読了:きみと暮らせば(徳間文庫)[八木沢里志]

きみと暮らせば

きみと暮らせば

  • 作者:八木沢里志
  • 出版社:徳間書店
  • 発売日: 2015年12月03日頃

十年前、陽一の母とユカリの父が結婚し、二人は兄妹になったが、五年前に両親は他界。中三のユカリは義母のレシピ帳を参考に料理し、陽一は仕事で生活費を稼ぎ、支えあいながらの二人暮らし。ある日、庭先に猫が現れる。二人は猫を飼い主らしき人へ届けに行くのだがー。のんびり屋の兄と、しっかり者の妹が織りなす、陽の光差すような、猫もまどろむほのぼのあったかストーリー。

親同士の再婚で兄妹になった陽一とユカリ。5年前にその両親を事故で亡くしてからは兄妹の二人暮らし。26歳の兄と中3で受験生の妹、そして新しく家族となったネコの種田さん。何気ない一年間の暮しぶりをのほほんと描く。のんびり屋の兄は兄なりに妹を引き取ったことの責任に悩み、妹は実の母親と会ったりもするが、最終的には今の何気ない日常を2人で続けていく幸せを選ぶ。いつかは別々の生活をしていくことにはなるだろうその日まで……

悪くはないが、とりとめのない平和な日常の連続で、個人的にはちょっと退屈。もうちょっと刺激が欲しかった。とりたてて大事件が起こるわけではない、のほほんとした読み物を求めている時にはちょうどいいかも。

きみと暮らば(徳間文庫)[八木沢里志]
きみと暮らせば(きみと暮らせば)[八木沢里志]【電子書籍】

読了:ボーイミーツガールの極端なもの[山崎ナオコーラ/小田康平]

ボーイミーツガールの極端なもの

ボーイミーツガールの極端なもの

  • 作者:山崎ナオコーラ/小田康平
  • 出版社:イースト・プレス
  • 発売日: 2015年04月

“恋愛は苦手だけど、恋愛小説は好き”なあなたに贈る、心に柔らかい刺を残す連作短編小説集。人気多肉植物店「叢」のサボテン×山崎ナオコーラのラブストーリー。

処女のおばあさん/野球選手の妻になりたい/誰にでもかんむりがある/恋人は松田聖子/「さようなら」を言ったことがない/山と薔薇の日々/付き添いがいないとテレビに出られないアイドル/ガールミーツガール/絶対的な恋なんてない

様々な恋の形を描いた連作短編集。すべての作品にサボテンが1種ずつ登場する。ストーリーの前にそのサボテンの写真と生態の紹介がある。入鹿君の話は悲劇だけれども、概してつかみどころのない「恋」をつかみどころなく、結末を描き切らないところがおもしろい(他の話で後日譚が明かされるものもあり)。でもそれがとてもいいのだ。どうなったのかを慮る幸せを感じられる。

ボーイミーツガールの極端なもの[山崎ナオコーラ/小田康平]
ボーイミーツガールの極端なもの(ボーイミーツガールの極端なもの)[山崎ナオコーラ]【電子書籍】

読了:昨日の海は[近藤史恵]

昨日の海は

昨日の海は

  • 作者:近藤史恵
  • 出版社:PHP研究所
  • 発売日: 2015年07月17日頃

いつも通りの夏のはずだった。その事件のことを知るまでは…25年前の祖父母の心中事件に隠された秘密とは。残された写真、歪んだ記憶、小さな嘘…。海辺の町を舞台とした切なくてさわやかな青春ミステリー。

光介は四国の太平洋側に面した田舎に暮らす高校1年生。夏休みに今まで存在さえ聞かされたことのない母の姉が8歳の娘を連れて東京から帰ってきた。母姉妹の父母(光介の母方の祖父母)は、光介が生まれる前に借金を苦にして心中したという。母はそのことに触れたがらないが、母の姉はこの地に暮らすのであるからとその事件の真相を解明しようとする。ただの心中ではなくどうやら無理心中であったようなのだ。心中であれば母姉妹は親(祖父母)に捨てられたことになるが、無理心中であればどちらかは姉妹を捨てたわけではないことになる。母の姉から話を聞き、光介自身も祖父母の今まで知られていなかった過去を調べていくと……。

太平洋に面した四国っていったら高知県だよね?高校生の主人公が東京にまで自分の祖父母の情報を訪ねていくとか、進路に悩む話とか若干設定に「海がきこえる」臭がした。前途はまだわからないけれども前向きで素直な主人公による、さわやか健全なストーリーなので安心して読める。

wikipediaの「海がきこえる」の項

昨日の海は[近藤史恵]
昨日の海は[近藤史恵]【電子書籍】

読了:彼女は頭が悪いから[姫野 カオルコ]

