読了:生命進化の物理法則[チャールズ・コケル/藤原 多伽夫]

生命進化の物理法則

生命進化の物理法則

  • 作者:チャールズ・コケル/藤原 多伽夫
  • 出版社:河出書房新社
  • 発売日: 2019年12月16日頃

そこには美しい単純性がある。生物と無生物の間を分ける物理法則。進化の謎に迫る驚異の発見!「生命の本質を突く物理法則」、進化と物理学を統合する新たな試み。地球外生命という宇宙的な規模まで広がる壮大な生物論。

生命を支配する沈黙の司令官/群れを組織化する/テントウムシの物理学/大小さまざまな生き物の体/生命の袋/生命の限界/生命の暗号/サンドイッチと硫黄/水ー生命の液体/生命の原子/普遍生物学はあるか/生命の法則ー進化と物理法則の統合

地球上の生命の多様性を見ると、進化はあらゆる方向へと奔放に展開しているように思うことがある。しかし実際には、生物学の範疇以前に進化は物理法則によって大きく制限されていることを忘れがちである。本書では地球生命の進化が物理法則によってどのような制約を受けているのかを、マクロレベルからミクロレベルへと論を展開していく。個体群レベルから始めて、重力をはじめとする地球規模の物理法則によるところから、個体レベル、細胞レベル、分子レベル、原子レベル、そして量子レベルまで、そこに物理法則がどのように生命活動を制限するか(生命活動の制限は進化の制限となる)を各ステージごとに文献と考察を交えて解説していく。

そしてこれらの論は、宇宙生物学の立脚点となる。現在、人類が確認できる生命圏は地球しかない(N=1問題)。しかし、宇宙のどこかに地球外生命が存在するとして、それらの生命体はどのような進化をしたものであろうか?宇宙に遍在する進化を制限する物理法則は同じであることから考えれば、ある程度の範囲の制限と考察が可能となる。炭素ではなくケイ素を主体とする生命、溶媒として水ではなくメタンを使う生命は存在しうるのか?遺伝暗号の仕組みは地球の生命とは違ったものを構築できるのか?これらの疑問にも一定の制限がかかるはずではないか?

物理学を踏まえた生物学の発展の先に生まれた宇宙生物学の研究者・教育者として第一線で活躍する著者による渾身の力作。

生命進化の物理法則[チャールズ・コケル/藤原 多伽夫]
生命進化の物理法則[チャールズ・コケル/藤原多伽夫]【電子書籍】

読了:夏への扉〔新版〕(ハヤカワ文庫SF)[ロバート・A・ハインライン/福島 正実]

夏への扉〔新版〕

夏への扉〔新版〕

  • 作者:ロバート・A・ハインライン/福島 正実
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2020年12月03日頃

ぼくの飼い猫のピートは、冬になるときまって「夏への扉」を探しはじめる。家にあるドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。そして1970年12月、ぼくもまた「夏への扉」を探していた。親友と恋人に裏切られ、技術者の命である発明までだましとられてしまったからだ。さらに、冷凍睡眠で30年後の2000年へと送りこまれたぼくは、失ったものを取り戻すことができるのかー新版でおくる、永遠の名作。

ハインラインの名作古典SF「夏への扉」。いつかは読もうと思っていたんだけれども、ようやく読みましたよ。おもしろかった。1950年代に発表されたSF作品で、舞台になっているのは1970年と未来の2000年。2000年でさえ今となっては昔なのに、古さを感じさせないどころか、今読んでもそんなに違和感ないよ。さもありなん。そうであっても不思議はない。さらに言えばSFというよりもむしろ謎解きものとしておもしろく読めたかも。後半の怒涛の展開にはページを繰る手が止まらない。話が暗くなく、楽天的でさわやかなのも、この作品が多くの人に好まれる要因なのかも。

夏への扉〔新版〕(ハヤカワ文庫SF)[ロバート・A・ハインライン/福島 正実]
夏への扉〔新版〕[ロバート A ハインライン/福島 正実]【電子書籍】

読了:残酷な進化論(NHK出版新書 604)[更科 功]

残酷な進化論

残酷な進化論

  • 作者:更科 功
  • 出版社:NHK出版
  • 発売日: 2019年10月10日頃

心臓病・腰痛・難産になるようヒトは進化した!最新の研究が明らかにする、人体進化の不都合な真実ー「人体」をテーマに進化の本質を描く知的エンターテインメント。

なぜ私たちは生きているのか/第1部 ヒトは進化の頂点ではない(心臓病になるように進化した/鳥類や恐竜の肺にはかなわない/腎臓・尿と「存在の偉大な連鎖」/ヒトと腸内細菌の微妙な関係/いまも胃腸は進化している/ヒトの眼はどれくらい「設計ミス」か)/第2部 人類はいかにヒトになったか(腰痛は人類の宿命だけれど/ヒトはチンパンジーより「原始的」か/自然淘汰と直立二足歩行/人類が難産になった理由とは/生存闘争か、絶滅か/一夫一妻制は絶対ではない)/なぜ私たちは死ぬのか

