読了:科学 vs. キリスト教 世界史の転換(講談社現代新書)[岡崎 勝世]

「天地創造」は6000年前、アダムはすべての人類の祖…「常識」は、いかに覆されたか?知の大転換のプロセスをスリリングに描く!

聖書(主に旧約聖書の創世記)に縛られた普遍史(聖書的時間)から科学的歴史へと歴史観が変わっていく様子を、ニュートンの時代(科学革命の時代)から概説する。ヨーロッパが囚われていた聖書の呪縛がいかに強力であったかがわかる。

まずはデカルト、ニュートンの時代(科学革命の時代とされるが)。それまでは世界(宇宙)は神によって作られ、神自らによってあまねく制御されていると考えられてきた。しかしここにおいて世界は神によって作られたが、その後万物は神によって作られた自然法則によってなる世界にリリースされたのだという考え方が登場した。自然法則を明らかにするということは神の作った法則を明らかにするという発想。ニュートンがまとめた運動の法則や万有引力(重力)も神の法則を明らかにしたもので、ニュートン自身は天地創造を疑っていなかった。なにしろ世界は天地創造から約6000年と考えられていたのだ。

次に分類学の祖リンネ。神が作りたもうた完全なる世界(創世記にあるようにすでに生物はすべて完成している)の生物を分類しようという試み。新世界の知見が広く知られるようになり、それをいかに分類するか。とりわけ人類の分類。ヒトに近いサルと、サルに近いヒト、世界各地に伝わる伝説の生き物、これらをどう分類していくのか。

続いて啓蒙主義の時代。ここにおいて聖書時間に支配された普遍史(聖書の記述に基づいた歴史)から人文科学としての世界史の成立。年代表記も創世紀元からキリスト紀元へ。天地創造の時期と人類の誕生の時期の分離。信憑性のありそうなエジプトや中国の古代史が聖書の記述では説明できないことが分かってきたのだ。聖書に対する追随的合理化から批判的合理化の始まり。

そして、19世紀に登場したダーウィンの進化論や地質年代の研究により、実は地球の歴史はもっと古かったのでは?どうしても絶対的な長い時間が必要になるのだ(少なくとも数億年)。しかし当時の権威とされるケルビン卿(熱力学第2法則をまとめたり、絶対温度の単位に名を遺す)により最大1億年(数千万年程度が妥当と)という枠に縛られる。

第2次大戦後になってようやく放射性同位体を使った正確な地質年代が求められたのである。地球の年齢は46億年と。

科学vs.キリスト教 世界史の転換(講談社現代新書)[岡崎 勝世]
科学vs.キリスト教 世界史の転換[岡崎勝世]【電子書籍】

読了:知ってるつもり 無知の科学[スティーブン・スローマン/フィリップ・ファーンバック]

インターネット検索しただけで、わかった気になりがち。極端な政治思想の持ち主ほど、政策の中身を理解していない。多くの学生は文章を正しく読めていないが、そのことに気づいていない。人はなぜ、自らの理解度を過大評価してしまうのか?それにもかかわらず、私たちが高度な文明社会を営めるのはなぜか?気鋭の認知科学者コンビが行動経済学から人工知能まで各分野の研究成果を総動員して、人間の「知ってるつもり」の正体と、知性の本質に挑む。思考停止したくないすべての人必読のノンフィクション。

上の紹介には「ノンフィクション」とあるけれども、どちらかというと認知科学者による「集団認知」に関する科学啓蒙書(ただしとても分かりやすく読みやすい)。認知科学に基づいた調査(バカみたいなメディアによる世論調査とは一線を画す)実験・研究を踏まえた内容。人はいかにものを知っているつもりになっているかを明らかにした調査報告や、なぜ人は物事を知っているつもりになってしまうかを人類の進化を交えて考察する前半。その結果現代人が直面している科学・政治・生き方においてどういう有様になっているかを紹介し、「集団認知」(コミュニティとして持つ知恵)をどういかしていけばいいのかを示唆する後半。

人類は自分だけの知識でなく、他人の知識をも共有し、それをシームレスに活用して集団生活(コミュニティ)できるように進化してきたとも言える。生きていくうえで必要な世界にある情報はあまりにも多すぎて個人レベルではどうにもならない。だから様々な分野の専門家をうまく頼り(ただし騙されないように)、またそのためには集団内に多様な人材をそろえておいたほうがいいよねって感じ。同質な人間ばかりが集まると集団浅慮ということも起こることがわかっているしね。とかいう話が具体的な調査や例で報告されるので読んでいて面白い(いわゆるイタい話がてんこ盛り)。

「個人の無知を知ったうえで集団としてうまく生きていく」と、そういうまとめで終わるんだけれども、実はあとがきでちょっとブレる。著者のうちの一人が、自分の2人の娘の話をするのだが、そこで一人の娘はそういうことを知っているような沈着冷静でキチンと物事を見据える傾向にあるが、もう一人の娘はそうではなく自由奔放活発で思ったままに行動すると。でどっちがいいのか?当然どっちもいいんだ。前者は本著で述べたようにもちろん好ましいのだが、後者は後者でこれこそが人らしい点でもあり、このことが人類を進歩させてきた原動力ともいえるのだとか言い出す。なんだ、じゃ結局どっちでもいいんじゃん(自分の無知に自覚的であろうと無自覚であろうと)とか思ってしまった(ここはラフの読みが甘いだけかもしれないが)。まぁそうはいっても内容はなかなか面白かったんだけれどもね。