彼女は頭が悪いから

彼女は頭が悪いから

  • 作者:姫野 カオルコ
  • 出版社:文藝春秋
  • 発売日: 2018年07月20日頃

横浜市郊外のごくふつうの家庭で育ち女子大に進学した神立美咲。渋谷区広尾の申し分のない環境で育ち、東京大学理科1類に進学した竹内つばさ。ふたりが出会い、ひと目で恋に落ちたはずだった。渦巻く人々の妬み、劣等感、格差意識。そして事件は起こった…。これは彼女と彼らの、そして私たちの物語である。

4,5月の新学期シーズンになると渋谷に東大の学生証をちらつかせてナンパをする輩が現れる──という都市伝説的笑い話が、かつてあった。

本作品は男子東大生による女子大生に対する集団わいせつ事件に着想を得たフィクション。直木賞作家でもある著者としては問題提起も込めて発表したと思うのだが、一部で激しい議論を呼んだ。東大ではこの作品について著者を招いてのシンポジウムまで開かれるという問題作になった。当時のシンポジウムの様子を記事で読むと、多くの東大関係者には作品中の東大生の描き方にリアリティがないと感じられたようだ(かなり否定的な意見が多かったようだ)。一方で著者はあくまでもフィクションであり「東大」や「東大生」そのものを貶める意図はないことをおっしゃっていた。むしろこういう風に問題になったことに著者自身が当惑している感じでまとめられていたように思う。

以下いくつか書評を紹介しておく。

東大OGが『彼女は頭が悪いから』を読んで思うこと。私たちも「クソ東大生」と同じ穴の狢かもしれない | DRESS [ドレス]
僕は頭がいいけれど…東大生が抱く「彼女は頭が悪いから」への違和感|好書好日
「彼女は頭が悪いから」読了感想と考察。|Randy|note
女子大生の服を脱がせて叩き……「東大わいせつ事件」に着想を得たエグい本 | 文春オンライン
書評:「彼女は頭が悪いから」 姫野カオルコ・著 : タイム・コンサルタントの日誌から
『彼女は頭が悪いから』姫野カオルコ(書評): trivialities & realities

確かに、実名で登場する他の大学の学生の描き方に比べると、5人の東大生は具体的に描くことで「東大生とはこういうものだ」という十把一絡げ的な扱いだなぁという印象は読んでいても感じた(この著者は何か東大に対してルサンチマンを抱えているのか?と勘繰りたくなるほど)。この作品が議論を呼んだのはそこなんじゃないかな。明らかに東大を指してはいるけれども架空の大学名を使った方が、フィクションとして登場人物のリアリティが増して説得力を持ったんじゃないか?ルポルタージュではないのだから、人間性を描く小説においてこれは失敗だと思う。しかし著者としては「東大」というブランドというか記号(実際に作品中でもあえて「『todai』の音」と書いていたりする)が持つ威力を利用することで作品の説得力が増すと考えた次第だとは思うが。そうはいってもフィクションの力をもっと信用してよかったのでは?それが作家の力量でもあると思う。

読後が非常に不快になる強烈な作品ではあるが、被害者の神立美咲の大学学部長が彼女に寄り添ってくれた点には救いがある。

彼女は頭が悪いから[姫野 カオルコ]
彼女は頭が悪いから[姫野カオルコ]【電子書籍】

師走の厠で夜中に僕は……

夜中に便意を催して目が覚める。いそいそとトイレに駆け込み、ものを排泄する。滝のような液体だった。まだ出るんかい、このままやと俺ひからびてまうで、というくらいおっちんしてましたよ。しかも出し切ったような、でもまだ何か残っているような不穏なおなか具合でしばらくベッドに戻れず。緊急事態だったので何も準備していない。師走の冷え切った深夜の底、僕はトイレで凍えていたのであった。(便座を温かくするような仕組みは導入していない)

そういえば、さるネットアンケート調査では、今やトイレにウォシュレットは多くの人に望まれているようだが、うちにはまだついていない。この後、ウォシュレットではない本物のシャワーに出向きわざわざキレイキレイしたのは言うまでもない。本当はウォシュレットを設置したいのはやまやまなのだが……(<すればいいじゃん)。

一問一答 「ご自宅のトイレはどのタイプですか?」結果|キューモニター アンケートモニター募集中

読了:だめだし日本語論[橋本 治/橋爪 大三郎]

だめだし日本語論

だめだし日本語論

  • 作者:橋本 治/橋爪 大三郎
  • 出版社:太田出版
  • 発売日: 2017年06月08日頃

日本語は、そもそも文字を持たなかった日本人が、いい加減に漢字を使うところから始まったー成り行き任せ、混沌だらけの日本語の謎に挑みながら、日本人の本質にまで迫る。あっけに取られるほど手ごわくて、面白い日本語論。

