読了:赤と青とエスキース[青山 美智子]

赤と青とエスキース

赤と青とエスキース

  • 作者:青山 美智子
  • 出版社:PHP研究所
  • 発売日: 2021年11月11日頃

メルボルンの若手画家が描いた一枚の「絵画」。日本へ渡って三十数年、その絵画は「ふたり」の間に奇跡を紡いでいく。一枚の「絵画」をめぐる、五つの「愛」の物語。彼らの想いが繋がる時、驚くべき真実が現れる!仕掛けに満ちた傑作連作短篇。

金魚とカワセミ/東京タワーとアーツ・センター/トマトジュースとバタフライピー/赤鬼と青鬼

一枚の絵画の誕生から数十年に渡る連作短編。それぞれの短編の中にいつも出てくる「エスキース」という絵画。この絵が見てきた人生模様とは。

う~ん、きれいでそこそこまとまっているけれども当たり障りのないなんだか水のような小説だなぁと思って読んでいたわけよ。出てくるものの象徴性はよく考えられているとは思うんだけれども、肝心のストーリーは重厚さやドラマ性に欠ける。深夜30分枠くらいでやっているようなテレビの気の抜けたオムニバスドラマのような感じ。ふ~んと読み進めていたんだけれども、「赤鬼と青鬼」の最後数行で「あれ????」と思ったわけ。そしてそのあとに続くエピローグでその違和感の種明かし。この構成は連作短編によくあるものだけれども「あぁうまい!」と思った。仕掛けは良かったのだ。でもさ、この種明かしエピローグが長すぎやしないかい?逐一あの出来事はこうで、この出来事はこうだったということを説明していくのよ。「みなまで言うな」って感じでちょっとしつこくて興ざめ。

赤と青とエスキース[青山 美智子]
赤と青とエスキース[青山美智子]【電子書籍】

読了:生物はなぜ誕生したのか(河出文庫)[ピーター・ウォード/ジョゼフ・カーシュヴィンク]

生物はなぜ誕生したのか

生物はなぜ誕生したのか

  • 作者:ピーター・ウォード/ジョゼフ・カーシュヴィンク
  • 出版社:河出書房新社
  • 発売日: 2020年04月07日頃

生物は幾度もの大量絶滅を経験し、スノーボールアースや酸素濃度の増減といった地球環境の劇的な変化に適応することで進化しつづけてきた。生命はどこでどのように誕生し、何が進化を推し進めたのかを、宇宙生物学や地球生物学といった最新の研究結果をもとに解明。生物の生き残りをかけた巧妙な戦略と苦闘の歴史を新たな視点で描き出す!

時を読む/地球の誕生ー四六億年前~四五億年前/生と死、そしてその中間に位置するもの/生命はどこでどのように生まれたのかー四二億(?)年前~三五億年前/酸素の登場ー三五億年前~二〇億年前/動物出現までの退屈な一〇億年ー二〇億年前~一〇億年前/凍りついた地球と動物の進化ー八億五〇〇〇万年前~六億三五〇〇万年前/カンブリア爆発と真の極移動ー六億年前~五億年前/オルドビス紀とデボン紀における動物の発展ー五億年前~三億六〇〇〇万年前/生物の陸上進出ー四億七五〇〇万年前~三億年/節足動物の時代ー3億5000万年前~3億年前/大絶滅ー酸素欠乏と硫化水素ー2億5200万年前~2億5000年前/三畳紀爆発ー2億5200万年前~2億年前/低酸素世界における恐竜の覇権ー2億3000万年前~1億8000万年前/温室化した海ー2億年前~6500万年前/恐竜の死ー6500万年前/ようやく訪れた第三の哺乳類時代ー6500万年前~5000万年前/鳥類の時代ー5000万年前~250万年前/人類と10度目の絶滅ー250万年前~現在/地球生命の把握可能な未来

扱われているのは生物進化史ではあるんだけれども、地球環境との関連が詳しく述べられており、どちらかというと地球史。非常に分かりやすく簡潔に最新の知見(スノーボールアース仮説とか)を踏まえた地球史が解説される(訳も読みやすい)。分かりやすいとはいえ、さすがに丸腰ではつらいだろう。入門書ではないので、読み進めるためには最低限の地質年代(著者らは冒頭で地質年代による区分けを時代遅れだと言ってはいるが)や、基本的な生命進化の知識は必要。むしろ、こういった知識を最新の知見でアップデートするのに適した本。

