読了:悲しみよ こんにちは(新潮文庫 新潮文庫)[フランソワーズ・サガン/河野 万里子]

悲しみよ こんにちは

悲しみよ こんにちは

  • 作者:フランソワーズ・サガン/河野 万里子
  • 出版社:新潮社
  • 発売日: 2009年01月

セシルはもうすぐ18歳。プレイボーイ肌の父レイモン、その恋人エルザと、南仏の海辺の別荘でヴァカンスを過ごすことになる。そこで大学生のシリルとの恋も芽生えるが、父のもうひとりのガールフレンドであるアンヌが合流。父が彼女との再婚に走りはじめたことを察知したセシルは、葛藤の末にある計画を思い立つ…。20世紀仏文学界が生んだ少女小説の聖典、半世紀を経て新訳成る。

パパの彼女が死んじゃうんだけれども、昔読んだ記憶が間違っていた。死ぬのはエルザかと思っていたが、アンヌだったか。それになんか今回無性に読みやすかったんだけれども?って、新訳だったのね。さくさく読めたよ。その夏私は17歳で幸せだったといえば「悲しみよこんにちわ」。橋本治の桃尻娘はそのことに悪態をついていたような(これも記憶違いだったりして)。サガンが18歳の時に書いたデビュー作。不安定でありながら空虚な思春期の少女の有り様を見事に描き切っている。

遊び人のパパが洗練された大人の女性のアンヌと結婚?私(セシル)とパパの仲はどうなっちゃうの?そんなのパパらしくないっていう単純な問題なのに、思春期の少女が複雑な感情を抱き、ある計画を実行する。セシルは一見冷めているようでも、いちいち事に反応して気持ちはあっち行ったりこっち行ったり。周りを振り回しているのに、自分のことにしかあまり関心がなさそう。最後にはアンヌが事故ということで亡くなるんだけれども、喜ぶわけでもなく悲しむわけでもなく。アンヌの死はセシルのせいかもしれないのに。ただ過ぎたことへの罪悪感、現実感、気持ちの揺れというものはあまり感じないようで。ただなんとなく漂う虚無感。そういうことを知って受け入れてしまう近代の年頃少女。

悲しみよ こんにちは(新潮文庫 新潮文庫)[フランソワーズ・サガン/河野 万里子]
悲しみよ こんにちは(新潮文庫)[フランソワーズ・サガン]【電子書籍】

読了:国家の神話(講談社学術文庫)[エルンスト・カッシーラー/宮田 光雄]

国家の神話

国家の神話

  • 作者:エルンスト・カッシーラー/宮田 光雄
  • 出版社:講談社
  • 発売日: 2018年02月11日頃

『認識問題』、『シンボル形式の哲学』などの大著を完成したエルンスト・カッシーラー(1874-1945年)が、ナチスが台頭し、第2次世界大戦に向かっていく状況の中、最晩年に至ってついに手がけた記念碑的著作。国家という神話は、どのようにして成立し、機能するようになるのか。独自の象徴(シンボル)理論に基づき、古代ギリシアから中世を経て現代にまで及ぶ壮大なスケールで描き出される唯一無二の思想的ドラマ!

本書は、ドイツの碩学エルンスト・カッシーラー(1874-1945年)が最晩年に手がけた記念碑的著作、待望の文庫版である。
新カント派に属して哲学、文学、歴史学を学んだカッシーラーは、現代文明の土台をなす近代科学の構造とその基礎概念の認識批判的な研究『実体概念と関数概念』(1910年)で経歴を開始した。だが、当の現代文明は、程なく第1次世界大戦という破局をもたらす。この現実を前にして、大戦で争われていた精神的価値に対する態度表明を行う『自由と形式』(1916年)を発表したカッシーラーは、その一方で、大著『認識問題』全4巻(1906-50年)、そして主著『シンボル形式の哲学』全3巻(1923-29年)に取り組んだ。
しかし、世界は再び大戦に向かって突き進んでいく。祖国ドイツでは1933年にナチス政権が誕生し、独裁が強化される。その支配が頂点を迎えつつあった1941年、ついにカッシーラーはそれまで正面から扱うことがなかった「国家」という主題に取り組むことを決意した。
過去の著作で確立された象徴(シンボル)に関する理論に基づきつつ、本書は国家を「神話」として解読していく。その射程は、古代ギリシアから中世を経て、マキアヴェッリ、ロマン主義、ヘーゲルから現代に至る、きわめて広大なものである。独自の理論を構築した哲学者であるとともに第一級の思想史家でもあったカッシーラーにして初めて書き上げることができた本書は、新たな危機に向かっているように見える今日の世界の中で、何度でも精読されなければならない。
政治学・ヨーロッパ思想史の大家が手がけた翻訳が、半世紀以上の時を経て、全面改訂と新たな解説を加えた文庫版として登場。

