読了:絶望を希望に変える経済学[アビジット・V・バナジー/エステル・デュフロ]

絶望を希望に変える経済学

絶望を希望に変える経済学

  • 作者:アビジット・V・バナジー/エステル・デュフロ
  • 出版社:日経BP 日本経済新聞出版本部
  • 発売日: 2020年05月13日頃

いま、あらゆる国で、議論の膠着化が見られる。多くの政治指導者が怒りを煽り、不信感を蔓延させ、二極化を深刻にして、建設的な行動を起こさず、課題が放置されるという悪循環が起きている。移民、貿易、成長、不平等、環境といった重要な経済問題に関する議論はどんどんおかしな方向に進み、富裕国の問題は、発展途上国の問題と気味悪いほど似てきた。経済成長から取り残された人々、拡大する不平等、政府に対する不信、分劣する社会と政治…この現代の危機において、まともな「よい経済学」には何ができるのだろうか?よりよい世界にするために、経済学にできることを真っ正面から問いかける、希望の書。

1 経済学が信頼を取り戻すために/2 鮫の口から逃げて/3 自由貿易はいいことか?/4 好きなもの・欲しいもの・必要なもの/5 成長の終焉?/6 気温が二度上がったら…/7 不平等はなぜ拡大したか/8 政府には何ができるか/9 救済と尊厳のはざまで/結論 よい経済学と悪い経済学

このところ心が乾燥しているラフには、著者ら(ノーベル経済学賞受賞者)の言うところの「希望」がなんだか白々しく思えてしまう時があって「いかんいかん」と何度も思い直した。彼らが真剣に取り組んでいるんだから、こちらも真剣に応じねばと思わせる。

今世界中で起こっている問題に対して経済学的視点から私たちは何にどう取り組んでいくべきなのか?を提言している。移民、自由貿易、ベーシックインカムをはじめとする世間を騒がせている問題について、その真偽を含め、フィールドワークの成果(論文)をふんだんに盛り込んで誠実に論を展開していく。労働の需要供給弾力性は思われるほどにはないということとか、富の再分配が機能しないとどうなるかとか。フィールドワークが結構心理学っぽくておもしろい(行動経済学とは心理学とみたり)。無知に付け込んだ欺瞞に振り回されないためにも今読んでおいたほうが良い本かも。ところで各種フィールドワークでコントロールに選ばれた群(放っておいたらどうなるか群)に対しての救いがないように思ったのだが、これはこれでいいのか?(それともなんらかの救済策は講じられるのか?)

絶望を希望に変える経済学[アビジット・V・バナジー/エステル・デュフロ]
絶望を希望に変える経済学 社会の重大問題をどう解決するか[アビジット・V・バナジー/エステル・デュフロ]【電子書籍】

読了:意識と感覚のない世界[ヘンリー・ジェイ・プリスビロー/小田嶋由美子]

意識と感覚のない世界

意識と感覚のない世界

  • 作者:ヘンリー・ジェイ・プリスビロー/小田嶋由美子
  • 出版社:みすず書房
  • 発売日: 2019年12月18日頃

2012年、権威ある医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』は、その200年の歴史において掲載した論文のなかから、もっとも重要な一本を選ぶ読者投票を行った。読者が選んだ「栄えあるベストワン」は、1846年に掲載されたエーテル吸入による初めての無痛手術についての論文であった。今日では、麻酔は脳や心臓の手術から虫歯の治療にいたるまで、医療現場になくてはならないものになった。しかし、発見から170年以上が経ったいまでも、麻酔薬が私たちに作用するメカニズムは多くの謎に包まれたままなのだ。メスで身体を切り刻まれているあいだ、痛みを感じないのはなぜなのか?手術のあと、何事もなかったように目を覚ますことができるのはなぜなのか?3万回以上の処置を行ってきた麻酔科医が、麻酔薬の歴史から麻酔科医の日常までを描く、謎めいた医療技術をめぐるノンフィクション。

深い眠り/麻酔科医のコマンドセンター/五つのA/線路のような麻酔記録/マスクの恐怖/絶飲食/心臓の鼓動/特別変わった患者/つきまとうミス/待たされる側になると/折り鶴/囚われた脳/目で見て、やってみて、教えてみよ/覚醒/安全な旅路

