読了:先延ばしグセが治る!すぐに行動できる人の習慣術[後藤 英俊]【電子書籍】

「すぐやれない」あなた変えてみませんか?
「やるべきこと」や「やりたいこと」があっても、
なかなか行動に移せないというあなた。
そんな「すぐできない人」を卒業しましょう!
◆一つでも当てはまったら要注意!
・引っ込み思案でできない!
・心配し過ぎてできない!
・こだわり過ぎてできない!
・めんどうだからできない!
・流されやすくてできない!
解決方法は本書でチェック!

やらなければならないことをついつい先延ばしにしてしまう傾向にある人を対象としたTips集。内容はおそろしく浅い。

先延ばしにしてしまう性格タイプを5つにわけ、それぞれのタイプに対して対策とか考え方の変化を促すとかをそれぞれ10個くらい提案している。提案は目新しいものは一切なく、これまでも巷に流布している当たり障りのない内容。物わかりのよさそうなお利口さんの先生が「こうしてみよう!」って感じの書きっぷりで、今さらそれを丁寧に述べられても深みも気づきもない。

たまにパラパラめくって、そうだったよなと確認するための本(それはそれで意味があるとは思っている)。

いや別に期待はしていないけれども、ヒトという生き物はタスクをなぜ後回しにしてしまうのかの生物学的・心理学的メカニズムに迫って、もっともっとアヴァンギャルドな提案をしてくる、先鋭化した本だったらめちゃくちゃおもしろいだろうになぁ(だったらそういう本を選べ>俺)。

先延ばしグセが治る!すぐに行動できる人の習慣術[後藤 英俊]【電子書籍】

読了:人間使い捨て国家(角川新書)[明石 順平]

働き方改革が叫ばれる一方で、今なお多くの労働者が低賃金、長時間労働を強いられ、命が危険にさらされている。ブラック企業被害対策弁護団の事務局長を務める著者が、低賃金、長時間労働の原因である法律とその運用の欠陥を、様々なデータや裁判例とともに明らかにする衝撃の書。

第1章 悲惨な現状ー世界はこんなに働いていない
第2章 穴だらけの法律
第3章 固定残業代ーただ、名前を変えているだけのインチキ
第4章 コンビニー現代の小作農
第5章 外国人労働者ー現代の奴隷労働
第6章 公務員ー公営ブラック企業
第7章 自民党と財界
第8章 脱・人間使い捨て国家

日本の労働環境は企業による労働者の使い捨て状態であり、政府も有効な対策をとっていないと著者は主張する。個別問題点を議論し(第1章~第6章)、その原因と考えられる自民党と財界の歴史的関係を叙述し(第7章)、そして著者の対策案を提示する(第8章)。現場の実例、データや裁判例など具体的な話が多く、提言もその意図がはっきりしていてわかりやすい。

人間使い捨て国家(角川新書)[明石 順平]
人間使い捨て国家[明石 順平]【電子書籍】

読了:お前たちの中に鬼がいる[梅原 涼]【電子書籍】

Amazon電子書店「Kindleストア」の人気作を、大幅に改稿した増補完全版。付録として、短篇『1993年(平成5年)』も収録。(あらすじ)高校教師、須永彰は薄暗い地下室で目覚めた。記憶も曖昧で何もわからない。そこで彼は、奇妙なメッセージを見つける。『お前たちの中に鬼がいる……』。地下には、他に五つの部屋があり、中には、鎖で繋がれた五人の女性がいた。誰もこの状況を説明できない。が、みな何かを隠しているようで、誰一人信用できない。さらにここでは、常識では考えられない不可解な現象が次々と起こる。須永はこの空間からの脱出を決意する。ただ気がかりがあった。自分たちの中の誰かが『鬼』なのではないか…。

