読了:残酷な進化論(NHK出版新書 604)[更科 功]

残酷な進化論

残酷な進化論

  • 作者:更科 功
  • 出版社:NHK出版
  • 発売日: 2019年10月10日頃

心臓病・腰痛・難産になるようヒトは進化した!最新の研究が明らかにする、人体進化の不都合な真実ー「人体」をテーマに進化の本質を描く知的エンターテインメント。

なぜ私たちは生きているのか/第1部 ヒトは進化の頂点ではない(心臓病になるように進化した/鳥類や恐竜の肺にはかなわない/腎臓・尿と「存在の偉大な連鎖」/ヒトと腸内細菌の微妙な関係/いまも胃腸は進化している/ヒトの眼はどれくらい「設計ミス」か)/第2部 人類はいかにヒトになったか(腰痛は人類の宿命だけれど/ヒトはチンパンジーより「原始的」か/自然淘汰と直立二足歩行/人類が難産になった理由とは/生存闘争か、絶滅か/一夫一妻制は絶対ではない)/なぜ私たちは死ぬのか

生物学者が具体的な例を挙げて「生物進化」ってこう考えるものだよと説明しているエッセイ本。生物学にちょっとでも携わったことのある人には新奇なトピックはないけれども、生物進化について世間の人たちはきっと誤解しているだろうなぁという話題が多くとりあげられている。世間一般の生物学入門者に対する啓蒙書でもあるので、内容的には高校生物の知識程度でも理解できるように平易に説明されている。平易に説明しようとしたがために、かえって舌足らずになっていたり論理のちょっとした飛躍が気になる部分もあるんだけれども。

残酷な進化論(NHK出版新書 604)[更科 功]
残酷な進化論 なぜ私たちは「不完全」なのか(NHK出版新書)[更科功]【電子書籍】

読了:人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル(ハヤカワ文庫JA)[竹田 人造]

人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル

人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル

  • 作者:竹田 人造
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2020年11月19日頃

首都圏ビッグデータ保安システム特別法が施行され、凶悪犯罪は激減ーにもかかわらず、親の借金で臓器を売られる瀬戸際だった人工知能技術者の三ノ瀬。彼は人工知能の心を読み、認識を欺く技術ーAdversarial Example-をフリーランス犯罪者の五嶋に見込まれ、自動運転現金輸送車の強奪に乗り出すが…。第8回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作。人生逆転&一攫千金!ギークなふたりのサイバー・ギャングSF。

軽妙洒脱な近未来クライム小説。ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作ということでいわゆるSF新人賞作品。AI技術を軸にした大金強奪シーソーゲームのエンタメ性は抜群。でもこれってSF?

SFといえば笑っちゃうくらい途方もない科学技術や人知を超えた宇宙理論とかを、読者にそれらしく納得させるような技法を用いた作品だと思うわけ。でも、この作品はそうではない。AI技術でそういうことを目指すならシンギュラリティなんだろうけれども、この作品は最後の部分でも語られるんだけれども、訳の分からないシンギュラリティよりも、人が理解できるAIアルゴリズムを採っちゃうんだよな。つまりSF小説というより、現実的技術小説。近未来とはいえ犯罪に使われるAI技術やそれをかわす方法や理論が現在論考されているAI技術なわけですよ。つまりその理論や技術は現在巷で議論されているAI技術の範囲や問題点を逸脱することがない。だからこそこの作品がわかりやすくて読みやすいという点はあるんだけれども、SFではないよな。

あと、脇役登場人物が多い割には整理しきれていない感じがした。めぞん一刻みたいに数字にちなんだ人名の主要登場人物をそろえることにこだわり過ぎたかも。でも、エンタメ系クライム小説としては面白かったよ。

人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル(ハヤカワ文庫JA)[竹田 人造]
人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル[竹田 人造]【電子書籍】

読了:魚にも自分がわかる(ちくま新書 1607)[幸田 正典]

魚にも自分がわかる

魚にも自分がわかる

  • 作者:幸田 正典
  • 出版社:筑摩書房
  • 発売日: 2021年10月07日頃

「魚が鏡を見て、自分の体について寄生虫を取り除こうとする」。そんな研究が世界を驚かせた。それまで、鏡に映る像が自分であると理解する能力は、ヒトを含む類人猿、イルカ、ゾウ、カササギでしか確認されていなかった。それが、脊椎動物のなかでもっとも「アホ」だと思われてきた魚類にも可能だというのだ。実は、脳研究の分野でも、魚の脳はヒトの脳と同じ構造をしていることが明らかになってきている。「魚の自己意識」に取り組む世界で唯一の研究室が、動物の賢さをめぐる常識をひっくり返す!

