小説「薔薇の名前」の作者ウンベルト・エーコが、10数年にわたって行った講演録。邦題は「世界文明」と題しているが、基本的にはいわゆる西洋の話題(2例ほど東洋の話も出てくるが、そのうちの一つは谷崎潤一郎)。
目次(扱っているテーマ)は次の通り
- 巨人の肩に乗って
- 美しさ
- 醜さ
- 絶対と相対
- 炎は美しい
- 見えないもの
- パラドックスとアフォリズム
- 間違いを言うこと、嘘をつくこと、偽造すること
- 芸術における不完全のかたちについて
- 秘密についてのいくらかの啓示
- 陰謀
- 聖なるものの表象
小説家であると同時に記号論学者でもあるので、抽象的なテーマでもそこに具体的な事例を結び付けて、豊富な例とともに紹介してくれる。テーマは美学芸術文学哲学の歴史を踏まえたものだが、講義中に出てくる例は映画やエンターテイメント小説にまでおよび、飽きることがない。話に関連する絵画や彫刻の写真がふんだんに盛り込まれ(実際の講義ではスライドで映し出されたのだろうか?)、言葉だけではわかりにくい説明も可視化されて非常に興味深い。
こういう知的で丁寧な論の運びに触れることができるととても安心する。
■ ウンベルト・エーコの世界文明講義[ウンベルト・エーコ/和田 忠彦]
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参考
■ wikipediaの「薔薇の名前」の項
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