読了:男たちを知らない女(ハヤカワ文庫SF)[クリスティーナ・スウィーニー=ビアード/大谷 真弓]

男たちを知らない女

男たちを知らない女

  • 作者:クリスティーナ・スウィーニー=ビアード/大谷 真弓
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2022年02月02日頃

災厄は英国、グラスゴーから始まった。救急外来にきた男性が次々に死んでいったのだ。最初は一般的なインフルエンザの症状に思えたが、男だけが数日で息を引きとってしまう。男児は生まれてすぐ死んでいき、免疫のある男性は十人に一人。この恐るべき疫病はまたたくまに広がり、やがて全世界で人類の半分が亡くなったー愛する者を失い、男性のいない新しい世界を生きていく女たち。衝撃の近未来破滅SF。

スコットランドから始まったウイルス感染は瞬く間に世界へと広がる。このウイルスに感染すると、男性の9割が亡くなる(1割は何らかの免疫を持っていて生き延びる)。女性は感染しても亡くならないが、それでも家族を失う者が続出。男性がほとんどいない世界へと変わっていく。疾病の発生にはじまって新しい世界の構築に向かいだす5年ほどをドキュメンタリー風に描いたSF作品。

原作は2020年前半、まさにコロナ禍の初期に出版された(書かれたのはコロナ禍よりも前になる)。それがさ、もうホントに今現在目にしているコロナ禍の世界混乱の光景と似たようなものが作品中に描かれているのだ。旅客機の国際線停止と再開、ワクチン開発競争、各国の接種プログラム、世界秩序の変化など。

邦題「男たちを知らない女」はちょっと受ける印象が異なるかも。実際には男性はまったくいなくなったわけではないのでなんか違うかなという感じ。あくまで男性人口が極端に減ったというだけで身の回りからまったくいなくなったわけではない。強いて言うなら、主人公の一人が産んだ娘は、男性がほぼいなくなった世界を生きていくわけで、その子が生きていく世界を慮った母親の想いにそれに近いことはちょっとだけ書いてはあるが。ちなみに原題は「The End of Men」。

作風は、先だって読んだ「ダリア・ミッチェル博士の発見と異変」に似ているか。どちらも同時代のある世界的事件の顛末を追うドキュメンタリー仕立てである。

読了:ダリア・ミッチェル博士の発見と異変 世界から数十億人が消えた日(竹書房文庫 と4-1)[キース・トーマス/佐田 千織]

男たちを知らない女(ハヤカワ文庫SF)[クリスティーナ・スウィーニー=ビアード/大谷 真弓]
男たちを知らない女[クリスティーナ スウィーニー=ビアード]【電子書籍】

読了:危機と人類(上/下)[ジャレド・ダイアモンド]

危機と人類(上)

危機と人類(上)

  • 作者:ジャレド・ダイアモンド/小川 敏子
  • 出版社:日経BP 日本経済新聞出版本部
  • 発売日: 2020年10月05日頃

遠くない過去の人類史から学ぶべき、危機対応の叡智とは何か。『銃・病原菌・鉄』『文明崩壊』『昨日までの世界』で知られるジャレド・ダイアモンド博士が、日本、フィンランド、チリ、アメリカなど国家的危機に直面した世界7カ国の事例から、全世界が一致して持つべき危機への認識を解き明かす。文庫化にあたり、世界が直面するコロナ禍を分析した序章を新たに追加。

プロローグ ココナッツグローブ大火が残したもの/第1部 個人(個人的危機)/第2部 国家ー明らかになった危機(フィンランドの対ソ戦争/近代日本の起源/すべてのチリ人のためのチリ/インドネシア、新しい国の誕生)

危機と人類(下)

危機と人類(下)

  • 作者:ジャレド・ダイアモンド/小川 敏子
  • 出版社:日経BP 日本経済新聞出版本部
  • 発売日: 2020年10月05日頃

国家的危機に直面した国々は、選択的変化によって生き残るーでは、現代日本が選ぶべき変化とは何か。現代日本は、基本的価値観を再評価して取捨選択し、「新常態」に適応できるか。そして人類はいま全世界を襲う危機に対し、協調した行動をとれるだろうか。国家的危機を左右する12の要因は、世界の危機にも応用できるのか。博覧強記の著者が解決への道筋を提案する。

