読了:1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365 [ デイヴィッド・S・キダー ]

1日1ページ(実はページ数は1日2~3ページ)で、世界の教養に触れられるという雑学本だ。月曜日は歴史、火曜日は文学、水曜日は視覚芸術(美術とか建築とか)、木曜日は科学、金曜日は音楽、土曜日は哲学、日曜日は宗教というテーマ。広く浅く、主に歴史に沿って各分野の各論が紹介される。あとがきにあるように、これで興味を持ったら、さらに本を探していろいろ読んでみてくださいねというあくまでも教養入門本。なので記事内容は初心者にもやさしく読みやすい(とりわけ豆知識はほぼゴシップ)。ある程度知っている分野に関してはあきらかに物足りない。書かれているテーマはほぼ欧米の歴史に沿ったもの。なかでもアメリカに関係あるものは多い。歴史において「建国の父たち」や「南北戦争」の話題が複数回取り上げられる。音楽では「アーロン・コープランド」に2回分も割かれている(なのに「ガーシュイン」と「バーンスタイン」は合わせて1回分にまとめられていたりもするが)。

視覚芸術のカテゴリは多くの建築や絵画が出てくるんだけれども、いかんせん図がほぼない本なので、どの建築や絵について解説しているのかがわからない。google画像で絵のタイトルなんかで検索しながら読むのがよいかと。

個人的に面白かったのは「文学」と「哲学」。「文学」カテゴリでは著者名とかタイトルはよく知っているけれども、内容はまったく知らない本とか、あらすじを紹介してくれているのは面白い。「ユリシーズ」ってそういう話だったんだ。メルヴィルの「白鯨」、「誰もが知っているけれども実際に読んだことがある人は少ないだろう」には「うんうん」とうなずいてしまった。自分も登場人物は知っていても読んだことないもん。「哲学」カテゴリでは、よく見かける言葉だけれども哲学では世間一般的な意味では使われていない言葉に面食らう。今使っている言葉の定義からきちんとやっておかないと議論もへったくれもないということを垣間見、「だから哲学って誤解されるのでは?」と思うことしきり。

1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365 [ デイヴィッド・S・キダー ]

読了:物語エルサレムの歴史 旧約聖書以前からパレスチナ和平まで (中公新書) [ 笈川博一 ]

イスラエルの歴史を通史として復習しておこうと思って読んでみた。イスラエルの歴史としては、旧約聖書の時代、新約聖書およびローマ時代、第1次大戦以降の現代史を押さえておけば、まぁいいかなということを再確認。現代史は著者の経験を踏まえたエッセイ風でわかりやすかった。話題ごとに歴史の叙述が前後したり、何の話をしているのかがつかみにくかったり、若干読みにくい(落ち着いて前後の文を改めて読み込めばなんとかわかるのだが)。

物語エルサレムの歴史 旧約聖書以前からパレスチナ和平まで (中公新書) [ 笈川博一 ]

読了:カペー朝ーフランス王朝史1 (講談社現代新書) [ 佐藤 賢一 ]



フランスの王朝としては、メロヴィング朝、カロリング朝、カペー朝、ヴァロア朝、ブルボン朝と続くわけだけれども、いわゆるフランス王国として成立してくるのはカペー朝からの流れと考えてよいかと。3世紀半にわたり父親から子への相続がずっと続いたことがすごい(それにしても男子の名はことごとく、ルイ、フィリップ、シャルル)。イール・ド・フランス界隈の小さな領地しかなかった王領も中世十字軍時代を経て、フランス王国内の各諸侯、ノルマン・コンクエストによりフランスにも領地をもつイギリス王、また聖会の頂点に立つローマ教皇と対立しながらもフランスの多くの地を王領として持つまでに成長していく。

カペー朝ーフランス王朝史1 (講談社現代新書) [ 佐藤 賢一 ]

読了:ファンタジーランド 【合本版】狂気と幻想のアメリカ500年史【電子書籍】[ カートアンダーセン ]



