)、男から見ると「そうそう、そうなんだよ」と共感することしきりな点多し。恋の駆け引きは苦手だから、こういう場合はこういう解釈をすると明確にルール化してもらえると助かるとか(もちろん本気では言っていない)、常識人の著者からすると珍妙でありながらワイルドな発言(「今、東名を歩いている」とか)をさらっと吐きくさって女性の心を鷲掴みにする男への羨望とか。とにかく言うことがいちいち面白いのだ。著者は、女性に幻想を抱いている独りよがりなダメ男っぷりを開陳し、もてない男を演じているが、ちゃっかり運命の女性(=妻)がすでにいることをしれっと漏らしてしまったりもする。なんだこの男は、面白すぎるぞ。むしろこういうことが言える男になりたいぞ、俺は。

もしもし、運命の人ですか。(角川文庫)[穂村 弘]
もしもし、運命の人ですか。[穂村 弘]【電子書籍】

読了:スプラッシュマンション(PHP文芸文庫)[畠山健二]

スプラッシュマンション

スプラッシュマンション

  • 作者:畠山健二
  • 出版社:PHP研究所
  • 発売日: 2015年01月08日頃

人生は笑って、楽しんだ者の勝ち!-東京の下町・葛飾区新小岩。分譲マンションの管理組合理事長・高倉と、管理会社の癒着が発覚!?住人の麻丘と南は、漫画原作を生業とするパパ友・葉山を参謀役に迎え、謎の風俗嬢をも巻き込んで、高慢で小悪党の理事長を懲らしめるべく「大人のいたずら」を仕掛ける!笑芸作家が人生の妙味を笑いでつつみ込んで描いたノンストップ・エンターテインメント。

鼻持ちならないマンション管理組合理事長に対して「いたずら」(復讐ではない!)を画策するおっさんたち。半ばで仕返しが終わったかと思ったら、あにはからんやそこから警察沙汰の立てこもり事件にまで発展してしまう。会話が軽妙でトントンと進む、義理と人情も交えた痛快エンターテイメント。

スプラッシュマンション(PHP文芸文庫)[畠山健二]
スプラッシュ マンション[畠山健二]【電子書籍】