第1章 魚の脳は原始的ではなかった/第2章 魚も顔で個体を認識する/第3章 鏡像自己認知研究の歴史/第4章 魚類ではじめて成功した鏡像自己認知実験/第5章 論文発表後の世界の反響/第6章 魚とヒトはいかに自己鏡像を認識するか?/第7章 魚類の鏡像自己認知からの今後の展望

鏡に映った自分を自分だと認識できるのは高度な脳の機能で、ヒトをはじめとした一部の高等生物しかできないと思われてきた。それは進化における脳の発達と機能の分化によるものなので当然だと。ところが、著者らの研究をはじめとして最近の知見では、脊椎動物の脳の構造はそれほど違わないことが分かってきた。

著者の研究室グループが明らかにした、魚にも鏡像自己認知ができるというセンセーショナルな実験結果と科学界の反響のドラマ。まずは仮説の検討、どのような実験で何が示せれば仮説を検証できたと言えるのか。それを論文にまとめ、どの科学雑誌に発表するか、査読とリバイス対応。納得してくれない権威との議論。長年信じられてきた権威学説において検討が漏れていたの何だったのかの考察。これら一連のいきさつが分かりやすく具体的に述べられている。生物学分野における科学的手法とはどういうものかを知る意味でもおもしろいかと。

魚にも自分がわかる(ちくま新書 1607)[幸田 正典]
魚にも自分がわかる ──動物認知研究の最先端[幸田正典]【電子書籍】

読了:いずれすべては海の中に(竹書房文庫 ぴ2-2)[サラ・ピンスカー/市田 泉]

いずれすべては海の中に

いずれすべては海の中に

  • 作者:サラ・ピンスカー/市田 泉
  • 出版社:竹書房
  • 発売日: 2022年05月31日頃

最新の義手が道路と繋がった男の話(「一筋に伸びる二車線のハイウェイ」)、世代間宇宙船の中で受け継がれる記憶と歴史と音楽(「風はさまよう」)、クジラを運転して旅をするという奇妙な仕事の終わりに待つ予想外の結末(「イッカク」)、多元宇宙のサラ・ピンスカーたちが集まるサラコンで起きた殺人事件をサラ・ピンスカーのひとりで解決するSFミステリ(「そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」)など。奇想の海に呑まれ、たゆたい、息を継ぎ、詠ぎ続ける。その果てに待つものはー。静かな筆致で描かれる、不思議で愛おしいフィリップ・K・ディック賞を受賞した異色短篇集。

一筋に伸びる二車線のハイウェイ/そしてわれらは暗闇の中/記憶が戻る日/いずれすべては海の中に/彼女の低いハム音/死者との対話/時間流民のためのシュウェル・ホーム/深淵をあとに歓喜して/孤独な船乗りはだれ一人/風はさまよう/オープン・ロードの聖母様/イッカク/そして(Nマイナス1)人しかいなくなった

きれいな表紙だなぁとジャケ買いしたSF短編集(買ったのは電子書籍だけど)。設定や背景やガジェットにSF要素は使われているんだけれども、登場人物はどの作品も人類で、彼女彼らの不安や焦りやどうしようもないやるせなさに溢れた心理描写に重きが置かれている。一般的な人間ドラマなのである。そして、どの作品も種明かしはされるんだけれども、オチは読者にゆだねられる。解決されないちょっとモヤっとした妙な読後感に、あぁ自分はやっぱり彼女彼らと同じ思いを抱える人間なんだなって思う次第。

地球を離れて新天地を目指す宇宙船内の文化活動を通して、過去の歴史(主に地球文明)とこれからの新しい文化の衝突や葛藤、世代間の価値観の違いとその行く末が描かれる「風はさまよう」がとりわけおもしろい。「そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」のびっくり設定もユニーク。数多の並行世界にいるオリジンを共有するサラという女性が一堂に会するイベントで起きる、あるサラの殺人事件。

いずれすべては海の中に(竹書房文庫 ぴ2-2)[サラ・ピンスカー/市田 泉]
いずれすべては海の中に(いずれすべては海の中に)[サラ・ピンスカー]【電子書籍】

読了:赤と青とエスキース[青山 美智子]

