第1部 都市国家ギリシアの終焉(アテネの凋落/脱皮できないスパルタ/テーベの限界)/第2部 新しき力(父・フィリッポス/息子・アレクサンドロス/ヘレニズム世界)/十七歳の夏ー読者に
塩野は歴史長編に関してはこの作品で最後にすると宣言(誤解のないように言っておくとまだ存命です)。最後はどうしてもアレクサンダー大王を書きたかったんだな。塩野は「自分の好みの男性像」というのが結構はっきりしていて(彼女のエッセイにも「男はこうあって欲しい」というのがよくあって、スマートにずるがしこい男が好きらしい)、中でもカエサルとアレクサンダー大王は常に別格扱い(ローマ人の物語全15巻もそのうちの2巻をカエサルにあてるほど)。
ギリシア人の物語1と2の感想は以下参照。
ギリシア人の物語の最後は、ペロポネソス戦争後から。ペロポネソス戦争に負けたアテネを盟主とするデロス同盟は崩壊し、アテネは見るも無残に凋落。とはいっても、哲学の分野に関してはソクラテスが、そして弟子のプラトン(アテネ郊外にアカデメイアを)、さらにはアレクサンダー大王の家庭教師になるアリストテレス(この人はマケドニア人だが、アテネ郊外にリュケイオンを)と続いている。ペルシアからの経済的支援を受けていたスパルタはペロポネソス戦争で勝ったとはいえ、スパルタは独自の路線を貫き孤立していく。都市国家のテーベなどが一時的に興隆するものの、その後に台頭したのはオリンポス山の北側に位置したために同じギリシア人からも半バルバロイと呼ばれてきたマケドニア王国(都市国家ではないうえに、古代オリンピアにも長らく参加を認められてこなかった)。
マケドニア王フィリッポスによりスパルタを除くギリシアはもう一度まとめられていき、その息子アレクサンダーによりペルシア遠征がはじまる(アレクサンダーはこの遠征を第1巻で述べられたギリシア本土で戦われたペルシア戦役の延長ととらえていたようだ)。ギリシア対岸の小アジアだけでなく、シリア、エジプト、そしてペルシアの中枢メソポタミアを制し、アケメネス朝ペルシアは滅亡、さらにはペルシアの後背地であるインダス川まで進む。このアレクサンダー大王の東征と戦闘(戦争ではない)の描写がべらぼうに読ませる(塩野のアレクサンダー愛はすさまじい)。そして若くしてアレクサンダー大王が亡くなってしまうと、その後彼の部下やその息子たちによる混乱により、ギリシアおよびアレクサンダーにより征服された地域は、セレウコスのシリア、プトレマイオスのエジプト(エジプト最後の王朝はエジプト人ではなくギリシア人の王朝なのだ。「クレオパトラ」という名もギリシア上流階級の女性に多い名前)、そしてアンティゴノス一族のマケドニアを中心として分割されてしまう。しかしこの時代にはヘレニズム文化が花開く。
アレクサンダー大王が画策したペルシア人との民族融和政策は途絶え、これを多民族融和政策として継承し成功を収め大帝国を築いたのは後のローマ人だったのだ。
■ ギリシア人の物語3 新しき力[塩野 七生]
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