 第一部 神話とは何か
第一章 神話的思惟の構造
第二章 神話と言語
第三章 神話と情動の心理学
第四章 人間の社会生活における神話の機能
 第二部 政治学説史における神話にたいする闘争
第五章 初期ギリシア哲学における《ロゴス》と《ミュトス》
第六章 プラトンの『国家』
第七章 中世国家理論の宗教的および形而上学的背景
第八章 中世哲学における法治国家の理論
第九章 中世哲学における自然と恩寵
第十章 マキャヴェッリの新しい政治学
第十一章 マキャヴェッリ主義の勝利とその帰結
第十二章 新しい国家理論の意味
第十三章 ストア主義の再生と《自然法》的国家理論
第十四章 啓蒙哲学とそのロマン主義的批判者
 第三部 二十世紀の神話
第十五章 準 備:カーライル
第十六章 英雄崇拝から人種崇拝へ
第十七章 ヘーゲル
第十八章 現代の政治的神話の技術
結 語
訳 註
訳者解説
学術文庫版訳者あとがき
人名・作品名索引

邦訳がいいのか結構するっと読めて、おもしろかった。でも理解できたかって言われると、素直に「うん」とは言えない。神話とは何かから始まって、西欧における政治哲学の歴史をたどっていく。あぁそうなのかと読み続けてはいくんだけれども、こっちはなんの前知識もなくどこに向かっているのかも分からず、なんとなく世界史のこのころの時代の話をしてるんだなとかいう程度でついていくしかない。誰それの理屈がどうのこうのというのはもうまったく分からん。ただただそうなのかとしか。さすがに最後の章にいたって、ようやくゴールだけはわかった。あ、そこに行きつくための議論がずっとされてたんだ。気付かんかったなぁ。ある程度基礎知識を身に着けてから再度読んでみるともっとわかるかもとか思った。

国家の神話(講談社学術文庫)[エルンスト・カッシーラー/宮田 光雄]
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読了:レナードの朝新版(ハヤカワ文庫NF)[オリヴァー・サックス/春日井 晶子]

レナードの朝新版

レナードの朝新版

  • 作者:オリヴァー・サックス/春日井 晶子
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2015年04月08日頃

奇蹟の新薬により目覚めた患者の人生を深い洞察力で描く医学エッセイ。解説/中野信子

第1部 プロローグ(パーキンソン病とパーキンソン症候群/嗜眠性脳炎(眠り病)について/嗜眠性脳炎の経過(一九二七年~一九六七年) ほか)/第2部 目覚め(症例1-フランシス・D/症例2-マグダ・B/症例3-ローズ・R ほか)/第3部 展望(展望/目覚め/試練 ほか)

ロバート・デ・ニーロとロビン・ウィリアムズ共演の映画「レナードの朝」の原作小説と思って積読してあったんだけれども、ようやく読んだよ。うん、原作ではあったんだけれども小説ではなかった。1960年代末にオリヴァー・サックス医師が嗜眠性脳炎の後遺症でパーキンソン症候群を呈している患者に、新薬であるL.ドーパ(ドーパミンの前駆体?)を投与したおよそ20名の症例と経過を記したエッセイ。それまで反応のなかった患者が目覚ましく正気に戻るものの、その後の症状は安定しないことが多く、多くの患者は綱渡り状態であった。そのあやうさに葛藤しながらも、医師として患者を一人の人間として扱うことに苦心する様も述懐される(だから映画の原作にもなったのだろう)。1970年代に出版されてから何度も改訂し、当時の患者は亡くなっていくがその後の実態解明報告とともに、映像ドキュメンタリー、演劇化、映画化の経緯も含めて附録に記載。

レナードの朝新版(ハヤカワ文庫NF)[オリヴァー・サックス/春日井 晶子]
レナードの朝〔新版〕[オリヴァー サックス]【電子書籍】
レナードの朝 : 作品情報・キャスト・あらすじ – 映画.com

読了:意識はなぜ生まれたか[マイケル・グラツィアーノ/鈴木光太郎]

意識はなぜ生まれたか

意識はなぜ生まれたか

  • 作者:マイケル・グラツィアーノ/鈴木光太郎
  • 出版社:白揚社
  • 発売日: 2022年04月18日頃

生命進化の過程で〈意識〉はいつ生まれたのか?
私たちの〈心〉はどのようにして形づくられるのか?
〈機械〉に意識を宿らせることは可能なのか?