ゲームを思わせる特異な世界観と推理小説を組み合わせた展開はなかなかおもしろい。先の展開が気になるためぐいぐい読ませるのはエンターテイメントとしては上出来。ただし、小説としての完成度はかなり雑。設定が結構穴だらけ。「え?そこそういう展開なのに何の説明もなし?どういうこと?奇妙じゃない?あ、そうか、あえて書かないことでひっかかりを残しておいて後半で伏線回収するパターンなんだな」とか思っていたら、結局そのままで、著者に描写力がなかっただけとか超脱力。しかもわざわざこれだけの人物を描き分けて登場させたのに、最終的にはあまり大切に扱われずさくっと消えて行ったり。一番気になるのは、この異世界の正体(成り立ち)は最後まで一切触れられない。著者にとっては単なるシチュエーションの提供であって、誰がどういう意図でその世界を作ったのかはどうでもいいみたい(これがこの作品の浅さの理由と思える)。またおよそ10年ごとに3つのグループがこの異世界の試練に巻き込まれているのだけれども、なぜおよそ10年ごとなのか、なぜそのメンバーなのかについても説明は一切なし。後半に頻出する話の設定を満たすためとしか思えない場当たり的な小ネタイベントによる展開も蛇足っぽくて気になる。最後はいい話風にまとめてあるけれども、読者が一番知りたいだろう疑問に対しては何の説明もなく終わってしまう。

ついでに、書き下ろしの短編では、10年ごとの最初のグループの末期が描かれていて本編の一部解題としての役割を果たしている。死体1体の説明と本編の主人公のお母さんが混じっていたことが目玉か。でも、だからといってお母さんが含まれた理由と、本編で主人公が含まれた理由の関連付けはなされない。また短編の主人公はこの世界がプログラミング的なものでできていることの推測はするのだが、やっぱりその正体は明かされないまま(著者にはシチュエーションさえ提供できればそれ以上は本当にどうでもいいみたい)。

あと、自分の理解力が足りないのか、あれ?計算が合わなくない?と思ったこと。それぞれのグループは6人からなるんだけれども、5人がカギのかかる部屋に閉じ込められるからカギの本数は5本なのね。で、その世界から脱出するのには一人1本ずつカギを使っていくのだよ(使うとカギは消滅する)。だから本編では当然ながら一人帰還できない。ところが、短編では一人が異世界で殺される(当然帰還しない)ので脱出者とカギの本数はちょうど足りることになるはずなんだけれども、なぜかしれっと一人死んでんだからカギが1本余ってあたりまえみたいな展開になっている。なぜ?の嵐。

誤植どころか、あきらかな発言主の表記間違いとかもあって(だってその人その場にいないじゃん……)、突っ込みどころも満載の勢いだけ素人小説だった。

お前たちの中に鬼がいる[梅原 涼]【電子書籍】

読了:ギリシア人の物語2 民主政の成熟と崩壊[塩野 七生]

黄金時代を迎えたアテネ。しかし、その崩壊の足音を手繰りよせたのは民主政に巣くうポピュリズムだったー民主政の光と影を描く、待望の第二巻。

第1巻では全ギリシアが連携してペルシア戦役を乗り越えたところまでが描かれた。今巻では、前半に指導者ペリクレスによるアテネの民主政の頂点を、そして後半ではアテネを中心とするデロス同盟とスパルタを中心とするペロポネソス同盟との間に発生した四半世紀以上にわたるペロポネソス戦争が描かれる。

後半のペロポネソス戦争がおもしろい。アテネもスパルタもお互いに正面衝突する気は全くなかったのに、それぞれの同盟加盟都市国家の争いから盟主が引っ張り出されてしまう。だらだらと続く戦役はギリシアのほぼすべての都市国家を巻き込み、舞台もシチリア島や、エーゲ海東部にまで広がり、また指導者も入れ替わってゆき、アテネもスパルタもこれまで自国を特徴づけてきた路線を外れていく。最終的にアテネはデロス同盟の崩壊とともに無残に凋落する。

次巻では、スパルタも疲弊してしまい、ギリシアに再び本格的な触手を伸ばし始めるペルシア、そしてマケドニア王国の寵児アレクサンダーの登場が描かれるようだ。

ギリシア人の物語2 民主政の成熟と崩壊[塩野 七生]
ギリシア人の物語II 民主政の成熟と崩壊(ギリシア人の物語)[塩野七生]【電子書籍】

読了:奇書の世界史 歴史を動かす“ヤバい書物”の物語[三崎 律日]

これは良書か、悪書か。時代の流れで変わる、価値観の正解。ロマン、希望、洗脳、欺瞞、愛憎、殺戮ー1冊の書物をめぐる人間ドラマの数々!

