読了:意識はなぜ生まれたか[マイケル・グラツィアーノ/鈴木光太郎]

意識はなぜ生まれたか

意識はなぜ生まれたか

  • 作者:マイケル・グラツィアーノ/鈴木光太郎
  • 出版社:白揚社
  • 発売日: 2022年04月18日頃

生命進化の過程で〈意識〉はいつ生まれたのか?
私たちの〈心〉はどのようにして形づくられるのか?
〈機械〉に意識を宿らせることは可能なのか?

ユニークな工学的アプローチで脳が心を生むメカニズムに迫った、神経科学の第一人者による衝撃の論考。
意識を宿したAI(人工知能)=人工意識は、いかなる未来を描くのか?

”意識の注目理論を提唱する著者と、脳の中へと飛び立とう。
ヒトの心に興味があるなら、この本は最高の知的冒険だ。”
ーーブライアン・グリーン(『時間の終わりまで』著者)

”彼の斬新なアプローチが、幾多の意識研究が陥っていた沼から私たちを救い出す。”
ーースーザン・ブラックモア(『意識』著者)

”難解になりがちな意識のテーマをわかりやすく伝えた、お手本のような一冊。”
ーー『パブリッシャーズ・ウィークリー』
1 会話するぬいぐるみ
2 カブトガニとタコ
3 カエルの視蓋
4 大脳皮質と意識
5 社会的意識
6 意識はどこにあるのか?–ヨーダとダース・ヴェイダー
7 さまざまな意識理論と注意スキーマ理論
8 意識をもつ機械
9 心のアップロード
付録 視覚的意識の作り方

脳神経心理学者である著者が提唱する「注意スキーマ理論」をベースに、意識とはなんであるのかを進化から語り起こし、果ては人工意識の可能性にまで展開する。

たとえ話が豊富で、とても親しみやすく読みやすい。また、この手の話で初学者を困惑させるテクニカルタームや表現についても、世間一般にはこう捉えられるが、テクニカルタームとしてはこういう意味になるということをわりと丁寧に説明してくれている(「注意」という言葉でさえテクニカルタームなのである)。専門ではない大学教養程度で大筋は理解できると思われる。

最後の章では人間の意識をコピーして機械にアップロードできるかどうか?技術的な課題とともにそのときどんな問題が起こるのか?といったことが議論される。考慮すべき点は数々あるものの、実現可能性について著者は割と楽観的なのが印象的。

付録では、何をもって機械が意識を持つといえるのかをステップを踏んで考察していく。なるほど、人工意識の実現からヒトの「意識」とは何かを構築する試みでもあるな。

意識はなぜ生まれたか[マイケル・グラツィアーノ/鈴木光太郎]
意識はなぜ生まれたか[マイケル・グラツィアーノ/鈴木光太郎]【電子書籍】

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読了:一九八四年新訳版(ハヤカワepi文庫)[ジョージ・オーウェル/高橋和久]

一九八四年新訳版

一九八四年新訳版

  • 作者:ジョージ・オーウェル/高橋和久
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2009年07月

“ビッグ・ブラザー”率いる党が支配する全体主義的近未来。ウィンストン・スミスは真理省記録局に勤務する党員で、歴史の改竄が仕事だった。彼は、完璧な屈従を強いる体制に以前より不満を抱いていた。ある時、奔放な美女ジュリアと恋に落ちたことを契機に、彼は伝説的な裏切り者が組織したと噂される反政府地下活動に惹かれるようになるが…。二十世紀世界文学の最高傑作が新訳版で登場。

古典SFを読もうシリーズ第5弾。全体主義近未来社会を描いたディストピア小説。悪の親玉的存在は実在としては出てこない(「ビッグ・ブラザーはあなたを見ている」というポスターの肖像のみ)。誰かひとりが権力を保持するのではなく、一部の階層が永遠に支配を続けるために構築されたシステムとしての全体主義社会。この欺瞞に満ちた仕組みがいろいろ凝っている。そして物語が終わった後に出てくる附録もおもしろい仕掛けになっている。言葉によって人は思考も支配されるのだ。

一九八四年新訳版(ハヤカワepi文庫)[ジョージ・オーウェル/高橋和久]
一九八四年[ジョージ・オーウェル/高橋 和久]【電子書籍】

読了:さいはての彼女(角川文庫)[原田 マハ]

さいはての彼女

さいはての彼女

  • 作者:原田 マハ
  • 出版社:KADOKAWA
  • 発売日: 2013年01月25日頃

脇目もふらず猛烈に働き続けてきた女性経営者が恋にも仕事にも疲れて旅に出た。だが、信頼していた秘書が手配したチケットは行き先違いでーー? 女性と旅と再生をテーマにした、爽やかに泣ける短篇集。

