読了:さよならの次にくる(卒業式編)(新学期編)(創元推理文庫)[似鳥鶏]

「東雅彦は嘘つきで女たらしです」愛心学園吹奏学部の部室に貼られた怪文書。部員たちが中傷の犯人は誰だと騒ぐ中、オーボエ首席奏者の渡会千尋が「私がやりました」と名乗り出た。初恋の人の無実を証明すべく、葉山君が懸命に犯人捜しに取り組む「中村コンプレックス」など、「卒業式編」は四編を収録。デビュー作『理由あって冬に出る』に続くコミカルな学園ミステリ、前編。

名探偵の伊神さんは卒業、葉山君は進級、そして迎えた新学期。曲がり角が衝突したことがきっかけで、可愛い一年女子の佐藤さんと知り合った。入学以来、怪しい男に後をつけられているという佐藤さんのために、葉山君はストーカー撃退に奔走することになる。苦労性の高校生・葉山君の、山あり谷ありの学園探偵ライフ。爽快なフィナーレまで一気呵成に突き進む学園ミステリ、後編。

前作デビュー作「理由あって冬に出る」が1月のある事件を描いた長編だったんだけれども、今度の「さよならの次にくる」はそれに続く卒業式と新学期に渡る期間を扱った(一部数年前を扱ったものが含まれるが今回の登場人物を導くため)、前編・後編2冊にわたる連作短編。それぞれの話は独立しつつも関連していて、ラストに至ったときにすべての伏線が回収されているという構成には拍手喝采。話の随所で小出しに回収されていく一部の伏線がダラダラ感をもたらすところや、短編の間に挟まれる断章があからさまに「これは伏線ですよ」と主張しすぎているところが玉に瑕(こういう形式のミステリは加納朋子が今のところ一番かなとラフは思っている)。

愛すべき変人文化部高校生たちの当意即妙なやり取りはやっぱりおもしろい。「えぇ、それは強引だろう」とか「ありえないよぉ」とか思う部分はあるんだけれども、コメディで展開することにより「まぁいいか、さもありなんということにしておこう」と自然と受け入れられる。大人になり切れていないどうしようもない青臭さの一方で、妙にしっかりとしていて大人の世界に片足突っ込んでいるような部分の同居が「青春・思春期」というもので包まれてうまくまとまっている。

新学期には「曲がり角でゴツン」で「恋なんか芽生えちゃったりして」という定番ネタもきちんと織り込んでいる。またところどころに出てくる脚注も枠外からの笑いを誘う。シリーズはまだ続くので楽しみ。

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