今、とても話題になっている書籍。事実よりも、自分が望む幻想を真実として信じ込む現代アメリカ人の特質を、その建国からの歴史とともに、主に宗教の変遷を軸に描いた作品。「フェイクニュース」とか「オルタナティブ・ファクト」なんて言葉が一般に使われるようになる今日の現象は、アメリカの建国以来の歴史を振り返ってみればさもありなんということか。世界で一番キリスト教的な国アメリカはいかにして生まれて形成されたのか。

歴史上初の、プロテスタントによる実験国家としてはじまったアメリカ。何を信じるか、何をするかを自分自身で決められる個人主義国。なんでもショービジネス化(宗教でさえも)し、発達したエンターテイメントメディアで拡散することにより、自分の好きなことを好きなようにとらえるファンタジーランドと化していくアメリカの歴史。一方で建国の父たちに代表される啓蒙主義、合理主義を尊重したきた国でもある。この両者を危うくなることはあってもバランスをとってきたのがアメリカという国なのだが、1960年以降、自分が信じているものに反することは真実ではないとする風潮に大きく傾いていく。良識を権威ととらえ、それを嫌うアメリカ人の気質が、極端な空想や陰謀論、疑似科学をますます受け入れていく。

「歴史は繰り返さないが韻を踏む」。現在の偏りが再びバランスを戻すこともあるかもしれない。しかし、それを待っている時間はない。ファンタジーランドの住民であってもよいが、その人が信じているものが人に危害を加えるようなものとなってしまうものであってはならない(ワクチン接種が自閉症を起こすと信じて子供のワクチン接種を拒否するなど。これは公衆衛生的に害をなす)。

ラフは、創造論(インテリジェント・デザインを含む)、進化論の対立のくだりはとてもおもしろく読んだ。こんなことが大真面目に裁判沙汰になるアメリカってクレイジーだなとは前々から思っていたけれども、この本を読んで、なるほどそういうバックグランドがあるなら、科学も宗教も考え方(一つとしての意見=その人にとっての真実)なんだから、創造論を本気で信じちゃっている人がいるってそういうことなんだなと思ったり思わなかったり。

ファンタジーランド 【合本版】狂気と幻想のアメリカ500年史【電子書籍】[ カートアンダーセン ]

読了:わが友マキアヴェッリ フィレンツェ存亡ー塩野七生ルネサンス著作集7ー【電子書籍】[ 塩野七生 ]



再読。塩野七生は「わが友」と付けるほどマキアヴェッリが本当に好きなんだなぁ。マキアヴェッリの代表作は「君主論」なわけだけれども、その中の極端な部分だけを取り出して「目的のためには手段を選ばず」といった反道徳的な政治思想が、いわゆる「マキアヴェリズム」とされることが多い。だがしかし、マキアヴェッリは本当にそんなことを言っているのか?彼の生きた時代(イタリアが置かれた状況)を考えたうえで、人間マキアヴェッリの人生と功績を、イタリアルネサンス最大の華が咲いた都市国家フィレンツェ共和国の歴史とともに追った一作。

わが友マキアヴェッリ フィレンツェ存亡ー塩野七生ルネサンス著作集7ー【電子書籍】[ 塩野七生 ]

読了:皇帝フリードリッヒ二世の生涯【電子書籍】[ 塩野七生 ]



塩野はその著書「ルネサンスとは何であったのか」において、ルネサンスの先駆けは聖フランチェスコとフリードリッヒ2世だと述べている。なぜ神聖ローマ帝国皇帝フリードリッヒ2世がルネサンスの先駆けと考えられるのか、本書ではフリードリッヒ2世の生涯を描く。キリスト教が絶大な力を持った中世半ば、ローマ法王インノケンティウス3世は「法王は太陽、皇帝は月」と主張するのに対して、フリードリッヒ2世はキリストの言葉「カエサルのものはカエサルに、神のものは神に」(カエサルとは皇帝のこと)に帰って政教分離を目指しローマ法王と対立した。フリードリッヒ2世がそのような考えを持った背景、どのような統治を目指してどのような施策を行ったのか、そして死後に彼の属すホーウェンシュタイン家は没落したが、確実にルネサンスへの向かう様子が描かれる(ルネサンスが大輪の花を咲かせるのはこの約200年後)。ローマ教皇庁が中世の代名詞ともいえる異端裁判所を開設したのもフリードリッヒ2世に対抗してのものというのが非常に面白い。中世のど真ん中、十字軍時代、ルネサンスに向かう動きが芽生えたときに、悪名高き異端裁判所も開設されたのだ。

