読了:昨日まで不思議の校舎(創元推理文庫)[似鳥鶏]

超自然現象研究会が配布した“エリア51”の「市立七不思議」特集が影響を与えたのだろうか?突如休み時間に流れた、七不思議のひとつ「カシマレイコ」を呼び出す放送。そんな生徒はもちろん存在しない。さらに「口裂け女」「一階トイレの花子さん」の悪戯まで見つかった。なぜこの三つなのだろう…。調査を進めた葉山君は、ある真実に気づく。ますます快調な、シリーズ第五弾。

このシリーズもついにオカルトに突っ込んだか。全体の雰囲気も不穏な感じで、コミカル要素もかなり薄め(メレディ並み)。3つの学内事件は後半で卒業生の伊神さんがあっさりと解いちゃうんだけれども、実はそれぞれの事件は独立していたと。でも、登場人物たちが言うように、なぜそれぞれの犯人が同じ読み物の中の7つから同時にネタ被りをすることなく事件を起こしたのかっていうのはやっぱり疑問なのね。単なる偶然?そこがこの作品の最後の謎ねって思って読んでいくと、あらぬ方向へ転がっていく。実はネタと思っていた都市伝説は実際に起こった殺人事件がもとになっていることが判明、やがてそこに第1作に登場した壁男事件も含めて4つの事件は同一犯によるものということで犯人捜しになって、まぁ犯人も判明して終わるんだけれどもさ。え?ちょっと待って、さっきまで話題にしていた3つの独立した事件のネタが被らなかった件は放ったらかしなの?そこが一番気になっているんだけれども。完全放置?それぞれの犯人が述べた「ただなんとなく」ってだけで片付けちゃうの。伊神さんも葉山君もめっちゃ気にしていたのに、解決されずに終わるなんておかしいでしょ。いやぁ、今作はその点こそがまさにオカルトだよ。

昨日まで不思議の校舎(創元推理文庫)[似鳥鶏]
昨日まで不思議の校舎(市立高校シリーズ)[似鳥鶏]【電子書籍】

読了:いわゆる天使の文化祭(創元推理文庫)[似鳥鶏]

夏休みも終わりに近づいた文化祭目前のある日、準備に熱の入る生徒たちが登校すると、目つきの悪いピンクのペンギンとも天使ともつかないイラストが描かれた貼り紙が目に飛び込んできた。別館中に貼られた、部活にちなんだ様々な怡好の“天使”を不思議に思いつつも、手の込んだ悪戯かと気を抜いているとー。波瀾万丈で事件に満ちた、コミカルな学園ミステリ・シリーズ第四弾。

今回は、あっと驚くミスリーディングが3回用意されているんだけれども、いかんせん鮮やかと言い切れないところが残念極まりない。このシリーズの主人公は葉山君という男子高校生だったはずなのに、なぜか奏とかいうぽっと出の今一つ特徴のないおなごがもう一人の主役を務めている。ん~、葉山君には柳瀬さんという頼もしい変態女性先輩がいるんだから、彼女をもっと活用しようよとか思いながら読み進めるわけですよ。そして文化部の人たちと比較的仲良くなるはずの美術部員葉山君なのに、なぜかこの吹奏楽部員の奏さんとはどこか関係が薄いのよ。なんでかなぁ、と思ったら中盤にまず、これまでずっと1つの事件だと思っていた出来事が実は2つの場所で起こっていたことだという衝撃。葉山君と奏さんは違う高校の生徒だったのだ!!さらにもうしばらく進むと、今度はこの2つの場所で起きた事件が1年の時間を隔てていることも判明。そして最後には、ずっと男の子だと思い込んでいたある人物が女だったとか。こうもやすやすと作者に乗せられたのは悔しいけれども、じゃ鮮やかに気持ちよく騙されたかというとそうじゃない。ラストで怒涛の如く畳みかけるようにひっくり返されたら「やられっちまったなぁ」と思ったんだろうけれども、後半に間をおいて少しずつひっくり返していくから間延びすることこの上なし(素人のオセロゲームか)。しかも肝心な事件の素となった人物にまったくフォーカスされてこないし(ラストにほんの一瞬姿を見かけるだけ)。テーマがボケボケで詰めが甘い、甘すぎる。名探偵伊神さんもたいして活躍しないし(もはやいてるだけ。この人の常識のなさが面白かったのに)。コメディの切れも今一つだし、そろそろシリーズの限界か。

いわゆる天使の文化祭(創元推理文庫)[似鳥鶏]
いわゆる天使の文化祭(市立高校シリーズ)[似鳥鶏]【電子書籍】

読了:悪について誰もが知るべき10の事実[ジュリア・ショウ/服部 由美]

2019年11月16日の日本経済新聞に書評掲載!「人が陥るメカニズムを分析」

「猟奇殺人から小児性愛まで、リベラル化する現代社会でもっともおぞましいものに『科学』を武器に果敢に切り込んだ」(推薦 橘玲氏)

人はなぜ平然と差別、嘲笑、暴力に加担するのか?人間をモンスターに変えるものは何か?ファクトが語る脳と遺伝子のダークサイド。激しい賛否両論を巻き起こす著者の話題書!

