人間の精神は操れる。人類のタブーに挑戦して葬り去られた天才科学者の記録とDARPA(国防高等研究計画局)も参戦する米医学界の最前線。
プロローグ 脳を刺激し、同性愛者を異性愛者へ作り変える
第1章 ゴー・サウスー野心に燃える若き医師
第2章 忘れ去られた“精神医学界の英雄”
第3章 一躍、時代の寵児へー“ヒース王国”の完成
第4章 幸福感に上限を設けるべきか
第5章 「狂っているのは患者じゃない。医者のほうだ」
第6章 その実験は倫理的か
第7章 暴力は治療できる
第8章 DARPAも参戦、脳深部刺激法の最前線
第9章 研究室にペテン師がいる!
第10章 毀誉褒貶の果てに
エピローグ 七十六歳の老ヒース、かく語りき
20世紀以降の精神医学と治療法の歴史と現在の最先端技術について、精神・神経医学の先駆者ロバート・ヒースの生涯を軸にして描いたルポルタージュ。
■ wikipedia(英語)の「Robert Galbraith Heath」の項
脳に電極を差して電気を流し、同性愛者を異性愛者へ変える人体実験の様子が冒頭に描かれる。でも、このルポルタージュはそんなグロテスクな人体実験だけを描いたものではない。邦題はかなり物騒なものになっているが原題は「The Pleasure Shock: The Rise of Deep Brain Stimulation and Its Forgotten Inventor」で、精神病治療法としての脳深部電気刺激法とそれを研究した忘れられた先駆者ロバート・ヒースの生涯を扱ったものである。20世紀の前半、精神の問題は、それまでの主流であった「精神分析」から「精神医学」「神経医学」へと医学・医療の対象へと変わっていった。その先駆者であったロバート・ヒースの栄光と挫折の生涯を関係者へのインタビューを通して追っていく。また、精神・神経医学・脳科学における最先端の技術を交えて話は進む。
科学者ロバート・ヒースがいかにして精神病を科学的に研究治療する方法を求めていたのか、そして当時考えうる限りのインフォームドコンセントを慎重に取り付けて治療(実験)を行ったかが描かれる。それにもかかわらず当時の社会はそれを人体実験とみなしてデモが起き、多くの医療関係科学者はヒースの進歩的な考えや実験報告に懐疑的であった。ヒースの研究室で何があったのかがまるでドラマのようで手に汗握るほど面白く、それを解明していくために関係者を探し訪ねていく過程が興味深い。また最新の脳科学技術についてはDARPA(国防高等研究計画局)が力を入れている(IT関係者ならピンと来ると思うんだけれども現在のインターネットの原型を生み出した軍事研究所)。その軍事研究所が脳科学研究に力を入れていると聞くと物騒な想像をしてしまうが、目的としているのは戦地から帰還した人々の心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療である。その治療法として現在どんなことが研究されているのだろうか?
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