読了:日本人の英語(続)(岩波新書)[マーク・ピーターセン]

アメリカ人は日本人をthe Japaneseというのに、自分たちをthe Americansといわず、Americansというのはなぜだろう。「読めるけれど書けない」とよく言われる日本人の英語だが、どこまで的確に読み取っているのだろう。楽しい文例と徹底比較を通じて英語の新しい世界を広げてくれる、ベストセラー『日本人の英語』の待望の続編。

1 小指に結んだ赤い糸/2 ここはカンザスじゃないみたいよ/3 花椿と赤いねこ車/4 ぼつぼつ寝ませんか/5 心の揺れから生まれる言葉/6 ことばの情景

前作では日本人の書く英語論文を添削する英語ネイティブの経験から感じたことの小論が中心だった。

読了:日本人の英語 (岩波新書) [ マーク・ピーターセン ]

今作は、書く方は前作で述べたから、じゃ今回は読む方。日本人がネイティブの使う英語のニュアンスをどこまでくみ取れているかということを取り上げていく軽めのエッセイ集(なので前作よりはるかに親しみやすく読みやすい)。いわゆる英文法の教科書には書いていないところまで踏み込んだ、冠詞の使い方に始まり、ゲルマン系の短い動詞と前置詞や副詞を組み合わせた多様な表現の使い分けなど、事細かに英語ネイティブの感覚を説明していく。大切なのは文脈でどういう使い分けがされるのかという点なのだ。日本人がさっと読み流してしまう英文であっても、英語ネイティブはそこでどういった印象を受け取っているのかなどおもしろい。日本人の英語理解だけでなく、反対に英語ネイティブが日本語に対してどう感じているのかなども、英語から日本語、また日本語から英語への、映画の字幕訳や文学作品の訳の違いなどから例を挙げて具体的に説明が供される。言語にはそれぞれのネイティブの文化が根差していることがわかる。

川端康成の「山の音」の作品で限られた範囲に登場する各登場人物がそれぞれに使う複数ある「やさしい」という言葉(日本語ネイティブなら同じ単語だけれどもシチュエーションによって意味しているニュアンスがちょっとずつ違うことは感じ取れるし、場合によっては同じ言葉だけれども意味をあえてずらして解釈しておかしみを出す効果などもある)を、ある著名な英語訳ではどのように訳し分けているのか。一方で日本語では「分からないわ」と「知らないわ」では受ける印象が違うが、英語ではどちらも「I don’t know.」が普通だ(そうはいっても文脈からその違いは英語ネイティブだってちゃんと捉えている)。

日本語と同じように冠詞のないスラブ系ネイティブの英語初心者は冠詞を抜かして「I read book yesterday.」とか言いがちだそうだが、それだと英語ネイティブにとっては「どの本だよ」と突っ込むわけだし、一方で冠詞のルールが厳密なフランス語ネイティブだと「I play the tennis.」とか言いがちなんだって。それはもうそれぞれの言語(ひいては文化)の違いがあるのだから、そういうことが起こるのは仕方のないことで初学者のうちは間違えて当然なもんだと。でも、どの言語であれその言語を学ぶのであれば、きちんと意図を感じとって伝えることのできるようにしたいものだ。というわけで結論は前作と同じで、自然な英語に習熟するためには興味のある分野でいいから徹底して多くの実例にあたって学んでいくしかないよと。

それにしても、この著者の日本語の能力はすごい。自身の日本語の能力を謙遜してはいるのだが、一般生活者としての日本人でさえそんな細かい違いまできちんと認識していないぞ(場合によっては日本人なのに日本語に不自由だったりする人だっているぞ)というようなことまで、誤解のないように丁寧でしっかりとした日本語を駆使して日本人相手に日本語の文章で説明するのだから舌を巻く。

日本人の英語(続)(岩波新書)[マーク・ピーターセン]
続 日本人の英語(日本人の英語)[マーク・ピーターセン]【電子書籍】

読了:ネットワーク超入門講座 第4版[三上 信男]