生物学者が具体的な例を挙げて「生物進化」ってこう考えるものだよと説明しているエッセイ本。生物学にちょっとでも携わったことのある人には新奇なトピックはないけれども、生物進化について世間の人たちはきっと誤解しているだろうなぁという話題が多くとりあげられている。世間一般の生物学入門者に対する啓蒙書でもあるので、内容的には高校生物の知識程度でも理解できるように平易に説明されている。平易に説明しようとしたがために、かえって舌足らずになっていたり論理のちょっとした飛躍が気になる部分もあるんだけれども。

残酷な進化論(NHK出版新書 604)[更科 功]
残酷な進化論 なぜ私たちは「不完全」なのか(NHK出版新書)[更科功]【電子書籍】

読了:人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル(ハヤカワ文庫JA)[竹田 人造]

人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル

人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル

  • 作者:竹田 人造
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2020年11月19日頃

首都圏ビッグデータ保安システム特別法が施行され、凶悪犯罪は激減ーにもかかわらず、親の借金で臓器を売られる瀬戸際だった人工知能技術者の三ノ瀬。彼は人工知能の心を読み、認識を欺く技術ーAdversarial Example-をフリーランス犯罪者の五嶋に見込まれ、自動運転現金輸送車の強奪に乗り出すが…。第8回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作。人生逆転&一攫千金!ギークなふたりのサイバー・ギャングSF。

軽妙洒脱な近未来クライム小説。ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作ということでいわゆるSF新人賞作品。AI技術を軸にした大金強奪シーソーゲームのエンタメ性は抜群。でもこれってSF?

SFといえば笑っちゃうくらい途方もない科学技術や人知を超えた宇宙理論とかを、読者にそれらしく納得させるような技法を用いた作品だと思うわけ。でも、この作品はそうではない。AI技術でそういうことを目指すならシンギュラリティなんだろうけれども、この作品は最後の部分でも語られるんだけれども、訳の分からないシンギュラリティよりも、人が理解できるAIアルゴリズムを採っちゃうんだよな。つまりSF小説というより、現実的技術小説。近未来とはいえ犯罪に使われるAI技術やそれをかわす方法や理論が現在論考されているAI技術なわけですよ。つまりその理論や技術は現在巷で議論されているAI技術の範囲や問題点を逸脱することがない。だからこそこの作品がわかりやすくて読みやすいという点はあるんだけれども、SFではないよな。

あと、脇役登場人物が多い割には整理しきれていない感じがした。めぞん一刻みたいに数字にちなんだ人名の主要登場人物をそろえることにこだわり過ぎたかも。でも、エンタメ系クライム小説としては面白かったよ。

人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル(ハヤカワ文庫JA)[竹田 人造]
人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル[竹田 人造]【電子書籍】

読了:魚にも自分がわかる(ちくま新書 1607)[幸田 正典]

魚にも自分がわかる

魚にも自分がわかる

  • 作者:幸田 正典
  • 出版社:筑摩書房
  • 発売日: 2021年10月07日頃

「魚が鏡を見て、自分の体について寄生虫を取り除こうとする」。そんな研究が世界を驚かせた。それまで、鏡に映る像が自分であると理解する能力は、ヒトを含む類人猿、イルカ、ゾウ、カササギでしか確認されていなかった。それが、脊椎動物のなかでもっとも「アホ」だと思われてきた魚類にも可能だというのだ。実は、脳研究の分野でも、魚の脳はヒトの脳と同じ構造をしていることが明らかになってきている。「魚の自己意識」に取り組む世界で唯一の研究室が、動物の賢さをめぐる常識をひっくり返す!