ユニークな工学的アプローチで脳が心を生むメカニズムに迫った、神経科学の第一人者による衝撃の論考。
意識を宿したAI(人工知能)=人工意識は、いかなる未来を描くのか?

”意識の注目理論を提唱する著者と、脳の中へと飛び立とう。
ヒトの心に興味があるなら、この本は最高の知的冒険だ。”
ーーブライアン・グリーン(『時間の終わりまで』著者)

”彼の斬新なアプローチが、幾多の意識研究が陥っていた沼から私たちを救い出す。”
ーースーザン・ブラックモア(『意識』著者)

”難解になりがちな意識のテーマをわかりやすく伝えた、お手本のような一冊。”
ーー『パブリッシャーズ・ウィークリー』
1 会話するぬいぐるみ
2 カブトガニとタコ
3 カエルの視蓋
4 大脳皮質と意識
5 社会的意識
6 意識はどこにあるのか?–ヨーダとダース・ヴェイダー
7 さまざまな意識理論と注意スキーマ理論
8 意識をもつ機械
9 心のアップロード
付録 視覚的意識の作り方

脳神経心理学者である著者が提唱する「注意スキーマ理論」をベースに、意識とはなんであるのかを進化から語り起こし、果ては人工意識の可能性にまで展開する。

たとえ話が豊富で、とても親しみやすく読みやすい。また、この手の話で初学者を困惑させるテクニカルタームや表現についても、世間一般にはこう捉えられるが、テクニカルタームとしてはこういう意味になるということをわりと丁寧に説明してくれている(「注意」という言葉でさえテクニカルタームなのである)。専門ではない大学教養程度で大筋は理解できると思われる。

最後の章では人間の意識をコピーして機械にアップロードできるかどうか?技術的な課題とともにそのときどんな問題が起こるのか?といったことが議論される。考慮すべき点は数々あるものの、実現可能性について著者は割と楽観的なのが印象的。

付録では、何をもって機械が意識を持つといえるのかをステップを踏んで考察していく。なるほど、人工意識の実現からヒトの「意識」とは何かを構築する試みでもあるな。

意識はなぜ生まれたか[マイケル・グラツィアーノ/鈴木光太郎]
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読了:一九八四年新訳版(ハヤカワepi文庫)[ジョージ・オーウェル/高橋和久]

一九八四年新訳版

一九八四年新訳版

  • 作者:ジョージ・オーウェル/高橋和久
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2009年07月

“ビッグ・ブラザー”率いる党が支配する全体主義的近未来。ウィンストン・スミスは真理省記録局に勤務する党員で、歴史の改竄が仕事だった。彼は、完璧な屈従を強いる体制に以前より不満を抱いていた。ある時、奔放な美女ジュリアと恋に落ちたことを契機に、彼は伝説的な裏切り者が組織したと噂される反政府地下活動に惹かれるようになるが…。二十世紀世界文学の最高傑作が新訳版で登場。

古典SFを読もうシリーズ第5弾。全体主義近未来社会を描いたディストピア小説。悪の親玉的存在は実在としては出てこない(「ビッグ・ブラザーはあなたを見ている」というポスターの肖像のみ)。誰かひとりが権力を保持するのではなく、一部の階層が永遠に支配を続けるために構築されたシステムとしての全体主義社会。この欺瞞に満ちた仕組みがいろいろ凝っている。そして物語が終わった後に出てくる附録もおもしろい仕掛けになっている。言葉によって人は思考も支配されるのだ。

一九八四年新訳版(ハヤカワepi文庫)[ジョージ・オーウェル/高橋和久]
一九八四年[ジョージ・オーウェル/高橋 和久]【電子書籍】

読了:さいはての彼女(角川文庫)[原田 マハ]

さいはての彼女

さいはての彼女

  • 作者:原田 マハ
  • 出版社:KADOKAWA
  • 発売日: 2013年01月25日頃

脇目もふらず猛烈に働き続けてきた女性経営者が恋にも仕事にも疲れて旅に出た。だが、信頼していた秘書が手配したチケットは行き先違いでーー? 女性と旅と再生をテーマにした、爽やかに泣ける短篇集。

さいはての彼女/旅をあきらめた友と、その母への手紙/冬空のクレーン/風を止めないで

旅と女性の短編集。中にはまったく共感できないいけ好かない主人公も出てくるけれども、そんな登場人物であっても物語はきっちり読ませるのは著者の力量だろうな。

さいはての彼女(角川文庫)[原田 マハ]
さいはての彼女[原田 マハ]【電子書籍】

読了:おあとがよろしいようで[喜多川 泰]

おあとがよろしいようで

おあとがよろしいようで

  • 作者:喜多川 泰
  • 出版社:幻冬舎
  • 発売日: 2023年10月04日頃

人は皆、出会ったものでできている。

金も夢も友もない上京したての大学生・暖平。
ひょんなことから落語研究会に入ることになり、
“背負亭(しょいてい)こたつ”として高座に立つ羽目に!?