幅広い知識がやさしく学べる入門書のベストセラー!図解と丁寧解説で企業ネットワークの重要事項と全体像を理解しよう。最新事情に対応。写真も多数掲載。

1 ネットワークの全体像/2 LAN超入門/3 WAN超入門/4 スイッチ超入門/5 ルータ超入門/6 セキュリティ超入門/7 VoIP超入門/8 無線LAN超入門

自分は基本的にはソフトウェアエンジニアだと思っていて、ITインフラの知識が決定的に欠けていることは昔から認識していた(ITインフラって何?それっておいしいの?レベル)。いやソフトウェアエンジニアであろうと、IT業界の片隅に籍を置かせてもらっている以上は、ITインフラであるネットワークの基本を知らないのは由々しき問題であるとはうすうす感づいてはいた。そこでようやく重い腰を上げて取り上げたのが本書。「入門」と銘打っているからには本当に基本的なことしか書いていないんだけれども、ふわっとしかわかっていなかったラフのITインフラに関する怪しげな知識を具体的に整理できたので、読んでよかった。そもそも、ネットワークというものがどのように組まれているのか全く知らずにセキュリティとか議論するって、基盤工事がちゃんとされていないうえに家を建てるようなものだしね。

情報処理の試験でネットワーク図によく出てくるL2スイッチとかルータとかファイアウォールとか、まぁ機器をつないでいるハブみたいなもんで、それぞれ何となくこんなことやっているんだろうなぁというくらいの認識でこれまで挑んでいたのだ。つまり、なんでそういう風なネットワーク構成になっているのだとかいうその意図や背景となるものについては詳しくは分かっていなかったのだ。そういうわけで、本書の第2章から第5章は本当にすごく役に立った。あ、そういう機械だったんだなと。マシンルームとは縁遠く本物を見たこともないラフには、具体的にそれぞれの機器の写真も掲載されていて(どの機械も平べったい四角でケーブルを差し込む穴が側面にいっぱいあるだけの似たようなものばかりではあったものの)、現実に存在していたんだという衝撃もあった(まぁそういう物理的な装置の存在を知らなくても使えるというのがネットワークのすごさとも言えるが)。

とりわけ役に立ったのは、それぞれの機器がOSI基本モデル(覚えるのが面倒くさくてラフがずっと苦手意識を持っていてなんとなくしか理解していない代表)のどの層担当の機器なのかが整理されていたこと。これがわかってくると、俄然おもしろくなった。また、時代はIPv6に移ろうとしているとはいえ、まだまだ現役のIPv4のIPアドレスのルールも詳しく説明されていて、自分で計算しながらどうやって決まるのか説明できるようになったよ。今までのラフの知識はIPv4のIPアドレスにはクラスA~Cくらいがあって(意味はよく分かっていないし、実際はEまであるということを知った)、プライベートアドレスの最初は192とか172とかが多いんだなぁ、サブネットマスクって何?とかいうレベルだったのだ。

あと、第7章のVoIPはこれまでまったく手つかずの分野だった。いわゆるIP電話の話。音声データと通常のデータが同じネットワーク上を流れていること(実は流す仕組みは同じだけれども、ネットワーク回線は物理的に分けるものだと思っていた)、そして音声データは通常データよりもシビアに優先されなければならないということが絶対的に重要であるとは!!今までの認識を覆されたよ。たかだか「音声」じゃんとか思っていた自分を強く恥じた。

本当に「超入門」だけれども、新しい知識を得るというよりも、苦手意識を持っていたから今までふわっとあやふやでしかなかったITインフラ知識を具体的に整理して理解することができたという点で、最近読んだ仕事関係の実用書の中では断トツに役に立った一冊だった。

ネットワーク超入門講座 第4版[三上 信男]
ネットワーク超入門講座 第4版[三上 信男]【電子書籍】

読了:昨日まで不思議の校舎(創元推理文庫)[似鳥鶏]

超自然現象研究会が配布した“エリア51”の「市立七不思議」特集が影響を与えたのだろうか?突如休み時間に流れた、七不思議のひとつ「カシマレイコ」を呼び出す放送。そんな生徒はもちろん存在しない。さらに「口裂け女」「一階トイレの花子さん」の悪戯まで見つかった。なぜこの三つなのだろう…。調査を進めた葉山君は、ある真実に気づく。ますます快調な、シリーズ第五弾。