第1章 あなたの中のサディストーー悪の神経科学
第2章 殺すように作られたーー殺人願望の心理学
第3章 フリークショーーー不気味さを解剖する
第4章 テクノロジーの光と影ーーテクノロジーは人をどう変えるか
第5章 いかがわしさを探るーー性的逸脱の科学
第6章 捕食者を捕まえるためにーー小児性愛者を理解する
第7章 スーツを着たヘビーー集団思考の心理学
第8章 私は声を上げなかったーー服従の科学

上記宣伝は売るための煽り文句だとは言え、著者はとりたてて「悪」を「おぞましい」とは言っていないし、また「悪」を「遺伝子」と関連付けてもいない(生物学的な相違があるのかという議論はしているが)。アグレッシブなテーマではあるけれども煽り立てるような論展開はしないし、著者は最終的には人間の可能性に希望を持っているとラフは受け取った。

「悪」とはどんなものなのか、絶対的に存在するものなのか(著者は否定しているとラフは読んだ)。また多くの人は物事を単純化して「悪」を考える人は「悪人」という考え方に簡単に飛びつき、そして「私」にはそんなことはできない、と思い込んでいる。でもそうじゃない、人間はちょっとしたきっかけで誰でも簡単にダークサイドに陥るものだということ、また「悪」というものに対して人々が抱いている思い込みや偏見を、多くの事例や研究から解き明かしていく。多くの人は自分は悪だとは思っていないし、なによりも悪いことをしようと思って悪になる人はいないのだ。理性的で落ち着いた論展開であるので安心して読める。

・「殺人ファンタジー」
殺人「悪」を想像した人はみんな「悪人」なのか?人を殺すということを想像したことのない人はいないだろう。しかし多くの人は想像はしても実際に行動に移すということはない。一方でちょっとしたきっかけで殺人を犯してしまう人がいるのも確か。

・「ただしイケメンに限る」
なぜ第一印象が不気味な人を警戒するのか?(ここで、不気味とは何かの定義をして考察するところが重要)。実験により明らかになったのは、人を見た目で判断するというのは実はあてにならないという現実。

・「小児性愛者」
児童ポルノ所有が必ずしも小児性愛加害者ではない。小児性愛加害者が必ずしも児童ポルノ所有者ではない。また小児性愛者が必ずしも小児性愛加害者になるわけではない。小児性愛の傾向を持つ者と加害者は同じではないのだ。被害は防がなければならないことではあるが、本質的な問題がなんであるのか見極めなければならない。

・「自己責任」
「自己責任」という言葉で弱者を切り捨てることについて。発する側にとっては自分自身の今の立場を守ろうとする心理によるものであることが明かされる。なぜそういう現実になっているのかにまで思いをいたせるかどうか。

・「テロ聖戦士」の2面性
過激な思想や信念を持っている者が必ずしもテロの実行犯になるというわけではない。またテロの実行犯がすべて過激な思想や信念を持っているわけではない。過激な思想や信念を持つ者とテロ遂行者は同一ではない。

・どうすればいいのか
人というものはそういう傾向があるということを知っておく、自分で考えることをやめない、おかしいと思ったら立ち止まってみる。それができるのが人間である。そのことにより歯止めがかけられるはずだ。人間は基本的にみんな理知的であるという前提に立ったきれいすぎる理想論のようではあるけれども、ラフはこういう考え方は好きだ。

ちなみに結論の章で著者が述べる10の事実(邦題に合わせて事実とくくっているが、提言も含む。原題は“Making Evil -The Science Behind Humanity’s Dark Side”)。

  1. 人間を悪と見なすのは怠慢
  2. 脳は少しサディスティック
  3. 人殺しは誰にでもできる
  4. 人の不気味さレーダーは質が悪い
  5. テクノロジーは危険を増大させる
  6. 性的逸脱はごく普通
  7. モンスターとは人間のこと
  8. 金は悪事から目を逸らさせる
  9. 文化を残虐行為の言い訳にするな
  10. 話しにくいことも話すべし

今まで自分の中でもやもやしていた様々な事象や思いがすっきりとしたエキサイティングな読書経験だった。

悪について誰もが知るべき10の事実[ジュリア・ショウ/服部 由美]
悪について誰もが知るべき10の事実[ジュリア・ショウ/服部由美]【電子書籍】