第2部 国家ー明らかになった危機(承前)(ドイツの再建/オーストラリアーわれわれは何者か?)/第3部 国家と世界ー進行中の危機(日本を待ち受けるもの/アメリカを待ち受けるものー強みと最大の問題/アメリカを待ち受けるものーその他の三つの問題/世界を待ち受けるもの)/エピローグ 教訓、疑問、そして展望

近現代史における国家の危機と克服の例7つを紹介。そして著者の克服のための12分類フレームワークによる検討。どういう危機に直面しどのように乗り越えたのか。そして、日本とアメリカを例としてそれぞれの国が現在直面している危機は何か?さらに私たちがこれから直面するだろう危機は何で、それを乗り越えていくにはどうすればよいのか?を考察する。近現代史としてあまり詳しくは勉強していない話題が多いので(日本の部を除く)おもしろかった。無知は怖いねぇと思ったり思わなかったり。日本の部も含めて欧米の知識人がどのように世界をとらえて考えているのかを垣間見れるという面からもおもしろい。(さすがに日本のデートにおけるケータイ会話はジョークの類かと思うが)

危機と人類(上)(日経ビジネス人文庫 B たー21-3)[ジャレド・ダイアモンド/小川 敏子]
危機と人類(下)(日経ビジネス人文庫 B たー21-4)[ジャレド・ダイアモンド/小川 敏子]
危機と人類(上)(危機と人類)[ジャレド・ダイアモンド]【電子書籍】
危機と人類(下)(危機と人類)[ジャレド・ダイアモンド]【電子書籍】
危機と人類(上下合本版)(危機と人類(上下合本版))[ジャレド・ダイアモンド]【電子書籍】

読了:一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書[山崎 圭一]

一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書

一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書

  • 作者:山崎 圭一
  • 出版社:SBクリエイティブ
  • 発売日: 2018年08月20日頃

一般的な教科書と違い、年号を使わずにすべてを数珠つなぎにして「1つのストーリー」として解説。読むだけで高校の世界史の知識が一生モノの教養に変わる!

序章 人類の出現・文明の誕生/第1章 ヨーロッパの歴史/第2章 中東の歴史/第3章 インドの歴史/第4章 中国の歴史/第5章 一体化する世界の時代/第6章 革命の時代/第7章 帝国主義と世界大戦の時代/第8章 近代の中東・インド/第9章 近代の中国/第10章 現代の世界

「一度読んだら絶対に忘れない」かと言われれば、やっぱり忘れるものは忘れる。また丸腰でこの本を読んでも世界史がわかるといったことはないです。とりあえず一通り世界史の授業は受けたけれどもなんだかすっきりしないんだよねという人、大人になってもう一度世界史で習ったことを思い出したい方が対象か。

授業で習う世界史の問題点は、歴史と地域をぶつ切り細切れにして、あっちいったりこっちいったりするから全体像がつかみにくいところだと思う。一通り教科書や授業で習った後に「ヨーロッパ史」「中国史」「文化史」だとかのテーマを決めたりなんかして習ったことを各自が再構築することで世界史の知識は定着していくものなのね。その再構築を手伝ってくれるツールが本書です。世界史の流れを10区分にわけて物語風にまとめてあるので、あの知識はそういう風な流れに位置づけられるのねということを確認していくのに最適。

厳選された重要語句が説明もなくしれっと出てくるので初学者にはさっぱりだろう。一方でストーリーは大まかな流れ重視なので(世界史の上澄みダイジェスト)、ある程度学習した者には物足りないといった感じ。これ1冊で入試に対応できるかと問われればとうてい無理。使いどころを間違えなければ良い本だと思う。

一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書[山崎 圭一]
一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書[山崎 圭一]【電子書籍】

読了:卒業したら教室で(創元推理文庫)[似鳥 鶏]

卒業したら教室で

卒業したら教室で

  • 作者:似鳥 鶏
  • 出版社:東京創元社
  • 発売日: 2021年03月11日頃

市立高校にまた卒業の季節がやってきた。柳瀬さんをはじめ仲のよかった先輩たちが巣立っていく。そんな三月の放課後、秋野麻衣が不可解なものを見たと相談に。真っ暗なCAI室で鍵をかけ、誰かが電源も入れずパソコンで何かしていたらしい。どうやら校内八番目の七不思議、神出鬼没の「兼坂さん」と判明し、葉山君たちは真相解明に奔走するが…。“市立高校シリーズ”最新長編。

