読了:熊本くんの本棚 ゲイ彼と私とカレーライス(富士見L文庫)[キタハラ/慧子]

顔よし、体よし、性格よし。そのうえ読書家。なんだか現実味のないイケメン、熊本くん。仲の良い大学生・みのりは、同級生から彼の噂を聞く。どうやら熊本くんが、ゲイ向けアダルトビデオに出ているというのだ。熊本くんの部屋で二人、彼が作った甘口のカレーを食べながら、みのりは同級生の言葉を思い出す。帰りの駅のベンチで、少し後ろめたさを感じながらも「熊本祥介」と、スマホで検索を続けるがー。ゲイの熊本くんの、汚くて繊細な青春物語。第4回カクヨムコン大賞受賞の問題作が待望の文庫化。

デビュー作であるとはいえ、素人臭が濃厚に漂っていた。タイトル(とりわけ副題いる?)や書籍紹介文から想定していたものとは全然違う、不思議な小説だった。

ミステリーでもありオカルトでもありファンタジーでもありライトポルノでもあり、描かれるのも宗教でもあり家族でもあり青春でもあり……。なんでもありのてんこ盛り小説。作中設定がパズルのピースをきちんとはめるためか、出てくるものを都合よく関連付けておきましたって感じ。内容も論点はちょっと重いんだけれども、深みは全く足りていない。登場人物の属性が強烈な設定であるにもかかわらず、ちょこっとずつしかスポットライトを当てられていないので、人物像の奥行が今一つ(自殺者を含め何人か死んでいるのに……)

構成のアイデアとして真ん中を「熊本くん」が書いた小説にするという考えは悪くはないんだけれども、小説ではないはずの前後の章との差が際立っていないため、結果としてあまり効果的になっていない。「熊本くん」がなぜこの小説を書いたのか、書かずにいられなかったのか、そこのところの訴求も不足。

とまぁ散々けなしておきながら、それでもこの読み物はエンターテイメントとしては面白い。実際に飽くことなく一気読みしてしまったわけだから。

熊本くんの本棚 ゲイ彼と私とカレーライス(富士見L文庫)[キタハラ/慧子]
熊本くんの本棚 ゲイ彼と私とカレーライス(熊本くんの本棚)[キタハラ/慧子]【電子書籍】

読了:病の皇帝「がん」に挑む(下)[シッダールタ・ムカジー/田中文]

病の皇帝「がん」に挑む(下)

病の皇帝「がん」に挑む(下)

  • 作者:シッダールタ・ムカジー/田中文
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2013年08月23日頃

20世紀に入り、怪物「がん」と闘うには「治療」という攻撃だけでなく、「予防」という防御が必要であることがわかる。かくて、がんを引き起こす最大の犯人として、たばこが指名手配されたが…人類と「がん」との40世紀にわたる闘いの歴史を壮絶に描き出す!ピュリッツァー賞、ガーディアン賞、受賞作。

第4部 予防こそ最善の治療(「まっくろな棺」/皇帝のナイロンストッキング/「夜盗」 ほか)/第5部 「われわれ自身のゆがんだバージョン」(「単一の原因」/ウイルスの明かりの下で/「サーク狩り」 ほか)/第6部 長い努力の成果(「何一つ、無駄な努力はなかった」/古いがんの新しい薬/紐の都市 ほか)

上巻の感想はこちら

読了:病の皇帝「がん」に挑む(上)[シッダールタ・ムカジー/田中文]

下巻は「がん」の「予防」から。肺がんとたばこの関係は法廷ドラマのように描かれる。続いて「がん」の発生メカニズムへの挑戦が描かれる。ゲノムプロジェクトの進行とともに各地の研究者が「がん」遺伝子とその治療法を探求する競争。今となっては古典ともいえるストラテジーも当時は試行錯誤の末にたどり着いたものであったのだ。個人的にはこの章が一番おもしろかった。刊行された当時のゲノムプロジェクトあたりで話が終わってしまっているのが、仕方ないとはいえ残念。

これに続く「遺伝子ー親密なる人類史ー」にしろ、シッダールタ・ムカジーの物語を紡ぎだす才はすばらしい。この人、文筆家やジャーナリストではなく、臨床腫瘍科医なんだよ。

病の皇帝「がん」に挑む(下)[シッダールタ・ムカジー/田中文]
病の皇帝「がん」に挑む 人類4000年の苦闘(下)[シッダールタ ムカジー]【電子書籍】

読了:病の皇帝「がん」に挑む(上)[シッダールタ・ムカジー/田中文]

病の皇帝「がん」に挑む(上)

病の皇帝「がん」に挑む(上)

  • 作者:シッダールタ・ムカジー/田中文
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2013年08月23日頃

地球全体で、年間700万以上の人命を奪うがん。紀元前の昔から現代まで、人間を苦しめてきた「病の皇帝」の真の姿を、患者、医師の苦闘の歴史をとおして迫真の筆致で明らかにし、ピュリッツァー賞、ガーディアン賞を受賞した傑作ノンフィクション。

第1部 「沸き立たない黒胆汁」(「血液化膿症」/「ギロチンよりも飽くことを知らない怪物」/ファーバーの挑戦状 ほか)/第2部 せっかちな闘い(「社会を形成する」/「化学療法の新しい友人」/「肉屋」 ほか)/第3部 「よくならなかったら、先生はわたしを見捨てるのですか?」(「われわれは神を信じる。だがそれ以外はすべて、データが必要だ」/「微笑む腫瘍医」/敵を知る ほか)

シッダールタ・ムカジーの「遺伝子」がすごくおもしろかったので、その前に書いている本書もぜひ読んでみたいと思っていた次第。「遺伝子」の感想は以下。

読了:遺伝子ー親密なる人類史ー 【電子書籍】[ シッダールタ ムカジー ]

本書の日本語版出版が2013年にだから最新の情報まではフォローしきれていないにしても、がんとは何か、人類はどう対処してきたのかを知りたければ今でも十分に読む価値あり。

腫瘍医として臨床の場での体験と、自身が立ち向かっている「がん」の歴史、そして人類の紆余曲折の苦闘を物語として語っていく。読みやすく分かりやすい構成になっているところが良い。科学啓蒙書でありながら、歴史ドラマにもなっているのだ。上巻ではがんの歴史、そして主に欧米における(とりわけアメリカにおける)外科的切除術、放射線治療、薬物化学的療法の3つの主要な治療法の歴史、ならびに初期のがん対策ロビー活動について表わされている。

病の皇帝「がん」に挑む(上)[シッダールタ・ムカジー/田中文]
病の皇帝「がん」に挑む 人類4000年の苦闘(上)[シッダールタ ムカジー]【電子書籍】

僕からもおめでとうを

駅の上りエスカレータで、前の女性が号泣してスマホで電話しながら乗っているの。公共の空間において、ちょっと異様な雰囲気を醸し出していた。移動しながら号泣する人物ってあまり見かけないよ。泣きながらも「おめでとう」とか「嬉しい」とかいう言葉がところどころ聞こえてきたから、おそらくうれし泣きなのかな。親友の結婚が決まったとかかね。僕からもおめでとうを。