大気成分、気温の影響を軸とした地球環境の変動と生命の進化がどのようにリンクしてきたのかが丁寧に語られていく。生命の誕生の謎、何度も繰り返される大量絶滅、そして多様化する種。みんな大好き恐竜時代(ジュラ紀~白亜紀)を必要以上にクローズアップしていないバランス感覚もよい(目次を見給え)。

生物はなぜ誕生したのか(河出文庫)[ピーター・ウォード/ジョゼフ・カーシュヴィンク]
生物はなぜ誕生したのか[ピーター・ウォード/ジョゼフ・カーシュヴィンク/梶山あゆみ]【電子書籍】

読了:三体0【ゼロ】 球状閃電[劉 慈欣/大森 望]

三体0【ゼロ】 球状閃電

三体0【ゼロ】 球状閃電

  • 作者:劉 慈欣/大森 望
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2022年12月21日頃

激しい雷が鳴り響く、14歳の誕生日。その夜、ぼくは別人に生まれ変わったー両親と食卓を囲んでいた少年・陳(チェン)の前に、それは突然現れた。壁を通り抜けてきた球状の雷(ボール・ライトニング)が、陳の父と母を一瞬で灰に変えてしまったのだ。自分の人生を一変させたこの奇怪な自然現象に魅せられた陳は、憑かれたように球電の研究を始める。その過程で知り合った運命の人が林雲(リン・ユン)。軍高官を父に持つ彼女は、新概念兵器開発センターで雷兵器の開発に邁進する技術者にして若き少佐だった。やがて研究に行き詰まった二人は、世界的に有名な理論物理学者・丁儀(ディン・イー)に助力を求め、球電の真実を解き明かす…。世界的ベストセラー『三体』連載開始の前年に出た前日譚。三部作でお馴染みの天才物理学者・丁儀が颯爽と登場し、“球状閃電”の謎に挑む。丁儀がたどりついた、現代物理学を根底から揺るがす大発見とは?“三体”シリーズ幻の“エピソード0”、ついに刊行。

 中国発大人気SF「三体」シリーズの前日譚にあたる位置づけをされている本作。実際には「三体」よりも前に書かれた独立した長編SF作品。なのでシームレスに「三体」につながるわけではないものの、中間あたりから登場する天才理論物理学者丁儀(ディン・イー)は「三体」の主要登場人物であるし、本作での細かな設定が後の「三体」でも言及されていたりする。また兵器に魅入られた女軍人林雲(この人も「三体」でカメオ出演している)が、ロシア人生物学者からおくられた言葉「それを防ぐ最善の方法は、いまの敵や将来の敵よりも早く、その兵器をつくりだすこと!」は、「黒暗森林理論」に通じる。そして人類以外からの観察者という存在は、三体星人の智子(ソフォン)的なものを想起させる。おそらく、著者はこの作品を書くことで次の「三体」への構想を膨らませていったものと思われる。

 球電(雷電気仕掛けの火の玉みたいなもの)の研究の苦労から始まり、実はそれが巨大な電子=マクロ電子(サッカーボール大の電子)だということが分かり、そうするとこのサイズの原子核というものが存在するはずというとてつもないスケール(物理的サイズも物語構想も)になっていく。最初は気象学や電磁気学をネタにしたSFかと思っていたら、鮮やかに量子論に変わっていくのだ。量子論の話に突入すると、確率論的重ね合わせから「シュレーディンガーの猫」(本来ミクロの世界の話をマクロのたとえ話にすると奇妙なことになる)を逆手にとってこれをマクロ世界でやってしまうという驚きの展開に。もはや様々な次元やサイズの異なるマルチバース的物語にもなっている。

 突拍子もないことをさもありなんと一気に読ませる著者の力量はやっぱりすばらしい。「三体人」の「さ」の字も出てこない(前述のように「三体」シリーズとは直接つながっていかない)ものの面白さは格別。

三体0【ゼロ】 球状閃電[劉 慈欣/大森 望]
三体0【ゼロ】 球状閃電(三体)[劉 慈欣]【電子書籍】

読了:成瀬は天下を取りにいく[宮島 未奈]

成瀬は天下を取りにいく

成瀬は天下を取りにいく

  • 作者:宮島 未奈
  • 出版社:新潮社
  • 発売日: 2023年03月17日頃

「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」中2の夏休み、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出したー。新潮社主催新人賞で史上初の三冠に輝いた、圧巻のデビュー作!