麻酔って医学分野においてなくてはならないものであるにもかかわらず、そのメカニズムっていまだに謎なんだってね。

さて、本書は麻酔科医による医学エッセイ。麻酔の歴史や、麻酔科医の医療現場における役割や作業、そして使命について、著者のこれまでの経験からの麻酔科医の未来の展望までを語る。手術を受ける患者にとっては、麻酔科医というのは手術直前に初めて会って、かつ術前最後に会う医者でもある、そして手術後にはあまり会わない医者。じゃ、そんな大したことがないのかというとさにあらず。手術前からその患者のことを調べ、患者の不安を取り除くのも仕事。また手術中もつきっきりで患者の様態が安定するようにコントロールする責任を負っている。医者としては花形ではないのかもしれないが、欠くべからざる役割を担っている。それでいながら一般には知られていないため軽視されがちな麻酔科医の仕事と存在意義を知るには、非常に勉強になる。

意識と感覚のない世界[ヘンリー・ジェイ・プリスビロー/小田嶋由美子]
意識と感覚のない世界ーー実のところ、麻酔科医は何をしているのか[ヘンリー・ジェイ・プリスビロー/勝間田敬弘]【電子書籍】

読了:比較史の方法(講談社学術文庫)[マルク・ブロック/高橋 清徳]

比較史の方法

比較史の方法

  • 作者:マルク・ブロック/高橋 清徳
  • 出版社:講談社
  • 発売日: 2017年07月11日頃

ブローデル、アリエス、ル・ゴフらを輩出したアナール派の創始者マルク・ブロック(一八八六ー一九四四年)。一九二八年に行われた講演の記録である本書は、歴史の中で「比較」を行うことの意義と問題点を豊富な具体例をまじえながら分かりやすく説明する。「われわれは歴史から何を知ることができるのか」という問いに迫っていく最良の歴史学入門。

マルク・ブロックの講演記録が前半(1920年代の講演らしい)。後半は訳者による解説で、前半の講演内容を改めて分かりやすく整理して解説してくれている。歴史の本というよりかは、歴史学の本。もっと言ってしまえば、「比較」とは何か、歴史において「比較する」とはどういうことかといった定義や方法論が延々と続く。よって哲学の本でも読んでいるかのような面倒くささがあった。登場する歴史の具体例も、ヨーロッパ史における制度の比較例の列挙であってその内容の説明はほぼない。方法論の展開はおもしろいけれども、歴史の書物として期待して読むとおそろしく抽象的で難解な内容に面食らう。

比較史の方法(講談社学術文庫)[マルク・ブロック/高橋 清徳]
比較史の方法(比較史の方法)[マルク・ブロック]【電子書籍】

読了:ルネサンスの女たち(新潮文庫)[塩野 七生]

ルネサンスの女たち

ルネサンスの女たち

  • 作者:塩野 七生
  • 出版社:新潮社
  • 発売日: 2012年08月

若々しく大胆な魂と冷徹な現実主義に支えられた時、政治もまた芸術的に美しい。ルネサンスとはそういう時代であった。女たちはその時、政争と戦乱の世を生き延びることが求められた。夫を敵国の人質にとられれば解放を求めて交渉し、生家の男たちの権力闘争に巻き込まれ、また時には篭城戦の指揮もとるー。時代を代表する四人の女の人生を鮮やかに描き出した、塩野文学の出発点。

塩野のデビュー作をようやく。ルネサンスイタリアの4人の貴族女性の人生。ルネサンス芸術の庇護者でもあったイザベッラ・デステ、父と兄の陰に隠れがちなルクレツィア・ボルジア、女傑カテリーナ・スフォルツァ、そして生国ヴェネツィアにいいように利用されたキプロス女王カテリーナ・コルネール。塩野自身は全く共感できない女性もいると言いながらも、どの女性の人生も魅力的に描かれている。

ルネサンスの女たち(新潮文庫)[塩野 七生]

読了:インド夜想曲(白水Uブックス)[アントーニョ・タブッキ/須賀敦子]