あぁ、葉山君がマジな恋愛なんかしちゃだめだよとか思っちゃったけれども、ベタベタな展開にはならなかったうえに結論をぼかされたのでまぁよし。葉山君はマジメだけれどもどこか抜けているツッコミ役に徹していて欲しいのだ。

今回は、凝った作りをしている。葉山君の1学年上の柳瀬さんの卒業を迎えた時期に起こった「兼坂(んねさか)さん」事件と、それから15年後のシーン、そしてラノベ魔法小説の3本が絡み合って進行していく。作中の謎は2つ。「兼坂さん」事件の真相と、「兼坂さん」事件を題材にしたと思われる魔法小説の作家の正体。昨年すでに卒業した伊神さんがシリーズを通して卒業後もなんだかんだと謎ときにやって来ていたわけも判明。

卒業したら教室で(創元推理文庫)[似鳥 鶏]
卒業したら教室で(市立高校シリーズ)[似鳥鶏]【電子書籍】

読了:会計の世界史[田中 靖浩]

会計の世界史

会計の世界史

  • 作者:田中 靖浩
  • 出版社:日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2018年09月27日頃

「会計ギライ」の方を悩ませる、数字および複雑な会計用語は一切出てきません。「世界史ギライ」の方をげんなりさせる、よく知らないカタカナの人や、細かい年号もほとんど出てきません。登場するのは偉人・有名人ばかり。冒険、成功、対立、陰謀、愛情、喜びと悲しみ、芸術、発明、起業と買収…波乱万丈、たくさんの「知られざる物語」が展開します。物語を読み進めると、簿記、財務会計、管理会計、ファイナンスについて、その仕組みが驚くほどよくわかります。

第1部 簿記と会社の誕生(15世紀イタリア 銀行革命/15世紀イタリア 簿記革命/17世紀オランダ 会社革命)/第2部 財務会計の歴史(19世紀イギリス 利益革命/20世紀アメリカ 投資家革命/21世紀グローバル 国際革命)/第3部 管理会計とファイナンス(19世紀アメリカ 標準革命/20世紀アメリカ 管理革命/21世紀アメリカ 価値革命)

タイトル買いをしたので堅苦しい会計史の書物かと思っていたんだけれども、中身は雑学漫談風の読み物だった。気軽に読めてわかりやすい。
簿記として経営者の覚えからスタートした体系的な会計は、ヨーロッパからアメリカへと渡り、経営管理や未来の出資者説明のためのものへと発展していく。会計の歴史だけではなく、第1部では絵画の歴史、第2部では交通機関の歴史、第3部では大衆音楽の歴史と絡めた物語仕立てになっている(この本の優れた特徴)。

会計の世界史[田中 靖浩]
会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカーー500年の物語(会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカーー500年の物語)[田中靖浩]【電子書籍】

読了:時間は存在しない[カルロ・ロヴェッリ/冨永 星]

時間は存在しない

時間は存在しない

  • 作者:カルロ・ロヴェッリ/冨永 星
  • 出版社:NHK出版
  • 発売日: 2019年08月29日頃

時間はいつでもどこでも同じように経過するわけではなく、過去から未来へと流れるわけでもないー。“ホーキングの再来”と評される天才物理学者が、本書の前半で「物理学的に時間は存在しない」という驚くべき考察を展開する。後半では、それにもかかわらず私たちはなぜ時間が存在するように感じるのかを、哲学や脳科学などの知見を援用して論じる。詩情あふれる筆致で時間の本質を明らかにする、独創的かつエレガントな科学エッセイ。

第1部 時間の崩壊(所変われば時間も変わる/時間には方向がない/「現在」の終わり/時間と事物は切り離せない/時間の最小単位)/第2部 時間のない世界(この世界は、物ではなく出来事でできている/語法がうまく合っていない/関係としての力学)/第3部 時間の源へ(時とは無知なり/視点/特殊性から生じるもの/マドレーヌの香り/時の起源)

