今年の恵方と方角にちなんだ分子生物学実験手法名

節分ですよ。えぇ、かつてこっそりと関西人やっていたもんですから、節分と言えば恵方巻でしたよ。学校から帰って来るじゃないですか、そうすると台所のテーブルの上におやつとして恵方巻が置いてある。それが節分だったのですよ。

wikipediaの「恵方巻」の項

さて、今年の恵方は、ほぼ南南東だとか。南南東は英語では「South-southeast」で「SSE」と略すらしい(英会話サークルみたいってそれは「ESS」か)。

話は変わって、分子生物学の実験手法の一つにサザン法(サザンブロッティングあるいはサザンハイブリダイゼーション)というのがあるのですよ。サンプルの中に特定の塩基配列を持つDNAが存在するかどうかを検出する手法。一般的には生物の全DNA(ゲノム)あるいは特定のDNAを酵素で処理し、電気泳動した後、それをメンブレン(膜)に転写する(ブロット)。そのメンブレンに対して、ラベリングした検出したい塩基配列のDNA(実際には相補的な配列)をプローブとして特異的に結合させて(ハイブリダイズ)、メンブレン上のどこにプローブが結合したかを調べる。Edwin Southern さん(まだ存命のはず)によって開発された方法なので 「サザン法」と名付けられてます。

サザン法は、DNAをDNAプローブで検出する方法。同じ原理で、DNAの代わりにmRNAを電気泳動で流したものをメンブレンに転写し、DNAプローブで検出する方法(RNAをDNAプローブで検出する方法)には「ノーザン法」と名付けられたとさ(「サザン法」にちなんだシャレ)。さらに、サンプルに含まれるタンパク質を検出する方法として、タンパク質を電気泳動した後にメンブレンに転写し、特定の抗体(抗体もタンパク質なのでタンパク質同士の結合)で検出する方法には「ウェスタン法」と名が付いております。

じゃ、これの応用。ある特定のDNA配列に結合するタンパク質を検出する方法があります(DNAに結合するということは主にDNAの転写調節タンパク質である可能性が高い)。サンプルのタンパク質を電気泳動した後にメンブレンに転写し、DNAプローブで検出する。この方法はDNAとタンパク質の結合なので「サウスウェスタン法」と名付けられておりますよ。

wikipediaの「サザンブロッティング」の項(DNAをDNAで検出)
wikipediaの「ノーザンブロッティング」の項(RNAをDNAで検出)
wikipediaの「ウェスタンブロッティング」の項(タンパク質をタンパク質で検出)
wikipediaの「サウスウェスタン法」の項(タンパク質をDNAで検出)

サザンやウェスタンは学生実習でも行うくらい基本の実験手法なんだけれども、RNAを扱うのは難しいというか超面倒なので(RNA分解酵素はそこら中にあるため油断するとすぐ分解されてサンプルがおじゃんになる)、個人的にノーザンは難易度が高くて嫌い。でも学位論文発表や学会発表なんかでは「で、ノーザンはやったの?」としばしばつっこまれることがあるので油断ならない。

ついでに、生物学の用語にはこういうシャレでつけられた名前ってほかにもある。例えば、64コドンのうち終止コドンは3つあるんだけれども、それぞれにオーカー、アンバー、オパールとキラキラネームが付いている。最初にアンバーが名付けられたのだが、そのいきさつはこうだ。ある仮説を検証するための超面倒くさい実験を考えた人たちがいるんだけれども、彼らは自分たちがその面倒くさい実験をやりたくないもんだから、とある大学院生に「もし実験がうまくいったら得られた変異体に君の名前にちなんだ名前を付けてあげよう」と丸め込んで実験させたのだ。幸いなことに実験はうまくいって仮説は検証された。その大学院生の名前はBernsteinといった(英語だとAmber(琥珀)の意)ので、その変異体には「Forever Amber」と名が付けられた。のちにその変異体の変異の原因は、ある終止コドンが原因とわかった。そういうわけでその終止コドンには「amber」と名が付いた次第。で、残り2つの終止コドンにもだったらということでキラキラネームが付きましたとさ。

wikipediaの「終止コドン」の項
「源流を遡る」 第1回 – コーヒーブレイク | 東洋紡バイオテクサポート事業部

アウストラロピテクスの有名な化石標本「ルーシー」は、調査作業中にかかっていた曲がビートルズの「Lucy in the Sky with Diamonds」だったからとか。

wikipediaの「ルーシー (アウストラロピテクス)」の項

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