日本語のできあがり方ー鎌倉時代まで(文字を持たなかった日本人/日本語のDNA螺旋構造/外国に説明できない日本史/学問に向かない日本語/日本語は「意味の言葉」ではない ほか)/日本語の壊し方ー室町以後(幽霊が主役の能/江戸の印刷文化/武士が歴史をつくらなかったから天皇制につながった/漢字とナショナリズム)

多くの古典を独自の現代語に訳してきた経験を持つ作家の橋本治と、社会学者の橋爪大三郎による「日本語の歴史」を題材にした座談会(この二人は大学の同級生)。日本語の専門家(研究者)でない二人がそれぞれに日本語とはどんなものかを文学史とからめて話していくので雑談的要素も多く楽しく読める。写本の写真も多く掲載されていて、文だけでなく目で見てもその歴史を追うことができる。ひらがなカタカナについての言及はもちろん、多くの古典文学作品だけではなく、大衆芸能にまで幅広く話題が及ぶ。いやぁ読みやすいうえに刺激的で面白かった。後半に述べられる室町時代にいったん崩壊した日本語が江戸時代に再構築されていく下りもなかなか。

正しく美しい日本語の正解なんてものはなくて、現在の日本語だって決して完成されたものではない、日本語の歴史だって決して1本道だったわけでもないという前提で話は進められていくのだが、最後に二人の意見はちょっと分かれる。あいまいでいい加減な日本語をそのまま受容してそれでいいんだよと言いたい橋本治と、「したり顔でいい加減な日本語を使う輩」をなんとかしたいために日本語をある程度体系立てた方がよいと考える橋爪大三郎。個人的には橋本治に賛同。

【バーゲン本】だめだし日本語論(atプラス叢書)[橋本 治 他]
だめだし日本語論[橋本 治/橋爪 大三郎]
だめだし日本語論[橋本治/橋爪大三郎]【電子書籍】

かつての中学英語教科書「New Horizon」にあったアヴァンギャルドな単語

Rと話をしていて「盲腸」(今は「虫垂炎」というのが普通?)の話になったんだけれども、「そういえば盲腸って appendicitis だっけね」とか言ったら、「なんでそんな難しい単語知ってるの?」と驚かれた(Rはめっちゃ英語が得意)。「え?中学の時に習ったよ。「New Horizon」(英語の教科書)に載ってたよ。確か登場人物が盲腸で入院して友達がお見舞いに行くの」と続けたら、「中学生が入院するなら骨折でいいじゃん、なんでわざわざ appendicitis なの?それなんか違う教科書「Neo Horizon」とかじゃないの?」とか言われた。いや、普通の公立中学校の普通の英語の教科書に出てきたんだよ。

なので、中学英語の appendicitis の思い出をキーワードにネットを探ってみたら、いくつか出てきたよ。

●NEW HORIZONで中学英語を習ったゲイ●(#229参照)
タバコケース | せんせいのブログ
【人生初】入院しました。 | KAWANAMI NAMIWO OFFICIAL

ほら、やっぱりあったじゃん。ホントに載っていたんだよ。そうか、入院していたのはバーバラさんだったのか。そこまでは覚えていなかったな。ちなみにその単元で学習すべきフレーズは「Thank you for coming.(お見舞いありがとう)」だった。

読了:デッドエンドの思い出(文春文庫)[よしもと ばなな]

デッドエンドの思い出

デッドエンドの思い出

  • 作者:よしもと ばなな
  • 出版社:文藝春秋
  • 発売日: 2006年07月07日頃

つらくて、どれほど切なくても、幸せはふいに訪れる。かけがえのない祝福の瞬間を鮮やかに描き、心の中の宝物を蘇らせてくれる珠玉の短篇集。

幽霊の家/「おかあさーん!」/あったかくなんかない/ともちゃんの幸せ/デッドエンドの思い出

久々によしもとばななを手に取ってみた。あぁそうだった、この人は、なんとなくさみしいとか、なんとなくもやもやするとか、なんか心に引っかかるんだよってものを、きっちり書き込むことができる人だった。だからこそそのもやもやを抱えた読者は誰もが「そうそう!!」と共感をよぶんだよね。よしもとばななの見事さはその心の不安定さを言語化できるところなのだと思う。今回の短編集はどれもドラマティックな出来事は起こらないんだけれども、それを日常のとらえどころのない気持ちと絡めてさらっとまとめる。うそ、本当はとんでもないことも起こっているんだけれども、それをさも日常の一場面として(主に回想が多いけど)取り込んでしまうのだ。生きていく上での ambiguity な心持ちをそれでもいいんだよと肯定的に受け止めてくれる、そんなやさしさにあふれた短編集。

