つらくて、どれほど切なくても、幸せはふいに訪れる。かけがえのない祝福の瞬間を鮮やかに描き、心の中の宝物を蘇らせてくれる珠玉の短篇集。
幽霊の家/「おかあさーん!」/あったかくなんかない/ともちゃんの幸せ/デッドエンドの思い出
久々によしもとばななを手に取ってみた。あぁそうだった、この人は、なんとなくさみしいとか、なんとなくもやもやするとか、なんか心に引っかかるんだよってものを、きっちり書き込むことができる人だった。だからこそそのもやもやを抱えた読者は誰もが「そうそう!!」と共感をよぶんだよね。よしもとばななの見事さはその心の不安定さを言語化できるところなのだと思う。今回の短編集はどれもドラマティックな出来事は起こらないんだけれども、それを日常のとらえどころのない気持ちと絡めてさらっとまとめる。うそ、本当はとんでもないことも起こっているんだけれども、それをさも日常の一場面として(主に回想が多いけど)取り込んでしまうのだ。生きていく上での ambiguity な心持ちをそれでもいいんだよと肯定的に受け止めてくれる、そんなやさしさにあふれた短編集。
それでは、何カ所か特に鼻についた「ばなな臭」をお楽しみください。
これはもう、セックスしてもいいの? いいよ、というやりとりと何も違わないことを、私たちはわかっていたと思う。ちょっとした悲しみの中で。
(「幽霊の家」より)
秋の空は透明な色をしていて、景色と溶け合うところまですうっと澄んでいて、どこまでもあいまいで、はっきりした感じが何もなくて、宙ぶらりんな私を優しくなぐさめた。
(「デッドエンドの思い出」より)
きゅうと追い詰められたような気持ちは抜けていなかった。それでも「今しかない、今から目をそらしたら悲しくなってしまうから」とせっぱつまっているこの日々は、どうしてだか、まさにそれゆえに奇妙に幸せだった。
(「デッドエンドの思い出」より)
■ デッドエンドの思い出(文春文庫)[よしもと ばなな]
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