第1章 魚の脳は原始的ではなかった/第2章 魚も顔で個体を認識する/第3章 鏡像自己認知研究の歴史/第4章 魚類ではじめて成功した鏡像自己認知実験/第5章 論文発表後の世界の反響/第6章 魚とヒトはいかに自己鏡像を認識するか?/第7章 魚類の鏡像自己認知からの今後の展望

鏡に映った自分を自分だと認識できるのは高度な脳の機能で、ヒトをはじめとした一部の高等生物しかできないと思われてきた。それは進化における脳の発達と機能の分化によるものなので当然だと。ところが、著者らの研究をはじめとして最近の知見では、脊椎動物の脳の構造はそれほど違わないことが分かってきた。

著者の研究室グループが明らかにした、魚にも鏡像自己認知ができるというセンセーショナルな実験結果と科学界の反響のドラマ。まずは仮説の検討、どのような実験で何が示せれば仮説を検証できたと言えるのか。それを論文にまとめ、どの科学雑誌に発表するか、査読とリバイス対応。納得してくれない権威との議論。長年信じられてきた権威学説において検討が漏れていたの何だったのかの考察。これら一連のいきさつが分かりやすく具体的に述べられている。生物学分野における科学的手法とはどういうものかを知る意味でもおもしろいかと。

魚にも自分がわかる(ちくま新書 1607)[幸田 正典]
魚にも自分がわかる ──動物認知研究の最先端[幸田正典]【電子書籍】

読了:生物はなぜ誕生したのか(河出文庫)[ピーター・ウォード/ジョゼフ・カーシュヴィンク]

生物はなぜ誕生したのか

生物はなぜ誕生したのか

  • 作者:ピーター・ウォード/ジョゼフ・カーシュヴィンク
  • 出版社:河出書房新社
  • 発売日: 2020年04月07日頃

生物は幾度もの大量絶滅を経験し、スノーボールアースや酸素濃度の増減といった地球環境の劇的な変化に適応することで進化しつづけてきた。生命はどこでどのように誕生し、何が進化を推し進めたのかを、宇宙生物学や地球生物学といった最新の研究結果をもとに解明。生物の生き残りをかけた巧妙な戦略と苦闘の歴史を新たな視点で描き出す!

時を読む/地球の誕生ー四六億年前~四五億年前/生と死、そしてその中間に位置するもの/生命はどこでどのように生まれたのかー四二億(?)年前~三五億年前/酸素の登場ー三五億年前~二〇億年前/動物出現までの退屈な一〇億年ー二〇億年前~一〇億年前/凍りついた地球と動物の進化ー八億五〇〇〇万年前~六億三五〇〇万年前/カンブリア爆発と真の極移動ー六億年前~五億年前/オルドビス紀とデボン紀における動物の発展ー五億年前~三億六〇〇〇万年前/生物の陸上進出ー四億七五〇〇万年前~三億年/節足動物の時代ー3億5000万年前~3億年前/大絶滅ー酸素欠乏と硫化水素ー2億5200万年前~2億5000年前/三畳紀爆発ー2億5200万年前~2億年前/低酸素世界における恐竜の覇権ー2億3000万年前~1億8000万年前/温室化した海ー2億年前~6500万年前/恐竜の死ー6500万年前/ようやく訪れた第三の哺乳類時代ー6500万年前~5000万年前/鳥類の時代ー5000万年前~250万年前/人類と10度目の絶滅ー250万年前~現在/地球生命の把握可能な未来

扱われているのは生物進化史ではあるんだけれども、地球環境との関連が詳しく述べられており、どちらかというと地球史。非常に分かりやすく簡潔に最新の知見(スノーボールアース仮説とか)を踏まえた地球史が解説される(訳も読みやすい)。分かりやすいとはいえ、さすがに丸腰ではつらいだろう。入門書ではないので、読み進めるためには最低限の地質年代(著者らは冒頭で地質年代による区分けを時代遅れだと言ってはいるが)や、基本的な生命進化の知識は必要。むしろ、こういった知識を最新の知見でアップデートするのに適した本。

大気成分、気温の影響を軸とした地球環境の変動と生命の進化がどのようにリンクしてきたのかが丁寧に語られていく。生命の誕生の謎、何度も繰り返される大量絶滅、そして多様化する種。みんな大好き恐竜時代(ジュラ紀~白亜紀)を必要以上にクローズアップしていないバランス感覚もよい(目次を見給え)。

生物はなぜ誕生したのか(河出文庫)[ピーター・ウォード/ジョゼフ・カーシュヴィンク]
生物はなぜ誕生したのか[ピーター・ウォード/ジョゼフ・カーシュヴィンク/梶山あゆみ]【電子書籍】

読了:三体0【ゼロ】 球状閃電[劉 慈欣/大森 望]