取り上げられているのは、いわゆる奇書というよりかは、著者も述べているように、その当時一世を風靡した(現代から見たら)トンデモ本や偽書・ねつ造論文の類。ある程度本に興味を持っている人にとっては、目新しい話題は少ないかも。

wikipediaの「偽書」の項

YouTubeやニコ動に掲載したコンテンツを書籍にまとめたものだけに、本や歴史好きの人を対象としたものというよりも、雑学系ゴシップ的読み物という印象。超やさしいwikipediaって感じ?内容的な奥深さはないが、想定読者をはっきりと定めて著者自身がそこは割り切っているようだ。ただし、かなり調査をしたことは垣間見られ、また誤解がないような言葉の選び方や注釈のつけ方などとても考えられている。浅いからと言って手を抜かない著者の真摯な態度は好感が持てる。各エピソードのまとめで、オチをつけてきれいに着地させたものが多いのも気持ちいい。また畠山モグ氏のイラストがとてもいい味を出している。

奇書の世界史 歴史を動かす“ヤバい書物”の物語[三崎 律日]
奇書の世界史 歴史を動かす“ヤバい書物”の物語[三崎 律日]【電子書籍】

読了:資格試験「通勤電車」勉強法[浜野秀雄]【電子書籍】

行政書士や社労士などの資格試験は、司法試験などの超難関資格と異なり、コツコツ勉強すれば合格できるレベルです。にもかかわらず、実際には合格率は数%。その大きな理由は、勉強を継続できる人が少ないからです。
合格者に聞くと、その多くが通勤時間を有効に活用しています。特に通勤電車内は、勉強を邪魔する誘惑もないため集中して勉強でき、無理なく続けられます。毎日1時間の通勤時間を学習に当てれば、大半の資格は1年間での合格が実現できます。
本書では、「通勤電車勉強用のノート作り」「駅間をストップウォッチ代わりにする」など、自身も通勤電車内で勉強して行政書士試験に合格した著者が、電車内でできる勉強法を紹介します。

忙しい社会人は、家で腰を据えて勉強するつもりでいてもすぐ挫折してしまうが、通勤電車での集中学習は継続しやすい。通勤電車でできる勉強方法は?という著者の実体験に基づいた提案書。宅地建物取引士、行政書士、社会保険労務士なんかはこれで十分合格できますよと。

いわゆる資格試験勉強ハウツーもの。ラフはこの手の本が嫌いではない。だってさ、「あ、自分でもできるかも」とかポジティブな気分になるじゃん。内容は薄く平易でサクサク読める(風呂に入りながら読み切れた)。それで「がんばってみようかな」とか思わせたのだから、この本はラフにとってはプラスだったかも。ただし実際にできるかどうか、やるかどうかは別問題だけどさ(<だからダメなんじゃん)。

資格試験「通勤電車」勉強法[浜野秀雄]【電子書籍】

読了:穴の町[ショーン・プレスコット/北田 絵里子]

『ニューサウスウェールズ中西部の消えゆく町々』という本を執筆中の「ぼく」。取材のためにとある町を訪れ、スーパーマーケットで商品陳列係をしながら住人に話を聞いていく。寂れたバーで淡々と働くウェイトレスや乗客のいない循環バスの運転手、誰も聴かないコミュニティラジオで送り主不明の音楽テープを流し続けるDJらと交流するうち、いつの間にか「ぼく」は町の閉塞感になじみ、本の執筆をやめようとしていた。そんなある日、突如として地面に大穴が空き、町は文字通り消滅し始める…カフカ、カルヴィーノ、安部公房の系譜を継ぐ、滑稽で不気味な黙示録。

