読了:1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365 現代編[デイヴィッド・S・キダー/ノア・D・オッペンハイム]

1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365 現代編

1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365 現代編

  • 作者:デイヴィッド・S・キダー/ノア・D・オッペンハイム
  • 出版社:文響社
  • 発売日: 2019年08月23日頃

世界中でベストセラー!待望の第3弾。毎日5分で1年後、ニュースからエンタメまで世界の常識丸わかり!

「1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365」シリーズ第3弾は「現代編」。第1弾と第2弾「人物編」の感想は以下に。

読了:1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365 [ デイヴィッド・S・キダー ]

読了:1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365 人物編[デイヴィッド・S・キダー/ノア・D・オッペンハイム]

これまでの2巻が歴史的雑学側面が強かったので、今回は現代史版か?と思うとちょっと自分の思っている現代史ではなかった。20世紀以降のテーマを扱っているんだけれども、同時代性というものが強くなってくると、もはや現代習俗・文化各論集、もっと言うならゴシップだなって感じ(もっともそれらがやがて淘汰され歴史になっていくんだろうけれども)。曜日ごとのテーマは、月曜日が「人物」、火曜日が「文学」、水曜日が「音楽」、木曜日が「映画」、金曜日が「社会」、土曜日が「スポーツ」、日曜日が「大衆文化」。扱われている内容は前2作以上に圧倒的にアメリカ関係が多い。火曜日「文学」、金曜日「社会」、日曜日「大衆文化」がおもしろかった。ラフはスポーツには疎いので土曜日はしんどかった。アメリカ人にとっては知っていて当たり前な有名アスリート(主にアメフト、アイスホッケー、バスケットボール選手)もほとんど知らなくて「誰やねん」。最後は「J.K.ローリング」(「ハリー・ポッター」シリーズの作者)で閉められていたけれども、途中「マーサ・スチュワート」(カリスマビジネス主婦)が出てきたときには、アメリカではこの人についても教養なんだ……と思ったり思わなかったり。

1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365 現代編[デイヴィッド・S・キダー/ノア・D・オッペンハイム]
1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365 現代編(教養365)[デイヴィッド・S・キダー/ノア・D・オッペンハイム/小林朋則]【電子書籍】

読了:東京藝大で教わる西洋美術の見かた[佐藤 直樹]

東京藝大で教わる西洋美術の見かた

東京藝大で教わる西洋美術の見かた

  • 作者:佐藤 直樹
  • 出版社:世界文化社
  • 発売日: 2021年01月28日頃

これが藝大の美術史だ。作品のメッセージを読み解いて、鑑賞眼を鍛える!

序章 古典古代と中世の西洋美術/ルネサンスーアルプスの南と北で(ジョット ルネサンスの最初の光/初期ネーデルラント絵画1 ロベルト・カンピンの再発見/初期ネーデルラント絵画2 ファン・エイク兄弟とその後継者たち)/ルネサンスからバロックへー天才たちの時代(ラファエッロ 苦労知らずの美貌の画家/デューラー ドイツ・ルネサンスの巨匠/レオナルド イタリアとドイツで同時に起きていた「美術革命」/カラヴァッジョ バロックを切り開いた天才画家の「リアル」/ビーテル・ブリューゲル(父) 中世的な世界観と「新しい風景画」)/古典主義とロマン主義ー国際交流する画家たち(ゲインズバラとレノルズ 英国で花開いた「ファンシー・ピクチャー」/十九世紀のローマ1 「ナザレ派」が巻き起こした新しい風/十九世紀のローマ2 アングルとその仲間たち)/モダニズム前夜のモダンー過去を再生する画家たち(ミレイとラファエル前派 「カワイイ」英国文化のルーツ/シャルフベックとハマスホイ 北欧美術の「不安な絵画」/ヴァン・デ・ヴェルデ バウハウス前夜のモダニズム)