著者の研究テーマ紹介を兼ねた「時間」とは何かに関する刺激的なエッセイ。
大きく3部構成になっている。

第1部は、物理の世界における時間について。相対性理論において時間の速さは観測者ごとに異なるという話から。そこから量子レベルまで掘り下げていくと、時間にも最小単位(プランク時間)というものがあって、連続ではないらしい。

第2部は、量子レベルに至ったので、著者の研究している「ループ量子重力理論」について。この理論によると、世界は粒子の関係性だけで表現できるそう。そこに時間を表す変数は含まれていない。時間というものは物理的には存在しないのだ。

第3部、じゃ、私たちが感じている「時間」とは何なのか?今度は量子レベルからマクロの世界へ向かっていき、どこで時間というものが生じるのかを考察する。エントロピー増大の法則が登場するあたりで時間の感覚というものが生じるのであるが、ここでのキーは「記憶」だそうな。そして「記憶」と「時間」について人類が古来どのように考察して来たのかを人文科学にまで広げて述べていく。

時間は存在しない[カルロ・ロヴェッリ/冨永 星]
時間は存在しない[カルロ・ロヴェッリ]【電子書籍】

読了:三体X 観想之宙【かんそうのそら】[宝樹/大森 望]

三体X 観想之宙【かんそうのそら】

三体X 観想之宙【かんそうのそら】

  • 作者:宝樹/大森 望
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2022年07月06日頃

異星種属・三体文明の太陽系侵略に対抗する「階梯計画」。それは、敵艦隊の懐に、人類のスパイをひとり送るという奇策だった。航空宇宙エンジニアの程心(チェン・シン)はその船の推進方法を考案。船に搭載されたのは彼女の元同級生・雲天明(ユン・ティエンミン)の脳だった…。太陽系が潰滅したのち、青色惑星(プラネット・ブルー)で程心の親友・艾(アイ)AAと二人ぼっちになった天明は、秘めた過去を語り出す。三体艦隊に囚われていた間に何があったのか?『三体3 死神永生』の背後に隠された驚愕の真相が明かされる第一部「時の内側の過去」。和服姿の智子が意外なかたちで再登場する第二部「茶の湯会談」。太陽系を滅ぼした“歌い手”文明の壮大な死闘を描く第三部「天蕚」。そしてー。“三体”熱狂的ファンの著者・宝樹は、第三部『死神永生』を読み終えた直後、喪失感に耐えかね、三体宇宙の空白を埋める物語を勝手に執筆。ネットに投稿したところ絶大な反響を呼び、“三体”著者・劉慈欣の公認を得て“三体”の版元から刊行された。ファンなら誰もが知りたかった裏側が描かれる衝撃の公式外伝(スピンオフ)。

「三体」シリーズのスピンオフではあるんだろうけれども、もっと分かりやすく言うなら「三体」ファンが書いた二次創作ものだね。第3部「死神永生」の取りこぼしを拾っていき発展させたストーリー。

オリジナル「三体」シリーズの魅力は多少の伏線回収漏れなど気にもしていないかのような、おおざっぱながらも力強く進む大陸的文学要素にあったとラフは思っているわけよ(その点がこれまでのSF作品と一線を画す点でもある)。それに対して本作は、「まぁ細かいことは気にするな」とオリジナルでは捨て置かれたようなところまでを几帳面に拾っていく、繊細でロマンティックな作風(恋愛要素入り)。このあたりがオリジナルの「三体」らしさを期待して読み始めると裏切られる点かも。

これはこれで、オリジナル「三体」への愛も感じられるし、よく考えられたエンターテイメントとして、とてもおもしろいよ(「あれはそう解決したのか」とか感心する点も多かった)。でも「三体」とは別物だなというのがラフの感想(そりゃそうだ)。

三体X 観想之宙【かんそうのそら】[宝樹/大森 望]
三体X 【観想之宙/かんそうのそら】[宝樹]【電子書籍】

読了:他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。 #なんで僕に聞くんだろう。[幡野 広志]