三体0【ゼロ】 球状閃電

三体0【ゼロ】 球状閃電

  • 作者:劉 慈欣/大森 望
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2022年12月21日頃

激しい雷が鳴り響く、14歳の誕生日。その夜、ぼくは別人に生まれ変わったー両親と食卓を囲んでいた少年・陳(チェン)の前に、それは突然現れた。壁を通り抜けてきた球状の雷(ボール・ライトニング)が、陳の父と母を一瞬で灰に変えてしまったのだ。自分の人生を一変させたこの奇怪な自然現象に魅せられた陳は、憑かれたように球電の研究を始める。その過程で知り合った運命の人が林雲(リン・ユン)。軍高官を父に持つ彼女は、新概念兵器開発センターで雷兵器の開発に邁進する技術者にして若き少佐だった。やがて研究に行き詰まった二人は、世界的に有名な理論物理学者・丁儀(ディン・イー)に助力を求め、球電の真実を解き明かす…。世界的ベストセラー『三体』連載開始の前年に出た前日譚。三部作でお馴染みの天才物理学者・丁儀が颯爽と登場し、“球状閃電”の謎に挑む。丁儀がたどりついた、現代物理学を根底から揺るがす大発見とは?“三体”シリーズ幻の“エピソード0”、ついに刊行。

 中国発大人気SF「三体」シリーズの前日譚にあたる位置づけをされている本作。実際には「三体」よりも前に書かれた独立した長編SF作品。なのでシームレスに「三体」につながるわけではないものの、中間あたりから登場する天才理論物理学者丁儀(ディン・イー)は「三体」の主要登場人物であるし、本作での細かな設定が後の「三体」でも言及されていたりする。また兵器に魅入られた女軍人林雲(この人も「三体」でカメオ出演している)が、ロシア人生物学者からおくられた言葉「それを防ぐ最善の方法は、いまの敵や将来の敵よりも早く、その兵器をつくりだすこと!」は、「黒暗森林理論」に通じる。そして人類以外からの観察者という存在は、三体星人の智子(ソフォン)的なものを想起させる。おそらく、著者はこの作品を書くことで次の「三体」への構想を膨らませていったものと思われる。

 球電(雷電気仕掛けの火の玉みたいなもの)の研究の苦労から始まり、実はそれが巨大な電子=マクロ電子(サッカーボール大の電子)だということが分かり、そうするとこのサイズの原子核というものが存在するはずというとてつもないスケール(物理的サイズも物語構想も)になっていく。最初は気象学や電磁気学をネタにしたSFかと思っていたら、鮮やかに量子論に変わっていくのだ。量子論の話に突入すると、確率論的重ね合わせから「シュレーディンガーの猫」(本来ミクロの世界の話をマクロのたとえ話にすると奇妙なことになる)を逆手にとってこれをマクロ世界でやってしまうという驚きの展開に。もはや様々な次元やサイズの異なるマルチバース的物語にもなっている。

 突拍子もないことをさもありなんと一気に読ませる著者の力量はやっぱりすばらしい。「三体人」の「さ」の字も出てこない(前述のように「三体」シリーズとは直接つながっていかない)ものの面白さは格別。

三体0【ゼロ】 球状閃電[劉 慈欣/大森 望]
三体0【ゼロ】 球状閃電(三体)[劉 慈欣]【電子書籍】

読了:数の発明[ケイレブ・エヴェレット/屋代通子]

数の発明

数の発明

  • 作者:ケイレブ・エヴェレット/屋代通子
  • 出版社:みすず書房
  • 発売日: 2021年05月08日頃

数万年前の狩人が骨に残した刻み目、1+1を理解する新生児のまなざし。数を持たないピダハン族と暮らした著者が縦横に語る、数の誕生の軌跡。

序 人間という種の成功/第1部 人間の営為のあらゆる側面に浸透している数というもの(現在に織り込まれている数/過去に彫りこまれている数/数をめぐる旅ー今日の世界/数の言葉の外側ー数を表す言い回しのいろいろ)/第2部 数のない世界(数字を持たない人々/幼い子どもにとっての数量/動物の頭にある数量)/第3部 わたしたちの暮らしを形作る数(数の発明と算術/数と文化ー暮らしと象徴/変化の道具)

ヒトにもともと備わっている数認識能力は次の2点らしい。
・3程度までの個数認識は一瞬で行える
・3より大きい数認識についてはある程度の量差がある集合のどちらが多いかを判断できる

ヒトは、3より大きな量を安定して正確に識別するためには、数の言葉を使って稽古を積むことが必要である

3より大きい量を具体的に認識する(数える)ためには訓練が必要で、それによりヒトは大きな数を実際に数えることができるようになっていくのだとか(3までと3より大きい数の数え方はシームレスではない?)。こういったことを言語学、人類学、生物進化学などさまざまな視点からどういうことなのかを実験例をひいて説明していく。なかなか興味深い。

