読了:皇帝フリードリッヒ二世の生涯【電子書籍】[ 塩野七生 ]



塩野はその著書「ルネサンスとは何であったのか」において、ルネサンスの先駆けは聖フランチェスコとフリードリッヒ2世だと述べている。なぜ神聖ローマ帝国皇帝フリードリッヒ2世がルネサンスの先駆けと考えられるのか、本書ではフリードリッヒ2世の生涯を描く。キリスト教が絶大な力を持った中世半ば、ローマ法王インノケンティウス3世は「法王は太陽、皇帝は月」と主張するのに対して、フリードリッヒ2世はキリストの言葉「カエサルのものはカエサルに、神のものは神に」(カエサルとは皇帝のこと)に帰って政教分離を目指しローマ法王と対立した。フリードリッヒ2世がそのような考えを持った背景、どのような統治を目指してどのような施策を行ったのか、そして死後に彼の属すホーウェンシュタイン家は没落したが、確実にルネサンスへの向かう様子が描かれる(ルネサンスが大輪の花を咲かせるのはこの約200年後)。ローマ教皇庁が中世の代名詞ともいえる異端裁判所を開設したのもフリードリッヒ2世に対抗してのものというのが非常に面白い。中世のど真ん中、十字軍時代、ルネサンスに向かう動きが芽生えたときに、悪名高き異端裁判所も開設されたのだ。

皇帝フリードリッヒ二世の生涯(上)【電子書籍】[ 塩野七生 ]
皇帝フリードリッヒ二世の生涯(下)【電子書籍】[ 塩野七生 ]

読了:量子力学の世界 はじめて学ぶ人のために【電子書籍】[ 片山泰久 ]



20世紀に発展した科学分野の一つが量子力学。その入門書。量子力学とは何かを数字や式を使わずに概要を紹介する良書。著者は1978年没で本書は1967年刊行なのでもう50年前の本だ。実際本書では素粒子という概念の登場あたりで終わっており、量子力学の新しい知見は当時より格段に広がっている。量子力学が20世紀に広がったとはいえ、それまでにも知られていた現象を説明できるようになり、さらに新しい見方ができるようになったということを踏まえて、量子力学を通して科学の意義を問う姿勢は非常に共感できる。

量子力学の世界 はじめて学ぶ人のために【電子書籍】[ 片山泰久 ]

読了:居酒屋の世界史【電子書籍】[ 下田淳 ]



「はじめに」にあるように本当に「つまみ読み」(著者自身は「つまみ飲み」と表す)以上のものではない。居酒屋に関する文献の断片紹介。著者の専門がドイツ史であるためか、主にヨーロッパ社会を居酒屋というものを通して覗いてみるという意図があるのであろうが、いかんせん内容が薄い。居酒屋を「金銭の見返りに酒類を提供する営業空間」と定義し、論展開のキーワードとして「農村への貨幣経済の浸透」「居酒屋の多機能性」「棲み分け」をあげる。ここにおいて狭義の「居酒屋」というものを定義したのに、本文中では一般的な広義の「居酒屋」とごっちゃに扱っている点はいただけない。たとえば、ヨーロッパ中近世を居酒屋の最盛期、ヨーロッパ近現代を居酒屋の衰退期と題しておきながら、19世紀フランスの居酒屋(広義)の軒数が多いことで「居酒屋天国」と表すなど。一文が短いので勢いよくポンポン読めるので居酒屋の歴史概要を知るにはいいかも。雑学書というべきで学術書的な内容を期待すると期待外れ。

居酒屋の世界史【電子書籍】[ 下田淳 ]

読了:神の代理人 (新潮文庫) [ 塩野七生 ]