美術史を知ると、美術館で絵画や彫刻を見るときに、どこに注目すればずっとおもしろくなるのかが分かってくる。企画展なんかで入口に展示のテーマに関する概説が最初に掲げてあるけれども、そこに書かれていることを一般の素人は読んでも普通は理解できない。あの概説には、今回の企画展ではここを押さえて鑑賞して欲しいという学芸員の思いが詰まっているのだが、やはり最低限の美術史の知識がないとあれを理解するのはつらい。しこうして一般人はとりあえず話題の美術展に出向くものの、好きか嫌いかのレベルでの感想しか持てないまま、出口直前に置かれたスーブニールショップで一番印象に残った絵画の絵葉書を買って帰るだけになるのだ。

さて日本最高峰の藝術大学である東京藝大でどのような西洋美術史を扱っているのかを垣間見てみたい。前書きにあるように、藝大に入って来る学生は一通りの美術史は知っていることが前提であり、そんな彼らにどのようなことを教えているのか?それでいて一般人に難解にならないような内容にまとめた入門書が本書。こういうアプローチで西洋美術を見ていきますよというエッセンスであり、コンパクトな西洋美術史ダイジェストなのでサクサク読み進めていける。なのでとても面白いが、残念ながら中身はとにかく浅い。すこぶる物足りないのだ(タイトルに「東京藝大」を標榜するのだが構えることはないぞ)。まずは西洋美術史に興味を持ってもらうことが本書の目的だからだろう。山紫水明を愛でる日本人はフランス印象派が大好きだけれども、本書ではあえて印象派には触れていない(藝大の学生にとっては今更の極みであろう)。誰もが知っている定番ではなく、一般人が目にしたことはあるけれども実はあんまり詳しくないという絵画や作家を取り上げてあるのだ。

一般にルネサンスと呼ばれる現象(古代復興)は西洋美術史において実は何度も起こっているのだが、その最大のものがよく知られたイタリアルネサンス。なぜ最大のルネサンスはイタリアで起こったのか?からスタートする。その後の西洋美術史の流れの中で大きなくくりはあるものの(ルネサンス、ロマネスク、バロックなど)それぞれの地域、時間、そして芸術家が相互に影響しあっていく様を、作品を通してその軌跡をたどっていく。そりゃ人間復興も行き過ぎると中世回帰の運動も起こるよなとか。豊富な図版とともに、その作品のそこを見ればいいのねという勘所が具体的に述べられていて興味深い。

東京藝大で教わる西洋美術の見かた[佐藤 直樹]
東京藝大で教わる西洋美術の見かた[佐藤直樹]【電子書籍】

読了:三体3 死神永生 上・下[劉 慈欣/大森 望]

三体3 死神永生 上 三体3 死神永生 下

三体3 死神永生 上

  • 作者:劉 慈欣/大森 望
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2021年05月25日頃

三体3 死神永生 下

  • 作者:劉 慈欣/大森 望
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2021年05月25日頃

話題の中国SF「三体」シリーズの最後となる「死神永生」(今作も上下2分冊のボリューム)は、前2作を上回るさらにぶっ飛んだスケールにまで広がったてんこ盛りエンターテイメント小説。1作目「三体」と2作目「三体~黒暗森林」の感想は以下。

読了:三体[劉 慈欣/大森 望]

読了:三体2 黒暗森林 上・下[劉 慈欣/大森 望]

前作で、三体人は地球侵攻をやめたはずだけれども、さて今作ではどういう話になるのか?

冒頭に、コンスタンチノープル陥落(1453年)のエピソードが挿入されているのにまず面食らう。前作で描かれた「面壁計画」の裏で、「階梯計画」という別のプロジェクトがあったところから始まる。人類のスパイを三体世界に送り込もうという計画で、当時(というか現代?)の技術ではロケット(?)に十分な推進力を与えるには極端な軽量化が必要で、とても人間一人であっても送ることはできない。ということで、ある人物の脳だけを取り出して冬眠状態にして送り出そうというびっくり計画なのだ。ところが、実行に移したときに事故が起こって、送り出す目的の三体艦隊とはまったく異なる方向へ放り出されてしまったのだ。こうして「階梯計画」は失敗したとして忘れ去られていった。