このシリーズもついにオカルトに突っ込んだか。全体の雰囲気も不穏な感じで、コミカル要素もかなり薄め(メレディ並み)。3つの学内事件は後半で卒業生の伊神さんがあっさりと解いちゃうんだけれども、実はそれぞれの事件は独立していたと。でも、登場人物たちが言うように、なぜそれぞれの犯人が同じ読み物の中の7つから同時にネタ被りをすることなく事件を起こしたのかっていうのはやっぱり疑問なのね。単なる偶然?そこがこの作品の最後の謎ねって思って読んでいくと、あらぬ方向へ転がっていく。実はネタと思っていた都市伝説は実際に起こった殺人事件がもとになっていることが判明、やがてそこに第1作に登場した壁男事件も含めて4つの事件は同一犯によるものということで犯人捜しになって、まぁ犯人も判明して終わるんだけれどもさ。え?ちょっと待って、さっきまで話題にしていた3つの独立した事件のネタが被らなかった件は放ったらかしなの?そこが一番気になっているんだけれども。完全放置?それぞれの犯人が述べた「ただなんとなく」ってだけで片付けちゃうの。伊神さんも葉山君もめっちゃ気にしていたのに、解決されずに終わるなんておかしいでしょ。いやぁ、今作はその点こそがまさにオカルトだよ。

昨日まで不思議の校舎(創元推理文庫)[似鳥鶏]
昨日まで不思議の校舎(市立高校シリーズ)[似鳥鶏]【電子書籍】

読了:いわゆる天使の文化祭(創元推理文庫)[似鳥鶏]

夏休みも終わりに近づいた文化祭目前のある日、準備に熱の入る生徒たちが登校すると、目つきの悪いピンクのペンギンとも天使ともつかないイラストが描かれた貼り紙が目に飛び込んできた。別館中に貼られた、部活にちなんだ様々な怡好の“天使”を不思議に思いつつも、手の込んだ悪戯かと気を抜いているとー。波瀾万丈で事件に満ちた、コミカルな学園ミステリ・シリーズ第四弾。

今回は、あっと驚くミスリーディングが3回用意されているんだけれども、いかんせん鮮やかと言い切れないところが残念極まりない。このシリーズの主人公は葉山君という男子高校生だったはずなのに、なぜか奏とかいうぽっと出の今一つ特徴のないおなごがもう一人の主役を務めている。ん~、葉山君には柳瀬さんという頼もしい変態女性先輩がいるんだから、彼女をもっと活用しようよとか思いながら読み進めるわけですよ。そして文化部の人たちと比較的仲良くなるはずの美術部員葉山君なのに、なぜかこの吹奏楽部員の奏さんとはどこか関係が薄いのよ。なんでかなぁ、と思ったら中盤にまず、これまでずっと1つの事件だと思っていた出来事が実は2つの場所で起こっていたことだという衝撃。葉山君と奏さんは違う高校の生徒だったのだ!!さらにもうしばらく進むと、今度はこの2つの場所で起きた事件が1年の時間を隔てていることも判明。そして最後には、ずっと男の子だと思い込んでいたある人物が女だったとか。こうもやすやすと作者に乗せられたのは悔しいけれども、じゃ鮮やかに気持ちよく騙されたかというとそうじゃない。ラストで怒涛の如く畳みかけるようにひっくり返されたら「やられっちまったなぁ」と思ったんだろうけれども、後半に間をおいて少しずつひっくり返していくから間延びすることこの上なし(素人のオセロゲームか)。しかも肝心な事件の素となった人物にまったくフォーカスされてこないし(ラストにほんの一瞬姿を見かけるだけ)。テーマがボケボケで詰めが甘い、甘すぎる。名探偵伊神さんもたいして活躍しないし(もはやいてるだけ。この人の常識のなさが面白かったのに)。コメディの切れも今一つだし、そろそろシリーズの限界か。