赤と青とエスキース

赤と青とエスキース

  • 作者:青山 美智子
  • 出版社:PHP研究所
  • 発売日: 2021年11月11日頃

メルボルンの若手画家が描いた一枚の「絵画」。日本へ渡って三十数年、その絵画は「ふたり」の間に奇跡を紡いでいく。一枚の「絵画」をめぐる、五つの「愛」の物語。彼らの想いが繋がる時、驚くべき真実が現れる!仕掛けに満ちた傑作連作短篇。

金魚とカワセミ/東京タワーとアーツ・センター/トマトジュースとバタフライピー/赤鬼と青鬼

一枚の絵画の誕生から数十年に渡る連作短編。それぞれの短編の中にいつも出てくる「エスキース」という絵画。この絵が見てきた人生模様とは。

う~ん、きれいでそこそこまとまっているけれども当たり障りのないなんだか水のような小説だなぁと思って読んでいたわけよ。出てくるものの象徴性はよく考えられているとは思うんだけれども、肝心のストーリーは重厚さやドラマ性に欠ける。深夜30分枠くらいでやっているようなテレビの気の抜けたオムニバスドラマのような感じ。ふ~んと読み進めていたんだけれども、「赤鬼と青鬼」の最後数行で「あれ????」と思ったわけ。そしてそのあとに続くエピローグでその違和感の種明かし。この構成は連作短編によくあるものだけれども「あぁうまい!」と思った。仕掛けは良かったのだ。でもさ、この種明かしエピローグが長すぎやしないかい?逐一あの出来事はこうで、この出来事はこうだったということを説明していくのよ。「みなまで言うな」って感じでちょっとしつこくて興ざめ。

赤と青とエスキース[青山 美智子]
赤と青とエスキース[青山美智子]【電子書籍】

読了:生物はなぜ誕生したのか(河出文庫)[ピーター・ウォード/ジョゼフ・カーシュヴィンク]

生物はなぜ誕生したのか

生物はなぜ誕生したのか

  • 作者:ピーター・ウォード/ジョゼフ・カーシュヴィンク
  • 出版社:河出書房新社
  • 発売日: 2020年04月07日頃

生物は幾度もの大量絶滅を経験し、スノーボールアースや酸素濃度の増減といった地球環境の劇的な変化に適応することで進化しつづけてきた。生命はどこでどのように誕生し、何が進化を推し進めたのかを、宇宙生物学や地球生物学といった最新の研究結果をもとに解明。生物の生き残りをかけた巧妙な戦略と苦闘の歴史を新たな視点で描き出す!

時を読む/地球の誕生ー四六億年前~四五億年前/生と死、そしてその中間に位置するもの/生命はどこでどのように生まれたのかー四二億(?)年前~三五億年前/酸素の登場ー三五億年前~二〇億年前/動物出現までの退屈な一〇億年ー二〇億年前~一〇億年前/凍りついた地球と動物の進化ー八億五〇〇〇万年前~六億三五〇〇万年前/カンブリア爆発と真の極移動ー六億年前~五億年前/オルドビス紀とデボン紀における動物の発展ー五億年前~三億六〇〇〇万年前/生物の陸上進出ー四億七五〇〇万年前~三億年/節足動物の時代ー3億5000万年前~3億年前/大絶滅ー酸素欠乏と硫化水素ー2億5200万年前~2億5000年前/三畳紀爆発ー2億5200万年前~2億年前/低酸素世界における恐竜の覇権ー2億3000万年前~1億8000万年前/温室化した海ー2億年前~6500万年前/恐竜の死ー6500万年前/ようやく訪れた第三の哺乳類時代ー6500万年前~5000万年前/鳥類の時代ー5000万年前~250万年前/人類と10度目の絶滅ー250万年前~現在/地球生命の把握可能な未来

扱われているのは生物進化史ではあるんだけれども、地球環境との関連が詳しく述べられており、どちらかというと地球史。非常に分かりやすく簡潔に最新の知見(スノーボールアース仮説とか)を踏まえた地球史が解説される(訳も読みやすい)。分かりやすいとはいえ、さすがに丸腰ではつらいだろう。入門書ではないので、読み進めるためには最低限の地質年代(著者らは冒頭で地質年代による区分けを時代遅れだと言ってはいるが)や、基本的な生命進化の知識は必要。むしろ、こういった知識を最新の知見でアップデートするのに適した本。

大気成分、気温の影響を軸とした地球環境の変動と生命の進化がどのようにリンクしてきたのかが丁寧に語られていく。生命の誕生の謎、何度も繰り返される大量絶滅、そして多様化する種。みんな大好き恐竜時代(ジュラ紀~白亜紀)を必要以上にクローズアップしていないバランス感覚もよい(目次を見給え)。

