読了:ユダヤ人の歴史(河出文庫)[レイモンド・P.シェインドリン/入江規夫]

世界をまたにかけて移動し、世界中の人々に影響を与え続けているユダヤ人の起源から現代までの三千年以上にわたる歴史を、簡潔に理解できる入門書。各時代における有力なユダヤ人社会を体系的に見通し、その変容を追う。オックスフォード大学出版局の叢書にもおさめられている基本図書。多数の図版と年譜、索引、コラムを収録。

第1章 古代イスラエル人の起源とその王国ー紀元前一二二〇年以前から紀元前五八七年まで
第2章 ユダヤの地とディアスポラの起源ー紀元前五八七年から紀元七〇年まで
第3章 ローマ帝国下のパレスチナとササン朝ペルシアのバビロニアー紀元七〇年から六三二年まで
第4章 イスラム社会におけるユダヤ人/イスラムの勃興と中世の終わりまでー六三二年から一五〇〇年まで
第5章 中世キリスト教ヨーロッパ社会におけるユダヤ人ー九世紀から一五〇〇年まで
第6章 オスマン帝国と中東におけるユダヤ人ー一四五三年から一九四八年まで
第7章 西ヨーロッパのユダヤ人ー一五〇〇年から一九〇〇年まで
第8章 東ヨーロッパとアメリカ合衆国のユダヤ人ー一七七〇年から一九四〇年まで
第9章 ホロコースト
第10章 シオニズムとイスラエル建国
第11章 一九四八年以降のユダヤ人

イスラエル、エルサレム関係の歴史入門書を先ごろ読んだ。

読了:物語エルサレムの歴史 旧約聖書以前からパレスチナ和平まで (中公新書) [ 笈川博一 ]

読了:物語イスラエルの歴史 アブラハムから中東戦争まで (中公新書) [ 高橋正男 ]


当然、イスラエルの歴史となると、古代イスラエル(主に聖書の記述に基づく)からユダヤ戦役までが描かれた後、(狭義の)ディアスポラの時代を経て、次に再登場してくるのは19世紀のシオニズム運動あたりからとなる。中世がごっそり抜け落ちるのだ。

今回読んだ書はユダヤ人の歴史なので、(狭義の)ディアスポラ時代についても、ユダヤ人がどのように生きてきたのかが分かり非常におもしろい(その時代に該当する第3章から第8章あたりが個人的にはとても新鮮だった)。世界史の中でユダヤ人が置かれた立場(決して彼らが望んだわけではない)を知ると、ユダヤ人の陰謀といったものがいかにバカげた説かが分かる(もっともこの本ではそんなつまらないことを述べてはいないけれども、そんなことはありえないということはわかる)。またユダヤ人は他の民族とは決して交わらないという思い込みがあったんだけれども、他の民族と同化していったユダヤ人もかなり多いことを知った。ヨーロッパにおいては、スペイン起源のセファルディム系ユダヤ人と西ヨーロッパを起源としてやがて東ヨーロッパに中心を移したアシュケナジム系ユダヤ人というように、実は多様化していたことも知った。というわけで「オスマン帝国内のスペイン系ユダヤ人」といった表現も当たり前に出てくる。

ユダヤ世界と非ユダヤ世界の違いを歴史的な経緯から説明し、また「世界史の中で暗躍するユダヤ人」といった間違ったイメージを払拭してくれる入門的良書。

ユダヤ人の歴史(河出文庫)[レイモンド・P.シェインドリン/入江規夫]
ユダヤ人の歴史(ユダヤ人の歴史)[レイモンド・P・シェインドリン]【電子書籍】

読了:さよならの次にくる(卒業式編)(新学期編)(創元推理文庫)[似鳥鶏]

「東雅彦は嘘つきで女たらしです」愛心学園吹奏学部の部室に貼られた怪文書。部員たちが中傷の犯人は誰だと騒ぐ中、オーボエ首席奏者の渡会千尋が「私がやりました」と名乗り出た。初恋の人の無実を証明すべく、葉山君が懸命に犯人捜しに取り組む「中村コンプレックス」など、「卒業式編」は四編を収録。デビュー作『理由あって冬に出る』に続くコミカルな学園ミステリ、前編。