それでは、何カ所か特に鼻についた「ばなな臭」をお楽しみください。

これはもう、セックスしてもいいの? いいよ、というやりとりと何も違わないことを、私たちはわかっていたと思う。ちょっとした悲しみの中で。
(「幽霊の家」より)

秋の空は透明な色をしていて、景色と溶け合うところまですうっと澄んでいて、どこまでもあいまいで、はっきりした感じが何もなくて、宙ぶらりんな私を優しくなぐさめた。
(「デッドエンドの思い出」より)

きゅうと追い詰められたような気持ちは抜けていなかった。それでも「今しかない、今から目をそらしたら悲しくなってしまうから」とせっぱつまっているこの日々は、どうしてだか、まさにそれゆえに奇妙に幸せだった。
(「デッドエンドの思い出」より)

デッドエンドの思い出(文春文庫)[よしもと ばなな]
デッドエンドの思い出[よしもとばなな]【電子書籍】

「円周率はおよそ3」

ゆとり世代に対して「円周率は3って習ったんでしょ?」といって揶揄することがまま聞かれたが、実際のところゆとり教育時代の教科書には「円周率はおよそ3」と記述してあったはず。まぁ中学生以降は数学においてはこの無理数はわざわざ計算する必要はなく π のままで放っておいていいわけですが。実際にどのくらいの値になるかって時に、まぁ3倍よりちょっと大きいくらい程度でよいかと。

ところで「円周率って何(=どういう意味を持つ値)?」って聞かれたら、ゆとりをバカにしている人でも(むしろそういう人に限って?)ちゃんと答えられる人って少ないんじゃない?

円周率の定義は「円の直径に対する円周の長さの比率」。つまり直径(diamiter)を円周率(π)という定数倍すると円周の長さが求められる。この関係は古代から知られていてこの倍率のことを円周率と呼んでいたわけです。大事なことは、その値がいくつなのかということよりも(いやそれはそれで魅力ある値なんだけれども)、その値の意味を知っているか?ということなんですよ。

面接官「円周率の定義を説明してください」……できる?

いわゆる比例の式というのは
y = kx (k は比例定数)
という関係式なのだけれども、y が円周の長さ、x が直径とすると、k の比例定数が π で置き換えられて
l(円周長:length) = πd(直径:diamiter)
もちろん、直径(diameter)は半径(radius)の2倍なので、d=2r です。そこで上記式を r を使って書き替えると。
l(円周長) = 2πr(半径:radius)
これが円周長を求める公式。

以下は余禄:
この円周長の公式を r で積分すると円の面積の公式。
S(面積:surface area, sum…) = πr2
小中学生は微分積分という道具は習っていないので、円を扇形の断片に切り分けてそれらを長方形に近くなるように互い違いに並び変えて面積に近い値を長方形の面積として求める方法で説明されることが多いかな。この扇形の中心角をどんどん小さくして細い扇形にして数を増やしていけばいくほど並び替えた図形はより長方形に近くなっていき、長方形の面積の公式
S = (縦の長さ: r ) x (横の長さ πr )
になる(言うまでもなくこれは証明ではなくあくまでも説明であり、これを実際に計算でできるのが積分)。

当然、この円の面積の公式を r で微分すれば円周長の公式に戻ります。

ちなみに球の表面積は円の面積の4倍(説明は後掲の動画を参照ください)。
S = 4πr2
これを積分すると球の体積の公式になります。
V(体積:Volume) = 4/3πr3

まぁ、微分とは何か?積分とは何か?それと長さ、面積、体積の関係がなぜ微分積分で求められるのかという議論を今回はすっ飛ばしてますが。

料理面倒くさい人間が「簡単」を謳うレシピを見ての所感

「少ない材料でパパっとできる」を謳ったレシピの第1工程が「大根は皮をむき、千切りにする」だった。料理面倒くさい人間にとっては、この時点で「パパっ」ではない。最初から挫折する。第2工程は「塩をまぶして塩もみし、5分ほどおいたら水切りをする」。実際に手を動かすことは少ないかもしれないが、ラフ的にはやはり「パパっ」ではない。

レシピ検索をする際に、結構な頻度でキーワードに「簡単」を入れているが、検索結果に出てくるレシピが本当に簡単だと思えたものは少ない。レシピで謳われる「簡単」とは、料理するのを面倒だとは思わない人基準なのではなかろうか。ラフはものぐさ人間なのである。食事はおいしいものを食べたいとは思うが、おいしく食べられるならそっちがいいという程度で、おいしくするための手間がやはり面倒くさいのである。あぁ心の貧しい生活……。