読了:21 Lessons[ユヴァル・ノア・ハラリ/柴田 裕之]

21 Lessons

21 Lessons

  • 作者:ユヴァル・ノア・ハラリ/柴田 裕之
  • 出版社:河出書房新社
  • 発売日: 2019年11月20日頃

『サピエンス全史』で人類の「過去」を、『ホモ・デウス』で人類の「未来」を描き、世界中の読者に衝撃をあたえたユヴァル・ノア・ハラリ。本書『21 Lessons』では、ついに人類の「現在」に焦点をあてるー。テクノロジーや政治をめぐる難題から、この世界における真実、そして人生の意味まで、われわれが直面している21の重要テーマを取り上げ、正解の見えない今の時代に、どのように思考し行動すべきかを問う。いまや全世界からその発言が注目されている、新たなる知の巨人は、ひとりのサピエンスとして何を考え、何を訴えるのか。すべての現代人必読の21章。

1 テクノロジー面の難題/・幻滅ー先送りにされた「歴史の終わり」/・雇用ーあなたが大人になったときには、仕事がないかもしれない/・自由ービッグデータがあなたを見守っている/・平等ーデータを制する者が未来を制する/2 政治面の難題/・コミュニティー人間には身体がある/・文明ー世界にはたった一つの文明しかない/・宗教ー今や神は国家に仕える/・移民ー文化にも良し悪しがあるかもしれない/3 絶望と希望/・テローパニックを起こすな/・戦争ー人間の愚かさをけっして過小評価してはならない/・謙虚さーあなたは世界の中心ではない/・神ー神の名をみだりに唱えてはならない/・世俗主義ー自らの陰の面を認めよ/4 真実/・無知ーあなたは自分で思っているほど多くを知らない/・正義ー私たちの正義感は時代後れかもしれない/・ポスト・トゥルースーいつまでも消えないフェイクニュースもある/・SFー未来は映画で目にするものとは違う/5 レジリエンス/・教育ー変化だけが唯一不変/・意味ー人生は物語ではない/・瞑想ーひたすら観察せよ

「サピエンス全史」「ホモ・デウス」に続く3作目は、現在の世界に焦点を当てて人類というものを考える。ユヴァル・ノア・ハラリは基本的には歴史哲学者であって生物学者ではないってところは常に押さえておかなければならない点。

「サピエンス全史」の中心テーマは、今日の人類の成功は、実体のない概念(会社とか経済とか政府とか)を共有する能力によって成しえたということで、そこに至った歴史を進化生物学的視点を交えながら語ることであった。(読後感想は以下)

読了:サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福 [ ユヴァル・ノア・ハラリ ]

2作目の「ホモ・デウス」では、人類にとってのこれまでの大問題であった「飢饉」「疫病」「戦争」は対処出来うる問題となった21世紀において、今後人類ホモ・サピエンスは何を追求してどういう方向に進んでいくのか?ということを考察する。生命工学(脳科学と進化生物学)と情報工学という2本の柱、あるいはその融合(AI)がけん引していき、「ホモ・デウス」という新たな存在(もはや生命の定義にはあてはまらない電脳空間上の信号)になるのかもしれない。でもそれでいいの?と問いかけてきた。(読後感想は以下)

読了:ホモ・デウス 上・下[ユヴァル・ノア・ハラリ/柴田 裕之]

さて、今作は前2作よりずっとわかりやすい。なぜなら今私たちが生きている「現在」の問題を扱っているからだ。21の側面から現在の世界を眺めるというよりかは、「現在のホモ・サピエンス」を中心においてその周りを21の切り口から順に問題点を解き明かしていく感じ。1つのテーマは次のテーマへとつながっていき、ぐるっと回って元に戻ってきたところで、これまで語られることなかった著者がこの考えに至った方法論的なものにまで言及する。

人類の成功を支えてきたものは実態のない概念を共有する能力ではあるが、この実体のない概念を指して著者は「物語」という言葉を与えている。「経済」や「政府」、「宗教」だけでなく「資本主義」や「自由主義」でさえ創造の産物であり「物語」なのである。そして現在の世界の問題はこの「物語」から脱することができないことから引き起こされている。著者自身がユダヤ人であるが、ユダヤ教の「物語」に対しても容赦がない。なぜ「物語」が問題になるのか?どこが問題なのか?「物語」を脱する意味はどこにあるのか?そこを具体的な例を提示して解説していくのでわかりやすい。サピエンスがもっとも苦手なのは苦痛であり、サピエンスはそれを避ける・そこから逃れるために「物語」を必要としてきたのだ。しかしそれは本質的な解決になっていない。また「物語」=「世界観」を共有していない者同士はうまくいかない。実際の問題は単純ではないのでジレンマに陥るのは当然で、「物語」に逃げずに考えなければならない。そのためにもサピエンスは「物語」から離脱し自身の身体が何を感じているのかを判断の根拠にすることが重要なのだそうだ(ちょっと読みが浅くてすまん)。

「世俗主義」と「意味」の章がとりわけ面白かった。ラフ的には超マイルドなリチャード・ドーキンス(「利己的な遺伝子」を提唱した進化生物学者で過激な反宗教主張で有名)かと思ったよ。

wikipediaの「リチャード・ドーキンス」の項

ほとんどのSF映画が本当に語っているのは、とても古い物語で、それは物質に対する心の勝利だ。

あなたは、女性が恋人にダイヤモンドの指輪を持ってくるように頼むのはなぜだと思っているだろうか? その恋人は、いったんそれほど大きな金銭的犠牲を払ったら、それが価値ある目的のためだったと自分に確信させざるをえないからだ。

最近、ファシズムの正確な意味について、かなりの混乱が生じている。人は、気にくわない相手ならほとんど誰でも「ファシスト」呼ばわりする。

国家崇拝はきわめて魅力的で、それは、多くの難しいジレンマを単純化してくれるからだけではなく、人々に、自分はこの世で最も重要で最も美しいもの、すなわち祖国に所属していると考えさせるからでもある。

人は、どこかに永遠の本質があり、それを見つけてそれとつながれさえすれば、完全に満足できると信じている。この永遠の本質は、神と呼ばれることもあれば、国家と呼ばれることもあり、魂、正真正銘の自己、真の愛と呼ばれることもある。そして、人はそれに執着すればするほど、失望し、惨めになる。それを見つけられないからだ。

21 Lessons[ユヴァル・ノア・ハラリ/柴田 裕之]

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