読了:成瀬は天下を取りにいく[宮島 未奈]

成瀬は天下を取りにいく

成瀬は天下を取りにいく

  • 作者:宮島 未奈
  • 出版社:新潮社
  • 発売日: 2023年03月17日頃

「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」中2の夏休み、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出したー。新潮社主催新人賞で史上初の三冠に輝いた、圧巻のデビュー作!

ありがとう西武大津店/膳所から来ました/階段は走らない/線がつながる/レッツゴーミシガン/ときめき江州音頭

滋賀県大津市を舞台にした痛快爽快青春短編小説集。あふれまくる地元愛が微笑ましい(地元民にはこれは嬉しいと思う)。まぁ地元民でなくても面白楽しく一気に読めてしまう力が本作にはある。

とにかく主人公の成瀬あかりが個性的で魅力的なのだ。勉強も特定の趣味もとびぬけて出来てしまう女の子。だけど孤高の変人。武士のような話し方するし、高校の入学式では丸坊主で登場したり。

基本は成瀬に巻き込まれた特定の人が成瀬との騒動を語る形式。最終話では語りも成瀬自身が担う。「階段は走らない」のみ成瀬の話ではない(おそらく西武大津店閉店つながりで書かれたもの。しかし最終話にここでの登場人物が再登場する)。

青春小説なのに、ほろ苦さをあまり感じない。なのにちゃんと青春小説している。気分爽快、さっぱり軽快な読後感。

成瀬は天下を取りにいく[宮島 未奈]
成瀬は天下を取りにいく[宮島未奈]【電子書籍】

読了:文庫 最後の錬金術師 カリオストロ伯爵(草思社文庫)[イアン・マカルマン/藤田 真利子]

文庫 最後の錬金術師 カリオストロ伯爵

文庫 最後の錬金術師 カリオストロ伯爵

  • 作者:イアン・マカルマン/藤田 真利子
  • 出版社:草思社
  • 発売日: 2019年10月04日頃

君主たちは競って宮廷に招き、司教たちは恐れ、医師たちは憎み、女たちは憧れた「最後の魔術師」カリオストロ伯爵ー。シチリア島のごろつきだった男は、いかにして王侯貴族を手玉にとり、フランス革命前夜のヨーロッパ社交界にその名を轟かせるにいたったのか。錬金術師、医師、預言者、詐欺師、フリーメイソン会員といくつもの顔を使い分け、“理性と啓蒙の時代”の18世紀を妖しく彩った男の生涯を追う。

プロローグ バルサモの家/1 フリーメイソン/2 降霊術師/3 シャーマン/4 コプト/5 預言者/6 回春剤/7 異端/エピローグ 不死

 「カリオストロ」という響きには、異様なうさんくささがまとわりつく。その正体は何なのか?フランス革命前夜のマリー・アントワネットをまきこんだ「ダイヤの首飾り事件」に関わっていたらしいということは知っているが、本流の世界史ではとりたてて学習する人物ではない。むしろゴシップ扱いの雑学的エピソードで取り上げられる人物だ。

 そんなカリオストロ伯爵を名乗った男の人生をたどる本書。18世紀のフランス革命を頂点とした歴史的背景、ヨーロッパ各国を舞台に活躍した生涯。カリオストロ伯爵は、この時代のヨーロッパだからこそ産まれた怪人物なのである。そして死後、いかにして「カリオストロ」は芸術のテーマとしてもてはやされ、今日的キャラクターが形成されていったのかが考察される。

 18世紀末、同じくヨーロッパをまたにかけた一世代上のカサノヴァが激動の時代に取り残されていくのと対照的に、あっという間に時代の波に乗ったカリオストロの対比論考が興味深い。そして何よりもやはり「ダイヤの首飾り事件」の運びがおもしろい。

文庫 最後の錬金術師 カリオストロ伯爵(草思社文庫)[イアン・マカルマン/藤田 真利子]
最後の錬金術師 カリオストロ伯爵[イアン・マカルマン]【電子書籍】