ここで今作でも重要な「暗黒森林」理論を復習しておく。宇宙の真実──宇宙は恐ろしい暗黒の森であり、あらゆる文明は、その中でじっと息を潜めている狩人である。他の文明の存在に気付いたときは、とりあえずやられる前に破壊しておくのが賢明。おそらく宇宙に文明が存在するのであればこの理論で動いているはずというもの。この理論は前作の主人公である羅輯の面壁計画により確認され、太陽系侵攻を止めないのであれば三体星系の座標を全宇宙に送信するぞ!という脅迫により地球人類は救われたのだった。

さて、今回の主人公は「階梯計画」発案者の若き女性科学者の程心。彼女は技術記憶の保持者として、人工冬眠でこの状態の未来に送られる。危うい抑止効果のバランスで三体世界と地球人類は平和的共存を営み始めているように見えたのだが、三体世界は抑止システムの更新時の隙を狙って、地球にある三体星系座標送信機を破壊したのだ。抑止効果を失ったため、地球は三体人に征服されかけるのだが、唯一送信機を兼ねた人類の宇宙船が間一髪、三体座標の全宇宙への送信に成功する。その座標を受信した別文明により三体星系が破壊されたら、三体星系と太陽系は隣接しているので、遅かれ早かれ太陽系の存在にも気付かれて太陽系も破壊される。それを知った三体人は地球侵略から手を引き太陽系からも逃げ出す。予想よりも早く数年後に三体星系は光子攻撃により三体ある恒星の1つが攻撃をうけて滅んでしまう。三体星系の座標を送信したからには、次は太陽系がいつ滅ぼされるかということで、人類は生き延びる手段を検討する。

一方、失敗したと思われていた「階梯計画」で昔宇宙に送った脳は、実は三体世界により捕獲されていたことが判明する。三体人は脳から元の人間を復活させていたのだ。太陽系に向かっていた艦隊の生き残った三体人監視のもとで、(脳から復元された)彼は程心と対面する。そこで彼から告げられた三つのおとぎ話に隠された人類が生き残るための秘策は?

三体星系を破壊するのに使われた光子を放って恒星を破壊するのはお手軽な方法で、とりあえず潰しとけって時に使われる手段で、実はもっとすごい方法、宇宙の次元を下げるという攻撃があるのだ。太陽系はこの方法で攻撃されたのだ。つまり三次元宇宙を二次元に落とすことで破壊するのだ。この攻撃により二次元に変わっていく太陽系を冥王星からの眺めた様子が今作の圧巻の場面。何が起こっているの?何言っちゃってんの?言葉だけではよくわからないけれど、とにかくものすごい映像が読者の脳内ではそれぞれに再現されているんだろうなという常軌を逸したビューティフルなシーンなのだ。こうして太陽系は終焉を迎えて地球は滅びましたとさ。人類は深宇宙に向かっていた艦隊と、光速航行ロケットで太陽系を脱出した主人公が生き残ってます。このあと、なんだかんだと、時間はバンバン未来に飛びまくって最後はビッグクランチ(宇宙の終焉)直前まで行ってしまう。壮大すぎるよ。

だいぶ端折ったつもりでもこれだけのストーリー。書ききれなかったキーは他にもてんこ盛りなので、興味のある方は実際に読んでみてくださいな。宇宙は無慈悲という一方で、程心の母性愛や人類愛、はたまた宇宙のリセットを計画し呼びかける超文明なんかも登場。ラブストーリーの要素かと思ったところは、惜しいところまで来ていたのに、二人は結局膨大な時間に阻まれて再会できなかったのね。

人類文明という幼い子どもは、玄関のドアを開け、外を覗いてみた。しかし、果てしなく広がる夜の深い闇に縮み上がり、あわててドアをまたしっかりと閉ざしたのである。

シリーズを通して、とにかくものすごい量の要素が盛り込まれており、それぞれが周到に記述されていくので、後々重要になるんだろうなと思っていても、放ったらかしになってしまっているものも結構ある(伏線回収されないというか、そもそも実は伏線でもなんでもなかった?)。文学作品では記述されたからにはその要素には何らかの意味があるはずという強い思いで読んでいると、肩透かしを食うもこともあるのはご愛敬。そこはとてつもなりエンターテイメント性でチャラということで。

