読了:お前たちの中に鬼がいる[梅原 涼]【電子書籍】

Amazon電子書店「Kindleストア」の人気作を、大幅に改稿した増補完全版。付録として、短篇『1993年(平成5年)』も収録。(あらすじ)高校教師、須永彰は薄暗い地下室で目覚めた。記憶も曖昧で何もわからない。そこで彼は、奇妙なメッセージを見つける。『お前たちの中に鬼がいる……』。地下には、他に五つの部屋があり、中には、鎖で繋がれた五人の女性がいた。誰もこの状況を説明できない。が、みな何かを隠しているようで、誰一人信用できない。さらにここでは、常識では考えられない不可解な現象が次々と起こる。須永はこの空間からの脱出を決意する。ただ気がかりがあった。自分たちの中の誰かが『鬼』なのではないか…。

ゲームを思わせる特異な世界観と推理小説を組み合わせた展開はなかなかおもしろい。先の展開が気になるためぐいぐい読ませるのはエンターテイメントとしては上出来。ただし、小説としての完成度はかなり雑。設定が結構穴だらけ。「え?そこそういう展開なのに何の説明もなし?どういうこと?奇妙じゃない?あ、そうか、あえて書かないことでひっかかりを残しておいて後半で伏線回収するパターンなんだな」とか思っていたら、結局そのままで、著者に描写力がなかっただけとか超脱力。しかもわざわざこれだけの人物を描き分けて登場させたのに、最終的にはあまり大切に扱われずさくっと消えて行ったり。一番気になるのは、この異世界の正体(成り立ち)は最後まで一切触れられない。著者にとっては単なるシチュエーションの提供であって、誰がどういう意図でその世界を作ったのかはどうでもいいみたい(これがこの作品の浅さの理由と思える)。またおよそ10年ごとに3つのグループがこの異世界の試練に巻き込まれているのだけれども、なぜおよそ10年ごとなのか、なぜそのメンバーなのかについても説明は一切なし。後半に頻出する話の設定を満たすためとしか思えない場当たり的な小ネタイベントによる展開も蛇足っぽくて気になる。最後はいい話風にまとめてあるけれども、読者が一番知りたいだろう疑問に対しては何の説明もなく終わってしまう。

ついでに、書き下ろしの短編では、10年ごとの最初のグループの末期が描かれていて本編の一部解題としての役割を果たしている。死体1体の説明と本編の主人公のお母さんが混じっていたことが目玉か。でも、だからといってお母さんが含まれた理由と、本編で主人公が含まれた理由の関連付けはなされない。また短編の主人公はこの世界がプログラミング的なものでできていることの推測はするのだが、やっぱりその正体は明かされないまま(著者にはシチュエーションさえ提供できればそれ以上は本当にどうでもいいみたい)。

あと、自分の理解力が足りないのか、あれ?計算が合わなくない?と思ったこと。それぞれのグループは6人からなるんだけれども、5人がカギのかかる部屋に閉じ込められるからカギの本数は5本なのね。で、その世界から脱出するのには一人1本ずつカギを使っていくのだよ(使うとカギは消滅する)。だから本編では当然ながら一人帰還できない。ところが、短編では一人が異世界で殺される(当然帰還しない)ので脱出者とカギの本数はちょうど足りることになるはずなんだけれども、なぜかしれっと一人死んでんだからカギが1本余ってあたりまえみたいな展開になっている。なぜ?の嵐。

誤植どころか、あきらかな発言主の表記間違いとかもあって(だってその人その場にいないじゃん……)、突っ込みどころも満載の勢いだけ素人小説だった。

お前たちの中に鬼がいる[梅原 涼]【電子書籍】

こちらの記事もぜひ!!