いわゆる天使の文化祭(創元推理文庫)[似鳥鶏]
いわゆる天使の文化祭(市立高校シリーズ)[似鳥鶏]【電子書籍】

読了:悪について誰もが知るべき10の事実[ジュリア・ショウ/服部 由美]

2019年11月16日の日本経済新聞に書評掲載!「人が陥るメカニズムを分析」

「猟奇殺人から小児性愛まで、リベラル化する現代社会でもっともおぞましいものに『科学』を武器に果敢に切り込んだ」(推薦 橘玲氏)

人はなぜ平然と差別、嘲笑、暴力に加担するのか?人間をモンスターに変えるものは何か?ファクトが語る脳と遺伝子のダークサイド。激しい賛否両論を巻き起こす著者の話題書!

第1章 あなたの中のサディストーー悪の神経科学
第2章 殺すように作られたーー殺人願望の心理学
第3章 フリークショーーー不気味さを解剖する
第4章 テクノロジーの光と影ーーテクノロジーは人をどう変えるか
第5章 いかがわしさを探るーー性的逸脱の科学
第6章 捕食者を捕まえるためにーー小児性愛者を理解する
第7章 スーツを着たヘビーー集団思考の心理学
第8章 私は声を上げなかったーー服従の科学

上記宣伝は売るための煽り文句だとは言え、著者はとりたてて「悪」を「おぞましい」とは言っていないし、また「悪」を「遺伝子」と関連付けてもいない(生物学的な相違があるのかという議論はしているが)。アグレッシブなテーマではあるけれども煽り立てるような論展開はしないし、著者は最終的には人間の可能性に希望を持っているとラフは受け取った。

「悪」とはどんなものなのか、絶対的に存在するものなのか(著者は否定しているとラフは読んだ)。また多くの人は物事を単純化して「悪」を考える人は「悪人」という考え方に簡単に飛びつき、そして「私」にはそんなことはできない、と思い込んでいる。でもそうじゃない、人間はちょっとしたきっかけで誰でも簡単にダークサイドに陥るものだということ、また「悪」というものに対して人々が抱いている思い込みや偏見を、多くの事例や研究から解き明かしていく。多くの人は自分は悪だとは思っていないし、なによりも悪いことをしようと思って悪になる人はいないのだ。理性的で落ち着いた論展開であるので安心して読める。

・「殺人ファンタジー」
殺人「悪」を想像した人はみんな「悪人」なのか?人を殺すということを想像したことのない人はいないだろう。しかし多くの人は想像はしても実際に行動に移すということはない。一方でちょっとしたきっかけで殺人を犯してしまう人がいるのも確か。

・「ただしイケメンに限る」
なぜ第一印象が不気味な人を警戒するのか?(ここで、不気味とは何かの定義をして考察するところが重要)。実験により明らかになったのは、人を見た目で判断するというのは実はあてにならないという現実。

・「小児性愛者」
児童ポルノ所有が必ずしも小児性愛加害者ではない。小児性愛加害者が必ずしも児童ポルノ所有者ではない。また小児性愛者が必ずしも小児性愛加害者になるわけではない。小児性愛の傾向を持つ者と加害者は同じではないのだ。被害は防がなければならないことではあるが、本質的な問題がなんであるのか見極めなければならない。

・「自己責任」
「自己責任」という言葉で弱者を切り捨てることについて。発する側にとっては自分自身の今の立場を守ろうとする心理によるものであることが明かされる。なぜそういう現実になっているのかにまで思いをいたせるかどうか。

・「テロ聖戦士」の2面性
過激な思想や信念を持っている者が必ずしもテロの実行犯になるというわけではない。またテロの実行犯がすべて過激な思想や信念を持っているわけではない。過激な思想や信念を持つ者とテロ遂行者は同一ではない。

・どうすればいいのか
人というものはそういう傾向があるということを知っておく、自分で考えることをやめない、おかしいと思ったら立ち止まってみる。それができるのが人間である。そのことにより歯止めがかけられるはずだ。人間は基本的にみんな理知的であるという前提に立ったきれいすぎる理想論のようではあるけれども、ラフはこういう考え方は好きだ。

