先ごろ読んだ「サピエンス全史」が面白かったので、今度は関連書籍として紹介された「人体600万年史」を通読。前者は歴史学者が哲学方面に進むのに対して、後者は人類進化学者が科学方面に進む。とにかく引用文献やコメントが豊富で(上下巻ともその3割は引用文献や注釈、1割が索引)、文献に裏打ちされた最新の人類進化史として読み応え抜群。
600万年前と言うのはわれわれの祖先が二足歩行をはじめたと推定される頃。もちろんホモ属はまだ誕生していない。そこから人類史を進化の面から詳述する上巻と、農業開始にともないこれまでの進化が引き起こした不具合のメカニズムとその対処法を検討する下巻。人類の歴史の多くの時間は狩猟採集民であり、農業を始めたのはほんの最近のこと。なので、狩猟採集民として進化してきたことが、農業の開始によりいろいろ不具合となって現れてきた(著者はこれを「ミスマッチ病」と呼ぶ)。進化は現在でも止まっていないためこれらのミスマッチ病が人類の進化に対して負の効果となってしまう(著者はこれは「ディスエボリューション」と呼ぶ)。多くの病気は産業革命を通した衛生面の改善や医療の進歩により克服されたが、「偏平足」「肥満」「骨粗しょう症」「親知らず」といった不具合(ミスマッチ病)は現在の文明生活習慣では克服は見込めない。人類はこのままディスエボリューションを受け入れるしかないのか?著者は現状の生活習慣は否定しないが、それでもなぜそういう不具合が起こるのかを子供には教育していくことの重要性を説く。
久々に、理路整然としていながらもわくわくできる概説ものを読んだ気がする。おすすめです。
■ 人体六〇〇万年史 上 科学が明かす進化・健康・疾病 (ハヤカワ文庫NF) [ ダニエル・E・リーバーマン ]
■ 人体六〇〇万年史 下 科学が明かす進化・健康・疾病 (ハヤカワ文庫NF) [ ダニエル・E・リーバーマン ]
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