演奏会映えする変態ピアノ連弾曲「2つのロシアの主題によるコンチェルティーノ」

ピアノソロの場合であっても、右手と左手が交差する箇所がある曲というのは見栄えが豪華になる(その曲の持つ芸術性とは別にパフォーマンスとして)。今日はローゼンブラットという作曲家の(ピアノ弾きの中では)有名なピアノ連弾曲「2つのロシアの主題によるコンチェルティーノ」を紹介しよう。

その前に、連弾とは何ぞや。日本語で「連弾」という場合、1台のピアノの鍵盤を前に、二人の奏者が並んで演奏するアンサンブル形式を指す。高音担当(鍵盤に向かって右側)をPrimo(イタリア語で第1奏者)、低音担当(鍵盤に向かって左側)をSecondo(イタリア語で第2奏者)と呼ぶ。ちなみに英語では連弾は「for 4 hands」と表記される(4本の手のための)。概して連弾はPrimoは旋律担当、Secondoが伴奏担当になってしまうことが多くなるのだが、どちらが技術的に難しいかというとほぼSecondo。音楽の土台を作り曲を支配するのはほぼSecondoの役割として与えられることが多いのだ(ちなみにペダルの操作も通常はSecondoが担当)。よって、多くのピアノ教室の発表会では、先生がSecondoを担当し、生徒がPrimoを担当するという形式がしばしばみられる。まぁ中にはラフマニノフの「6つの小品」のようにPrimoの譜面の方が真っ黒という作品もあるが。

さらに、もうちょっと先に進むよ。1台のピアノの前に3人の奏者が並んで演奏する場合これを「6手連弾」と呼ぶ。1台の前に3人が並ぶとかなり狭いしそれぞれにかなり演奏しにくくなる。この形式でもっとも有名なのはラフマニノフの2つの小品であろう(ピアノ協奏曲第2番を思わせるというか酷似箇所あり)。英語表記では「for 6 hands」。

一方で、1台のピアノは独りで担当するのだが、それを2台のピアノでやる演奏形式がある。この場合適当な和訳語がないためか明確に「2台のピアノのための」と表記される(略して「2台ピアノ」)。英語で「for 2 pianos」といえばこの形式。当然、ピアノを3台以上使う形式も考えられるけれども、ピアノを一度にたくさん用意するのは大変だし、演奏スペースもとるしで、3台以上の作品はあまりない(あるにはある)。

また、連弾と2台ピアノの組み合わせとして、通常の1台4手連弾を2台のピアノでやる演奏形式というのもあって、これを「2台8手(for 2 pianos 8 hands)」と呼ぶ(つまりピアノ2台に奏者が4人)。

(連弾と2台ピアノとどちらがどのように面白いのかという話はまた別の機会があれば述べようかと思う。ラフは20代のある時期、ソロよりもピアノだけのアンサンブルばっかりやっていた)

通常、楽器は個人持ちの楽器を演奏会場まで自分で運んで個人の楽器を演奏するものだが、ピアノは通常個人持ちの楽器をホールに持って行って演奏するということはまずない(どんなプロ奏者であっても。強いて言うなら自分専属の調律師を連れて行く)。ピアノの場合通常は会場付帯の楽器を使うのだ。どこのホールでもちゃんとしたホールであれば、最低2台はピアノ庫にピアノがしまわれている(少なくともそのうち1台はスタインウェイが望ましい)。

さて、ローゼンブラット作曲のピアノ連弾曲「2つのロシアの主題によるコンチェルティーノ」。ピアノデュオ作品による第5回作曲コンクール(1999-2000)(このコンクールはピアノデュオでも活躍された児玉夫妻がはじめた、日本で開催される国際コンクールで、作曲部門と演奏部門が隔年で開催され、作曲部門で受賞した曲が翌年の演奏部門での課題曲になる)において、ローゼンブラットが特別賞・毎日新聞社賞を受賞した作品。有名なロシア民謡の「カリンカ」(テトリスの音楽だ!)と「モスクワ郊外の夕べ」を組み合わせた、ジャズ的要素も多分に含む、ヴィルトゥオーゾ作品。日本では「二人羽織」とも呼ばれる見ていても楽しい曲。ピアノ連弾の演奏会向け「映え」レパートリーとして重宝されている。いくつか演奏動画を紹介しておこう(二人羽織の見られるところのタイムも)。


6:36あたりから、primoがsecondoを後ろからまたいで演奏する。


5:57あたりから、secondoがprimoを後ろからまたいで演奏して、やがてsecondoがprimo担当に役割交代する。


6:00あたりから、secondoがprimoを後ろからまたいで演奏して、やがてsecondoがprimo担当に役割交代する。ラフ個人的にはこの演奏が一番エキサイティングで好み。

最後に作曲家ローゼンブラットご本人自らの演奏もご紹介しておきます(動画のsecondo担当がローゼンブラット)

ローゼンブラット / Rosenblatt, Alexander – ピティナ・ピアノ曲事典

また、2台8手のための「日本の主題による幻想曲」というものも作曲している。
A. Rosenblatt. Fantasia on Japanese Themes for 2 pianos 8 hands.

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