ガンになった写真家に、アクセス殺到。webメディアcakesで2019年&2020年上期、もっとも読まれた記事1位の人生相談。

はじめにー迷子になった子どもが目的地にたどり着けたなら、それは子どもが頑張ったから/生きる希望を感動ポルノの監督に作られたくない/あなたともあなたの彼氏とも、付き合いたいという人はいない/答えはみつからないし、なんて伝えればいいかわからないけど/勝ち負けで考えることの問題点/二十歳で童貞のあなたへ/配偶者も間違えたら選びなおせばいい/「子どもが生まれたからがむしゃらに働く」ってそれは逆でしょ/これはあなたが結婚するための戦略です。メリットだらけでデメリットはほぼありません/好きなことを勉強し、好きなことを遊べ〔ほか〕

悩み事相談「なんで僕に聞くんだろう」の第2弾。第1弾の感想はこちら。

読了:なんで僕に聞くんだろう。[幡野広志]

タイトルのように「他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと」。相談者は真剣に悩んでいるんだろうけれども、生の相談文面の気持ち悪さったらありゃしない。著者はそれに向き合いつつも自身の価値観で「ダメなものはダメ」「あなたがやらなくてはならないことは○○」とばっさばっさ切っていくが、「息子に同じことを相談されたらどう答えるか?」という判断基準があるのでそこには愛があるような気がする。「他人に振り回される」ことのバカらしさを説く回答が多いかなぁ。でも、相談者はこういった回答をされてもきっと満足していないんだろうなぁ。だってホントは愚痴とか自己憐憫を聞いてもらいたいだけに見受けられる相談が多いんだもん。「自分の悩みはおおごと」なのに、なぜそれを分かってもらえないのか?って思っているはず。この著者は「他人の悩み」の気持ち悪さによく向き合ってると思うよ。

そういえば、この悩み相談連載、一時期炎上していたなぁ……。

他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。 #なんで僕に聞くんだろう。[幡野 広志]
他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。 #なんで僕に聞くんだろう。(なんで僕に聞くんだろう。)[幡野広志]【電子書籍】

読了:奇書の世界史2 歴史を動かす“もっとヤバい書物”の物語[三崎 律日]

奇書を奇書たらしめるものは、読み手の価値観である。人は時代に合わせて「信じたいもの」を選択してきた。時には、嘘にまみれた書物を受け入れて過ちすら犯す。過去は変えられないが、奇書の歴史を学びとし、未来をどう生きるのか。

01 ノストラダムスの大予言(ミシェル・ド・ノートルダム著)世界一有名な占い師はどんな未来もお見通しだった!…のか?/02 シオン賢者の議定書ーかの独裁者を大量虐殺へ駆り立てた人種差別についての偽書/03 疫神の詫び証文ー伝染病の収束を願って創られた、疫病神からのお便り/番外編01 産褥熱の病理(イグナーツ・ゼンメルワイス著)-ウイルス学誕生前に突き止めた「手洗いの重要性」について/04 Liber Primus(Cicada3301)-諜報機関の採用試験か?ただの愉快犯か?ネットに突如現れた謎解きゲーム/05 盂蘭盆経(竺法護 漢訳)-儒教と仏教の仲を取り持った「偽経」/06 農業生物学(トロフィム・デニソヴィチ・ルイセンコ著)-科学的根拠なしの「“画期的な”農業技術」について/番外編02 動物の解放(ピーター・シンガー著)-食事の未来を変えるかもしれない、動物への道徳的配慮について

前作の感想はこちら

読了:奇書の世界史 歴史を動かす“ヤバい書物”の物語[三崎 律日]

前作に引き続き、もともとがネット動画なので、内容は軽くて薄い(前作以上に軽いかも)。軽いのも当然、ネットの民を対象にした「こういう面白い本がある」という紹介なのだから、ちっとも難しくないのである。いわゆる本好きにはちょっと物足りない。個人的には医学生物学関係とITの話題が多かったので、知識を整理する分にしてもかなり物足りなかった。それでも、著者はこの本の対象者を明確に定めており、分かりやすくするためにきちんと記述してある点は相変わらず徹底している。そして言葉もかなり選んで使っている点にも好感が持てる。各章の扉絵もステキ。