 描かれている出来事や人物はどことなく現実から浮いている。でも描写はやたら具体的でマクドナルドとかサブウェイとか郊外型のチェーン店なんかも登場しているし、町を通る幹線道路は先には都市へ続いているだろうし、通過する車も多い。つまり現実から完全に隔離された町ではない。この不思議な感覚が魅力的な小説。

 オーストラリア、ニューサウスウェールズ中西部のある町にやってきた僕。「消えゆく町」に関する本を書いているので、この町の調査をしてみるが、その町がいつできて、どう発展してきたのかという過去の歴史がまったく不明で図書館にも資料はなく、また町の人も過去のことは知らないというか興味さえない。町の人は今を生きているだけで、その町には今という現状だけが流れているのだ。町で仲良くなった女の子とつるんでいるうちに、いつしか僕も日常に埋没していき、本を書き続ける気力を喪失し始める。ところがある日を境に町の地面に唐突に謎の穴があき始める。この不思議な現象に町の人たちは最初こそ騒ぎ出すが、すぐさまその現実を受け入れ、そういうものだとして生活を続ける。消滅し始める町を女の子と抜け出し、なんらかの希望をもって都市へ移り住んだ僕は、都市もまた町と変わらない満たされないものだったことに気付く。

 自分は何なのか、なんのために存在しているのかということを求めたいと思う根源的な人の性は感じているんだけれども、そのためにどうしたらいいのかわからない、とにかくなんとかしたいと思って行動もしてみた、でもどうにもならないかもしれない、だからといって差し迫った問題があるわけでもないが、どことなく落ち着かない……。自分を知りたいという思いを、町の存在意義を調べるという行動で表現している。「滑稽で不気味な黙示録」かというと、そうでもない気がするなぁ。読後感はもっと軽くて乾いた感じで、隔靴掻痒の感とでもいうか。

この町には何も特別なところがないということを。町の外のだれかの注意を引くほどのことは起こったためしがない。

消えた町々でぼくが探していたものは、記憶にとどめられている歴史だった。

 町に歴史がない、特別なところがない、ひいては自分自身も特別ではないということを突き付けられる。

彼らは消えた町の人々と同じ症状に苦しんでいるように思える。自分は何者なのかというその考えは過去に属するもので、本で読むか、歌や映画の中でまれに要約されているのを見つけるしかない。

 「彼ら」とは都市に住む人たち。過去にこそ自分の出自があると思うのだが、オーストラリアというのは、蓄積された過去(歴史)というものが豊かでない。

ホステルの談話室で冗談を言い合っているビーチサンダルをはいた英国人は、まぎれもなく英国人で、そんな難問とは無縁だ。彼らには揃っている──一連の史実と、立証できる真の全盛期が。

 結局、町で満たされなかった思いは都市でも満たされなかったのだ。オーストラリア人である限りこの心もとなさからは逃れられないのだ。じゃぁ、オーストラリアを脱すれば思いは満たされるのかというと、おそらくそれもまたノーであろう。

穴の町[ショーン・プレスコット/北田 絵里子]
穴の町[ショーン プレスコット]【電子書籍】

読了:進化の意外な順序[アントニオ・ダマシオ/高橋洋(翻訳家)]

脳と心の理解を主導してきた世界的神経科学者がその理論をさらに深化させ、文化の誕生に至る進化を読み解く独創的な論考。

第1部 生命活動とその調節(ホメオスタシス)
第1章 人間の本性
第2章 比類なき領域
第3章 ホメオスタシス
第4章 単細胞生物から神経系と心へ

第2部 文化的な心の構築
第5章 心の起源
第6章 拡張する心
第7章 アフェクト
第8章 感情の構築
第9章 意識

第3部 文化的な心の働き
第10章 文化について
第11章 医学、不死、そしてアルゴリズム
第12章 人間の本性の今
第13章 進化の意外な順序

神経科学者アントニオ・ダマシオの集大成ともいえる作品らしいが、科学的な見地からまとめられたものではなく、科学の言葉を使った彼の思索である。読んでひどくがっかり。後半の文化文明論と結び付けたあたりは比較的おもしろかったが、でもそれならユヴァル・ノア・ハラリ読む方がいいかな。とにかくやたらと難解な表現に走っていて(わざと?)、「言い換えると」とかいいながらふわっとした気取った文学的表現で例えていてますますわかりにくくなっていたり、「なんじゃこりゃ!!」の連続。