インド夜想曲

インド夜想曲

  • 作者:アントーニョ・タブッキ/須賀敦子
  • 出版社:白水社
  • 発売日: 1993年10月

失踪した友人を探してインド各地を旅する主人公の前に現れる幻想と瞑想に充ちた世界。ホテルとは名ばかりのスラム街の宿。すえた汗の匂いで息のつまりそうな夜の病院。不妊の女たちにあがめられた巨根の老人。夜中のバス停留所で出会う、うつくしい目の少年。インドの深層をなす事物や人物にふれる内面の旅行記とも言うべき、このミステリー仕立ての小説は読者をインドの夜の帳の中に誘い込む。イタリア文学の鬼才が描く十二の夜の物語。

「インドで失踪する人はたくさんいます。インドはそのためにあるような国です。」

不眠の物語でありかつ旅行の物語。失踪した友人を探しにインドにやって来たイタリア人の「僕」が体験した、におい立つ夜のインドで出会う人々との交流が幻想的に描かれる。これがとても美しいのだ。具体的な場面描写というよりも、そこに漂う雰囲気、ひいては文体の美しさというか。そういう点では日本語訳も優れているんだと思う。最後2つの夜でこの小説がメタ小説の一種であることがわかるものの、枠外と枠内の物語も混沌として交じり合う様がこれまたインドの夜にふさわしい。「訳者あとがき」にあるように、とにかく「だまされたと思って、読んでよ。」

メモ:「ナイチンゲール」の和名は「小夜啼鳥」

インド夜想曲(白水Uブックス)[アントーニョ・タブッキ/須賀敦子]

読了:こうしてあなたたちは時間戦争に負ける(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)[アマル・エル=モフタール/マックス・グラッドストーン]

こうしてあなたたちは時間戦争に負ける

こうしてあなたたちは時間戦争に負ける

  • 作者:アマル・エル=モフタール/マックス・グラッドストーン
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2021年06月16日頃

時空の覇権を争う二大勢力“エージェンシー”と“ガーデン”の工作員は、あらゆる時代と場所に介入し、自陣に有利な未来を作り出すべく永い暗闘を続けていた。ある平行世界で二つの巨大帝国を壊滅させるミッションを成功させた“エージェンシー”の工作員レッドは、作戦遂行中ずっと、本来ならそこにいるはずのない敵の存在を感じていた。そして、激闘を終えた静寂の中で、“ガーデン”の工作員ブルーからの手紙を発見するー思いがけず文通を始めた彼女たちは、やがてお互いを好敵手と認めあうようになるが…ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞、英国SF協会賞を受賞した、超絶技巧の時空横断SF中篇。

あまたの並行世界をめぐる「エージェンシー」陣営と「ガーデン」陣営の時空戦争が舞台となるファンタジーSF小説。「エージェンシー」の工作員レッドは、「ガーデン」の工作員ブルーからの手紙を発見する。自陣に知られることないように注意を払いながら、様々な手を使って文通を始めることになる二人の工作員。やがてお互いの存在が双方にとって欠かせないものになっていくのだが、二人の関係はそれぞれの司令官に気付かれてしまい……。

この手紙のやり取りが機知に富んだものでおもしろい。やがてそのやりとりは互いへの想いへと変わっていく。並行世界での戦いの中で描かれるこれらの文通シーン(というか文面)が本当に魅力的。この作品最大のおもしろさはここにあり。上官に察知されるのは中ほどなんだけれども、ここからラストに向けて展開が怒涛の如く早くなっていく。しかし一気に畳み込むものの「そういう結末のSFは他にも知ってるよ」という感じのラストで意外性はない。2時間ほどのSFアニメ映画とかでありそうな感じ(この作品そのものがそんな感じでもあるが)。それなりに感動はさせるけれども、ちょっとありふれた結末には拍子抜け。

こうしてあなたたちは時間戦争に負ける(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)[アマル・エル=モフタール/マックス・グラッドストーン]
こうしてあなたたちは時間戦争に負ける[アマル エル モータル/マックス グラッドストン]【電子書籍】

読了:憲法で読むアメリカ史(ちくま学芸文庫)[阿川尚之]

憲法で読むアメリカ史

憲法で読むアメリカ史

  • 作者:阿川尚之
  • 出版社:筑摩書房
  • 発売日: 2013年11月

建国から二百数十年、自由と民主主義の理念を体現し、唯一の超大国として世界に関与しつづけるアメリカ合衆国。その歴史をひもとくと、各時代の危機を常に「憲法問題」として乗り越えてきた、この国の特異性が見て取れる。憲法という視点を抜きに、アメリカの真の姿を理解するのは難しい。建国当初の連邦と州の権限争い、南北戦争と奴隷解放、二度の世界大戦、大恐慌とニューディール、冷戦と言論の自由、公民権運動ー。アメリカは、最高裁の判決を通じて、こうした困難にどう対峙してきたのか。その歩みを、憲法を糸口にしてあざやかに物語る。第6回読売・吉野作造賞受賞作の完全版!