「三体」「黒暗森林」「死神永世」人気大河SF三部作がNetflixで実写ドラマに – ITmedia NEWS

三体3 死神永生 下[劉 慈欣/大森 望]
三体3 死神永生 上[劉 慈欣/大森 望]
三体3 死神永生 上(三体)[劉 慈欣]【電子書籍】
三体3 死神永生 下(三体)[劉 慈欣]【電子書籍】

読了:勉強も仕事も時間をムダにしない記憶術[山口佐貴子]

いままでの10分の1の努力で、頭に入る量を格段に増やす!やりたいことに手が届かない人にこそ読んでほしい!加速学習からフォトリーディングまで人気講師が伝授!学歴、才能、勉強量のハンディは、この1冊で克服できる!

第1章 記憶のしくみ、基本はコレだけ!/第2章 いままでの10倍、「忘れない」本の読み方/第3章 本気で試験に合格したい人のための勉強のコツ/第4章 あっという間に本一冊が頭に入る驚異の学習法/第5章 限られた時間で差をつけるメモの取り方/第6章 仕事が飛躍的にはかどる情報処理術

内容は易しくまとめられているので、超高速で読み終えることできる。内容もダイジェストのダイジェスト的で本当に大事な部分のみだけが記されているとも言えるのだが、これがその分濃縮されているかと言えばそうではなく、読み物としてはかなり希釈されていて物足りない。取り立てて目新しい情報もなく、記憶術関係ではそこかしこで目にするものばかりの焼き直しを平易な語り口調で述べているだけなのだ。まぁそれだけこれらのコツが重要ってことなのかもね。最後の仕事への姿勢や心構え的な記載で、著者の顔がちらっと見えるくらいがこの本のオリジナリティか。役に立たないとまでは言わないけれども……。

勉強も仕事も時間をムダにしない記憶術[山口佐貴子]
時間をムダにしない記憶術[山口佐貴子]【電子書籍】

読了:わたしが知らないスゴ本は、 きっとあなたが読んでいる[Dain]

かつてない本の味わい方を名著の数々とともに伝える。日本最高峰の書評ブロガー初の著書。

第1章 本を探すな、人を探せ(運命の一冊を読んだ人を探す/アウトプットすると人が見つかる)/第2章 運命の一冊は、図書館にある(本屋は出会い系、図書館は見合い系/図書館を使い倒す/本は「買う」ものか)/第3章 スゴ本を読むために(『本を読む本』で『本を読む本』を読む/遅い読書/速い読書/本を読まずに文学する「遠読」)/第4章 書き方から学ぶ(文章読本・虎の巻/人を説得するために、いかに書けばいいかー『レトリックのすすめ』/事実と意見は分けて書けー『理科系の作文技術』/おもしろい作品の「おもしろさ」はどこから来るのか/名文で言葉の「型」を練習する)/第5章 よい本は、人生をよくする(人生を破壊する「怒り」から自由になる/子どもに「死」と「セックス」を教える/子育てはマニュアルに頼れ/生きるとは食べること/「正しい死に方」を考える/二〇年前の自分に読ませたい珠玉の一二冊)

自分と同じ読書傾向の人を見つけて、その人が薦める本で自分がまだ未読のものがあれば、それは私にとっての「スゴ本(=スゴイ本)」である可能性がある。まぁそんな導入だけれども、中盤の読書論や読書本(読書を主題とした本)紹介がおもしろい。「ナボコフのドン・キホーテ講義」の正体や「読んでいない本について堂々と語る方法」に仕掛けられた作者の罠とか最高。そして後半はテーマを設定した関連本の紹介。へぇ、そんな本があるんだと著者の読書量に圧倒される。「だがブルーナはしない、ガチだから。」を連呼する箇所はガチでクール(ブルーナとは絵本「ミッフィー」シリーズのディック・ブルーナ)。「読書」体験はもっと自由でいい、でもこういう点を踏まえてみると「読書」はもっと奥深くておもしろい体験になるんじゃない?という提案の数々が紹介されていて興味深かった。