累計100万部突破の名手がおくる、
新しい自分に出会える人生応援小説。

あらすじ

大学進学を機に群馬から上京したばかりの門田暖平は一人、新品のこたつを亀の甲羅のように背負い佇んでいた。配送料が払えず自力で下宿に持ち帰ろうと思ったが、帰宅ラッシュで電車に乗り込むことができない……。
途方にくれる暖平の前に、一台のワゴンが停まる。乗っていたのは、入学式当日、構内で落語を演っていた落語研究会の部長・忽那碧だった。落研に誘われるが、金もなく、コミュニケーションにも自信がなく、四年間バイト生活をして過ごすつもりだと語る暖平。
「必要なのは扇子一本。あとは座布団さえあればどこでもできる」という碧の言葉に背中を押され、暖平の人生が大きく動き出すーー。

・「面白さ」「上手さ」は一つじゃない
・明日が来るのが楽しみになるくらい準備する
・徹底的に同じ型を踏襲し、初めて個性は爆発する
・追い詰められてはじめて、人は真価を発揮する
・どんな時も楽しむ。自分がやりたいことをやる

斜に構えた大学新入生の主人公はふとしたきっかけから、落語研究会に所属することとなる。そこで出会う仲間との一年を描く青春もの。形式的にはこの手の青春ものにありがちな季節を巡る青春劇で、当然クライマックスは学園祭。そしてプロローグとエピローグは入学式のサークル勧誘という循環形式。

ただ家族の話はストーリーにうまく親和しきれていない感じがする。部長の兄弟の話になるとやりすぎでちょっと説教くさい。もっと落語で押し切った後先考えない青春コメディでも良かったのではないか。それはそれとして、落語ってものすごくおもしろいんじゃない?寄席にでも行ってみようかなと思わせる筆は見事。

おあとがよろしいようで[喜多川 泰]
おあとがよろしいようで[喜多川泰]【電子書籍】

読了:おまわりさんと招き猫 あやかしの町のふしぎな日常(ことのは文庫)[植原翠/ショウイチ]

おまわりさんと招き猫 あやかしの町のふしぎな日常

おまわりさんと招き猫 あやかしの町のふしぎな日常

  • 作者:植原翠/ショウイチ
  • 出版社:マイクロマガジン社
  • 発売日: 2021年10月20日頃

しゃべる猫・おもちさんの住み着いた、ちいさな海辺の町の交番で起こる、ちょっと不思議でとても優しい「人」と「あやかし」の物語。

おいでませ、かつぶし町/迷子と口下手/ジュブナイル/大騒ぎはお断り/夏に至る/わだつみの石/キュウリ泥棒/狐の社の神隠し/憧憬、そして今/おまわりさんと招き猫/番外編 土地神様と油揚げ

海辺の漁師町かつぶし町。交番勤務の若手おまわりさんと、そこにいるしゃべる猫を中心とした、季節を巡るほのぼの物語。不思議な出来事や妖怪の類がたくさん出てくるんだけれども、特に致命的な出来事とかは起こらず、全体的にゆるーい。子供向けの話をちょっとだけ大人の言葉で書き直してみましたって感じ(語彙の選択等に洗練さがまったくないのだ)。著者もそれを狙っているようなのだが、深みは一切ない。頭使わずになんとなく優しくて緩い雰囲気を楽しみたい人には向いているかと。

おまわりさんと招き猫 あやかしの町のふしぎな日常(ことのは文庫)[植原翠/ショウイチ]
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読了:文学少女対数学少女(ハヤカワ・ミステリ文庫)[陸 秋槎/稲村 文吾]

文学少女対数学少女

文学少女対数学少女

  • 作者:陸 秋槎/稲村 文吾
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2020年12月03日頃