生物はなぜ誕生したのか(河出文庫)[ピーター・ウォード/ジョゼフ・カーシュヴィンク]
生物はなぜ誕生したのか[ピーター・ウォード/ジョゼフ・カーシュヴィンク/梶山あゆみ]【電子書籍】

読了:三体0【ゼロ】 球状閃電[劉 慈欣/大森 望]

三体0【ゼロ】 球状閃電

三体0【ゼロ】 球状閃電

  • 作者:劉 慈欣/大森 望
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2022年12月21日頃

激しい雷が鳴り響く、14歳の誕生日。その夜、ぼくは別人に生まれ変わったー両親と食卓を囲んでいた少年・陳(チェン)の前に、それは突然現れた。壁を通り抜けてきた球状の雷(ボール・ライトニング)が、陳の父と母を一瞬で灰に変えてしまったのだ。自分の人生を一変させたこの奇怪な自然現象に魅せられた陳は、憑かれたように球電の研究を始める。その過程で知り合った運命の人が林雲(リン・ユン)。軍高官を父に持つ彼女は、新概念兵器開発センターで雷兵器の開発に邁進する技術者にして若き少佐だった。やがて研究に行き詰まった二人は、世界的に有名な理論物理学者・丁儀(ディン・イー)に助力を求め、球電の真実を解き明かす…。世界的ベストセラー『三体』連載開始の前年に出た前日譚。三部作でお馴染みの天才物理学者・丁儀が颯爽と登場し、“球状閃電”の謎に挑む。丁儀がたどりついた、現代物理学を根底から揺るがす大発見とは?“三体”シリーズ幻の“エピソード0”、ついに刊行。

 中国発大人気SF「三体」シリーズの前日譚にあたる位置づけをされている本作。実際には「三体」よりも前に書かれた独立した長編SF作品。なのでシームレスに「三体」につながるわけではないものの、中間あたりから登場する天才理論物理学者丁儀(ディン・イー)は「三体」の主要登場人物であるし、本作での細かな設定が後の「三体」でも言及されていたりする。また兵器に魅入られた女軍人林雲(この人も「三体」でカメオ出演している)が、ロシア人生物学者からおくられた言葉「それを防ぐ最善の方法は、いまの敵や将来の敵よりも早く、その兵器をつくりだすこと!」は、「黒暗森林理論」に通じる。そして人類以外からの観察者という存在は、三体星人の智子(ソフォン)的なものを想起させる。おそらく、著者はこの作品を書くことで次の「三体」への構想を膨らませていったものと思われる。

 球電(雷電気仕掛けの火の玉みたいなもの)の研究の苦労から始まり、実はそれが巨大な電子=マクロ電子(サッカーボール大の電子)だということが分かり、そうするとこのサイズの原子核というものが存在するはずというとてつもないスケール(物理的サイズも物語構想も)になっていく。最初は気象学や電磁気学をネタにしたSFかと思っていたら、鮮やかに量子論に変わっていくのだ。量子論の話に突入すると、確率論的重ね合わせから「シュレーディンガーの猫」(本来ミクロの世界の話をマクロのたとえ話にすると奇妙なことになる)を逆手にとってこれをマクロ世界でやってしまうという驚きの展開に。もはや様々な次元やサイズの異なるマルチバース的物語にもなっている。

 突拍子もないことをさもありなんと一気に読ませる著者の力量はやっぱりすばらしい。「三体人」の「さ」の字も出てこない(前述のように「三体」シリーズとは直接つながっていかない)ものの面白さは格別。

三体0【ゼロ】 球状閃電[劉 慈欣/大森 望]
三体0【ゼロ】 球状閃電(三体)[劉 慈欣]【電子書籍】

読了:成瀬は天下を取りにいく[宮島 未奈]

成瀬は天下を取りにいく

成瀬は天下を取りにいく

  • 作者:宮島 未奈
  • 出版社:新潮社
  • 発売日: 2023年03月17日頃

「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」中2の夏休み、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出したー。新潮社主催新人賞で史上初の三冠に輝いた、圧巻のデビュー作!