イタリア・ルネサンス期の4人のローマ法王、ピオ2世、アレッサンドロ6世、ジュリオ2世、レオーネ10世を取り上げた作品。中世が明けたルネサンス期、それでもキリスト教の頂点に立つローマ法王の権威はどれほどのものだったのか、決して聖なるものだけではない人間臭さをもつ人物像が描かれる。おもしろいのは、連続する法王なのに考え方や態度がそれぞれにまったく違うということ。塩野はこれら4人の法王をそれぞれ別の記述体で描く。とりわけよかったのは、アレッサンドロ6世とフィレンツェの修道士サヴォナローラの対立を、時系列に並べた文献のみで描いた章(ただし文献のうちの1つは塩野の創作)。

神の代理人 (新潮文庫) [ 塩野七生 ]

読了:遺伝子ー親密なる人類史ー 【電子書籍】[ シッダールタ ムカジー ]



 全編にわたり何度か登場する著者の家族のエピソードが、実は身近な遺伝子という思いを強くする。

 上巻は、19世紀後半ダーウィンの進化論とメンデルの実験から始まって、現在の遺伝子組み換え技術に至る、遺伝子の正体を明らかにしていく生物史。高校生物~大学教養生物で習う内容だけれどもエキサイティングな読み物としてとてもまとまっていて非常に面白い。上巻だけでも読む価値十分にあり。

 下巻は人類遺伝学(ヒトゲノムプロジェクト、遺伝子治療、遺伝子診断)の話題。実際の例をいくつか、どんな患者がどんな経緯でどんな治療を受けて、それにかかわる科学者や医者がどうなったか臨場感あふれる筆致で具体的に描かれていて、すごく面白い。遺伝子組み換えからゲノム編集に向かう中で科学的側面だけでなく、倫理面を含めた社会的側面も無視できなくなってくる現状と未来。

 日本語訳はとても正確でそのうえ丁寧で好感が持てるが、まれに??な訳(語彙レベル)あり。

遺伝子ー親密なる人類史ー 上【電子書籍】[ シッダールタ ムカジー ]
遺伝子ー親密なる人類史ー 下【電子書籍】[ シッダールタ ムカジー ]

読了:沈黙の王 (文春文庫) [ 宮城谷 昌光 ]



中国伝説の夏王朝から、殷(商)王朝、周王朝、春秋戦国時代という古代中国を舞台にした短編集。古代中国の雰囲気を醸す難しい漢字とか表現とかあるけれども(単に自分が中国史に親しんでいないだけではあるが)、それでもわりとすっと読めるところは著者の実力か。

沈黙の王 (文春文庫) [ 宮城谷 昌光 ]

読了:教養としての「ローマ史」の読み方 [ 本村凌二 ]



1200年にわたるローマ史の軽めダイジェスト。「教養としての」とついていることから推察されるように、「ローマはなぜ帝国を築けたのか」「ローマはなぜ衰退したのか」の2点について、ローマ史のエピソードを通じて考察し、現代のわれわれはそれをどう生かしていくかというスタイルで記述されている。よって解釈が常に「現代のわれわれから考えるに」というフィルターがかかっているのだ。ゆえにいかんせん説教臭い。「ローマ史」の読み物としての面白さは塩野七生の「ローマ人の物語」の方が圧倒的に上。もっともそれは塩野七生はあくまでも作家として記述しているわけだし、臨場感があって面白いのは当たり前なんだけど。でもまぁ、教養として知っておくとよい最低限のローマ史の知識はこの本で得られるし、ローマ史の流れをざっと復習するにはお手軽でいいんじゃないかな。

教養としての「ローマ史」の読み方 [ 本村凌二 ]

読了:ゲノムが語る人類全史 [ アダム・ラザフォード ]



ヒトゲノム計画とか一時期流行っていたけれども、じゃ今結局何がどうなったの?ってところをヒト遺伝学を中心に述べたサイエンス啓蒙書。DNAに書かれている情報が全部わかったからと言って、克服された病はまだ一つもないという事実とか、犯罪者遺伝子が判ったとかいう荒唐無稽なことはありえないとか、ゲノム計画で神が意図したもうた計画をお手軽にくみ取れるようになったはずなんて思っていた人には残念な報告かもね。じゃゲノム計画は無駄だったのかというと、全然そんなことはない。分かったことだっていっぱいあって世間に還元されているんだよ。作者がイギリス人ということもあってヨーロッパの話題がダントツに多いのはご愛敬。ポストゲノム時代において適切なサイエンスリテラシーを身に着ける必要があるという警鐘が一番ためになったかも。また脚注が作者の人柄を反映していてすごく面白い。とくにスパイダーマンの下りはニヤッとした。