名探偵の伊神さんは卒業、葉山君は進級、そして迎えた新学期。曲がり角が衝突したことがきっかけで、可愛い一年女子の佐藤さんと知り合った。入学以来、怪しい男に後をつけられているという佐藤さんのために、葉山君はストーカー撃退に奔走することになる。苦労性の高校生・葉山君の、山あり谷ありの学園探偵ライフ。爽快なフィナーレまで一気呵成に突き進む学園ミステリ、後編。

前作デビュー作「理由あって冬に出る」が1月のある事件を描いた長編だったんだけれども、今度の「さよならの次にくる」はそれに続く卒業式と新学期に渡る期間を扱った(一部数年前を扱ったものが含まれるが今回の登場人物を導くため)、前編・後編2冊にわたる連作短編。それぞれの話は独立しつつも関連していて、ラストに至ったときにすべての伏線が回収されているという構成には拍手喝采。話の随所で小出しに回収されていく一部の伏線がダラダラ感をもたらすところや、短編の間に挟まれる断章があからさまに「これは伏線ですよ」と主張しすぎているところが玉に瑕(こういう形式のミステリは加納朋子が今のところ一番かなとラフは思っている)。

愛すべき変人文化部高校生たちの当意即妙なやり取りはやっぱりおもしろい。「えぇ、それは強引だろう」とか「ありえないよぉ」とか思う部分はあるんだけれども、コメディで展開することにより「まぁいいか、さもありなんということにしておこう」と自然と受け入れられる。大人になり切れていないどうしようもない青臭さの一方で、妙にしっかりとしていて大人の世界に片足突っ込んでいるような部分の同居が「青春・思春期」というもので包まれてうまくまとまっている。

新学期には「曲がり角でゴツン」で「恋なんか芽生えちゃったりして」という定番ネタもきちんと織り込んでいる。またところどころに出てくる脚注も枠外からの笑いを誘う。シリーズはまだ続くので楽しみ。

さよならの次にくる(卒業式編)(創元推理文庫)[似鳥鶏]
さよならの次にくる〈卒業式編〉(市立高校シリーズ)[似鳥鶏]【電子書籍】
さよならの次にくる(新学期編)(創元推理文庫)[似鳥鶏]
さよならの次にくる〈新学期編〉(市立高校シリーズ)[似鳥鶏]【電子書籍】

読了:理由あって冬に出る(創元推理文庫)[似鳥鶏]

芸術棟に、フルートを吹く幽霊が出るらしいー吹奏楽部は来る送別演奏会のため練習を行わなくてはならないのだが、幽霊の噂に怯えた部員が練習に来なくなってしまった。幽霊を否定する必要に迫られた部長に協力を求められ、葉山君は夜の芸術棟へと足を運ぶが、予想に反して幽霊は本当に現れた!にわか高校生探偵団が解明した幽霊騒ぎの真相とは?コミカル学園ミステリ。第16回鮎川哲也賞佳作入選、期待の新鋭のデビュー作。

とある高校の芸術棟(主に文化部と同好会の活動部屋がある古い建物)に幽霊が出るという噂が。真相を調査する文化部所属の高校生たち。設定に甘さは感じるものの、伏線はちゃんと張っておいたものをきちんと回収していくし、登場人物の未熟で青臭いところには青春を感じさせるし、なによりもコメディ仕立てにしてあるので楽しく読めるのが魅力。自分が高校生だった頃を思わず懐かしんでしまったよ(ちなみにラフは高校のときは吹奏楽部)。シリーズ化しているので、続きも読んでいきたい。

理由あって冬に出る(創元推理文庫)[似鳥鶏]
理由あって冬に出る(市立高校シリーズ)[似鳥鶏]【電子書籍】

読了:叡智の図書館と十の謎(中公文庫)[多崎礼]

どこまでも続く広大な砂漠の果て、そこには古今東西の知識のすべてが収められ、至りし者が神に等しい力を手にできる図書館があるというー長い旅路の末、たどり着いた旅人がひとり。鎖に縛められたその扉を開かんとする彼に守人は謎をかける。鎖は十本、謎も十問。旅人は万智の殿堂へたどり着けるのか!?知の冒険へ誘う傑作長篇!