自分のおつむがポンコツなんだろうが、前半で彼が言いたいのはこういうことらしい(自分が何とかくみ取ったのは以下)。

感情や意識といったものは高等な生物である人間にしかないものと思われている。生物進化的に考えてみると、そもそも生物は自己を維持するための代謝活動としてホメオスタシスという機構を太古の細菌の頃から備えている。生命を維持するためには内部環境の異常や外界からの刺激を検知する必要があり、それらに対してホメオスタシスは発動され、刺激物から身を守ったり、原因を避けたり逃げたりという運動を起こす。やがて、生命を脅かすものに対しては不快、生存に適した刺激には快といった、将来的に感情につながるものの萌芽を持つようになる。神経系が発達してくると、自己の内外環境を、統合されたイメージ(視覚情報とは限らない)として知覚するようになり、その認識が意識となる。

「こういう科学的知見があるからこういう仮説を立てられる」とかいう話ではなく、断片的に切り取られた一場面の現象のみを羅列して思索を積み上げていくだけ。うーん、これは科学ではないな。

とにかく一読しただけでは「何をおっしゃっているのかしら?」な難解な表現てんこもりの本書から、とりわけ狼狽した個所の引用をいくつか行ってみる。(それはあくまでもラフの読解力が足りないだけというのは承知の上だ)

治療Aと治療Bによって痛みに対処する場合、あなたは、どちらの治療が痛みをより効果的に緩和するのか、完全に静められるのか、それとも効果がないのかを、感情に基づいて判断するはずだ。感情は、問題への対処を促す動機として、そしてその対処の成功、失敗を追跡する監視役として機能する。

酷暑に対する賢明な文化的反応は、おそらくは木陰で過ごすことから生まれ、それからうちわを生み出し、やがてはエアコンを発明するに至った。これは、ホメオスタシスに駆り立てられたテクノロジーの発展の好例と見なせよう。

その結果に基づいて脳が生体の変化した幾何学を表わす表象を構築すると、私たちはその変化を感知し、それに関するイメージを形成することができる。

え?なんだ?そうか?そうなのか?の連続をお楽しみいただけただろうか?

私がここで言いたいのは、文化的反応の形成に不可欠な一連の行動戦略から構成される社会性は、ホメオスタシスが備える道具の一つだということである。社会性は、アフェクトに導かれて人間の文化的な心に入って来るのだ。

「言いたい」ことらしいけれども分かった?何かを「言いたい」のは最初にそう宣言しているからわかったが、何を言いたかったのかは理解できなかったよ。

過去の成功は別として、文明的な努力が今日成功する見込みはどれくらいあるのだろうか? 考えられるシナリオの一つでは、個人、家族、独自の文化的アイデンティティを持つ集団、大規模な社会組織など、次元を異にする集団の構成単位の間でホメオスタシスの目的が異なるせいで、感情と理性の複雑な相互作用という、文化的なソリューションの発明を可能にしたまさにその道具の基盤がなし崩しにされ、文明的な努力は結局失敗に終わる。このケースでは、おりに触れて生じる文化の崩壊は、私たちの行動や心的特徴には人類以前の生物学的起源にさかのぼるものがあるがゆえに、言い換えると人間同士の争いを解決するための方法やその適用を阻害する、拭い去ることのできない原罪のようなものが人類には刻印されているがゆえに引き起こされる。

この長い引用はたったの3文しかない。最初の1文は短いが、続く2文は長すぎ。一読目は頭から読んでいくが、とにかくどれがどこにかかっていて、どれが主語でそれに対応する文末はこれであっているんだっけ?とかいうのがちっとも入ってこない。結局一通り目を通した後に再度一文ごと、日本語の構造から分析しなければならない。まぁ日本語の文の構造がなんとか分かっても、言っていることはやはり分かりにくいのだが。これは日本語訳の問題も結構大きいかも(一応それなりの翻訳プロによるものなのだが)。