ありがとう西武大津店/膳所から来ました/階段は走らない/線がつながる/レッツゴーミシガン/ときめき江州音頭

滋賀県大津市を舞台にした痛快爽快青春短編小説集。あふれまくる地元愛が微笑ましい(地元民にはこれは嬉しいと思う)。まぁ地元民でなくても面白楽しく一気に読めてしまう力が本作にはある。

とにかく主人公の成瀬あかりが個性的で魅力的なのだ。勉強も特定の趣味もとびぬけて出来てしまう女の子。だけど孤高の変人。武士のような話し方するし、高校の入学式では丸坊主で登場したり。

基本は成瀬に巻き込まれた特定の人が成瀬との騒動を語る形式。最終話では語りも成瀬自身が担う。「階段は走らない」のみ成瀬の話ではない(おそらく西武大津店閉店つながりで書かれたもの。しかし最終話にここでの登場人物が再登場する)。

青春小説なのに、ほろ苦さをあまり感じない。なのにちゃんと青春小説している。気分爽快、さっぱり軽快な読後感。

成瀬は天下を取りにいく[宮島 未奈]
成瀬は天下を取りにいく[宮島未奈]【電子書籍】

読了:文庫 最後の錬金術師 カリオストロ伯爵(草思社文庫)[イアン・マカルマン/藤田 真利子]

文庫 最後の錬金術師 カリオストロ伯爵

文庫 最後の錬金術師 カリオストロ伯爵

  • 作者:イアン・マカルマン/藤田 真利子
  • 出版社:草思社
  • 発売日: 2019年10月04日頃

君主たちは競って宮廷に招き、司教たちは恐れ、医師たちは憎み、女たちは憧れた「最後の魔術師」カリオストロ伯爵ー。シチリア島のごろつきだった男は、いかにして王侯貴族を手玉にとり、フランス革命前夜のヨーロッパ社交界にその名を轟かせるにいたったのか。錬金術師、医師、預言者、詐欺師、フリーメイソン会員といくつもの顔を使い分け、“理性と啓蒙の時代”の18世紀を妖しく彩った男の生涯を追う。

プロローグ バルサモの家/1 フリーメイソン/2 降霊術師/3 シャーマン/4 コプト/5 預言者/6 回春剤/7 異端/エピローグ 不死

 「カリオストロ」という響きには、異様なうさんくささがまとわりつく。その正体は何なのか?フランス革命前夜のマリー・アントワネットをまきこんだ「ダイヤの首飾り事件」に関わっていたらしいということは知っているが、本流の世界史ではとりたてて学習する人物ではない。むしろゴシップ扱いの雑学的エピソードで取り上げられる人物だ。

 そんなカリオストロ伯爵を名乗った男の人生をたどる本書。18世紀のフランス革命を頂点とした歴史的背景、ヨーロッパ各国を舞台に活躍した生涯。カリオストロ伯爵は、この時代のヨーロッパだからこそ産まれた怪人物なのである。そして死後、いかにして「カリオストロ」は芸術のテーマとしてもてはやされ、今日的キャラクターが形成されていったのかが考察される。

 18世紀末、同じくヨーロッパをまたにかけた一世代上のカサノヴァが激動の時代に取り残されていくのと対照的に、あっという間に時代の波に乗ったカリオストロの対比論考が興味深い。そして何よりもやはり「ダイヤの首飾り事件」の運びがおもしろい。

文庫 最後の錬金術師 カリオストロ伯爵(草思社文庫)[イアン・マカルマン/藤田 真利子]
最後の錬金術師 カリオストロ伯爵[イアン・マカルマン]【電子書籍】

読了:第八の探偵(ハヤカワ・ミステリ文庫)[アレックス・パヴェージ/鈴木 恵]

第八の探偵

第八の探偵

  • 作者:アレックス・パヴェージ/鈴木 恵
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2021年04月14日頃

独自の理論に基づいて、探偵小説黄金時代に一冊の短篇集『ホワイトの殺人事件集』を刊行し、その後、故郷から離れて小島に隠棲する作家グラント・マカリスター。彼のもとを訪れた編集者ジュリアは短篇集の復刊を持ちかける。ふたりは収録作をひとつひとつ読み返し、議論を交わしていくのだが…フーダニット、不可能犯罪、孤島で発見された十人の死体ー七つの短篇推理小説が作中作として織り込まれた、破格のミステリ。

復刊予定の「ホワイトの殺人事件集」、そのため隠遁生活をする著者に会いに行く編集者。短編集に収録される話と、その構成理論(数学的な集合論)についての議論が交互に出てくる。しかし、どの短編集にも違和感が残る。編集者もそれに気付き著者に問うのだが、著者ははぐらかす。さてその真相は?