一言でいうと「なんじゃこりゃ!!こんなものが商業ベースの書籍として流通していいのか?」なんだけれども、各種レビューを見る限りそんなに悪くないんだよね。俺は著者やタイトルが同一の、まったく違う本を読んでしまったのか?

AI石板を携えた旅人が、究極の図書館にたどり着いたのだが、扉は頑丈な鎖で固く閉ざされ、その図書館を守る女性像が謎かけをしてくる。答えを間違えれば殺すという。像が問いかける謎にたいして、すかさずAI石板が情報を検索し該当するエピソード(小話)を再生する。旅人はそのAI石板が再生した話から答えを導く(といっても話のダイジェストを英単語で答えているだけなんだけれども)。

形式としては典型的な枠物語。近代小説においてこの形式は、各小話がそれ自体で完成していて魅力的でないと成り立たない。そして最後にこれらの話を外枠があるテーマでまとめていることが明らかにされて「おぉそうだったのか」となれば「見事!!」となるわけだけれども、まぁそこまでは求められればいいかなくらいにしておこうか。ところが、この小説では各小話はあまり魅力的でない。どこかで読んだような、陳腐で噴飯物のびっくりするくらい道徳的な内容。わざとそうしてあって最後に「実は……」とか期待してみたけれども、そうではなかった。各小話が完成度1として10話あって、最後にまとめられたときに、12(1 x 10 + 2)くらいの効果を生んでくれると枠物語としては成功だと思うんだけれども、この小説は各小話が0.8くらいの完成度で結局最後まで読んで8.1(0.8 x 10 + 0.1)くらいにしかなっていない。

wikipediaの「枠物語」の項

やたらと小難しい表現(文章としての表現ではなく難しい漢字を使う単語レベル)を持ち出してくるものの、話自体はたいしておもしろくない。しかも、設定の矛盾とか足りないものとか多すぎ。

敬虔で素朴な宗教信者設定されている人物が、横暴な主人のことを「神のようにふるまう」とか言うか?(必殺ちゃぶ台返し!!)

「護衛対象者には深入りしない。それが彼の流儀だった。しかし一度考え始めると、気になって仕方がなくなった。」なぜ今回の護衛対象に関しては気になってしまったのかを納得させる言及が前後にない。結果としてそれは「恋愛感情」によるものだったんだろうと最後まで読めば推測はできるが、なぜ読者がわざわざ著者の力不足を補わなければならないのか?「彼の流儀」が台無しじゃん。

第九問の問は「ならば、私とは何だ? 私を私たらしめているものは、いったい何なのだ?」だったんだけれども、その答えが「お前をお前たらしめているもの。『Identity(自己同一性)』だ」にはずっこけた。言葉の定義をしただけじゃん……。お前は辞書か。もう、勘弁してくれぇ。

外枠の話も、単にAI石板が問いに対してお手軽に話を再生しちゃっているから、当初主人公と思われた旅人はほとんど何もやらない。うんちく垂れるばっかり(結局この話の本当の主人公は守人の女性像だったわけなんだけれども)。で、徐々に明らかにされたのは、登場人物が全員図書館関係者だったという自己完結の小っちゃい世界観。脱力の極み。しかも問の答えがなんでこんな抽象的な英単語なんだろうと思ったら、その種明かしがこれまた雑。だったら小話の内容なんてどうでもよかったじゃん。

人間は、貧富の差も争いもない平和な理想郷世界を目指す面と(うわ、気持ち悪い。ラフはウェルズの「タイム・マシン(小説)」のイーロイを思い起こした)、嫉妬や抜け駆けや足の引っ張り合いで戦争ばかりしている面があるとのこと。万智の図書館に情報を運んできた旅人は、そんな不完全な人間を見捨て、智の殿堂にともに帰ることを守人に提案するが、彼女は不完全でも前者に向かって進歩していくだろう人間とともに歩むことを決意する。そして旅人もそれに同調して再びあらたな旅に出る。何度も人間の「多様性(多面性)」に言及しているのに、最後は「善悪の二項対立」で片づけてしまっている気持ち悪さ。それって人間の可能性をきちんと評価できていないことにならないか?それが「万智」を名乗ってしまう滑稽さ。