さいはての彼女/旅をあきらめた友と、その母への手紙/冬空のクレーン/風を止めないで

旅と女性の短編集。中にはまったく共感できないいけ好かない主人公も出てくるけれども、そんな登場人物であっても物語はきっちり読ませるのは著者の力量だろうな。

さいはての彼女(角川文庫)[原田 マハ]
さいはての彼女[原田 マハ]【電子書籍】

読了:おあとがよろしいようで[喜多川 泰]

おあとがよろしいようで

おあとがよろしいようで

  • 作者:喜多川 泰
  • 出版社:幻冬舎
  • 発売日: 2023年10月04日頃

人は皆、出会ったものでできている。

金も夢も友もない上京したての大学生・暖平。
ひょんなことから落語研究会に入ることになり、
“背負亭(しょいてい)こたつ”として高座に立つ羽目に!?

累計100万部突破の名手がおくる、
新しい自分に出会える人生応援小説。

あらすじ

大学進学を機に群馬から上京したばかりの門田暖平は一人、新品のこたつを亀の甲羅のように背負い佇んでいた。配送料が払えず自力で下宿に持ち帰ろうと思ったが、帰宅ラッシュで電車に乗り込むことができない……。
途方にくれる暖平の前に、一台のワゴンが停まる。乗っていたのは、入学式当日、構内で落語を演っていた落語研究会の部長・忽那碧だった。落研に誘われるが、金もなく、コミュニケーションにも自信がなく、四年間バイト生活をして過ごすつもりだと語る暖平。
「必要なのは扇子一本。あとは座布団さえあればどこでもできる」という碧の言葉に背中を押され、暖平の人生が大きく動き出すーー。

・「面白さ」「上手さ」は一つじゃない
・明日が来るのが楽しみになるくらい準備する
・徹底的に同じ型を踏襲し、初めて個性は爆発する
・追い詰められてはじめて、人は真価を発揮する
・どんな時も楽しむ。自分がやりたいことをやる

斜に構えた大学新入生の主人公はふとしたきっかけから、落語研究会に所属することとなる。そこで出会う仲間との一年を描く青春もの。形式的にはこの手の青春ものにありがちな季節を巡る青春劇で、当然クライマックスは学園祭。そしてプロローグとエピローグは入学式のサークル勧誘という循環形式。

ただ家族の話はストーリーにうまく親和しきれていない感じがする。部長の兄弟の話になるとやりすぎでちょっと説教くさい。もっと落語で押し切った後先考えない青春コメディでも良かったのではないか。それはそれとして、落語ってものすごくおもしろいんじゃない?寄席にでも行ってみようかなと思わせる筆は見事。

おあとがよろしいようで[喜多川 泰]
おあとがよろしいようで[喜多川泰]【電子書籍】

読了:おまわりさんと招き猫 あやかしの町のふしぎな日常(ことのは文庫)[植原翠/ショウイチ]

おまわりさんと招き猫 あやかしの町のふしぎな日常

おまわりさんと招き猫 あやかしの町のふしぎな日常

  • 作者:植原翠/ショウイチ
  • 出版社:マイクロマガジン社
  • 発売日: 2021年10月20日頃

しゃべる猫・おもちさんの住み着いた、ちいさな海辺の町の交番で起こる、ちょっと不思議でとても優しい「人」と「あやかし」の物語。

おいでませ、かつぶし町/迷子と口下手/ジュブナイル/大騒ぎはお断り/夏に至る/わだつみの石/キュウリ泥棒/狐の社の神隠し/憧憬、そして今/おまわりさんと招き猫/番外編 土地神様と油揚げ

海辺の漁師町かつぶし町。交番勤務の若手おまわりさんと、そこにいるしゃべる猫を中心とした、季節を巡るほのぼの物語。不思議な出来事や妖怪の類がたくさん出てくるんだけれども、特に致命的な出来事とかは起こらず、全体的にゆるーい。子供向けの話をちょっとだけ大人の言葉で書き直してみましたって感じ(語彙の選択等に洗練さがまったくないのだ)。著者もそれを狙っているようなのだが、深みは一切ない。頭使わずになんとなく優しくて緩い雰囲気を楽しみたい人には向いているかと。

おまわりさんと招き猫 あやかしの町のふしぎな日常(ことのは文庫)[植原翠/ショウイチ]
おまわりさんと招き猫 あやかしの町のふしぎな日常(おまわりさんと招き猫)[植原翠]【電子書籍】

読了:文学少女対数学少女(ハヤカワ・ミステリ文庫)[陸 秋槎/稲村 文吾]

文学少女対数学少女

文学少女対数学少女

  • 作者:陸 秋槎/稲村 文吾
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2020年12月03日頃