推理小説好きの文学少女・陸秋槎と、孤高の天才数学少女・韓采芦の2人の謎解きを描く連作短篇、全4篇を収録! 解説:麻耶雄嵩

連続体仮説/フェルマー最後の事件/不動点定理/グランディ級数

現代中国青春メタ的形式の推理小説。「文学少女『対』数学少女」というタイトルだけれども、日本語的には「文学少女『と』数学少女」でしょう。高校生の文学少女「陸秋槎」(作者と同名の主人公)と変わり者の数学好き少女「韓采芦」との、青春連作短編。4つの短編があるんだけれども、それぞれの話に現実のミステリーと劇中ミステリーがあって、そこに数学の話題や歴史を絡めた推理小説理論が展開される。ミステリーそのものよりも、その理論を数学的に説明してアプローチする実験的な要素の強い読み物。「読者への挑戦」系が中心で、はっきりとした結果をあえて書かなかったりするものもある。

文学少女対数学少女(ハヤカワ・ミステリ文庫)[陸 秋槎/稲村 文吾]
文学少女対数学少女[陸 秋槎]【電子書籍】

読了:美術館・博物館の事件簿[島田真琴]

美術館・博物館の事件簿

美術館・博物館の事件簿

  • 作者:島田真琴
  • 出版社:慶應義塾大学出版会
  • 発売日: 2024年12月17日頃

日本の3つの「ダリ展」、大英博物館の収蔵品、琉球王家の遺骨、表現の不自由展、重要文化財准胝観音立像・・・。
アートの世界の内幕と真実とは?
16の法廷ドラマと15のコラムから美術館・博物館の舞台裏を明らかにする。

日本では、美術館と博物館は別物とされているが、英語ではどちらも「ミュージアム」で、実は両者の間に違いはない。強いて区別すれば、美術品を多く収蔵・展示しているのが美術館、それ以外の歴史資料、自然資料等を収蔵・展示する施設が博物館ということになるが、東京、京都、奈良の国立博物館は美術品・工芸品を中心に扱っているし、古文書や化石などを集めている美術館もある。

本書は、日本と世界の美術館・博物館がその活動や収蔵品、借入品等に関連して巻き込まれた様々な裁判や事件を紹介している。外見は取り澄ましてみえるこれらの施設の舞台裏では何が起きているのか? どんな問題を抱えどう対処しているのだろうか?

【登場する主なミュージアム】
● サルバドール・ダリ劇場美術館、● シカゴ美術館、● スミソニアン国立自然史博物館、● ソロモン・グッゲンハイム美術館、● 大英博物館、● デトロイト美術館、● ニューヨーク近代美術館、● バークシャー美術館、● ハンタリアン美術館、● ピナコテーク・デア・モデルネ、● ペギー・グッゲンハイム美術館、● ポンピドゥーセンター国立近代美術館、● マンチェスター博物館、● ミュージアム・オブ・アーバン・アンド・コンテンポラリー・アート(MUCA)、● レオポルド美術館、● ロンドン自然史博物館、● ワシントン・ナショナル・ギャラリー、● 熱海山口美術館、● 岩手県立美術館、● 京都大学総合博物館、● 高知県立美術館、● 国立アイヌ民族博物館、● 大丸ミュージアム、● チームラボプラネッツ、● 富山県立近代美術館、● 名古屋市美術館、● 奈良国立博物館、● 横須賀美術館

1 美術館・博物館の舞台裏(展覧会のため貸出し中に損壊した現代美術家フランク・ステラの作品/展覧会のために借り受けた名画の返却を禁じられた美術館 ほか)/2 美術館・博物館が直面する倫理的要請とのジレンマ(ユダヤ人銀行家が所蔵していた5枚のピカソ絵画の行方/大英博物館の収蔵品はホロコースト被害者の遺族に返却できるのか? ほか)/3 美術館・博物館の現代的課題(博物館が処分を決めたアメリカの人気画家ノーマン・ロックウェルの傑作/美術館がアーティストから購入した作品を公開しないのは表現の自由の侵害か ほか)/4 文化財の購入、変更、処分の規制(イタリアで重要文化財に指定されたヴァン・ゴッホ作品「庭師」の買主は?/奈良の新薬師寺が所蔵する重要文化財、准胝観音立像の売却 ほか)

著者は、国際法やアート関連を専門とする弁護士。裁判沙汰になった美術や文化財のエピソードを実際の裁判の行方とその影響を考察した読み物。なるほどね、なんとなくはそういう権利があるんだろうなぁと思っていたことも、実際に裁判ではこうやって争点化されるんだ。耳にしたことのある事件もあった。裁判が今後どういう影響を及ぼすのかまで法曹の立場から述べられているのはおもしろい。

ノーマン・ロックウェルの「シャッフルトンのバーバーショップ」って今はジョージ・ルーカスが所有してるんだって。争われた作品のその後についても興味深い。

美術館・博物館の事件簿[島田真琴]
美術館・博物館の事件簿[島田真琴]【電子書籍】