農業革命は人類が桁の大きな数を見出していなければ起こりえなかった

数の発明[ケイレブ・エヴェレット/屋代通子]

読了:神は、脳がつくった[E.フラー・トリー/寺町 朋子]

神は、脳がつくった

神は、脳がつくった

  • 作者:E.フラー・トリー/寺町 朋子
  • 出版社:ダイヤモンド社
  • 発売日: 2018年09月28日頃

「神(宗教)はいつ、なぜ、どのようにして生まれたのか?」という問いに対し、精神医学の世界的権威の著者E.フラー・トリーが人類史や脳科学、考古学の実証的証拠を組み合わせて迫る衝撃の一大スペクタクル。頭蓋骨の化石、人工遺物、ヒトや霊長類の脳の解剖や脳画像、子どもの成長などから明らかになる神の起源。

 神(神々)というものを信仰できる生物は、進化上ホモ・サピエンスだけらしい。これを人属の脳の進化理論から考察する。人属は進化の歩みとともに「自己認識」、「他者認識」、「内省」、「自伝的記憶」と獲得していくが、「自伝的記憶」を獲得したのはようやくホモ・サピエンスになってからである。そしてこの「自伝的記憶」によってはじめて「神」を想像することが可能になった。そこに至るまでは相当の時間がかかっている(そして本書のほとんどはこの説明に充てられている。「神」が登場するのは本当に終わりの方)。

 他者を埋葬するという宗教「的」儀式は旧人類にも見られるものであるが、本書ではこれはまだ「神」という存在を信じているかどうかとは別とする。なぜなら「他者の死を悲しむことは、自分がいずれ死ぬことを理解していることと同じではない」からである。将来自分も死ぬという理解はホモ・サピエンス特有らしい。ホモ・サピエンスは時間を超越する自己を想定できることで、将来的な自身の死と、過去の亡くなった祖先たちと結びつけてエピソードとして捉えることができるようになった。そしてそれを仲間と共有し、亡くなった祖先たちの中でも特別な地位を与えられたものが、やがて神へと変わっていったようだ。

神は、脳がつくった[E.フラー・トリー/寺町 朋子]
神は、脳がつくった[E.フラー・トリー]【電子書籍】

読了:時間は存在しない[カルロ・ロヴェッリ/冨永 星]

時間は存在しない

時間は存在しない

  • 作者:カルロ・ロヴェッリ/冨永 星
  • 出版社:NHK出版
  • 発売日: 2019年08月29日頃

時間はいつでもどこでも同じように経過するわけではなく、過去から未来へと流れるわけでもないー。“ホーキングの再来”と評される天才物理学者が、本書の前半で「物理学的に時間は存在しない」という驚くべき考察を展開する。後半では、それにもかかわらず私たちはなぜ時間が存在するように感じるのかを、哲学や脳科学などの知見を援用して論じる。詩情あふれる筆致で時間の本質を明らかにする、独創的かつエレガントな科学エッセイ。

第1部 時間の崩壊(所変われば時間も変わる/時間には方向がない/「現在」の終わり/時間と事物は切り離せない/時間の最小単位)/第2部 時間のない世界(この世界は、物ではなく出来事でできている/語法がうまく合っていない/関係としての力学)/第3部 時間の源へ(時とは無知なり/視点/特殊性から生じるもの/マドレーヌの香り/時の起源)

著者の研究テーマ紹介を兼ねた「時間」とは何かに関する刺激的なエッセイ。
大きく3部構成になっている。

第1部は、物理の世界における時間について。相対性理論において時間の速さは観測者ごとに異なるという話から。そこから量子レベルまで掘り下げていくと、時間にも最小単位(プランク時間)というものがあって、連続ではないらしい。

第2部は、量子レベルに至ったので、著者の研究している「ループ量子重力理論」について。この理論によると、世界は粒子の関係性だけで表現できるそう。そこに時間を表す変数は含まれていない。時間というものは物理的には存在しないのだ。

第3部、じゃ、私たちが感じている「時間」とは何なのか?今度は量子レベルからマクロの世界へ向かっていき、どこで時間というものが生じるのかを考察する。エントロピー増大の法則が登場するあたりで時間の感覚というものが生じるのであるが、ここでのキーは「記憶」だそうな。そして「記憶」と「時間」について人類が古来どのように考察して来たのかを人文科学にまで広げて述べていく。

時間は存在しない[カルロ・ロヴェッリ/冨永 星]
時間は存在しない[カルロ・ロヴェッリ]【電子書籍】