アメリカ合衆国憲法の誕生/憲法批准と『ザ・フェデラリスト』/憲法を解釈するのはだれか/マーシャル判事と連邦の優越/チェロキー族事件と涙の道/黒人奴隷とアメリカ憲法/奴隷問題の変質と南北対立/合衆国の拡大と奴隷制度/ドレッド・スコット事件/南北戦争への序曲〔ほか〕

アメリカ史を時代ごとの憲法解釈の面(つまりは司法)からたどる。アメリカ史の主要トピックであるアメリカ独立、南北戦争、二度の世界大戦、またネイティブアメリカン問題、人種人権問題をアメリカがどうやって乗り越えてきたのか。司法(連邦最高裁とその判例における憲法解釈)を通してみてみるとアメリカ史にはこういう面白さもあるのかと思うところ多し。そもそも、アメリカの州(日本の都道府県とは違ったもっと独立性の高い存在)と連邦政府の関わりを憲法はどのように定めて連邦政府の権限を縛っているのか、連邦政府はどこまで州に関われるのかという遷移を知ることができる。憲法解釈のためのキーワードが素人には若干難しいものの、全体的には読みやすくおもしろかった。

憲法で読むアメリカ史(ちくま学芸文庫)[阿川尚之]
憲法で読むアメリカ史(全)[阿川尚之]【電子書籍】

読了:熊本くんの本棚 ゲイ彼と私とカレーライス(富士見L文庫)[キタハラ/慧子]

顔よし、体よし、性格よし。そのうえ読書家。なんだか現実味のないイケメン、熊本くん。仲の良い大学生・みのりは、同級生から彼の噂を聞く。どうやら熊本くんが、ゲイ向けアダルトビデオに出ているというのだ。熊本くんの部屋で二人、彼が作った甘口のカレーを食べながら、みのりは同級生の言葉を思い出す。帰りの駅のベンチで、少し後ろめたさを感じながらも「熊本祥介」と、スマホで検索を続けるがー。ゲイの熊本くんの、汚くて繊細な青春物語。第4回カクヨムコン大賞受賞の問題作が待望の文庫化。

デビュー作であるとはいえ、素人臭が濃厚に漂っていた。タイトル(とりわけ副題いる?)や書籍紹介文から想定していたものとは全然違う、不思議な小説だった。

ミステリーでもありオカルトでもありファンタジーでもありライトポルノでもあり、描かれるのも宗教でもあり家族でもあり青春でもあり……。なんでもありのてんこ盛り小説。作中設定がパズルのピースをきちんとはめるためか、出てくるものを都合よく関連付けておきましたって感じ。内容も論点はちょっと重いんだけれども、深みは全く足りていない。登場人物の属性が強烈な設定であるにもかかわらず、ちょこっとずつしかスポットライトを当てられていないので、人物像の奥行が今一つ(自殺者を含め何人か死んでいるのに……)

構成のアイデアとして真ん中を「熊本くん」が書いた小説にするという考えは悪くはないんだけれども、小説ではないはずの前後の章との差が際立っていないため、結果としてあまり効果的になっていない。「熊本くん」がなぜこの小説を書いたのか、書かずにいられなかったのか、そこのところの訴求も不足。

とまぁ散々けなしておきながら、それでもこの読み物はエンターテイメントとしては面白い。実際に飽くことなく一気読みしてしまったわけだから。

熊本くんの本棚 ゲイ彼と私とカレーライス(富士見L文庫)[キタハラ/慧子]
熊本くんの本棚 ゲイ彼と私とカレーライス(熊本くんの本棚)[キタハラ/慧子]【電子書籍】

読了:病の皇帝「がん」に挑む(下)[シッダールタ・ムカジー/田中文]

病の皇帝「がん」に挑む(下)

病の皇帝「がん」に挑む(下)