わたしが知らないスゴ本は、 きっとあなたが読んでいる[Dain]
わたしが知らないスゴ本は、 きっとあなたが読んでいる[Dain]【電子書籍】

読了:わたしたちが光の速さで進めないなら[キム・チョヨプ/カン・バンファ]

わたしたちが光の速さで進めないなら

わたしたちが光の速さで進めないなら

  • 作者:キム・チョヨプ/カン・バンファ
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2020年12月03日頃

打ち棄てられたはずの宇宙ステーションで、その老人はなぜ家族の星への船を待ち続けているのか…(「わたしたちが光の速さで進めないなら」)。初出産を控え戸惑うジミンは、記憶を保管する図書館で、疎遠のまま亡くなった母の想いを確かめようとするが…(「館内紛失」)。行方不明になって数十年後、宇宙から帰ってきた祖母が語る、絵を描き続ける異星人とのかけがえのない日々…(「スペクトラム」)。今もっとも韓国の女性たちの共感を集める、新世代作家のデビュー作にしてベストセラー。生きるとは?愛するとは?優しく、どこか懐かしい、心の片隅に残り続けるSF短篇7作。

巡礼者たちはなぜ帰らない/スペクトラム/共生仮説/わたしたちが光の速さで進めないなら/感情の物性/館内紛失/わたしのスペースヒーローについて

韓国発のSF小説集。SFといっても、背景に使われているのがSF的なネタであるというだけで、本質的には人間の物語。どの話もキーを握っているのは女性で、著者の社会的な弱者へのまなざしの温かさを感じさせる点がおもしろい。

「共生仮説」は目の付け所がするどい。細胞内共生仮説といえば元々マーギュリスが提唱したものだが、マーギュリスが女性科学者であるという点も踏まえているんだろうな。

wikipediaの「細胞内共生説」の項

冒頭の「巡礼者たちはなぜ帰らない」が一番おもしろかった。ある穏やかで平和な村では、成人の儀式として宇宙船に乗って「始まりの地」へ巡礼に出かけることになっている。ところが巡礼に出かけた若者は全員がそろって巡礼から帰ってくることはない。「始まりの地」とはどこで、なぜ巡礼から帰ってこない人がいるのか?ディストピアとユートピアは考え方次第の紙一重のものであり、人間は自身の不完全さを受け入れて闘わなければならない、そしてそれこそが人間の存在意義なのかも……。

わたしたちが光の速さで進めないなら[キム・チョヨプ/カン・バンファ]
わたしたちが光の速さで進めないなら[キム チョヨプ]【電子書籍】

読了:中世の星の下で(ちくま学芸文庫)[阿部謹也]

中世の星の下で

中世の星の下で

  • 作者:阿部謹也
  • 出版社:筑摩書房
  • 発売日: 2010年11月

遠くヨーロッパ中世、市井の人びとは何を思い、どのように暮らしていたのだろうか。本書から聞こえてくるのは、たとえば石、星、橋、暦、鐘、あるいは驢馬、狼など、人びとの日常生活をとりまく具体的な“もの”との間にかわされた交感の遠いこだまである。兄弟団、賎民、ユダヤ人、煙突掃除人など被差別者へ向けられた著者の温かい眼差しを通して見えてくるのは、彼らの間の強い絆である。「民衆史を中心に据えた社会史」探究の軌跡は、私たちの社会を照らし出す鏡ともなっている。ヨーロッパ中世史研究の泰斗が遺した、珠玉の論集。

1 中世のくらし(私の旅 中世の旅/石をめぐる中世の人々/中世の星の下で ほか)/2 人と人を結ぶ絆(現代に生きる中世市民意識/ブルーマンデーの起源について/中世賎民身分の成立について ほか)/3 歴史学を支えるもの(ひとつの言葉/文化の底流にあるもの/知的探究の喜びとわが国の学問 ほか)

