この小説は手記の形態をとっている。そしてこの手記は次の書き出しで始まる。
プロチェゴヴィーナ公国のレンブラントと称せられる画家アヤクス・マズュルカ――美術史上最大の意義をになう人物のひとりとされているこの巨匠は、実はかつて実際にこの世に存在したことはない。彼の作品は後世の偽作であり、彼の評伝は虚構である。
手記には、黒幕の贋作画家ローベルトおじの壮大な企ての全貌と、国境紛争に巻き込まれて若くして死んだこととされ悲劇の英雄画家に祭り上げられてしまう私の数奇なる運命が描かれる。この手記は、一連の出来事の裏側を告白しているものであるが、決して不正を告発しているわけではない。そのためか、そこはかとなくうさん臭くてどこまでがホントのことなの?っていう感じを醸しているのもおもしろい。全体を通してちょっとした喜劇である。真贋評論や芸術論をもてあそび、またそれに翻弄される人間のバカバカしさを巧妙に描いている。
■ 詐欺師の楽園(白水Uブックス)[ヴォルフガング・ヒルデスハイマー/小島 衛]
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