今回も、偽書もあれば、奇妙な境遇の本、今では(当時も)否定された理論の本などを取り上げているが、中でもユニークなのは「Cicada3301」の追跡の章。ネット上で話題になったものなのでどういうものかは知っていたけれども、そのいきさつを丹念に追っている。この章で出てくる本は、本そのものというより、本を使った暗号が使われているというもの。あとは「シオン賢者の議定書」(偽書だということは知っていた)がどういう変遷を得て編まれたものかの由来(ウンベルト・エーコによる)はおもしろい。

奇書の世界史2 歴史を動かす“もっとヤバい書物”の物語[三崎 律日]
奇書の世界史2 歴史を動かす“もっとヤバい書物”の物語(奇書の世界史)[三崎 律日]【電子書籍】

読了:シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選(竹書房文庫 て2-1)[シェルドン・テイテルバウム/エマヌエル・ロテム]

シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選

シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選

  • 作者:シェルドン・テイテルバウム/エマヌエル・ロテム
  • 出版社:竹書房
  • 発売日: 2020年09月30日頃

エルサレムを死神が闊歩したり(「エルサレムの死神」)、進化した巨大ネズミに大学生とぽんこつロボットが挑んだり(「シュテルン=ゲルラッハのネズミ」)、テルアビブではUFOが降りてきてロバが話し出すこともある(「ろくでもない秋」)。あなたは、天の光が消えた空を見つめる少年(「星々の狩人」)や悩めるテレパス(「完璧な娘」)とも出逢うだろう。アレキサンドリア図書館(「アレキサンドリアを焼く」)に足を踏み入れ、無慈悲な神によって支配されている世界を覗くだろう(「信心者たち」)。未知なる星々のまばゆいばかりの輝きをあなたは目にする。その光はあなたの心を捉えて放さないはずだー。ロバート・シルヴァーバーグによる序文、編者による「イスラエルSFの歴史」をも含む、知られざるイスラエルSFの世界を一望の中に収める傑作集。

オレンジ畑の香り(ラヴィ・ティドハー)/スロー族(ガイル・ハエヴェン)/アレキサンドリアを焼く(ケレン・ランズマン)/完璧な娘(ガイ・ハソン)/星々の狩人(ナヴァ・セメル)/可能性世界(エヤル・テレル)/鏡(ロテム・バルヒン)/シュテルン=ゲルラッハのネズミ(モルデハイ・サソン)/夜の似合う場所(サヴィヨン・リーブレヒト)/エルサレムの死神(エレナ・ゴメル)/白いカーテン(ペサハ(パヴェル)・エマヌエル)/男の夢(ヤエル・フルマン)/二分早く(グル・ショムロン)/ろくでもない秋(ニタイ・ペレツ)/立ち去らなくては(シモン・アダフ)

これまでも、国別SFアンソロジーを紹介してきた。

中国SF短編集の感想はこちら

読了:折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー(ハヤカワ文庫SF)[ケン・リュウ/中原 尚哉]

韓国SF短編集の感想はこちら

読了:わたしたちが光の速さで進めないなら[キム・チョヨプ/カン・バンファ]

今回はイスラエル発のSFファンタジーアンソロジー。なんといっても、ユダヤの民はヘブライ語聖書(キリスト教の旧約聖書のオリジナルに相当するもの)という多くの人に知られている、ある意味壮大なるファンタジーをものした民族である。とはいえ、近代のシオニズム運動においては、敬虔なユダヤ教徒からすれば、聖書は唯一の聖典でありそれ以外の創作物語というものは認められてこなかったという背景を持つらしい(このあたりの事情は解説の「イスラエルSFの歴史」に詳しい)。で、本著に取り上げられている作品も多くは今世紀に入ってからの作品ということだ。著者紹介を読むと専門フィクション文筆業の人よりも、兼業作家や芸術家といった感じの人が目立つ。

におい立つ地中海と中東の香りにあふれた話があれば、突拍子もない奇想天外な話もある。冒頭の「オレンジ畑の香り」が幻想的な話で引き込まれた。また「アレキサンドリアを焼く」と「立ち去らなくては」の2編はとりわけ面白かった。

シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選(竹書房文庫 て2-1)[シェルドン・テイテルバウム/エマヌエル・ロテム]
シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選(シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選)[中村融/安野玲/市田泉]【電子書籍】