いわゆる箱物語形式とはいえる。でも外側の話が今一つおもしろくない。そのための仕掛けや伏線が今一つなのだ。え?そうじゃなくてもよくない?

第八の探偵(ハヤカワ・ミステリ文庫)[アレックス・パヴェージ/鈴木 恵]
第八の探偵[アレックス パヴェージ]【電子書籍】

読了:月10万円でより豊かに暮らす ミニマリスト生活[ミニマリストTakeru]

月10万円でより豊かに暮らす ミニマリスト生活

月10万円でより豊かに暮らす ミニマリスト生活

  • 作者:ミニマリストTakeru
  • 出版社:クロスメディア・パブリッシング
  • 発売日: 2020年04月17日頃

収入ゼロ、貯金ゼロになりかけて学んだこと。ミニマリズムは「健康」「お金」「仕事」「人間関係」「モノ」の悩みを解消する。

プロローグ 人生どん底で見つけた光、それがミニマリズム/第1章 汚部屋を片付けて、身軽な人生に/第2章 モノを手放し自分らしく生きる/第3章 ストレスを減らす暮らし方/第4章 その人づき合いやめませんか?/第5章 大切なお金の問題を考えよう/エピローグ 大好きなことに集中するために生きよう

ミニマリスト生活や月10万円生活の具体的な方法論が記述されている書籍ではないです。書かれているのは、本当に人生を豊かに暮らすとはどういうことか、思い通りの人生にするための心構えに関する観念論的話。意識高い系セミナーのような感じ。いわゆる「引き寄せ理論」みたいなことが、切り口を変えては同じことが執拗に繰り返し書かれています。言いたいことはそこなんだろうなということはわかるのですが、どこまでいっても具体性がなく意識の変革を洗脳的に迫ってくる精神論的書物。読みやすく仕上げてあるのだけれども、ここまでやられるとしつこすぎてかえってそこが怖い。

月10万円でより豊かに暮らす ミニマリスト生活[ミニマリストTakeru]
月10万円で より豊かに暮らす ミニマリスト生活[ミニマリストTakeru]【電子書籍】

読了:1日1ページ、読むだけで身につくからだの教養365[デイヴィッド・S・キダー/ノア・D・オッペンハイム]

1日1ページ、読むだけで身につくからだの教養365

1日1ページ、読むだけで身につくからだの教養365

  • 作者:デイヴィッド・S・キダー/ノア・D・オッペンハイム
  • 出版社:文響社
  • 発売日: 2019年12月24日頃

シリーズ累計150万部!世界中でベストセラー。毎日5分で1年後、健康の常識が身につく。「1日1ページ、読むだけで身につく」シリーズ、待望の新作のテーマは「健康」!アスピリンからX線撮影、頭痛からヒポクラテス、バイアグラからインフルエンザまで、実用的かつ面白い知識が満載!

シリーズ第4弾は「からだ編」。第1弾と第2弾「人物編」と第3弾「現代編」の感想は以下に。

読了:1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365 [ デイヴィッド・S・キダー ]

読了:1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365 人物編[デイヴィッド・S・キダー/ノア・D・オッペンハイム]

読了:1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365 現代編[デイヴィッド・S・キダー/ノア・D・オッペンハイム]

曜日ごとのテーマは、月曜日が「子ども」、火曜日が「病気」、水曜日が「薬と代替療法」、木曜日が「こころ」、金曜日が「性徴と生殖」、土曜日が「ライフスタイルと予防医学」、日曜日が「医学の歴史」。健康に関する知っておくとよい知識満載。このシリーズを通して各トピックスに対する内容はやはり薄いものの、「興味を持ったことは自分で調べてみてね、そのきっかけになれば幸いです」というスタンス。「代替療法」とか出てくるとなんだか怪しげなものも出てくるんじゃないの?とか思ったけれども、概してまじめ。実践する場合は主治医に相談が望ましい、とか、結論はまだはっきりしていない、とか書きっぷりも良心的。原著の内容はアメリカの話題なので、訳注で「日本では」ということも時折挟まれている。

