読了:進化の意外な順序[アントニオ・ダマシオ/高橋洋(翻訳家)]

脳と心の理解を主導してきた世界的神経科学者がその理論をさらに深化させ、文化の誕生に至る進化を読み解く独創的な論考。

第1部 生命活動とその調節(ホメオスタシス)
第1章 人間の本性
第2章 比類なき領域
第3章 ホメオスタシス
第4章 単細胞生物から神経系と心へ

第2部 文化的な心の構築
第5章 心の起源
第6章 拡張する心
第7章 アフェクト
第8章 感情の構築
第9章 意識

第3部 文化的な心の働き
第10章 文化について
第11章 医学、不死、そしてアルゴリズム
第12章 人間の本性の今
第13章 進化の意外な順序

神経科学者アントニオ・ダマシオの集大成ともいえる作品らしいが、科学的な見地からまとめられたものではなく、科学の言葉を使った彼の思索である。読んでひどくがっかり。後半の文化文明論と結び付けたあたりは比較的おもしろかったが、でもそれならユヴァル・ノア・ハラリ読む方がいいかな。とにかくやたらと難解な表現に走っていて(わざと?)、「言い換えると」とかいいながらふわっとした気取った文学的表現で例えていてますますわかりにくくなっていたり、「なんじゃこりゃ!!」の連続。

自分のおつむがポンコツなんだろうが、前半で彼が言いたいのはこういうことらしい(自分が何とかくみ取ったのは以下)。

感情や意識といったものは高等な生物である人間にしかないものと思われている。生物進化的に考えてみると、そもそも生物は自己を維持するための代謝活動としてホメオスタシスという機構を太古の細菌の頃から備えている。生命を維持するためには内部環境の異常や外界からの刺激を検知する必要があり、それらに対してホメオスタシスは発動され、刺激物から身を守ったり、原因を避けたり逃げたりという運動を起こす。やがて、生命を脅かすものに対しては不快、生存に適した刺激には快といった、将来的に感情につながるものの萌芽を持つようになる。神経系が発達してくると、自己の内外環境を、統合されたイメージ(視覚情報とは限らない)として知覚するようになり、その認識が意識となる。

「こういう科学的知見があるからこういう仮説を立てられる」とかいう話ではなく、断片的に切り取られた一場面の現象のみを羅列して思索を積み上げていくだけ。うーん、これは科学ではないな。

とにかく一読しただけでは「何をおっしゃっているのかしら?」な難解な表現てんこもりの本書から、とりわけ狼狽した個所の引用をいくつか行ってみる。(それはあくまでもラフの読解力が足りないだけというのは承知の上だ)

治療Aと治療Bによって痛みに対処する場合、あなたは、どちらの治療が痛みをより効果的に緩和するのか、完全に静められるのか、それとも効果がないのかを、感情に基づいて判断するはずだ。感情は、問題への対処を促す動機として、そしてその対処の成功、失敗を追跡する監視役として機能する。

酷暑に対する賢明な文化的反応は、おそらくは木陰で過ごすことから生まれ、それからうちわを生み出し、やがてはエアコンを発明するに至った。これは、ホメオスタシスに駆り立てられたテクノロジーの発展の好例と見なせよう。

その結果に基づいて脳が生体の変化した幾何学を表わす表象を構築すると、私たちはその変化を感知し、それに関するイメージを形成することができる。

え?なんだ?そうか?そうなのか?の連続をお楽しみいただけただろうか?

私がここで言いたいのは、文化的反応の形成に不可欠な一連の行動戦略から構成される社会性は、ホメオスタシスが備える道具の一つだということである。社会性は、アフェクトに導かれて人間の文化的な心に入って来るのだ。

「言いたい」ことらしいけれども分かった?何かを「言いたい」のは最初にそう宣言しているからわかったが、何を言いたかったのかは理解できなかったよ。

過去の成功は別として、文明的な努力が今日成功する見込みはどれくらいあるのだろうか? 考えられるシナリオの一つでは、個人、家族、独自の文化的アイデンティティを持つ集団、大規模な社会組織など、次元を異にする集団の構成単位の間でホメオスタシスの目的が異なるせいで、感情と理性の複雑な相互作用という、文化的なソリューションの発明を可能にしたまさにその道具の基盤がなし崩しにされ、文明的な努力は結局失敗に終わる。このケースでは、おりに触れて生じる文化の崩壊は、私たちの行動や心的特徴には人類以前の生物学的起源にさかのぼるものがあるがゆえに、言い換えると人間同士の争いを解決するための方法やその適用を阻害する、拭い去ることのできない原罪のようなものが人類には刻印されているがゆえに引き起こされる。

この長い引用はたったの3文しかない。最初の1文は短いが、続く2文は長すぎ。一読目は頭から読んでいくが、とにかくどれがどこにかかっていて、どれが主語でそれに対応する文末はこれであっているんだっけ?とかいうのがちっとも入ってこない。結局一通り目を通した後に再度一文ごと、日本語の構造から分析しなければならない。まぁ日本語の文の構造がなんとか分かっても、言っていることはやはり分かりにくいのだが。これは日本語訳の問題も結構大きいかも(一応それなりの翻訳プロによるものなのだが)。

かつて受験生だったころの自分が、英文和訳において、内容がさっぱり理解できないんだけれどもとにかく知ってる単語の訳を並べてなんとか書きなぐった逐語訳風の拙い答案を読み返している気分だったよ。

進化の意外な順序[アントニオ・ダマシオ/高橋洋(翻訳家)]
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