三体3 死神永生 上
- 作者:劉 慈欣/大森 望
- 出版社:早川書房
- 発売日: 2021年05月25日頃
三体3 死神永生 下
- 作者:劉 慈欣/大森 望
- 出版社:早川書房
- 発売日: 2021年05月25日頃
話題の中国SF「三体」シリーズの最後となる「死神永生」(今作も上下2分冊のボリューム)は、前2作を上回るさらにぶっ飛んだスケールにまで広がったてんこ盛りエンターテイメント小説。1作目「三体」と2作目「三体~黒暗森林」の感想は以下。
読了:三体[劉 慈欣/大森 望]
読了:三体2 黒暗森林 上・下[劉 慈欣/大森 望]
前作で、三体人は地球侵攻をやめたはずだけれども、さて今作ではどういう話になるのか?
冒頭に、コンスタンチノープル陥落(1453年)のエピソードが挿入されているのにまず面食らう。前作で描かれた「面壁計画」の裏で、「階梯計画」という別のプロジェクトがあったところから始まる。人類のスパイを三体世界に送り込もうという計画で、当時(というか現代?)の技術ではロケット(?)に十分な推進力を与えるには極端な軽量化が必要で、とても人間一人であっても送ることはできない。ということで、ある人物の脳だけを取り出して冬眠状態にして送り出そうというびっくり計画なのだ。ところが、実行に移したときに事故が起こって、送り出す目的の三体艦隊とはまったく異なる方向へ放り出されてしまったのだ。こうして「階梯計画」は失敗したとして忘れ去られていった。
ここで今作でも重要な「暗黒森林」理論を復習しておく。宇宙の真実──宇宙は恐ろしい暗黒の森であり、あらゆる文明は、その中でじっと息を潜めている狩人である。他の文明の存在に気付いたときは、とりあえずやられる前に破壊しておくのが賢明。おそらく宇宙に文明が存在するのであればこの理論で動いているはずというもの。この理論は前作の主人公である羅輯の面壁計画により確認され、太陽系侵攻を止めないのであれば三体星系の座標を全宇宙に送信するぞ!という脅迫により地球人類は救われたのだった。
さて、今回の主人公は「階梯計画」発案者の若き女性科学者の程心。彼女は技術記憶の保持者として、人工冬眠でこの状態の未来に送られる。危うい抑止効果のバランスで三体世界と地球人類は平和的共存を営み始めているように見えたのだが、三体世界は抑止システムの更新時の隙を狙って、地球にある三体星系座標送信機を破壊したのだ。抑止効果を失ったため、地球は三体人に征服されかけるのだが、唯一送信機を兼ねた人類の宇宙船が間一髪、三体座標の全宇宙への送信に成功する。その座標を受信した別文明により三体星系が破壊されたら、三体星系と太陽系は隣接しているので、遅かれ早かれ太陽系の存在にも気付かれて太陽系も破壊される。それを知った三体人は地球侵略から手を引き太陽系からも逃げ出す。予想よりも早く数年後に三体星系は光子攻撃により三体ある恒星の1つが攻撃をうけて滅んでしまう。三体星系の座標を送信したからには、次は太陽系がいつ滅ぼされるかということで、人類は生き延びる手段を検討する。
一方、失敗したと思われていた「階梯計画」で昔宇宙に送った脳は、実は三体世界により捕獲されていたことが判明する。三体人は脳から元の人間を復活させていたのだ。太陽系に向かっていた艦隊の生き残った三体人監視のもとで、(脳から復元された)彼は程心と対面する。そこで彼から告げられた三つのおとぎ話に隠された人類が生き残るための秘策は?
三体星系を破壊するのに使われた光子を放って恒星を破壊するのはお手軽な方法で、とりあえず潰しとけって時に使われる手段で、実はもっとすごい方法、宇宙の次元を下げるという攻撃があるのだ。太陽系はこの方法で攻撃されたのだ。つまり三次元宇宙を二次元に落とすことで破壊するのだ。この攻撃により二次元に変わっていく太陽系を冥王星からの眺めた様子が今作の圧巻の場面。何が起こっているの?何言っちゃってんの?言葉だけではよくわからないけれど、とにかくものすごい映像が読者の脳内ではそれぞれに再現されているんだろうなという常軌を逸したビューティフルなシーンなのだ。こうして太陽系は終焉を迎えて地球は滅びましたとさ。人類は深宇宙に向かっていた艦隊と、光速航行ロケットで太陽系を脱出した主人公が生き残ってます。このあと、なんだかんだと、時間はバンバン未来に飛びまくって最後はビッグクランチ(宇宙の終焉)直前まで行ってしまう。壮大すぎるよ。
だいぶ端折ったつもりでもこれだけのストーリー。書ききれなかったキーは他にもてんこ盛りなので、興味のある方は実際に読んでみてくださいな。宇宙は無慈悲という一方で、程心の母性愛や人類愛、はたまた宇宙のリセットを計画し呼びかける超文明なんかも登場。ラブストーリーの要素かと思ったところは、惜しいところまで来ていたのに、二人は結局膨大な時間に阻まれて再会できなかったのね。
人類文明という幼い子どもは、玄関のドアを開け、外を覗いてみた。しかし、果てしなく広がる夜の深い闇に縮み上がり、あわててドアをまたしっかりと閉ざしたのである。
シリーズを通して、とにかくものすごい量の要素が盛り込まれており、それぞれが周到に記述されていくので、後々重要になるんだろうなと思っていても、放ったらかしになってしまっているものも結構ある(伏線回収されないというか、そもそも実は伏線でもなんでもなかった?)。文学作品では記述されたからにはその要素には何らかの意味があるはずという強い思いで読んでいると、肩透かしを食うもこともあるのはご愛敬。そこはとてつもなりエンターテイメント性でチャラということで。
■ 「三体」「黒暗森林」「死神永世」人気大河SF三部作がNetflixで実写ドラマに – ITmedia NEWS
■ 三体3 死神永生 下[劉 慈欣/大森 望]
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■ 三体3 死神永生 上(三体)[劉 慈欣]【電子書籍】
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