ちなみに結論の章で著者が述べる10の事実(邦題に合わせて事実とくくっているが、提言も含む。原題は“Making Evil -The Science Behind Humanity’s Dark Side”)。

  1. 人間を悪と見なすのは怠慢
  2. 脳は少しサディスティック
  3. 人殺しは誰にでもできる
  4. 人の不気味さレーダーは質が悪い
  5. テクノロジーは危険を増大させる
  6. 性的逸脱はごく普通
  7. モンスターとは人間のこと
  8. 金は悪事から目を逸らさせる
  9. 文化を残虐行為の言い訳にするな
  10. 話しにくいことも話すべし

今まで自分の中でもやもやしていた様々な事象や思いがすっきりとしたエキサイティングな読書経験だった。

悪について誰もが知るべき10の事実[ジュリア・ショウ/服部 由美]
悪について誰もが知るべき10の事実[ジュリア・ショウ/服部由美]【電子書籍】

読了:資格試験に超速で合格る勉強法[尾本一明]

偏差値40台・高卒でも働きながら宅建士・社労士・行政書士に!誰でも、今日から始められる超実践的ノウハウ44。合格る人、落ちる人、超速で合格る人ー3つのタイプ別解説で身につく!

1 超速で受かる人は「考え方」が違う!/2 超速で受かる人は「勉強法」が違う!/3 超速で受かる人は「過去問と模擬試験」を使い倒す!/4 超速で受かる人は「時間の使い方」が違う!/5 超速で受かる人は「勉強する環境」をつくる!/6 超速で受かる人は「試験本番」にこう臨む!

著者の経歴をみると(おぉラフと同世代じゃん)もう本当に頑張った方なんだなぁと。学歴コンプレックスがあったこと、困っている人を助けたいと思ったことから一念奮起して資格に挑戦、現在取得した資格をもとに活躍されていらっしゃる。忙しい社会人が短期間で資格試験合格を目指すにはということで自身の経験を踏まえて勉強のコツを伝授してくれる。各種Tipsに対して、1:試験に受からない人、2:試験に受かる人、3:試験に超速で受かる人(3を目指したい)の3種類に分けてそれぞれどういうアプローチをしているのか、どうすれば効率的に第3のカテゴリーに入れるのかを穴埋め形式で整理していく。

とっても熱い本(著者の熱意)なんだけれども、「いやぁ、それはわかるんだけれどもね、それだけのモチベーションがないし、やらなきゃならないと思うとしんどくなってあきらめちゃうんだよね」と思ってしまった自分は、やっぱり資格に対する熱意や切実さというかが全然足りないんだな、また将来に対する自身のビジョンというものもまったくないんだな、ということを自覚するばかり……。だめじゃん、俺。(なのにこの手の資格勉強系の本が好きだったりする矛盾)

資格試験に超速で合格る勉強法[尾本一明]
資格試験に超速で合格る勉強法[尾本一明]【電子書籍】

読了:まもなく電車が出現します(創元推理文庫)[似鳥鶏]

芸術棟が封鎖され、困ったクラブや同好会が新たな棲処を探し始めた。美術部の僕は美術室に移動して、無事作品に取り掛かれるかと思いきや、美術部の領地と思しき開かずの間をめぐる鉄研と映研の争いに、否応なく巻き込まれてしまう。しかし翌日、その開かずの間に突如異様な鉄道模型が出現!?表題作を含む五編収録の、山あり谷ありで事件に満ちたコミカルな学園ミステリ短編集。

まもなく電車が出現します/シチュー皿の底は並行宇宙に繋がるか?/頭上の惨劇にご注意ください/嫁と竜のどちらをとるか?/今日から彼氏

前作までがすごくおもしろかったので、期待して読み始めたんだけれども、今回は今一つ。まず事件の質がどれもしょぼくなってしまった(ちっせぇよ……しかもどうでもいいよ)。このシリーズの一番の特徴であったコメディ要素も抑え気味でスピード感がなく、今までのノリだと「まぁいいか」ですませられてきたところが、中途半端にシリアスな印象でうまく乗り切れない(粗が目立つ)。「今日から彼氏」に至っては気持ち悪いことこの上なし。葉山君(主人公)、君はそんな人ではなかったはずだよ……(しくしく)。