皇帝フリードリッヒ二世の生涯(上)【電子書籍】[ 塩野七生 ]
皇帝フリードリッヒ二世の生涯(下)【電子書籍】[ 塩野七生 ]

読了:量子力学の世界 はじめて学ぶ人のために【電子書籍】[ 片山泰久 ]



20世紀に発展した科学分野の一つが量子力学。その入門書。量子力学とは何かを数字や式を使わずに概要を紹介する良書。著者は1978年没で本書は1967年刊行なのでもう50年前の本だ。実際本書では素粒子という概念の登場あたりで終わっており、量子力学の新しい知見は当時より格段に広がっている。量子力学が20世紀に広がったとはいえ、それまでにも知られていた現象を説明できるようになり、さらに新しい見方ができるようになったということを踏まえて、量子力学を通して科学の意義を問う姿勢は非常に共感できる。

量子力学の世界 はじめて学ぶ人のために【電子書籍】[ 片山泰久 ]

読了:居酒屋の世界史【電子書籍】[ 下田淳 ]



「はじめに」にあるように本当に「つまみ読み」(著者自身は「つまみ飲み」と表す)以上のものではない。居酒屋に関する文献の断片紹介。著者の専門がドイツ史であるためか、主にヨーロッパ社会を居酒屋というものを通して覗いてみるという意図があるのであろうが、いかんせん内容が薄い。居酒屋を「金銭の見返りに酒類を提供する営業空間」と定義し、論展開のキーワードとして「農村への貨幣経済の浸透」「居酒屋の多機能性」「棲み分け」をあげる。ここにおいて狭義の「居酒屋」というものを定義したのに、本文中では一般的な広義の「居酒屋」とごっちゃに扱っている点はいただけない。たとえば、ヨーロッパ中近世を居酒屋の最盛期、ヨーロッパ近現代を居酒屋の衰退期と題しておきながら、19世紀フランスの居酒屋(広義)の軒数が多いことで「居酒屋天国」と表すなど。一文が短いので勢いよくポンポン読めるので居酒屋の歴史概要を知るにはいいかも。雑学書というべきで学術書的な内容を期待すると期待外れ。

居酒屋の世界史【電子書籍】[ 下田淳 ]

読了:神の代理人 (新潮文庫) [ 塩野七生 ]



イタリア・ルネサンス期の4人のローマ法王、ピオ2世、アレッサンドロ6世、ジュリオ2世、レオーネ10世を取り上げた作品。中世が明けたルネサンス期、それでもキリスト教の頂点に立つローマ法王の権威はどれほどのものだったのか、決して聖なるものだけではない人間臭さをもつ人物像が描かれる。おもしろいのは、連続する法王なのに考え方や態度がそれぞれにまったく違うということ。塩野はこれら4人の法王をそれぞれ別の記述体で描く。とりわけよかったのは、アレッサンドロ6世とフィレンツェの修道士サヴォナローラの対立を、時系列に並べた文献のみで描いた章(ただし文献のうちの1つは塩野の創作)。

神の代理人 (新潮文庫) [ 塩野七生 ]

ベートーヴェンと明治維新

 日本に西洋音楽が入ってきたのは明治以後と考えてまず問題はないと思うんだけれども、今年(2018年)は明治維新から150年。ちなみに古典派の代表的作曲家であるベートーヴェンの没年は1827年なのでおよそ200年前の人。ベートーヴェンと明治維新って50年ほどしか違わないんだねぇ。ってことをボーっと考えてたラフ的明治維新感。歴史(音楽史においても)における近現代って範囲はどんどん長くなるばかりなのではないか?と思ったり思わなかったり。