知ってるつもり[スティーブン・スローマン/フィリップ・ファーンバック]
知ってるつもり 無知の科学[スティーブン スローマン/フィリップ ファーンバック]【電子書籍】

読了:戦争を演じた神々たち[全][大原まり子]【電子書籍】

破壊する創造者、堕落した王妃、不死の恐竜伯爵、男から女への進化、完全なる神話学的生態系、等々。生命をめぐるグロテスクで寓意に満ちたイメージが、幻視者、大原まり子のゴージャスかつシンプルな文体で、見えざる逆説と循環の物語として紡ぎあげられた。現代SF史上もっとも美しくもっとも禍々しい創造と破壊の神話群。第15回日本SF大賞受賞作とその続篇を、著者自ら再編成しておくる、華麗で残酷な幻惑の輪舞。

とても読みやすいのに、技巧もしっかり施してあるSF短編集。地球はすでに滅亡しているらしい宇宙を舞台にしたとんでもなく未来の話らしい。コミカルで軽妙洒脱なものから、神話を思わせる重厚なものまで、まるで夢の世界を描いたような不思議な非現実感と美しさを伴った文章はどれも読ませる。読み初めの思い込みを裏切る仕掛けのある話も面白い。概してどの物語も情景描写が巧みでSFながらの不思議な設定ととてもあっている。大人のための寓話。

戦争を演じた神々たち[全][大原まり子]【電子書籍】

読了:青のフラッグ 6 (ジャンプコミックス) [ KAITO ]

6巻は秋の文化祭が中心舞台。高校3年生、近づく受験の悩み、恋と友情。太一と二葉の交際は初々しくも順調に進む。二葉の親友真澄は普通じゃない人を好きになってしまうことをトーマの義理の姉に告白する、そしてトーマは秘めていた太一への思いを告白する。ラストは胸の中に腕を突っ込まれて心臓をぎゅっとされるくらいに痛くて苦しかった。好きな人に「ごめんな」というのを聞くのはやっぱりつらいもんだよ。

それにしても、話の運び方とカット割りがすごくうまい。

青のフラッグ 6 (ジャンプコミックス) [ KAITO ]

絶対おすすめ!次世代青春マンガ『青のフラッグ』の魅力を徹底解説してみた。【ゲイは読むべし】|ライ麦畑のがけ近く

wikipediaの「青のフラッグ」の項

読了:文庫 人間の性はなぜ奇妙に進化したのか (草思社文庫) [ ジャレド・ダイアモンド ]

原題は「Why Is Sex Fun?」。日本語訳された時の邦題は「セックスはなぜ楽しいか」。文庫化されるにあったって今回の邦題に変更された。堂々と講義の副読本にも使えると後書きにあり。

刺激的なタイトルではあるけれども、ジャレド・ダイアモンドの人間の性にまつわる基本的にはまじめ、でも軽妙洒脱な科学エッセイ。内容は目次を追うと「なぜ男は授乳しないのか?」「セックスはなぜ楽しいか?」「男はなんの役に立つか?」「少なく産めば、たくさん育つ」「セックスアピールの真実」とヒトの性の不思議を進化論的にどういう説明ができるのかを試みていく。個人的には女性が閉経するのはなぜかというのがおもしろかった。人間の性の不思議を議論するために、ほかの生物ではどうなっているのかなど興味深い知見や仮説が盛りだくさん。

ジャレド・ダイアモンドの著書っておもしろいんだけれども、ちょっと読みにくい。内容はそれほどむつかしいことを言っていないのだが、前提の話や仮説の紹介が数ページにわたることもあって、今何のためにこの話をしていてどこに向かっているのかを見失ってしまいがちになる。それと厳密に読んでいくと「おや?」と思うところも多い。なんで違うカテゴリーのAとBを比較できるの?さっき疑問を呈した考えを今度は積極的に採用するの?とか思う。著者が指摘するように、ラフは分子生物学的思考をしがちなので、進化の考え方と相性が悪いのかもね。

文庫 人間の性はなぜ奇妙に進化したのか (草思社文庫) [ ジャレド・ダイアモンド ]

読了:ゲイだけど質問ある? [ 鈴掛 真 ]

オープンリーゲイ歌人の鈴掛真さんが、若い世代を対象にLGBTについて答えるエッセイ。オープンリーとしての覚悟と責任を持ってできるかぎり真摯に答えようとしている態度は好感が持てる。ゲイとして自分がどんなことに苦悩してきたかということも具体的に告白して、オープンリーとして生きていくことを決心したこと、そしてこれからの社会をこうしていきたいという意志と行動と呼びかけもきちんとしている。