ありがとう西武大津店/膳所から来ました/階段は走らない/線がつながる/レッツゴーミシガン/ときめき江州音頭

滋賀県大津市を舞台にした痛快爽快青春短編小説集。あふれまくる地元愛が微笑ましい(地元民にはこれは嬉しいと思う)。まぁ地元民でなくても面白楽しく一気に読めてしまう力が本作にはある。

とにかく主人公の成瀬あかりが個性的で魅力的なのだ。勉強も特定の趣味もとびぬけて出来てしまう女の子。だけど孤高の変人。武士のような話し方するし、高校の入学式では丸坊主で登場したり。

基本は成瀬に巻き込まれた特定の人が成瀬との騒動を語る形式。最終話では語りも成瀬自身が担う。「階段は走らない」のみ成瀬の話ではない(おそらく西武大津店閉店つながりで書かれたもの。しかし最終話にここでの登場人物が再登場する)。

青春小説なのに、ほろ苦さをあまり感じない。なのにちゃんと青春小説している。気分爽快、さっぱり軽快な読後感。

成瀬は天下を取りにいく[宮島 未奈]
成瀬は天下を取りにいく[宮島未奈]【電子書籍】

読了:文庫 最後の錬金術師 カリオストロ伯爵(草思社文庫)[イアン・マカルマン/藤田 真利子]

文庫 最後の錬金術師 カリオストロ伯爵

文庫 最後の錬金術師 カリオストロ伯爵

  • 作者:イアン・マカルマン/藤田 真利子
  • 出版社:草思社
  • 発売日: 2019年10月04日頃

君主たちは競って宮廷に招き、司教たちは恐れ、医師たちは憎み、女たちは憧れた「最後の魔術師」カリオストロ伯爵ー。シチリア島のごろつきだった男は、いかにして王侯貴族を手玉にとり、フランス革命前夜のヨーロッパ社交界にその名を轟かせるにいたったのか。錬金術師、医師、預言者、詐欺師、フリーメイソン会員といくつもの顔を使い分け、“理性と啓蒙の時代”の18世紀を妖しく彩った男の生涯を追う。

プロローグ バルサモの家/1 フリーメイソン/2 降霊術師/3 シャーマン/4 コプト/5 預言者/6 回春剤/7 異端/エピローグ 不死

 「カリオストロ」という響きには、異様なうさんくささがまとわりつく。その正体は何なのか?フランス革命前夜のマリー・アントワネットをまきこんだ「ダイヤの首飾り事件」に関わっていたらしいということは知っているが、本流の世界史ではとりたてて学習する人物ではない。むしろゴシップ扱いの雑学的エピソードで取り上げられる人物だ。

 そんなカリオストロ伯爵を名乗った男の人生をたどる本書。18世紀のフランス革命を頂点とした歴史的背景、ヨーロッパ各国を舞台に活躍した生涯。カリオストロ伯爵は、この時代のヨーロッパだからこそ産まれた怪人物なのである。そして死後、いかにして「カリオストロ」は芸術のテーマとしてもてはやされ、今日的キャラクターが形成されていったのかが考察される。

 18世紀末、同じくヨーロッパをまたにかけた一世代上のカサノヴァが激動の時代に取り残されていくのと対照的に、あっという間に時代の波に乗ったカリオストロの対比論考が興味深い。そして何よりもやはり「ダイヤの首飾り事件」の運びがおもしろい。

文庫 最後の錬金術師 カリオストロ伯爵(草思社文庫)[イアン・マカルマン/藤田 真利子]
最後の錬金術師 カリオストロ伯爵[イアン・マカルマン]【電子書籍】

読了:第八の探偵(ハヤカワ・ミステリ文庫)[アレックス・パヴェージ/鈴木 恵]

第八の探偵

第八の探偵

  • 作者:アレックス・パヴェージ/鈴木 恵
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2021年04月14日頃

独自の理論に基づいて、探偵小説黄金時代に一冊の短篇集『ホワイトの殺人事件集』を刊行し、その後、故郷から離れて小島に隠棲する作家グラント・マカリスター。彼のもとを訪れた編集者ジュリアは短篇集の復刊を持ちかける。ふたりは収録作をひとつひとつ読み返し、議論を交わしていくのだが…フーダニット、不可能犯罪、孤島で発見された十人の死体ー七つの短篇推理小説が作中作として織り込まれた、破格のミステリ。

復刊予定の「ホワイトの殺人事件集」、そのため隠遁生活をする著者に会いに行く編集者。短編集に収録される話と、その構成理論(数学的な集合論)についての議論が交互に出てくる。しかし、どの短編集にも違和感が残る。編集者もそれに気付き著者に問うのだが、著者ははぐらかす。さてその真相は?

いわゆる箱物語形式とはいえる。でも外側の話が今一つおもしろくない。そのための仕掛けや伏線が今一つなのだ。え?そうじゃなくてもよくない?

第八の探偵(ハヤカワ・ミステリ文庫)[アレックス・パヴェージ/鈴木 恵]
第八の探偵[アレックス パヴェージ]【電子書籍】