読了:オリヴィエ・ベカイユの死/呪われた家(光文社古典新訳文庫)[エミール・ゾラ/国分俊宏]

オリヴィエ・ベカイユの死/呪われた家

オリヴィエ・ベカイユの死/呪われた家

  • 作者:エミール・ゾラ/国分俊宏
  • 出版社:光文社
  • 発売日: 2015年06月11日頃

完全に意識はあるが肉体が動かず、周囲に死んだと思われた男の視点から綴られる「オリヴィエ・ベカイユの死」。新進気鋭の画家とその不器量な妻との奇妙な共犯関係を描いた「スルディス夫人」など、稀代のストーリーテラーとしてのゾラの才能が凝縮された5篇を収録。

オリヴィエ・ベカイユの死/ナンタス/呪われた家ーアンジュリーヌ/シャーブル氏の貝/スルディス夫人

 19世紀後半のフランス自然主義文学の代表作家であるゾラの短編集。ゾラの名前は知っているものの(世界史で「ドレフュス事件」においてドレフュスを擁護したためにイギリスへ亡命した作家として)、1つも作品を読んだことがなかった。フランス自然主義の長編作品はしんどいイメージがあるので(スタンダールの「赤と黒」の影響か?)、短編集なら読めそうだと手に取った次第。

wikipediaの「エミール・ゾラ」の項
wikipediaの「ドレフュス事件」の項

 ゾラは出版社に勤めていたからか批評の仕事も多く、また「食べるために書かなければならない」という若いころの境遇から、自然主義作家に向かったのは当然ともいえる。とりわけ庶民の描き方のリアリティに鬼気迫るものがある。自伝的要素も絡めて描かれた猥雑でありながらも生き生きとした庶民の欲望と生活臭が伝わってくる5作品。どの作品もちゃらちゃらしたハッピーエンドでも陰惨なバッドエンドでもないけれども、確かに人間が生きるってことはこういうことだよと痛感させられるものばかり(あり得ない設定はあっても、さもありなんと思わせる)。

 一番面白かった作品は、エロティックでコミカルな内容でありながら文学作品としての品位を落とさない表現にあふれた「シャーブル氏の貝」。よくある下ネタ笑い話が題材で、オチまでわかっているのに、これをこんな小洒落た作品にまとめあげてしまう力量に感嘆。

 でも本書でラフ的に一番面白かったのは訳者による「解説」だった。ゴメン。

オリヴィエ・ベカイユの死/呪われた家(光文社古典新訳文庫)[エミール・ゾラ/国分俊宏]
オリヴィエ・ベカイユの死/呪われた家~ゾラ傑作短篇集~(オリヴィエ・ベカイユの死~呪われた家~ゾラ傑作短篇集~)[ゾラ]【電子書籍】

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