鈴掛さんの他の短歌を読んだことがまだないんだけれども、本書の話題ごとに挟まれる短歌はどれも今ひとつ。若さと情熱と感傷は感じられるけれども、言葉が上滑りしているというか伝わってくるものが弱い。

ゲイだけど質問ある? [ 鈴掛 真 ]

読了:早朝始発の殺風景 [ 青崎 有吾 ]

千葉県のどこかと思しき街が舞台。オムニバス形式の高校生たちによる日常推理小説。とりわけ表題作「早朝始発の殺風景」は素晴らしい。シチュエーションとキャラクター設定が秀逸なのだ。それに比べるとほかの話は、いまひとつ。というのも、登場人物のすべてが全員同じようななぞ解きの発想をし、同じような手順を踏むのだ。ちょっとこれにはびっくり。性格はそれぞれ描き分けられているのに、なぞ解きの仕方がみんな一緒。確かに、前言やシチュエーションから謎を解いていく(伏線を回収する)ロジックは読んでいてすっきりとして気持ちがいいけれども、え、その人もそういう発想するの?え、そんなそんなこと思う?とかちょっと腑に落ちない状況があるのだ。この手のなぞ解き方法がもっともしっくり来たのが、「早朝始発の殺風景」の登場人物だったというだけかも。

書き下ろしのエピローグは必要?「早朝始発の殺風景」の後日譚なんだけれども、各ストーリーの登場人物も総登場。だからといって、そのことが効果的かというとそうでもない。「早朝始発の殺風景」は本編の終わり方のままであった方が、ゾッとして良かったのになぁ。ないほうが作品として面白かったのでは?同じ街の出来事であることを説明するための後付けのようで、またとって付けたような青春ものにしなくてもよかったのではと思う。エピローグを付けるなら、伊坂幸太郎や加納朋子みたいな「うわぁやられた!!」くらいのものを期待しちゃうよ。

早朝始発の殺風景 [ 青崎 有吾 ]

読了:島はぼくらと (講談社文庫) [ 辻村 深月 ]

吉川英治文学新人賞、直木賞と輝かしい経歴を持つ著者。瀬戸内海の島に住む4人の高校生が、大人の世界の現実と向き合いながら成長する青春劇とでもいうか。すごく取材や下調べしたんだろうなということは分かる。とにかく話を面白くするはずの仕掛けがたくさん盛り込まれているのだ。なのに盛り込まれすぎているというか、結局テーマは何?伝えたいことは何?訴えてくるものがすごく希薄なのだ。これだけの仕掛けを用意しておきながら、それぞれの出来事もなんらかの伏線になっていたわけでもなく。いろいろしがらみがある現実を描きたかっただけ?後半からラストにかけてテンポだけはいいものの鼻白むばかりの展開には辟易。このご都合主義はなんだ?素人の作品か?なのにこの作品の評価はどうもそれほど悪くないようだ。俺の読解力のなさの問題なのか?

島はぼくらと (講談社文庫) [ 辻村 深月 ]

読了:【POD】1日で読めてわかるTCP/IPのエッセンス

基本的にはコーダーの自分はネットワークとかインフラ周りがとても弱いことを自覚している。そこで手っ取り早く今のあやふやなTCP/IPの知識を補強しておこうと思ってこの本を手にとった。「1日でわかる」しかも「エッセンス」。……タイトルから期待しすぎました。確かに数時間では読めた。でも「essence」というよりか「supernatant」な印象だった。「はじめての人でもわかる」ようなまったくの入門的内容ではないけれども、そこそこ勉強している人には物足りないような内容。わかりやすく日常語で書いた技術仕様の概要みたいな感じ。コラムの内容をもう少し技術に対する具体例みたいにするだけでもかなり違った印象になるのではなかろうか。自分は著者が意図していた対象読者層とは違うのかも。

【POD】1日で読めてわかるTCP/IPのエッセンス

読了:物語イスラエルの歴史 アブラハムから中東戦争まで (中公新書) [ 高橋正男 ]

先日似た内容の本を読んだ。

読了:物語エルサレムの歴史 旧約聖書以前からパレスチナ和平まで (中公新書) [ 笈川博一 ]

今回の方も「物語」とついているけれども、こちらは物語というよりかは歴史文献や考古学の知見も多く、より学術的。文章もすっきりとしていて読みやすい。ただ、中東戦争あたりは現地のルポ的な要素がある、前に読んだ本のほうが読み物としては面白かったかも。

ユダヤの聖地、キリスト教の聖地、イスラムの聖地であるエルサレムの位置付けを世界史の中でとらえる通史としてとても面白く読めた。ユダヤの自覚とユダヤ教の芽生えはバビロン捕囚の時だったんだなとあらためて昔習ったことを思い出したよ。そして第1次世界大戦前後からのシオニズム、ユダヤとパレスチナ、アラブの動き。列強の思惑と干渉。現在に続く中東紛争の概要をつかむのにも適している。

物語イスラエルの歴史 アブラハムから中東戦争まで (中公新書) [ 高橋正男 ]