まもなく電車が出現します(創元推理文庫)[似鳥鶏]
まもなく電車が出現します(市立高校シリーズ)[似鳥鶏]【電子書籍】

読了:ユダヤ人の歴史(河出文庫)[レイモンド・P.シェインドリン/入江規夫]

世界をまたにかけて移動し、世界中の人々に影響を与え続けているユダヤ人の起源から現代までの三千年以上にわたる歴史を、簡潔に理解できる入門書。各時代における有力なユダヤ人社会を体系的に見通し、その変容を追う。オックスフォード大学出版局の叢書にもおさめられている基本図書。多数の図版と年譜、索引、コラムを収録。

第1章 古代イスラエル人の起源とその王国ー紀元前一二二〇年以前から紀元前五八七年まで
第2章 ユダヤの地とディアスポラの起源ー紀元前五八七年から紀元七〇年まで
第3章 ローマ帝国下のパレスチナとササン朝ペルシアのバビロニアー紀元七〇年から六三二年まで
第4章 イスラム社会におけるユダヤ人/イスラムの勃興と中世の終わりまでー六三二年から一五〇〇年まで
第5章 中世キリスト教ヨーロッパ社会におけるユダヤ人ー九世紀から一五〇〇年まで
第6章 オスマン帝国と中東におけるユダヤ人ー一四五三年から一九四八年まで
第7章 西ヨーロッパのユダヤ人ー一五〇〇年から一九〇〇年まで
第8章 東ヨーロッパとアメリカ合衆国のユダヤ人ー一七七〇年から一九四〇年まで
第9章 ホロコースト
第10章 シオニズムとイスラエル建国
第11章 一九四八年以降のユダヤ人

イスラエル、エルサレム関係の歴史入門書を先ごろ読んだ。

読了:物語エルサレムの歴史 旧約聖書以前からパレスチナ和平まで (中公新書) [ 笈川博一 ]

読了:物語イスラエルの歴史 アブラハムから中東戦争まで (中公新書) [ 高橋正男 ]


当然、イスラエルの歴史となると、古代イスラエル(主に聖書の記述に基づく)からユダヤ戦役までが描かれた後、(狭義の)ディアスポラの時代を経て、次に再登場してくるのは19世紀のシオニズム運動あたりからとなる。中世がごっそり抜け落ちるのだ。

今回読んだ書はユダヤ人の歴史なので、(狭義の)ディアスポラ時代についても、ユダヤ人がどのように生きてきたのかが分かり非常におもしろい(その時代に該当する第3章から第8章あたりが個人的にはとても新鮮だった)。世界史の中でユダヤ人が置かれた立場(決して彼らが望んだわけではない)を知ると、ユダヤ人の陰謀といったものがいかにバカげた説かが分かる(もっともこの本ではそんなつまらないことを述べてはいないけれども、そんなことはありえないということはわかる)。またユダヤ人は他の民族とは決して交わらないという思い込みがあったんだけれども、他の民族と同化していったユダヤ人もかなり多いことを知った。ヨーロッパにおいては、スペイン起源のセファルディム系ユダヤ人と西ヨーロッパを起源としてやがて東ヨーロッパに中心を移したアシュケナジム系ユダヤ人というように、実は多様化していたことも知った。というわけで「オスマン帝国内のスペイン系ユダヤ人」といった表現も当たり前に出てくる。

ユダヤ世界と非ユダヤ世界の違いを歴史的な経緯から説明し、また「世界史の中で暗躍するユダヤ人」といった間違ったイメージを払拭してくれる入門的良書。

ユダヤ人の歴史(河出文庫)[レイモンド・P.シェインドリン/入江規夫]
ユダヤ人の歴史(ユダヤ人の歴史)[レイモンド・P・シェインドリン]【電子書籍】

読了:さよならの次にくる(卒業式編)(新学期編)(創元推理文庫)[似鳥鶏]