第六問の話はとてもよかったのに(ありふれてはいるけれども)、最後を幽霊オチにしたのはがっかり。あくまでも想像の産物としたほうが人間の可能性や未来を感じさせたのでは?道徳的な上から目線で人間に寄り添っているふりをしているが、実は人間の可能性には思い至っていないような著者の書きっぷりは、少なくともラフの好みではない。

ひどいものを読んでしまったというのが正直な感想。なのに途中で投げ出さずに(何度も挫折しかけたが)最後まで読み切ったんだから俺ってばこの作品の優秀な読者じゃんと思ったり思わなかったり。

叡智の図書館と十の謎(中公文庫)[多崎礼]
叡智の図書館と十の謎(叡智の図書館と十の謎)[多崎礼]【電子書籍】

読了:先延ばしグセが治る!すぐに行動できる人の習慣術[後藤 英俊]【電子書籍】

「すぐやれない」あなた変えてみませんか?
「やるべきこと」や「やりたいこと」があっても、
なかなか行動に移せないというあなた。
そんな「すぐできない人」を卒業しましょう!
◆一つでも当てはまったら要注意!
・引っ込み思案でできない!
・心配し過ぎてできない!
・こだわり過ぎてできない!
・めんどうだからできない!
・流されやすくてできない!
解決方法は本書でチェック!

やらなければならないことをついつい先延ばしにしてしまう傾向にある人を対象としたTips集。内容はおそろしく浅い。

先延ばしにしてしまう性格タイプを5つにわけ、それぞれのタイプに対して対策とか考え方の変化を促すとかをそれぞれ10個くらい提案している。提案は目新しいものは一切なく、これまでも巷に流布している当たり障りのない内容。物わかりのよさそうなお利口さんの先生が「こうしてみよう!」って感じの書きっぷりで、今さらそれを丁寧に述べられても深みも気づきもない。

たまにパラパラめくって、そうだったよなと確認するための本(それはそれで意味があるとは思っている)。

いや別に期待はしていないけれども、ヒトという生き物はタスクをなぜ後回しにしてしまうのかの生物学的・心理学的メカニズムに迫って、もっともっとアヴァンギャルドな提案をしてくる、先鋭化した本だったらめちゃくちゃおもしろいだろうになぁ(だったらそういう本を選べ>俺)。

先延ばしグセが治る!すぐに行動できる人の習慣術[後藤 英俊]【電子書籍】

読了:人間使い捨て国家(角川新書)[明石 順平]

働き方改革が叫ばれる一方で、今なお多くの労働者が低賃金、長時間労働を強いられ、命が危険にさらされている。ブラック企業被害対策弁護団の事務局長を務める著者が、低賃金、長時間労働の原因である法律とその運用の欠陥を、様々なデータや裁判例とともに明らかにする衝撃の書。

第1章 悲惨な現状ー世界はこんなに働いていない
第2章 穴だらけの法律
第3章 固定残業代ーただ、名前を変えているだけのインチキ
第4章 コンビニー現代の小作農
第5章 外国人労働者ー現代の奴隷労働
第6章 公務員ー公営ブラック企業
第7章 自民党と財界
第8章 脱・人間使い捨て国家

日本の労働環境は企業による労働者の使い捨て状態であり、政府も有効な対策をとっていないと著者は主張する。個別問題点を議論し(第1章~第6章)、その原因と考えられる自民党と財界の歴史的関係を叙述し(第7章)、そして著者の対策案を提示する(第8章)。現場の実例、データや裁判例など具体的な話が多く、提言もその意図がはっきりしていてわかりやすい。

