米原万理さらに

心臓に毛が生えている理由
短編エッセイ集。考えさせられるものが多い。母親をおくる言葉がいい。

「読書感想文」なるもの

「読書感想文」ってあれはなんなんだろうね。読書をしたという証拠として集めているだけのもののような気がする。かえって読書嫌いを増やす原因になってんじゃないのかなぁ。本を読むことは楽しいし面白いってことを経験させるだけでいいのに、わざわざ何を書けばいいのか分からない「感想文」なるものを要求しているんだよ?「感想文」ってなんだよ。そんな曖昧模糊とした書き物を求めるなんて愚の骨頂だよ。本を読んでおもしろい経験をしたのなら、その本を他の人に勧める文章を書いてごらんって感じならわからなくもないけれども。そもそも、押し付けられただけで面白いと思わなかった本の感想を書けといわれたって「つまらない」しかないじゃん。

米原万里再読その3

■他諺の空似~ことわざ人類学
世界各国に似た意味をあらわすことわざがあるという羅列的な本書だけれども、そこから人間の生きざまを見出す試み。でもとりわけ面白いのは、そのことわざを紹介するための前座の小話や、政治批判。前者は米原が得意とする上質の下ネタ話、後者は2000年代前半の小泉政権によるアメリカ追従で国民のことをまったく考えていないでたらめぶりを痛快に突くもの。政治の話なのに時事問題につきものの古臭さというものがないということは、今現在もちっとも変ってないということか。なにせ、当時の幹事長が安倍氏なのだからさもありなん。

米原万里を再読中その2

■「パンツの面目ふんどしの沽券」
パンツやふんどしをはじめとする下着にまつわるエッセイ集。たかが下着にいかに人はこだわってきたかを楽しめる読み物としてまとめてある。学術書ではないので深みはまったくないけれども、雑多な文献の引用とそれにまつわる米原氏の軽妙なコメントで文化人類学入門としてはおもしろく読める。
次の二点が重要
・性器は恥ずかしいから隠すのではなく、隠すようになったから恥ずかしいと言う感情が生まれた
・騎馬民族は馬に乗りやすい衣装としてズボンを発明したのではなく、ズボンというものをはくようになったから、騎馬という行動が生まれた
さきにパンツありき。

米原万里を再読中

去年は米原万里没後10年でフェアをしていたんだけれども、著作が電子化されていたので、再読。ほぼ完全に内容を覚えていなかったので、初見のように面白く再読できた。自分の記憶力のなさにもびっくり。とりあえずまずは3冊読んでみた。
■「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」
冷戦中の「ソビエト学校」の同級生だった3人の友達を、ソ連崩壊後に探し尋ねる3つのエピソード。どの話も構成がうまくて見事。とりわけ、タイトルにもなっているアーニャのエピソードが深く考えさせられておもしろい。タイトルに含まれる「真っ赤」はドップリ浸かった「共産主義思想」のことでもあり、建前でしか生きていけない、建前であることさえわからなくなってしまう人生に対する作者の思いの複雑さは考えさせられる。
■「魔女の1ダース─正義と常識に冷や水を浴びせる13章」
祖国、郷土、言語を愛するとはどういうことなのか。さまざまな立場の人と自己を相対化することによって見出すことのできる価値の重要性。「チン・ボコ」を連呼するエピソードや「ヤキマンコ通り」のエピソードが自分の中でずっと引っかかっていたんだけれども、この本で読んだのか。
■「不実な美女か貞淑な醜女か」
「通訳」とはどんなものかをこんなにおもしろくわかりやすく、しかも具体的な例を引いて表したものが他にあろうか。とりわけ失敗談はやっぱりおもしろい。最近やたらAIが騒がれているけれども、自動通訳(翻訳)はまだまだ当分無理だろうな。