子どものころから科学が好きだった著者は、新聞社の科学記者として科学を伝える仕事をしてきた。そして二〇一五年、科学の新たな地平を切り開いてきたアメリカで、特派員として心躍る科学取材を始めた。米航空宇宙局(NASA)の宇宙開発など、科学技術の最先端に触れることはできたものの、そこで実感したのは、意外なほどに広がる「科学への不信」だった。「人は科学的に考えることがもともと苦手なのではないか」-。全米各地に取材に出かけ、人々の声に耳を傾けていくと、地球温暖化への根強い疑問や信仰に基づく進化論への反発の声があちこちで聞かれた。その背景に何があるのか。先進各国に共通する「科学と社会を巡る不協和音」という課題を描く。
トランプ大統領の誕生によって生まれた「もう一つの事実(alternative facts)」という意味不明な言い回しにより、事実や科学的見解が退けられることが顕著になったアメリカ。本作品で中心的に取り上げている話題は2つ。地球温暖化問題と創造論。科学的とはいい難い発想について、かつては「正しい知識がないから、科学的に振る舞えない」といった考え方が主流だったが、現在はそればかりとは限らないとされる。知識の有無に関係なくむしろ所属する(共感する)集団の考え方を受け入れやすいのだ。ヒトは直感的にわかりやすい経験に基づくものの見方に馴染むが、常に合理的な考え方をする(受け入れる)わけではないということなのだ。各種調査報告や、創造論を信じる人々や科学が衰退することに危機感を抱く人々へのインタビューを交えてアメリカの現状を描く。
「創造論を信じるのは個人の自由だが、学校の理科教育は科学を教えるのが目的だ。(略)理科の授業で創造論を教えるべきではない。」
創造論を信じる人たちは別に狂信者というわけではなく、ごくごく普通な感じの人たちだということがわかる。またトランプ大統領を支持する人たちも、熱狂的支持者というわけではなく、それぞれの生活基盤の状況から支持した普通の人たちだということがわかる。無知蒙昧な民でもないし、狂信的熱狂者というわけでもないのだ。これが伝わってくるインタビューにこそこの本の価値があるのかも。
科学に対して現在のアメリカの市井の人が何を考えどう対処しているのかという状況を知る入門用としては分かりやすいが、とはいえ、特に新しい話が出てくるわけではないし浅い。ジャーナリストとして各方面でインタビューを真摯に行っている点は素晴らしいと思うけれども、新書というわかりやすさと量の制限からか一言コメント並みの紹介しかできていないのは残念。
■ ルポ 人は科学が苦手(光文社新書)[三井誠]
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