  • 作者:シッダールタ・ムカジー/田中文
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2013年08月23日頃

20世紀に入り、怪物「がん」と闘うには「治療」という攻撃だけでなく、「予防」という防御が必要であることがわかる。かくて、がんを引き起こす最大の犯人として、たばこが指名手配されたが…人類と「がん」との40世紀にわたる闘いの歴史を壮絶に描き出す!ピュリッツァー賞、ガーディアン賞、受賞作。

第4部 予防こそ最善の治療(「まっくろな棺」/皇帝のナイロンストッキング/「夜盗」 ほか)/第5部 「われわれ自身のゆがんだバージョン」(「単一の原因」/ウイルスの明かりの下で/「サーク狩り」 ほか)/第6部 長い努力の成果(「何一つ、無駄な努力はなかった」/古いがんの新しい薬/紐の都市 ほか)

上巻の感想はこちら

読了:病の皇帝「がん」に挑む(上)[シッダールタ・ムカジー/田中文]

下巻は「がん」の「予防」から。肺がんとたばこの関係は法廷ドラマのように描かれる。続いて「がん」の発生メカニズムへの挑戦が描かれる。ゲノムプロジェクトの進行とともに各地の研究者が「がん」遺伝子とその治療法を探求する競争。今となっては古典ともいえるストラテジーも当時は試行錯誤の末にたどり着いたものであったのだ。個人的にはこの章が一番おもしろかった。刊行された当時のゲノムプロジェクトあたりで話が終わってしまっているのが、仕方ないとはいえ残念。

これに続く「遺伝子ー親密なる人類史ー」にしろ、シッダールタ・ムカジーの物語を紡ぎだす才はすばらしい。この人、文筆家やジャーナリストではなく、臨床腫瘍科医なんだよ。

病の皇帝「がん」に挑む(下)[シッダールタ・ムカジー/田中文]
病の皇帝「がん」に挑む 人類4000年の苦闘(下)[シッダールタ ムカジー]【電子書籍】

読了:病の皇帝「がん」に挑む(上)[シッダールタ・ムカジー/田中文]

病の皇帝「がん」に挑む(上)

病の皇帝「がん」に挑む(上)

  • 作者:シッダールタ・ムカジー/田中文
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2013年08月23日頃

地球全体で、年間700万以上の人命を奪うがん。紀元前の昔から現代まで、人間を苦しめてきた「病の皇帝」の真の姿を、患者、医師の苦闘の歴史をとおして迫真の筆致で明らかにし、ピュリッツァー賞、ガーディアン賞を受賞した傑作ノンフィクション。

第1部 「沸き立たない黒胆汁」(「血液化膿症」/「ギロチンよりも飽くことを知らない怪物」/ファーバーの挑戦状 ほか)/第2部 せっかちな闘い(「社会を形成する」/「化学療法の新しい友人」/「肉屋」 ほか)/第3部 「よくならなかったら、先生はわたしを見捨てるのですか?」(「われわれは神を信じる。だがそれ以外はすべて、データが必要だ」/「微笑む腫瘍医」/敵を知る ほか)

シッダールタ・ムカジーの「遺伝子」がすごくおもしろかったので、その前に書いている本書もぜひ読んでみたいと思っていた次第。「遺伝子」の感想は以下。

読了:遺伝子ー親密なる人類史ー 【電子書籍】[ シッダールタ ムカジー ]

本書の日本語版出版が2013年にだから最新の情報まではフォローしきれていないにしても、がんとは何か、人類はどう対処してきたのかを知りたければ今でも十分に読む価値あり。

腫瘍医として臨床の場での体験と、自身が立ち向かっている「がん」の歴史、そして人類の紆余曲折の苦闘を物語として語っていく。読みやすく分かりやすい構成になっているところが良い。科学啓蒙書でありながら、歴史ドラマにもなっているのだ。上巻ではがんの歴史、そして主に欧米における(とりわけアメリカにおける)外科的切除術、放射線治療、薬物化学的療法の3つの主要な治療法の歴史、ならびに初期のがん対策ロビー活動について表わされている。

病の皇帝「がん」に挑む(上)[シッダールタ・ムカジー/田中文]
病の皇帝「がん」に挑む 人類4000年の苦闘(上)[シッダールタ ムカジー]【電子書籍】