かつて受験生だったころの自分が、英文和訳において、内容がさっぱり理解できないんだけれどもとにかく知ってる単語の訳を並べてなんとか書きなぐった逐語訳風の拙い答案を読み返している気分だったよ。

進化の意外な順序[アントニオ・ダマシオ/高橋洋(翻訳家)]
進化の意外な順序[アントニオ・ダマシオ/高橋洋]【電子書籍】

読了:ギリシア人の物語(1)[塩野七生]

古代ギリシアの民主政はいかにして生れたのか。そしていかに有効活用され、機能したのか。その背後には少ない兵力で強大なペルシア帝国と戦わねばならない、苛酷きわまる戦争があったーー。累計2000万部突破のベストセラー『ローマ人の物語』の塩野七生が、それ以前の世界を描く驚異の三部作第一弾!

第1章 ギリシア人て、誰?(オリンピック/神々の世界 ほか)
第2章 それぞれの国づくり(スパルターリクルゴス「憲法」/アテネーソロンの改革 ほか)
第3章 侵略者ペルシアに抗して(ペルシア帝国/第一次ペルシア戦役 ほか)
第4章 ペルシア戦役以降(アテネ・ピレウス一体化/スパルタの若き将軍 ほか)

古代において、ギリシアという領土型の国があったわけではない。それでは「ギリシア人」というのは何者か?
1:ギリシア語を話す人々であること
2:ギリシアの神々を信仰する人々であること
という文化的バックグラウンドを共有している人を指すそうだ。ギリシアはいわゆる都市国家(ポリス)群からなるもので、ギリシア人というのは独立心が強く、議論好き、戦争ばかりしている民族だ。だからたまには争いを一時停止するためのイベントとして生まれたのがオリンピック。

さて、古代ギリシャとはいえ、この書が扱うのはいわゆる歴史時代に入ってからのギリシアだ(「古典ギリシア」時代)。どのくらいの時期かというと紀元前700年代くらいから。ギリシア神話やトロイ戦争はもっと大昔の話で、その後いわゆる「ギリシアの中世」というのがやってくる(「アルカイックなギリシア」時代)。実はこの時代がギリシアの植民活動の時代で、多くの都市国家が地中海世界に広がっていった。ここまでの状況があってからあとの時代がこの書では扱われるのだ。

この時代は都市国家スパルタとアテネが2台巨頭。前半では、この2都市国家の制度改革が描かれる。まずはスパルタでリクルゴスの改革(一般に「改革」とされているが、その後のスパルタを金科玉条のように縛っていくことになるがゆえに憲法制定という位置づけの方がふさわしいと塩野は述べている)。その後150年ほど遅れてアテネのソロンの改革が始まる。アテネの民主政への道のりはソロン、ペイシストラトス、クレイステネス、テミストクレス、ペリクレスとリレーのように受け継がれていく。そして後半に描かれるのは、この時代最大の出来事ペルシア戦役。専制国家ペルシアがギリシアに攻めてきて、日ごろ仲違いをしている都市国家群のギリシアがどう対応したのか。なぜ強大国ペルシアは惨敗したのか?

サラミス海戦のアテネの勝将テミストクレスは、のちに陶片追放(政敵排除の仕組みとして使われたが、別に刑罰ではない)され、さらには指名手配されて、かつての敵ペルシアにまで逃亡する。戦役当時のペルシア王クセルクセスの息子で王位を継いでいたアルタ・クセルクセスは、彼を顧問として迎える。この時の、アルタ・クセルクセスの気持ちを塩野は次のように推測して記述している。

「テミストクレスが来ちゃった、ランランラン。来ちゃった、来ちゃった、ランランラン」

塩野はたまにこういうお茶目さんになる。

それにしてもローマ人の名前はなんとか覚えられるが、ギリシア人の名前はなじみがなくて覚えにくい。ソロン、ペイシストラトス、クレイステネス、テミストクレス、ペリクレスの5人を覚えるより、五賢帝の名前(ネルヴァ、トライアヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウス、マルクス・アウレリウス)を覚えるほうがはるかに簡単だよ(ラフには)。