人間使い捨て国家(角川新書)[明石 順平]
人間使い捨て国家[明石 順平]【電子書籍】

読了:お前たちの中に鬼がいる[梅原 涼]【電子書籍】

Amazon電子書店「Kindleストア」の人気作を、大幅に改稿した増補完全版。付録として、短篇『1993年(平成5年)』も収録。(あらすじ)高校教師、須永彰は薄暗い地下室で目覚めた。記憶も曖昧で何もわからない。そこで彼は、奇妙なメッセージを見つける。『お前たちの中に鬼がいる……』。地下には、他に五つの部屋があり、中には、鎖で繋がれた五人の女性がいた。誰もこの状況を説明できない。が、みな何かを隠しているようで、誰一人信用できない。さらにここでは、常識では考えられない不可解な現象が次々と起こる。須永はこの空間からの脱出を決意する。ただ気がかりがあった。自分たちの中の誰かが『鬼』なのではないか…。

ゲームを思わせる特異な世界観と推理小説を組み合わせた展開はなかなかおもしろい。先の展開が気になるためぐいぐい読ませるのはエンターテイメントとしては上出来。ただし、小説としての完成度はかなり雑。設定が結構穴だらけ。「え?そこそういう展開なのに何の説明もなし?どういうこと?奇妙じゃない?あ、そうか、あえて書かないことでひっかかりを残しておいて後半で伏線回収するパターンなんだな」とか思っていたら、結局そのままで、著者に描写力がなかっただけとか超脱力。しかもわざわざこれだけの人物を描き分けて登場させたのに、最終的にはあまり大切に扱われずさくっと消えて行ったり。一番気になるのは、この異世界の正体(成り立ち)は最後まで一切触れられない。著者にとっては単なるシチュエーションの提供であって、誰がどういう意図でその世界を作ったのかはどうでもいいみたい(これがこの作品の浅さの理由と思える)。またおよそ10年ごとに3つのグループがこの異世界の試練に巻き込まれているのだけれども、なぜおよそ10年ごとなのか、なぜそのメンバーなのかについても説明は一切なし。後半に頻出する話の設定を満たすためとしか思えない場当たり的な小ネタイベントによる展開も蛇足っぽくて気になる。最後はいい話風にまとめてあるけれども、読者が一番知りたいだろう疑問に対しては何の説明もなく終わってしまう。

ついでに、書き下ろしの短編では、10年ごとの最初のグループの末期が描かれていて本編の一部解題としての役割を果たしている。死体1体の説明と本編の主人公のお母さんが混じっていたことが目玉か。でも、だからといってお母さんが含まれた理由と、本編で主人公が含まれた理由の関連付けはなされない。また短編の主人公はこの世界がプログラミング的なものでできていることの推測はするのだが、やっぱりその正体は明かされないまま(著者にはシチュエーションさえ提供できればそれ以上は本当にどうでもいいみたい)。

あと、自分の理解力が足りないのか、あれ?計算が合わなくない?と思ったこと。それぞれのグループは6人からなるんだけれども、5人がカギのかかる部屋に閉じ込められるからカギの本数は5本なのね。で、その世界から脱出するのには一人1本ずつカギを使っていくのだよ(使うとカギは消滅する)。だから本編では当然ながら一人帰還できない。ところが、短編では一人が異世界で殺される(当然帰還しない)ので脱出者とカギの本数はちょうど足りることになるはずなんだけれども、なぜかしれっと一人死んでんだからカギが1本余ってあたりまえみたいな展開になっている。なぜ?の嵐。

誤植どころか、あきらかな発言主の表記間違いとかもあって(だってその人その場にいないじゃん……)、突っ込みどころも満載の勢いだけ素人小説だった。

お前たちの中に鬼がいる[梅原 涼]【電子書籍】

読了:ギリシア人の物語2 民主政の成熟と崩壊[塩野 七生]

黄金時代を迎えたアテネ。しかし、その崩壊の足音を手繰りよせたのは民主政に巣くうポピュリズムだったー民主政の光と影を描く、待望の第二巻。

第1巻では全ギリシアが連携してペルシア戦役を乗り越えたところまでが描かれた。今巻では、前半に指導者ペリクレスによるアテネの民主政の頂点を、そして後半ではアテネを中心とするデロス同盟とスパルタを中心とするペロポネソス同盟との間に発生した四半世紀以上にわたるペロポネソス戦争が描かれる。