「東雅彦は嘘つきで女たらしです」愛心学園吹奏学部の部室に貼られた怪文書。部員たちが中傷の犯人は誰だと騒ぐ中、オーボエ首席奏者の渡会千尋が「私がやりました」と名乗り出た。初恋の人の無実を証明すべく、葉山君が懸命に犯人捜しに取り組む「中村コンプレックス」など、「卒業式編」は四編を収録。デビュー作『理由あって冬に出る』に続くコミカルな学園ミステリ、前編。

名探偵の伊神さんは卒業、葉山君は進級、そして迎えた新学期。曲がり角が衝突したことがきっかけで、可愛い一年女子の佐藤さんと知り合った。入学以来、怪しい男に後をつけられているという佐藤さんのために、葉山君はストーカー撃退に奔走することになる。苦労性の高校生・葉山君の、山あり谷ありの学園探偵ライフ。爽快なフィナーレまで一気呵成に突き進む学園ミステリ、後編。

前作デビュー作「理由あって冬に出る」が1月のある事件を描いた長編だったんだけれども、今度の「さよならの次にくる」はそれに続く卒業式と新学期に渡る期間を扱った(一部数年前を扱ったものが含まれるが今回の登場人物を導くため)、前編・後編2冊にわたる連作短編。それぞれの話は独立しつつも関連していて、ラストに至ったときにすべての伏線が回収されているという構成には拍手喝采。話の随所で小出しに回収されていく一部の伏線がダラダラ感をもたらすところや、短編の間に挟まれる断章があからさまに「これは伏線ですよ」と主張しすぎているところが玉に瑕(こういう形式のミステリは加納朋子が今のところ一番かなとラフは思っている)。

愛すべき変人文化部高校生たちの当意即妙なやり取りはやっぱりおもしろい。「えぇ、それは強引だろう」とか「ありえないよぉ」とか思う部分はあるんだけれども、コメディで展開することにより「まぁいいか、さもありなんということにしておこう」と自然と受け入れられる。大人になり切れていないどうしようもない青臭さの一方で、妙にしっかりとしていて大人の世界に片足突っ込んでいるような部分の同居が「青春・思春期」というもので包まれてうまくまとまっている。

新学期には「曲がり角でゴツン」で「恋なんか芽生えちゃったりして」という定番ネタもきちんと織り込んでいる。またところどころに出てくる脚注も枠外からの笑いを誘う。シリーズはまだ続くので楽しみ。

さよならの次にくる(卒業式編)(創元推理文庫)[似鳥鶏]
さよならの次にくる〈卒業式編〉(市立高校シリーズ)[似鳥鶏]【電子書籍】
さよならの次にくる(新学期編)(創元推理文庫)[似鳥鶏]
さよならの次にくる〈新学期編〉(市立高校シリーズ)[似鳥鶏]【電子書籍】

読了:理由あって冬に出る(創元推理文庫)[似鳥鶏]

芸術棟に、フルートを吹く幽霊が出るらしいー吹奏楽部は来る送別演奏会のため練習を行わなくてはならないのだが、幽霊の噂に怯えた部員が練習に来なくなってしまった。幽霊を否定する必要に迫られた部長に協力を求められ、葉山君は夜の芸術棟へと足を運ぶが、予想に反して幽霊は本当に現れた!にわか高校生探偵団が解明した幽霊騒ぎの真相とは?コミカル学園ミステリ。第16回鮎川哲也賞佳作入選、期待の新鋭のデビュー作。

とある高校の芸術棟(主に文化部と同好会の活動部屋がある古い建物)に幽霊が出るという噂が。真相を調査する文化部所属の高校生たち。設定に甘さは感じるものの、伏線はちゃんと張っておいたものをきちんと回収していくし、登場人物の未熟で青臭いところには青春を感じさせるし、なによりもコメディ仕立てにしてあるので楽しく読めるのが魅力。自分が高校生だった頃を思わず懐かしんでしまったよ(ちなみにラフは高校のときは吹奏楽部)。シリーズ化しているので、続きも読んでいきたい。

理由あって冬に出る(創元推理文庫)[似鳥鶏]
理由あって冬に出る(市立高校シリーズ)[似鳥鶏]【電子書籍】