推理小説好きの文学少女・陸秋槎と、孤高の天才数学少女・韓采芦の2人の謎解きを描く連作短篇、全4篇を収録! 解説:麻耶雄嵩

連続体仮説/フェルマー最後の事件/不動点定理/グランディ級数

現代中国青春メタ的形式の推理小説。「文学少女『対』数学少女」というタイトルだけれども、日本語的には「文学少女『と』数学少女」でしょう。高校生の文学少女「陸秋槎」(作者と同名の主人公)と変わり者の数学好き少女「韓采芦」との、青春連作短編。4つの短編があるんだけれども、それぞれの話に現実のミステリーと劇中ミステリーがあって、そこに数学の話題や歴史を絡めた推理小説理論が展開される。ミステリーそのものよりも、その理論を数学的に説明してアプローチする実験的な要素の強い読み物。「読者への挑戦」系が中心で、はっきりとした結果をあえて書かなかったりするものもある。

文学少女対数学少女(ハヤカワ・ミステリ文庫)[陸 秋槎/稲村 文吾]
文学少女対数学少女[陸 秋槎]【電子書籍】

読了:美術館・博物館の事件簿[島田真琴]

美術館・博物館の事件簿

美術館・博物館の事件簿

  • 作者:島田真琴
  • 出版社:慶應義塾大学出版会
  • 発売日: 2024年12月17日頃

日本の3つの「ダリ展」、大英博物館の収蔵品、琉球王家の遺骨、表現の不自由展、重要文化財准胝観音立像・・・。
アートの世界の内幕と真実とは?
16の法廷ドラマと15のコラムから美術館・博物館の舞台裏を明らかにする。

日本では、美術館と博物館は別物とされているが、英語ではどちらも「ミュージアム」で、実は両者の間に違いはない。強いて区別すれば、美術品を多く収蔵・展示しているのが美術館、それ以外の歴史資料、自然資料等を収蔵・展示する施設が博物館ということになるが、東京、京都、奈良の国立博物館は美術品・工芸品を中心に扱っているし、古文書や化石などを集めている美術館もある。

本書は、日本と世界の美術館・博物館がその活動や収蔵品、借入品等に関連して巻き込まれた様々な裁判や事件を紹介している。外見は取り澄ましてみえるこれらの施設の舞台裏では何が起きているのか? どんな問題を抱えどう対処しているのだろうか?

【登場する主なミュージアム】
● サルバドール・ダリ劇場美術館、● シカゴ美術館、● スミソニアン国立自然史博物館、● ソロモン・グッゲンハイム美術館、● 大英博物館、● デトロイト美術館、● ニューヨーク近代美術館、● バークシャー美術館、● ハンタリアン美術館、● ピナコテーク・デア・モデルネ、● ペギー・グッゲンハイム美術館、● ポンピドゥーセンター国立近代美術館、● マンチェスター博物館、● ミュージアム・オブ・アーバン・アンド・コンテンポラリー・アート(MUCA)、● レオポルド美術館、● ロンドン自然史博物館、● ワシントン・ナショナル・ギャラリー、● 熱海山口美術館、● 岩手県立美術館、● 京都大学総合博物館、● 高知県立美術館、● 国立アイヌ民族博物館、● 大丸ミュージアム、● チームラボプラネッツ、● 富山県立近代美術館、● 名古屋市美術館、● 奈良国立博物館、● 横須賀美術館

1 美術館・博物館の舞台裏(展覧会のため貸出し中に損壊した現代美術家フランク・ステラの作品/展覧会のために借り受けた名画の返却を禁じられた美術館 ほか)/2 美術館・博物館が直面する倫理的要請とのジレンマ(ユダヤ人銀行家が所蔵していた5枚のピカソ絵画の行方/大英博物館の収蔵品はホロコースト被害者の遺族に返却できるのか? ほか)/3 美術館・博物館の現代的課題(博物館が処分を決めたアメリカの人気画家ノーマン・ロックウェルの傑作/美術館がアーティストから購入した作品を公開しないのは表現の自由の侵害か ほか)/4 文化財の購入、変更、処分の規制(イタリアで重要文化財に指定されたヴァン・ゴッホ作品「庭師」の買主は?/奈良の新薬師寺が所蔵する重要文化財、准胝観音立像の売却 ほか)

著者は、国際法やアート関連を専門とする弁護士。裁判沙汰になった美術や文化財のエピソードを実際の裁判の行方とその影響を考察した読み物。なるほどね、なんとなくはそういう権利があるんだろうなぁと思っていたことも、実際に裁判ではこうやって争点化されるんだ。耳にしたことのある事件もあった。裁判が今後どういう影響を及ぼすのかまで法曹の立場から述べられているのはおもしろい。