主に中世・近世のドイツの市井の人々の歴史エピソードや考察論考エッセイ集。農村住民などにも言及されてはいるけれども、軸足はあくまでも都市住民(職人・商人・ツンフトとかギルドとかいった集団)を対象としている。前半はいろんな事物を対象とした中世都市住民の関わりや思想が具体的に紹介されていて「ふ~~んそうだったのか」の連続で興味深い。乱暴に言ってしまうと「都市伝説」みたいなことに対してもその歴史的背景を紹介したうえで考察を加えており、当時描かれた戯画挿絵も多くてわかりやすい。月曜日が来るたびに「ブルーマンデー」を連呼していたラフだが、もともとの由来はこんなところにあったのかぁ。鐘にまつわる逸話紹介も面白かった。後半は、雑誌や新聞に掲載された、あるいは講演記録での比較文化論が多く、ヨーロッパ(ドイツ)中世と日本の中世との対比にも言及されている。

中世の星の下で(ちくま学芸文庫)[阿部謹也]
中世の星の下で[阿部謹也]【電子書籍】

読了:銀河の片隅で科学夜話 -物理学者が語る、すばらしく不思議で美しいこの世界の小さな驚異[全卓樹]

流れ星はどこから来る?宇宙の中心にすまうブラックホール、真空の発見、じゃんけん必勝法と民主主義の数理、世論を決めるのは17%の少数者?忘れられた夢を見る技術、反乱を起こす奴隷アリ、銀河を渡る蝶、理論物理学者、とっておきの22話。

〔天空編〕
第1夜 海辺の永遠
第2夜 流星群の夜に
第3夜 世界の中心にすまう闇
第4夜 ファースト・ラグランジュ・ホテル
〔原子編〕
第5夜 真空の探求
第6夜 ベクレル博士のはるかな記憶
第7夜 シラード博士と死の連鎖分裂
第8夜 エヴェレット博士の無限分岐宇宙
〔数理社会編〕
第9夜  確率と錯誤
第10夜 ペイジランク─多数決と世評
第11夜 付和雷同の社会学
第12夜 三人よれば文殊の知恵
第13夜 多数決の秘められた力
〔倫理編〕
第14夜 思い出せない夢の倫理学
第15夜 言葉と世界の見え方
第16夜 トロッコ問題の射程
第17夜 ペルシャとトルコと奴隷貴族
〔生命編〕
第18夜 分子生物学者、遺伝的真実に遭遇す
第19夜 アリたちの晴朗な世界
第20夜 アリと自由
第21夜 銀河を渡る蝶
第22夜 渡り鳥を率いて

はっきり言ってしまうとこれは科学啓蒙書の類では全くない。科学者による純然たるエッセイ本。各話は著者の文学的センス(時にあまりにも詩的でロマンチックで夢見がち)から話が出発して締めくくられる。日ごろの思いや考えを述べつつ、それに科学的話題をちょくちょくからめて進行する。なので扱われている科学の話題はそんな複雑な話ではないし、まぁ今までにどこかで聞いて知っている話ばかり。だからなんなんだ?って回もある。でも、科学者っていうのはこういうたわいもないことを日常考えていても、それを科学的知見と結びつけてはこんなことを徒然に考えているんだよ、ということを知る点では面白いかも。科学者って日ごろ何考えてんの?っていう人が読むと面白いかと。科学者だって詩人なのである。

銀河の片隅で科学夜話 -物理学者が語る、すばらしく不思議で美しいこの世界の小さな驚異[全卓樹]
銀河の片隅で科学夜話 物理学者が語る、すばらしく不思議で美しいこの世界の小さな驚異(銀河の片隅で科学夜話 物理学者が語る、すばらしく不思議で美しいこの世界の小さな驚異)[全卓樹]【電子書籍】

読了:象られた力(ハヤカワ文庫)[飛浩隆]

象られた力

象られた力

  • 作者:飛浩隆
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2004年09月

惑星“百合洋”が謎の消失を遂げてから1年、近傍の惑星“シジック”のイコノグラファー、クドウ円は、百合洋の言語体系に秘められた“見えない図形”の解明を依頼される。だがそれは、世界認識を介した恐るべき災厄の先触れにすぎなかった…異星社会を舞台に“かたち”と“ちから”の相克を描いた表題作、双子の天才ピアニストをめぐる生と死の二重奏の物語「デュオ」ほか、初期中篇の完全改稿版全4篇を収めた傑作集。