ゲノムが語る人類全史 [ アダム・ラザフォード ]

読了:フェルマーの最終定理 (新潮文庫) [ サイモン・シン ]



一時期大ブレークした数学ノンフィクションをようやく読んだよ。数論の出来はじめから、フェルマーの予想(彼自身は証明したと言っているが、紙面が足りなくてここには書けないとだけ走り書きを残している)、350年にわたる証明へのチャレンジの歴史、数学者ワイルズによる証明の道のり、そしてフェルマーの最終定理証明後に残されたものは?。モジュラーあたりから証明の詳しいところは分からなくなったけれども、背理法、帰納法といったことさえわかっていれば大筋を見失うこともなく読み進めていける。数学上の証明ってこんなに厳しいものなんだなぁと思うものの、それでもチャレンジせずにはいられないってところが人の人たる所以でもあるんだなぁ。そして多くの日本人数学者の業績もワイルズの証明に寄与してるんだなぁとか思いながら一気に読んだ。

wikipediaの「フェルマーの最終定理」の項

フェルマーの最終定理 (新潮文庫) [ サイモン・シン ]

読了:十字軍物語 (新潮文庫) [ 塩野 七生 ]




抜群に面白かった。そうかぁ、十字軍時代の200年に、地中海の突き当り中近東の海沿いにはキリスト教諸国があったんだなぁ。全然知らなんだ。

昔習ったおぼろげなる世界史の知識でラフが「十字軍」について知っていることすべて

■イスラムの勢力拡大に危機感を感じたビザンツ帝国皇帝からの応援要請を受け、ローマ教皇が呼びかけた中世ヨーロッパの聖地奪還運動。イェルサレムは奪還したもののすぐに奪い返されている。第4次十字軍はあろうことかビザンツ帝国の首都コンスタンティノープルを陥落させる。結局はうまくいかなかった宗教運動。

こんなくらいしか知らなかったんだよ。ドラマにしても映画にしても文学にしても、とにかくモチーフにされることの多い十字軍の歴史を、塩野七生がまとめてくれたんだから面白くないわけがない。

説き起こしは、「カノッサの屈辱」から。第1巻は第1次十字軍を中心に、中近東におけるキリスト教諸国の起こりと聖地イェルサレムの奪還。第2巻は、大した成果はなかった第2次十字軍をちょろっと述べるが、基本的にはその前後のキリスト教諸国の出来事を。第3巻では第3次十字軍から第8次十字軍までと十字軍後日譚。そして締めくくりは「アヴィニョン捕囚」。「カノッサの屈辱」から「アヴィニョン捕集」と教皇権の絶頂から衰退までが、十字軍の歴史を包含している。十字軍の失敗がローマ法王の権力の失墜を招いたわけではなく、十字軍はヨーロッパの世俗の諸侯や王たちのパワーバランスを崩してしまったことで、教皇の権力の失墜を招いたと述べる点は納得。

また、イスラム側の状況もきちんと追ってくれているので、アイユーブ朝、マムルーク朝の勃興が十字軍と密接にかかわっている点を改めて認識できた点は、感動的ですらあった。

十字軍物語 第一巻 神がそれを望んでおられる (新潮文庫) [ 塩野 七生 ]
十字軍物語 第二巻 イスラムの反撃 (新潮文庫) [ 塩野 七生 ]
十字軍物語 第三巻 獅子心王リチャード (新潮文庫) [ 塩野 七生 ]
十字軍物語 第四巻 十字軍の黄昏 (新潮文庫) [ 塩野 七生 ]