後半のペロポネソス戦争がおもしろい。アテネもスパルタもお互いに正面衝突する気は全くなかったのに、それぞれの同盟加盟都市国家の争いから盟主が引っ張り出されてしまう。だらだらと続く戦役はギリシアのほぼすべての都市国家を巻き込み、舞台もシチリア島や、エーゲ海東部にまで広がり、また指導者も入れ替わってゆき、アテネもスパルタもこれまで自国を特徴づけてきた路線を外れていく。最終的にアテネはデロス同盟の崩壊とともに無残に凋落する。

次巻では、スパルタも疲弊してしまい、ギリシアに再び本格的な触手を伸ばし始めるペルシア、そしてマケドニア王国の寵児アレクサンダーの登場が描かれるようだ。

ギリシア人の物語2 民主政の成熟と崩壊[塩野 七生]
ギリシア人の物語II 民主政の成熟と崩壊(ギリシア人の物語)[塩野七生]【電子書籍】

読了:奇書の世界史 歴史を動かす“ヤバい書物”の物語[三崎 律日]

これは良書か、悪書か。時代の流れで変わる、価値観の正解。ロマン、希望、洗脳、欺瞞、愛憎、殺戮ー1冊の書物をめぐる人間ドラマの数々!

取り上げられているのは、いわゆる奇書というよりかは、著者も述べているように、その当時一世を風靡した(現代から見たら)トンデモ本や偽書・ねつ造論文の類。ある程度本に興味を持っている人にとっては、目新しい話題は少ないかも。

wikipediaの「偽書」の項

YouTubeやニコ動に掲載したコンテンツを書籍にまとめたものだけに、本や歴史好きの人を対象としたものというよりも、雑学系ゴシップ的読み物という印象。超やさしいwikipediaって感じ?内容的な奥深さはないが、想定読者をはっきりと定めて著者自身がそこは割り切っているようだ。ただし、かなり調査をしたことは垣間見られ、また誤解がないような言葉の選び方や注釈のつけ方などとても考えられている。浅いからと言って手を抜かない著者の真摯な態度は好感が持てる。各エピソードのまとめで、オチをつけてきれいに着地させたものが多いのも気持ちいい。また畠山モグ氏のイラストがとてもいい味を出している。

奇書の世界史 歴史を動かす“ヤバい書物”の物語[三崎 律日]
奇書の世界史 歴史を動かす“ヤバい書物”の物語[三崎 律日]【電子書籍】

読了:資格試験「通勤電車」勉強法[浜野秀雄]【電子書籍】

行政書士や社労士などの資格試験は、司法試験などの超難関資格と異なり、コツコツ勉強すれば合格できるレベルです。にもかかわらず、実際には合格率は数%。その大きな理由は、勉強を継続できる人が少ないからです。
合格者に聞くと、その多くが通勤時間を有効に活用しています。特に通勤電車内は、勉強を邪魔する誘惑もないため集中して勉強でき、無理なく続けられます。毎日1時間の通勤時間を学習に当てれば、大半の資格は1年間での合格が実現できます。
本書では、「通勤電車勉強用のノート作り」「駅間をストップウォッチ代わりにする」など、自身も通勤電車内で勉強して行政書士試験に合格した著者が、電車内でできる勉強法を紹介します。

忙しい社会人は、家で腰を据えて勉強するつもりでいてもすぐ挫折してしまうが、通勤電車での集中学習は継続しやすい。通勤電車でできる勉強方法は?という著者の実体験に基づいた提案書。宅地建物取引士、行政書士、社会保険労務士なんかはこれで十分合格できますよと。

いわゆる資格試験勉強ハウツーもの。ラフはこの手の本が嫌いではない。だってさ、「あ、自分でもできるかも」とかポジティブな気分になるじゃん。内容は薄く平易でサクサク読める(風呂に入りながら読み切れた)。それで「がんばってみようかな」とか思わせたのだから、この本はラフにとってはプラスだったかも。ただし実際にできるかどうか、やるかどうかは別問題だけどさ(<だからダメなんじゃん)。

資格試験「通勤電車」勉強法[浜野秀雄]【電子書籍】