デュオ/呪界のほとり/夜と泥の/象られた力

最初の1篇はサイコスリラーかサイコホラーって感じの作品だけれども、続く3篇はSF。構成力や発想は表題作「象られた力」がうまいこと作りやがったなぁと思う。しかし、読むべきは3番目の「夜と泥の」である。人類が入植したある惑星の夏至の晩にのみ、ロボット、ナノマシーン、もともとの沼の生物群、そして遺伝子工学で一夜の命を与えられた少女の混沌とした戦いが繰り広げられる。その様の描写がすばらしいのだ。吟味された言葉の選択と洗練された美しい描写力はまさに息をのむほど。文字だけなのにその情景に圧倒されたよ。

象られた力(ハヤカワ文庫)[飛浩隆]
象られた力[飛 浩隆]【電子書籍】

読了:折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー(ハヤカワ文庫SF)[ケン・リュウ/中原 尚哉]

折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー

折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー

  • 作者:ケン・リュウ/中原 尚哉
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2019年10月03日頃

天の秘密は円のなかにあるー円周率の中に不老不死の秘密があると聞かされた秦の始皇帝は、五年以内に十万桁まで円周率を求めよと命じた。学者の荊軻は始皇帝の三百万の軍隊を用いた驚異の人間計算機を編みだす。劉慈欣『三体』抜粋改作にして星雲賞受賞作「円」、貧富の差で分断された異形の三層都市を描いたヒューゴー賞受賞作「折りたたみ北京」など、ケン・リュウが精選した7作家13篇を収録の傑作アンソロジー。

陳楸帆(鼠年/麗江の魚/沙嘴の花)/夏笳(百鬼夜行街/童童の夏/龍馬夜行)/馬伯庸(沈黙都市)/〓景芳(見えない惑星/折りたたみ北京)/糖匪(コールガール)/程〓波(蛍火の墓)/劉慈欣(円/神様の介護係)/エッセイ(ありとあらゆる可能性の中で最悪の宇宙と最良の地球:三体と中国SF(劉慈欣)/引き裂かれた世代:移行期の文化における中国SF(陳楸帆)/中国SFを中国SFたらしめているものは何か?(夏笳))

現代中国のSF小説アンソロジー。最近の中国SFといえば「三体」が注目を集めたけれども、じゃその他の中国SFはどうなんだ?中国産SF小説ってどんなんだ?ってことが知りたければこの書をどうぞ。中国という国とSF小説の歴史と関係性については、巻末の3つのエッセイがとてもためになる。

中国のSFもなかなか魅力にあふれている。固いものから柔らかいものまで、幻想幽玄文学的なものまで、どれもおもしろい。なるほど、SFはこういう世界もありだなという感じ。中国産のディストピア小説だと、国体への批判と単純に結び付けてしまう傾向もあるけれども、まずはそれ抜きに楽しんでくれとのこと。本格SFからくすっと笑えるライトSFまで取り揃えてあります。

個人的に鮮烈に印象に残ったのは最初の「鼠年」。研究所を脱走した遺伝子改変された二足歩行の大型ネズミが繁殖してしまい、大学を卒業したけれども職がない若者が組織され退治しに行く話。大型ネズミはメスだけでなくオスも妊娠するようになっており、宗教的儀式めいたことをするほどの知能を帯び始めていた。このネズミと人間の血みどろの生々しい戦い。ところが、実はネズミには遺伝子爆弾が仕掛けられていて、ある日突然集団自殺を図るのだ。このシーンがただ放心状態で眺めるしかない。うつろな目をしたミッキーマウスの集団が二足歩行で、レミングの集団自殺のごとき行列を作りながら、海へと行進していく様をラフは想像したんだけれどもこれがとんでもなく印象的。結果的にネズミは駆除されたことになり人類の勝利のように思えるが、この遺伝子改変ネズミの正体、そして遺伝子爆弾が仕組まれていた意図は謎のままで、不気味さの余韻だけが残る。

折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー(ハヤカワ文庫SF)[ケン・リュウ/中原 尚哉]
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