読了:読破できない難解な本がわかる本[富増 章成]

読破できない難解な本がわかる本

読破できない難解な本がわかる本

  • 作者:富増 章成
  • 出版社:ダイヤモンド社
  • 発売日: 2019年03月29日頃

答えは全部、「古典」に書いてある。この本が、世界を変えた。教養としての名著60冊を徹底解説。

第1章 古代・叡智編 古代からの叡智を知ることができる本/第2章 思考・理性編 考えに考えて人生を変える本/第3章 人生・苦悩編 悩める人生について考えることができる本/第4章 政治・社会編 現代の政治思想とその起源がわかる本/第5章 経済・生活編 仕事と生き方がよくわかる本/第6章 心理・言語編 人の「心」と「言葉」について考えてみる本/第7章 思想・現代編 現代社会を別の角度から考えてみる本/第8章 日本・自己編 日本の思想をふりかえって自分を知る本

そういえば、阿刀田高は「実存主義」について知りたい時は、サルトルの『実存主義とは何か』が入門書としてわかりやすいと勧めているが、それでも評して曰く

“人間においては実存が本質に先立つ”と、これがサルトルの考えであり、実存主義の原点である。本質は、定義と言い換えてもよいだろう。
とはいえ、これだけではやっぱりわからない。わかるほうがおかしい。
(中略)
人間はまっ白い紙のようなものであり、そこになにを書くかは人間みずからが決定していくことであり、それゆえに自由であり、それを自覚することがなにより大切である、と、サルトルは主張しているのである。
 旧約聖書を知っていますか(新潮文庫 あー7-19)[阿刀田 高]

(中略)の後が、端的な要約(結論?)。その本に何が書かれているのかは、とりあえずこういうところを押さえておきたいのだ。こういう感じで、古今東西の様々なムツカシイ本を簡単に紹介してくれるのが本書『読破できない難解な本がわかる本』だ(ちなみに本書で取り上げられているサルトルの本は『存在と時間』だった)。

基本的には哲学・宗教・心理学・政治・経済の理論本が対象なので、いわゆる挫折系文学本の類は出てきません(『カラマーゾフの兄弟』とか『失われた時を求めて』とかね)。タイトルと著者名だけは知っているけれども何が書いてあるのかはあまりよくわかっていない本が続々と登場する。本の難易度、書かれた背景、内容の要約、この書から「人生で役に立つこと」コラム、そして著した人のプロフィールという順で、難解な1冊を数ページのダイジェストにして紹介していくのだ。まぁ無茶な企画だこと。でもこういったムツカシイ本を読むことは一生ないであろうラフにはありがたい企画でもある。

哲学関係の本では「自由」という言葉一つとっても、みんなそれぞれに自分の概念を定義していくので、単純比較ができない。この人はこういう定義で使う、あの人はああいう定義で使うっていう感じで、「自由」という言葉だけでは同じ土俵で議論を進めることができないのだ。同じ「イルカ」でも、水生哺乳類の「イルカ」と「なごり雪」の「イルカ」くらい違うんじゃないかってくらいに、人によって全然違うものを「自由」と定義している。もうほんと、ラフ、困っちゃう。

一人の著者が、複数のムツカシイ本を超圧縮ダイジェストで紹介しているのだから、どれも毒気を抜かれた扁平な紹介になってしまうのは仕方ない。でも、どれも古今東西の七面倒くさいことを考えている奴らの本なんだから、おそらく原書はどれも強烈な個性が異彩を放つ一癖ある文体に違いないとは想像できる。気になったものは読んでみるしかないのか(と、思わせる時点でこの著者の術中にはまったわけだな)。

「人生で役に立つこと」コラムは蛇足かも。読んでもいない本のダイジェストを紹介されたうえで、あなたの人生もこう考えたらいいんじゃない?と提案されても困る。その本の中身をどう生かすかは実際に読んでみた人がそれぞれに考えればいいし、それこそが読書の楽しみではないかと思ったり思わなかったり(自分では読まない宣言をしているくせに大口をたたく)。

そうか、「パラダイム転換(シフト)」って言葉はトーマス・クーン『科学革命の構造』で使われたのか。
wikipediaの「科学革命の構造」の項

『アンチ・オイディプス』は難易度★5だって?紹介の冒頭が「なにが書いてあるのかまったくわからない本。」だって。気になって夜も眠れない。
wikipediaの「アンチ・オイディプス」の項

キルケゴールの『死に至る病』が「絶望」を指しているというのは知っていたけれども、人間は「絶望」すると「死ぬ」、だから「絶望」せずに生きていくには?って本だと勝手に思っていた。あっさり否定された。「死に至る病」といいながら「死んでない」とは……

「絶望」とは死にたいけれども死ぬこともできずに生きていく状態のことです。肉体の死をも超えた苦悩が「絶望」です。
 つまり、生きながら死んでいるようなゾンビ状態のことを「死に至る病」と呼んでいるのです。
(中略)
結論としては、やっぱり人間は絶望する方がよいということです。というのは、人間は動物以上であり、自己意識をもつからこそ絶望しうるわけです。意識が増す(自己をみつめる)ことでいろんな挫折を感じ、「このままではいけない!」という焦燥感が強まってくるものです。
(中略)
絶望を人生の成長として捉えることが大切なのです。

wikipediaの「死に至る病」の項

『21世紀の資本』のトマ・ピケティってラフとほぼ同年代。この書は一世を風靡したけれども、もう古典と呼べるほどの地位を確立しているのか。
wikipediaの「21世紀の資本」の項

読破できない難解な本がわかる本[富増 章成]
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