1日1ページ、読むだけで身につくからだの教養365[デイヴィッド・S・キダー/ノア・D・オッペンハイム]
1日1ページ、読むだけで身につくからだの教養365(365)[デイヴィッド・S・キダー/ノア・D・オッペンハイム/ブルース・K・ヤング]【電子書籍】

読了:異常【アノマリー】[エルヴェ・ル・テリエ/加藤 かおり]

異常【アノマリー】

異常【アノマリー】

  • 作者:エルヴェ・ル・テリエ/加藤 かおり
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2022年02月02日頃

もし別の道を選んでいたら…良心の呵責に悩みながら、きな臭い製薬会社の顧問弁護士をつとめるアフリカ系アメリカ人のジョアンナ。穏やかな家庭人にして、無数の偽国籍をもつ殺し屋ブレイク。鳴かず飛ばずの15年を経て、突如、私生活まで注目される時の人になったフランスの作家ミゼル…。彼らが乗り合わせたのは、偶然か、誰かの選択か。エールフランス006便がニューヨークに向けて降下をはじめたとき、異常な乱気流に巻きこまれる。約3カ月後、ニューヨーク行きのエールフランス006便。そこには彼らがいた。誰一人欠けることなく、自らの行き先を知ることなく。圧倒的なストーリーテリングと、人生をめぐる深い洞察が国際的な称賛をうける長篇小説。ゴンクール賞受賞、フランスで110万部突破ベスト・スリラー2021(ニューヨーク・タイムズ、パブリッシャーズ・ウィークリー)。

前半はいろんな人のエピソードが次々繰り出され、ただ皆ある同じ飛行機に乗って乱気流に巻き込まれているという共通点があるだけで、なんだろうなぁとは思いながら読み進めていく。中盤で明かされた何が起こっているのかはとてもSFらしい設定でおもしろかった。後半はそれを踏まえて事件後のエピソードが前半のように登場人物ごとに紹介される。SFというよりも哲学的思考実験みたいな感じになっていてそういうところにフランス臭を嗅いだり嗅がなかったり。自分とは何かといった存在論を踏まえた物語という感じで、起こった出来事をうまく着地させるようなエンターテイメント性は薄い。

異常【アノマリー】[エルヴェ・ル・テリエ/加藤 かおり]
異常【アノマリー】[エルヴェ ル テリエ]【電子書籍】

読了:数の発明[ケイレブ・エヴェレット/屋代通子]

数の発明

数の発明

  • 作者:ケイレブ・エヴェレット/屋代通子
  • 出版社:みすず書房
  • 発売日: 2021年05月08日頃

数万年前の狩人が骨に残した刻み目、1+1を理解する新生児のまなざし。数を持たないピダハン族と暮らした著者が縦横に語る、数の誕生の軌跡。

序 人間という種の成功/第1部 人間の営為のあらゆる側面に浸透している数というもの(現在に織り込まれている数/過去に彫りこまれている数/数をめぐる旅ー今日の世界/数の言葉の外側ー数を表す言い回しのいろいろ)/第2部 数のない世界(数字を持たない人々/幼い子どもにとっての数量/動物の頭にある数量)/第3部 わたしたちの暮らしを形作る数(数の発明と算術/数と文化ー暮らしと象徴/変化の道具)

ヒトにもともと備わっている数認識能力は次の2点らしい。
・3程度までの個数認識は一瞬で行える
・3より大きい数認識についてはある程度の量差がある集合のどちらが多いかを判断できる

ヒトは、3より大きな量を安定して正確に識別するためには、数の言葉を使って稽古を積むことが必要である

3より大きい量を具体的に認識する(数える)ためには訓練が必要で、それによりヒトは大きな数を実際に数えることができるようになっていくのだとか(3までと3より大きい数の数え方はシームレスではない?)。こういったことを言語学、人類学、生物進化学などさまざまな視点からどういうことなのかを実験例をひいて説明していく。なかなか興味深い。

農業革命は人類が桁の大きな数を見出していなければ起こりえなかった

数の発明[ケイレブ・エヴェレット/屋代通子]