読了:わたしたちが光の速さで進めないなら[キム・チョヨプ/カン・バンファ]

わたしたちが光の速さで進めないなら

わたしたちが光の速さで進めないなら

  • 作者:キム・チョヨプ/カン・バンファ
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2020年12月03日頃

打ち棄てられたはずの宇宙ステーションで、その老人はなぜ家族の星への船を待ち続けているのか…(「わたしたちが光の速さで進めないなら」)。初出産を控え戸惑うジミンは、記憶を保管する図書館で、疎遠のまま亡くなった母の想いを確かめようとするが…(「館内紛失」)。行方不明になって数十年後、宇宙から帰ってきた祖母が語る、絵を描き続ける異星人とのかけがえのない日々…(「スペクトラム」)。今もっとも韓国の女性たちの共感を集める、新世代作家のデビュー作にしてベストセラー。生きるとは?愛するとは?優しく、どこか懐かしい、心の片隅に残り続けるSF短篇7作。

巡礼者たちはなぜ帰らない/スペクトラム/共生仮説/わたしたちが光の速さで進めないなら/感情の物性/館内紛失/わたしのスペースヒーローについて

韓国発のSF小説集。SFといっても、背景に使われているのがSF的なネタであるというだけで、本質的には人間の物語。どの話もキーを握っているのは女性で、著者の社会的な弱者へのまなざしの温かさを感じさせる点がおもしろい。

「共生仮説」は目の付け所がするどい。細胞内共生仮説といえば元々マーギュリスが提唱したものだが、マーギュリスが女性科学者であるという点も踏まえているんだろうな。

wikipediaの「細胞内共生説」の項

冒頭の「巡礼者たちはなぜ帰らない」が一番おもしろかった。ある穏やかで平和な村では、成人の儀式として宇宙船に乗って「始まりの地」へ巡礼に出かけることになっている。ところが巡礼に出かけた若者は全員がそろって巡礼から帰ってくることはない。「始まりの地」とはどこで、なぜ巡礼から帰ってこない人がいるのか?ディストピアとユートピアは考え方次第の紙一重のものであり、人間は自身の不完全さを受け入れて闘わなければならない、そしてそれこそが人間の存在意義なのかも……。

わたしたちが光の速さで進めないなら[キム・チョヨプ/カン・バンファ]
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