読了:知ってるつもり 無知の科学[スティーブン・スローマン/フィリップ・ファーンバック]

インターネット検索しただけで、わかった気になりがち。極端な政治思想の持ち主ほど、政策の中身を理解していない。多くの学生は文章を正しく読めていないが、そのことに気づいていない。人はなぜ、自らの理解度を過大評価してしまうのか?それにもかかわらず、私たちが高度な文明社会を営めるのはなぜか?気鋭の認知科学者コンビが行動経済学から人工知能まで各分野の研究成果を総動員して、人間の「知ってるつもり」の正体と、知性の本質に挑む。思考停止したくないすべての人必読のノンフィクション。

上の紹介には「ノンフィクション」とあるけれども、どちらかというと認知科学者による「集団認知」に関する科学啓蒙書(ただしとても分かりやすく読みやすい)。認知科学に基づいた調査(バカみたいなメディアによる世論調査とは一線を画す)実験・研究を踏まえた内容。人はいかにものを知っているつもりになっているかを明らかにした調査報告や、なぜ人は物事を知っているつもりになってしまうかを人類の進化を交えて考察する前半。その結果現代人が直面している科学・政治・生き方においてどういう有様になっているかを紹介し、「集団認知」(コミュニティとして持つ知恵)をどういかしていけばいいのかを示唆する後半。

人類は自分だけの知識でなく、他人の知識をも共有し、それをシームレスに活用して集団生活(コミュニティ)できるように進化してきたとも言える。生きていくうえで必要な世界にある情報はあまりにも多すぎて個人レベルではどうにもならない。だから様々な分野の専門家をうまく頼り(ただし騙されないように)、またそのためには集団内に多様な人材をそろえておいたほうがいいよねって感じ。同質な人間ばかりが集まると集団浅慮ということも起こることがわかっているしね。とかいう話が具体的な調査や例で報告されるので読んでいて面白い(いわゆるイタい話がてんこ盛り)。

「個人の無知を知ったうえで集団としてうまく生きていく」と、そういうまとめで終わるんだけれども、実はあとがきでちょっとブレる。著者のうちの一人が、自分の2人の娘の話をするのだが、そこで一人の娘はそういうことを知っているような沈着冷静でキチンと物事を見据える傾向にあるが、もう一人の娘はそうではなく自由奔放活発で思ったままに行動すると。でどっちがいいのか?当然どっちもいいんだ。前者は本著で述べたようにもちろん好ましいのだが、後者は後者でこれこそが人らしい点でもあり、このことが人類を進歩させてきた原動力ともいえるのだとか言い出す。なんだ、じゃ結局どっちでもいいんじゃん(自分の無知に自覚的であろうと無自覚であろうと)とか思ってしまった(ここはラフの読みが甘いだけかもしれないが)。まぁそうはいっても内容はなかなか面白かったんだけれどもね。

知ってるつもり[スティーブン・スローマン/フィリップ・ファーンバック]
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