次の巻ではアテネの民主政完成期ペリクレスの時代と、その後の崩壊が描かれるようだ。

ギリシア人の物語(1)[塩野七生]
ギリシア人の物語I 民主政のはじまり(ギリシア人の物語)[塩野七生]【電子書籍】

読了:1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365 人物編[デイヴィッド・S・キダー/ノア・D・オッペンハイム]

36万部突破、2018年1番売れた翻訳ビジネス書『1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365』の待望の第2弾!365人分の人生の知恵が1冊ニ!過去の成功と失敗から、明日を生きるヒントが見つかる。

1日1ページ(実はページ数は1日2~3ページ)で、世界の教養に触れられるという雑学本の第2弾は人物編だ。第1弾の感想雑記は以下を参照ください。

読了:1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365 [ デイヴィッド・S・キダー ]

今回は人物編ということで、各曜日ごとのテーマは次の通り。
 月曜日:指導者
 火曜日:哲学者・思想家
 水曜日:革新者
 木曜日:悪人
 金曜日:文筆家・芸術家
 土曜日:反逆者・改革者
 日曜日:伝道者・預言者(前作に続き日曜日は宗教の日)

前作同様、広く浅く人物紹介(超簡単な伝記)がなされるので、これで興味を持ったら、さらに本を探していろいろ読んでみてくださいねというあくまでも教養入門本。人物の著書などは主に書名のみの羅列で、なぜその時代にそういう作品が生まれたのかなどの考察はあまりされない。中にはこれでどうやって興味を持てるんだよというくらい浅い取り上げ方をされている人物がいるのもご愛敬。各トピックの最後についてくる「豆知識」は相変わらずほぼゴシップ。とりわけその人物がわき役だったとしても取り上げられた映画は誰が演じたかまで紹介されている。

取り上げられる人物は今回もアメリカ(あるいはイギリス)が中心なのは微笑ましい(やっぱり建国の父たちや南北戦争は手厚い)。伝道者の日曜日にはいわゆるアメリカの宗教伝道者が多く、モルモン教からサイエントロジーまで幅広く取り揃えております。悪人の木曜日にはフォックス姉妹(wikipediaのページ)(19世紀のアメリカでラップ現象をねつ造した姉妹)も登場。さすがに前作で取り上げた人物は避けられているけれども、著名人を取り上げているとはいえ365人もいると、日本人のラフからすると「誰やねん」という人物がまれに登場してきたりもして興味深い(アメリカではこういう人物を押さえておくのが教養なのね)。科学者や哲学者の選択はわりと堅実で(大事なところを押さえている)、彼らのトピックは興味深く読めた。また女性が多く取り上げられていたのも特徴か。1冊読めば、先人が積み上げてきた業績(ひいてはそれが人類の歩み)に感嘆の念を抱くこと間違いなし。ちなみに日本人で取り上げられていたのは紫式部と西郷隆盛。

ちょっと読みにくいかなと思った点は、各曜日ごとに独立してテーマに沿った人物を過去から現在に向けて並べているので、普通に前から順番に読んでいると中ほどでは1日ごとに時代が前に行ったり後に行ったり、時には300年近く飛んだりする。歴史上の今どのくらいの時点の話を読んでるんだっけ?というのを見失いがちになる。時には親子がそれぞれ別のカテゴリーで扱われているため、子が先に登場し、しばらく読んでいくと後になって別の曜日で親が登場したりということもある。王位の継承順とか混乱する。

読了してなによりも思ったこと:「結構な数の人物が『亡命』を経験しているもんだなぁ」(日本の歴史ではあまり出てこない言葉だよね)

1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365 人物編[デイヴィッド・S・キダー/ノア・D・オッペンハイム]
1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365 人物編(1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365 人物編)[デイヴィッド・S・キダー/ノア・D・オッペンハイム]【電子書籍】