ノーマン・ロックウェルの「シャッフルトンのバーバーショップ」って今はジョージ・ルーカスが所有してるんだって。争われた作品のその後についても興味深い。

美術館・博物館の事件簿[島田真琴]
美術館・博物館の事件簿[島田真琴]【電子書籍】

読了:雪降る夏空にきみと眠る 【上下合本版】(雪降る夏空にきみと眠る 【上下合本版】)[ジャスパー・フォード]【電子書籍】

雪降る夏空にきみと眠る(上)

雪降る夏空にきみと眠る(上)

  • 作者:ジャスパー・フォード/桐谷 知未
  • 出版社:竹書房
  • 発売日: 2019年06月27日頃
雪降る夏空にきみと眠る(下)

雪降る夏空にきみと眠る(下)

  • 作者:ジャスパー・フォード/桐谷知未
  • 出版社:竹書房
  • 発売日: 2019年06月27日頃

過酷な冬を越すために人間が冬眠する世界での物語。
ふとした偶然からチャーリーは冬季取締官に志願する。
冬季取締官は眠らずに盗賊(ヴィラン)や冬の魔物(ウィンターフォルク)に対処する過酷な仕事だ。
無事取締官になったチャーリーは、冬眠に失敗しナイトウォーカーになった女性を別の地区まで送り届けることに。
ナイトウォーカーは普段はおとなしいが、
空腹になるとひとを襲うちょっぴり危険な存在だ。
途中で思わぬ事件に巻き込まれながらも、ようやく〈セクター12〉にたどり着いたチャーリーは、
夢の中の夏の楽園(サマートピア)で、美しいベルギッタと出逢うことになるのだった。
二度と還らぬあの夏の砂浜で。

なんだかふわっとした、まさに夢の中のようなファンタジー。舞台は過酷な冬の世界なんだけれども、複雑な人間関係や陰謀論、睡眠や夢にまつわる謎や推理、伝説といったものがてんこ盛り。それなのになんだかのほほ~んとした優しい感じのジュブナイル的な読み物。緊迫したシーンもあることはあって面白くはあるけれども、さらっと流される書きっぷりのためかドラマチックさは今一つ。主人公も何となくの常識的な正義感に従っているって感じで、確固たる意志で生きているという雰囲気ではない。上巻はとにかく世界観と登場人物を把握するためで若干退屈。下巻も後半になってようやく何が問題なのかが分かってくる。そんでもってバンバン身近な死人が出てたのに、おとぎ話的なハッピーエンド。

雪降る夏空にきみと眠る 【上下合本版】(雪降る夏空にきみと眠る 【上下合本版】)[ジャスパー・フォード]【電子書籍】

読了:チップス先生 さようなら[ジェイムズ・ヒルトン]【電子書籍】

イギリス人作家ジェイムズ・ヒルトンの名作「Goodbye Mr. Chips」の全訳・新訳です。
イギリスのパブリック・スクールであるブルックフィールド校に長年勤めてから退職したチップスは、学校近くのウィケット夫人の家に間借りして、今でもブルックフィールド校とのつながりを保っています。そんな老齢のチップスが、様々な出来事を温かい眼差しで思い出しながら人生の晩年を過ごす様子を描いた傑作です。
縦書き、ルビ付き、豊富な脚注付き。
H.M.ブロックによるモノクロ挿し絵を22点収録。

これまでに2度映画化されている原作。19世紀後半から20世紀にかけての激動のイギリスを舞台にした、生真面目だけれどもちょっと風変わりなチップス先生が回想する教師生活と引退生活。奥さんと子どもの死や空襲の中の授業など劇的なシーンもあるものの、基本は淡々と出来事が語られる。しみじみと読める。

チップス先生 さようなら[ジェイムズ・ヒルトン]【電子書籍】

読了:鹿男あをによし(幻冬舎文庫)[万城目 学]

鹿男あをによし

鹿男あをによし

  • 作者:万城目 学
  • 出版社:幻冬舎
  • 発売日: 2010年04月06日頃

テレビドラマ化もされた大ベストセラー。
「さあ、神無月だーー出番だよ、先生」。二学期限定で奈良の女子高に赴任した「おれ」。
ちょっぴり神経質な彼に下された、空前絶後の救国指令とは? 「並みの天才じゃない」
と金原瑞人氏激賞!

いや~、万城目ワールド全開で面白かった。なんでこんな面白い設定を作れるかねぇ。あれとあれを組み合わせてこんなことになるのかぁと、ともかくその作品構築力には舌を巻くばかり。ファンタジー色のかなり濃い青春もの。奈良の市街地図でも眺めながら読むのが良いかと。

鹿男あをによし(幻冬舎文庫)[万城目 学]
鹿男あをによし[万城目学]【電子書籍】